第17話 隠し子
――――【エリーゼ目線】
「お父さま、お母さま、行って参ります」
「エリーゼ、気をつけるんだよ」
「本当にあなたって子は熱心よね」
「大丈夫、ケインがついてきてくれますから」
両親に安心してもらうためにそんな嘘をついてしまいました。ケインがついてくるほうが不安なのですが、やっぱり恩人さまと再会を果たす想いのほうが勝ったのです。
屋敷の門のまえで両親に出発の見送りを受け、馬車に乗り込みました。
「マグダリアさま、ボクがエリーゼさまをお守りするので任せてください」
「頼んだよ、ケイン」
「お願いね」
ケインは両親のまえでとんと胸を叩いて自信をアピールしたのですが、彼の外面の良さが目についてしまいます……。
ケインも客室に乗り込もうとしたのですが、
「ごめんなさい、ケイン。私の隣に座るのは恩人さまだけと決めているので、あなたは御者席に座ってほしいの」
「……はい、エリーゼお嬢さま……」
私に断られると不貞腐れた顔で馬車に乗ったのです。貧しい人たちに治癒の施しを与えるために私は彼らの住む地区へ出かけていました。
「エリーゼお嬢さま、着きました」
「私が治癒している間、あなたは恩人さまを探してください。私も終わり次第、合流します」
「かしこまりました」
王都の街外れに来ると途端に周囲のお家の雰囲気ががらりと一変します。崩れた壁に穴の開いた屋根……馬車を貧しい人たちが住む地区に停め、私は施しを名目に両親から外出許可を取り、命の恩人さまを探し歩いていました。
「エリーゼお嬢さまぁ……、もう止めておきましょうよ~。見つかりっこないですよ」
「いいえ、まだあきらめません」
足を棒のようにして恩人さまの手がかりがないか、調べているとケインが手を後ろで組んで、だるそうにしていました。
彼にいら立ちを感じましたが、ケインと分かれ、別の場所に移り怒りを鎮めます。貧しい地区から以外からも情報を得ようと市場のある通りで聞き込みをしていると、
――――ロータスさま騎士団長を辞めたってよ。
――――マジか!?
――――どうなるんだ、この国はよお~。
――――しーっ、エリーゼさまが来てる。
私の姿を見るなり口をふさいで噂話を止め、苦笑いする地区の人たち……。こんなところにまでお兄さまの話題が広がってしまうなんて。
しばらく訊ね歩いていたのですが、なんの手がかりも得られないことに疲れが見え始めたときでした。
そういえば気になるのはさっきの噂話……。
マグタリア家から久々の騎士団長ということで両親もとてもよろこんでいたのに、お兄さまは仕事もせずに街をぶらぶらと遊び回っているというもっぱらの噂……。
あんなにも真面目だったロータスお兄さまがいったいどうされたというのでしょう?
まさか……まさかと思うのですが、奥手のお兄さまは悪い女性に誑かされて、悪の道へ進まれたとか!?
「えっ!?」
人々の活気で賑わい、両端には数多くの露天が出ている大通りで意外すぎるものを見て、私は腰を抜かしそうになりました。
「ロータスさま、買い物におつき合いさせてしまい、申し訳ござません」
「いや気にすることはない。師のご命とあればよろこんで」
あ、あのお兄さまが仕事にも行かず、綺麗な女性と愛らしい女の子と笑いながら仲睦まじそうに歩いていたのです!!!
