第37話 女は犯し、村を焼く【胸糞回避】

 『成勇』のなかで明確にノルドの悪行が描かれたのが、メタミン村でのことだった。


――――【回想】


「おまえの村だけが未納だが、いつになったら支払えるんだよ!」


 メタミン村の村長が住む粗末なテントに居座ったノルドは浅く腰掛け脚を組んで横柄な態度を取ると目の前のテーブルを蹴飛ばした。


 村長がなにもかも失ったなかで精いっぱいのおもてなしをしようと出されたハーブ茶の入った木製カップは転がって、熱いお湯が村長へかかるが村長は熱さを必死にこらえて、土下座の姿勢を崩さない。


「お父さん!」

「おまえはさがっていなさい」


 火傷を心配した村長の若い娘が駆け寄るが、彼が制止して妻に娘を任せた。


「ノルドさま、どうかお許しを……先の洪水で堤が決壊し、畑だけでなく備蓄までもがすべて水につかり、日々の生活にすら困っているのです……」


 ノルドは親指を立てて横に寝かせると、スッと自分の首のまえで線を引く。


「ああ? 知ったこっちゃねえよ! 俺たち領主はなぁ、毎日命がけでおまえら領民が魔族の脅威から守ってやってんだ。税はその対価だ。それが支払えねえ奴らは生きる価値はねえ!」


「もちろん存じております。ですがこの有り様でとても税など……」

「んじゃぁ、初夜権を使わせてもらおうか、おまえの娘はいくつだ?」


 ノルドは舌なめずりしながら、村長に訊ねるとノルドの意図に気づいた村長は土下座からさらに地面に額をこすりつけるように懇願する。


「それだけはどうかお許しください!」

「なんだぁ、不満なのかぁ? この俺がいち村娘に種付けしてやろうって言うんだ。むしろありがたがってもらわねえと困るんだがなぁ!!!」


 ノルドは母親を蹴飛ばし、十代前半と思しき娘の手を引いて、用意したテントに引きこもった。



 ――――い、いやぁぁぁぁーーーーーーっ!!!



 テントから娘の悲鳴だけが響いてしまっていた。

 


「もうここも用済みだな」


 ノルドの引き連れた取り巻きの貴族や従者たちがズボンのベルトを留め終えると、ノルドは証拠隠滅とばかりに手のひらに黒い焔を出したときだった。



「ノルドォォォォーーーー!」



 いきなりケインが聖剣を持って斬りかかってきたのだが……。


 聖剣の力が引き出せずにケインはノルドに敗れて、次のシーンに移ったとき、切り絵のように真っ赤なバックと真っ黒な木とそこにぶら下がった人のようなモノが映し出されて、俺にとってトラウマになってしまっている。


――――【回想終わり】



 はあ……。


 村に行くのが、すんげえ気が重たい。


 社畜前世も職場に行くのが辛かったが、俺が村で善い行いをしても修正力によって胸糞にされるかもしれないって考えただけで足が遠のく。

 

 まったく代々言うことを聞かない街や村への制裁はヴィランス家の令息の役割とかつらたんすぎんだろ……。ゲームのようなことになるなら、まだ学院で過ごしていたほうがマシってもんだ。


 俺の重たい気持ちとは裏腹に馬車は歩みを止めることなく、メタミン村の外れまで着いてまう。


 あれ?


 洪水で土地が荒れまくっているどころか、村の畑一面が野菜の緑や小麦の黄金色に覆われ、マジ肥沃な土地って感じがする。


 なんで寒村だったのに肥沃な土地になってんの?


 ドラケン川は氾濫のの字も見つかんないし……。


 おまけに……、


 ――――ノルドさま~!!!


 ――――ご令息さまの馬車だぁぁーーー!


 ――――ありがとうごさます~!!!


 農作業していた村人たちが黒狼の紋章の描かれた俺の馬車に向かって手を振っていた。



 俺、なんかしちゃいましたっけ?


