第18話 全力でフラグ回避

 くそ……。


 メイナさんとマリィから頼まれて、エリーゼと会談することになってしまった……。


 俺は甲冑フルプレートの頭部だけをかぶり、鉄仮面としてバイザーのスリットからエリーゼを見ている。


「す、済まない……このような姿でお会いすることを……」

「い、いえ、こちらこそご無理を言ってしまったみたいで……」


 なんだろう、このお見合いみたいに堅い雰囲気は。俺は身体を震わしながら、必死でノルド語になるのを抑えてみたのだが……。


「ノルドさま、もし差し支えなければ仮面を被らなければいけない理由などをお教えいただけないでしょうか?」

「差し支えはある!」

「えっ!?」


 俺はエリーゼの問いにはっきり答えた。答えたくないと……。すると彼女はこめかみに汗をかきながら、苦し紛れに言うのがやっとだった。


「そ、そうですよね……」

「そうだ……いやそうです」


 せっかくエリーゼに身バレしないよう、あれやこれやと動いてきたのにこんなところでバレてしまったら、すべて水の泡だ。


「もし呪詛の類なら私が解呪いたします! どうか私にお任せください」

「い、いやいい……国中の回復術師ヒーラー退魔師エクソシスト、呪術師、薬師などあらゆる者を呼んだがいずれも効果がなかった」


「物は試しと申しますので……」

「いらないと言ってるだろう!」


 エリーゼの気づかい、もといしつこさに俺は思わず声を荒げてしまったが、我に返ったときにはもうすでに遅かった。


「あれ? 私、ノルドさまのお声と似た声を知っています。それに不思議とノルドさまとお話ししていると私の恩人さまに思えてきてなりません」

「それならば人違いだろう。俺はエリーゼを助けた覚えなどない」


「あ! 恩人さまはそんなしゃべり方をされてたんです! まさかまさか……」

「私があなたを助ける理由はありません。それに私はこんな見た目ですので、市井に出たこともございませんから」


「市井? なぜそれを? 私はどこで助けられたとはお伝えしていないはずですが……」

「たたたた、助けると言えば、市井の確率が高いかなと思いまして……」

「なるほど……確かにそうですが……」


 俺をジト目で見てきて明らかにいぶかしんでいる様子のエリーゼだったが、追及を諦めたのか、なぜか彼女は話題を変える。


「あの~ノルドさま。ノルドさまも当然勇者学院に入学されますよね?」

「私はこのような呪詛のため、入学は辞退するつもりです。エリーゼが五指に入るようここで祈ってますよ」


「それは残念です……五指筆頭だった兄が師事するほどのお方の実力を見たかったのですが……」


 うぐぐぐ……ノルドを抑え込むのがツラい。


 俺はそんなそんなといった風に首を振って謙遜しながら、エリーゼに無言で返事する。


 余計なことをしゃべろうとするとノルドが「よかろう、俺の実力……とくと見るがいい」とか言いだして碌なことにならない。


「ではせっかくお越しいただいたのですが私は所用がございますのでこれにて失礼いたします」

「お手間を取らせて申し訳ありませんでした」


 俺が立ち上がり、部屋から去ろうとエリーゼに後ろを見せた、そのときだった。



【解呪!】


 あぶねっ!



 間一髪、背後から飛んでくる詠唱破棄した解呪魔導を首を傾け、回避した。壁には、ぽわーんと蛍光グリーンの魔導陣が浮かんで、しばらくすると消えていった。


「うそ……私の回復魔導がかわされるなんて……」

「なにをなさるのかな?」

「エリーゼ! なんという失礼なことを! ノルドさまにすぐに謝罪を!」


 あのロータスが愛称も忘れて、エリーゼを叱っている。


「ノルドさまを試すような真似をしてしまい、申し訳ありませんでした。ですが、これで確信が持てました。私もノルドさまに入門いたします」

「断る!」

「どうしてですか!」


「人の実力を試すような者を弟子に取ることはないからだ」

「兄の実力は試されたのに?」

「俺はロータスの師匠だ。弟子を試すこともあろう」


「では私も試してみてください」

「いまので分かった。キミの能力は素晴らしく俺じゃなかった……私が教えられることはない」

「またまた、ノルドさまはうそを仰っています。私の実力など知れておりますから」


「私はこの鉄仮面の呪いのおかげで嘘をつけない」

「分かりました。今日のところは引き上げます。ですが諦めたわけではありません。必ず私がノルドさまの仮面の呪いを解いてみせますから」


 弟子にしてほしいんじゃなく、結局そっちかよ!


「い、いやいいっ! 私の魂はこの仮面と同化しているから、呪いを解かれると死んでしまうのだ」

「ぜったいに死なせたりなんかしません。あなたのお顔をこの目でしっかり見ないことには夜も眠れそうにもありませんから」


 エリーゼは俺の手を取ると目をキラキラとさせて、鉄仮面のスリットから俺の目元を覗き込む。俺は気絶でもした人間のように必死で白目を剥く努力をした。


 俺の瞳が確認できないと分かるとエリーゼは離れたのだが、固く拳を握り解呪を成功させることに自信を見せていた。


 頑なに鉄仮面を取ることを拒んだことで、エリーゼを助けたケインを名乗る男=俺という仮説が彼女のなかで立ってしまっている。


 俺はしつこい探偵か、刑事のなにがなんでも事件を解決しようとする根性に火をつけてしまったみたいだ……。


―――――――――あとがき――――――――――

絶対恩人見つけるマン(♀)と化したエリーゼVS絶対にバレたくないノルド……果たしてどちらが勝つのでしょうかwww

次回、ケイン死す? エリーゼにバレて彼女の性欲な壺で、ノルドがこってり搾られてほしい読者さまはフォロー、ご評価デュエルスタンバイ!

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