「お兄さま! 私はおろか、お父さまやお母さまになにもご相談もなく、彼女を作ったあげく、子どもまで作るなど不潔ですっ!!!」
私は人目もはばからず、お兄さまの行く手を塞いで、立ちはだかっていました。
「エリーたん!? ち、ちがうのだ。これはノルドさまに頼まれ、彼女たちの護衛を……」
「エリーお姉しゃん、よろちくね。わたし、まりぃなの!」
お兄さまとは似ても似つかないとても愛らしい女の子があいさつしてきてくれて……、
「まあ!!! なんてかわいい女の子なんでしょう! ちがう、絆されちゃダメ!」
思わず私は彼女を抱きしめていました。
「って、お兄さま! 私は騙されませんからね。ちゃんと説明していただかないことには」
四人でお昼は食事を提供している酒場へとやってきました。
出された紅茶の香りを嗅いだことで少し落ち着きを取り戻した私にお兄さまが説明してくれたのですが……、
「えっ!? ヴィランス公爵のご令息であるノルドさまに弟子入りして、彼の妹のマリィさまと従者のメイナさんと買い物の付き添いをしていたですって?」
「ああ……」
「ロータスさまの仰っていることは本当です」
「クマさんはお父しゃまじゃないのら!」
自分の勘違いが恥ずかしくて、くらくらと頭が揺れ、めまいがしてきそう。
「で、でも三人並んで歩いていると親子かと……」
三者三様に首を振って、私の言葉を否定しました。そういえば……お兄さまはノルドさまの弟子になったと言っていたけど……、
「あのお兄さまが師事されたノルドさまにごあいさつに伺わないとなりませんね。 あ、いえ興味なんてこれっぽっちもないんですよ。ただお兄さまがお世話になられてるなら、と思いまして」
お名前はちらほらとお聞きしていたのですが、お顔は存じあげておりません。とは言うものの、顔見せくらいはしないとならないのが貴族社会というもの。
ですが!
堅苦しい貴族社会に辟易し始めていた私は恩人さまと駆け落ちして、二人で辺境に引きこもり、いちゃいちゃと日々、カラダで愛を語り合う生活を送りたいのです。
私がお慕い申しているのは恩人さまですが……、お兄さまが弟子入りしてしまうほど心酔するノルドという男……私と恩人さまの結婚生活を邪魔する者なら排除する必要があると。
やっちゃうのはケインなんですけどね♡
私が三人に見えないようテーブルの下で拳を握っていると……。
「我は是が非でもエリーたんにはノルドさまと会ってもらいたいのだがなぁ……」
お兄さまは大きな身体を小さくしてしょんぼりしながら、メイナさんとマリィさまに目配せしたのです。
「エリーゼさま……たいへん申し訳ござません。理由は不明なのですが、とにかくエリーゼさまとの面会だけはご遠慮願いたいと申されておりますので……」
「お兄しゃま、エリーたんとは遭いたくないらしいよ!」
「なっ!?」
顔も合わせないうちから、会いたくないだなんて、なんて失礼な方なんでしょうか。
「いったい私がノルドさまになにをしたというのでしょう? もし私になにか落ち度があるとすれば、直接お会いして謝罪しなければなりません。お兄さま! ノルドさまに掛け合ってくださいませんか?」
「エリたん……」
しゅんとなったお兄さまは助けを求めるようにメイナさんとマリィさまを見たのでした。
――――ヴィランス公爵家。
アッカーセン王国でも最有力貴族のヴィランス家……逆らえば、たとえ貴族と言えどもこの国で生きてゆくことはできないとされています。
そのお屋敷に招かれ、私は驚きを隠せませんでした。
応接室のドアが開き、現れた青年の姿に……。
「こほ~っ、こほ~っ。おま……あなたがエリーゼか、おれ……ワタシはノルド・ヴィランスだ……です、こほ~っ」
私の目の前に姿を現したのは仮面をつけた男性だったので、驚きました。
なるほど! 見目があまりよくないから、仮面で隠さざるを得ないとか……。それなら私と会いたくないという理由も分かります。
あれ? おかしいです。街の人たちの言葉でイケメンというのでしょうか、ノルドさまは大変見目のよいお方だと聞いていておりましたのに。
はっ!? そう言えば私……なにか忘れているような気がするのですが、思い出そうとしても思い出せません。誰かと一緒に来ていたような気もしますが……。
―――――――――あとがき――――――――――
暗黒卿になって身バレしないよう頑張ってますが、ホンモノの恩人探しに躍起になっているエリーゼの追及を躱すことができるのか!?
せっかく暗黒卿になったことなんで、ダースモール先生よろしく
忘れられた勇者ケイン……頑張れよwww
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