 

 もしかしたら俺を村総出で歓迎し、油断させておいて、飲食に毒を忍ばせ苦しんだところでズブりという策略なのかもしれない。


 危険が危ない。


 エリーゼもそうだが、危うく騙されるところだった。


 馬車は村長の家のまえで止まる。


 いかにもゲーム内では着の身着のまま避難してきましたという地べたのテント暮らしだったが、いま俺の見ている家はまったく違った。


 貴族のお屋敷に比べれば飾り気のないものであるが、石とモルタルでできた二階建ての住居で俺の前世の実家よりはるかにデカい……。


 結局村人たちは農作業を止めて、馬車のあとを追ってきて、村長の家のまえに止まった俺と馬車を家のなかから出てきた者たちといっしょに取り囲んでいた。


 手に松明やら刃物は持ってはいなさそうであったが、歴代のヴィランス公爵家の令息とノルドの悪行から考えても安心するのはまだ早い。



 俺は剣の柄に手を置き、警戒しながら村長の屋敷へ入った。家のなかは貴族の贅沢ぶりとまでいかないものの、ひと通り家具は揃えられ、絵画と壺が置いてある。


 俺が席へ着くなり、『成勇』のときのように荒廃村長は理由を教えてくれた。


「ノルドさまが村にお立ち寄りの際、川底を深堀してくださったおかげで我が村は……いえ近隣すべての村が洪水知らずです」


 立ち寄ったというより、ガリアヌス蛇腹剣で激流を真っ二つにしながら、修行していたような気がする……。


「ではなぜ滞納したのか申し開きがあるなら言ってみろ!」

「はい、ノルドさまがお戻りになると聞いて、納税とともに感謝の言葉をお伝えしたいと思っていたのです」


 つまりサプライズってこと?



 飲めや歌えやの歓待を受けてしまった俺。食事に毒が盛られているなんてことはなく、ふつうに旨かった。


 村長の家に泊まっていくよう懇願されたので、ベッドの傍らに二振りの剣と両手の四本の指にはミスリル製の指輪をはめておく。


 メリケンサックよろしくいつでも全力でぶん殴れるようにだ。


 加えて寝間着代わりに【魔闘外皮アームスーツ】をまとって寝れば、いつ敵が襲ってくるかもしれない状況で、敵が予想より多い日も安心できるだろう。



 うとうとしているとドアの向こうに複数の気配を感知した。


「ククク……分かりやすすぎて、笑えてくる」


 どうやら寝込みを襲おうって算段らしいな。


 不埒な輩を誘い込むため狸寝入りを決め込んだ俺。部屋の鍵が開いたかと思うと、そーっと数名の者が入ってくる。かと思ったら俺のベッドの横で添い寝し始めていた。


 えっ!?


「あの……ノルドさまはどんな娘がお好みなんでしょう?」


 耳元でささやかれて、妙にくすぐったい。


 俺は寝具をまくって跳び起きるとさらに驚いた。


 混ぜるな危険!


「百歩譲って村娘たちの夜這いはいい。だがそのなかに人妻を混ぜるのは止めろ!」


 美魔女って感じであるものの村長の奥さんなど数名が混じっていたのだ……。


「ノルドさまは凄まじい性豪、絶倫と聞き及んでおりましたので……」


 はあ……。そこはゲーム通りのうわさが流布してしまってるんだな。


 とにかく村娘とそのプラスアルファを宥めようと思っていると俺のベッドにしれっと女の子座りしている者と目が合った。


「はじめまして、エリです♡」

「白々しい真似をするな!」

「バレちゃいました?」

「そんなのすぐに分かるに決まっているだろう」


 おいこら! エリーゼ! 村娘のなかにこっそり紛れこんでんじゃねえよ!


「わあっ! 変装していてもノルドさまは私のこと、ちゃんと分かってくださるんですね、うれしい!」

「……」


 天然なのか、純粋なのか、策士なのか、俺にはエリーゼがなにを考えているのかさっぱり分からなかった……。


―――――――――あとがき――――――――――

ぜったいノルドと合体したいエリーゼが追いかけてきちゃいましたw このあと、いっぱい逆夜這いしましたになるに違いない!


作者、性懲りもなく冷やし中華みたいに新連載を始めました。


【ネトラレうれしい! 許婚のモラハラ幼馴染が寝取られたけど、間男の告白を蹴った美少女たちが、俺と幼馴染が別れた途端に恋心を露わにしてくるんだが。】


脳死しない笑えるNTRざまぁラブコメですので読んでいただけるとうれしいです!


表紙リンク↓

https://kakuyomu.jp/works/16817330667920018002

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