第16話 妹を差し出すな!
俺は日参してくるロータスをまえにして、チベットスナギツネのような虚無顔をしていたと思う。
俺は騎士団長職を固辞し続けた。
そのため、ロータスの側近であるガゼルとフルトンが団長空位のまま、副団長となり二人で近衛騎士団を統率することになったらしい。騎士団全員が俺か、ロータスじゃないと騎士団長に相応しくないと言っている。
俺の馬車が近衛騎士団の隊舎のまえを通りかかったときは大変なことになった。
【シン・近衛騎士団長】
なんてわけの分かんないネーミングを騎士たちからつけられ、心底迷惑して以来、あそこは避けて通るよう御者に命じている。
そんな我がままが通るんだから、さすが異世界と言わざるを得ないよ……。
俺が結果的に騎士団の座から引きずり下ろしたってのに、弟子にしてくれとかおかしいだろ……。
「あれほど来るなと言っただろう。俺の弟子にしてもらいたいと言っていたのに、なぜ師匠の言うことが聞けないんだ?」
「まだ弟子にしてもらっておりませぬ」
ロータスは屋敷の門のまえにどかっと座り込んで腕を組み、梃子でも動かないといった態度を取る。門柱のまえなら趣味の悪いオブジェにでもなるんだが、まん中に居座るものだから邪魔で仕方ない。
「分かった。今日からロータス……おまえは俺の弟子だ」
「おお! ありがたき幸せ!」
「では稽古を申し渡す。明日から俺の屋敷に来るな。そして稽古が済んだら破門だ」
「稽古方法を教えていただき、誠に感謝!」
と深々と俺に頭を下げ、今日のところは素直に引き上げていったロータスだったが……。
翌日。
「非礼を詫び、また弟子にしていただきたく参った次第」
「来ること自体、非礼にして非常識。それに俺は来るなって伝えたはずだ」
「破門にされたので稽古は無効かと」
懲りずにやってきたロータスに俺は辟易した。絶対に入門したいロータスと絶対に弟子にしたくない俺の根競べだ。
そんなやり取りが幾度となく繰り返されてる。
「我を是非ともノルドさまの弟子にしていただきたく……」
「断る!」
ロータスがすべて言い終わるまえに、俺は彼に告げた。
「では我が最愛の妹エリーゼをノルドさまの妻として……」
おいおいおい!
聖騎士たる者が弟子にして欲しいからって理由で妹をどう見ても悪役の俺に差し出すとか狂ってるだろ!
「おまえの野望のために妹を差し出すとはロータス……貴様もずいぶんと下衆な兄だな。だが! 俺はエリーゼはいらん」
せっかくケインの奴がエリーゼを射止められるようにお膳立てしてやったのに、それを無に帰すのは忍びない。
ロータスにきっぱりと拒否っておいた。
これでエリーゼが俺の伴侶となるどころか、接近するフラグをバキッバキに折ってやったことで俺は満足していた。
「ならば安心! ノルドさまが我が妹エリーゼを所望されたなら、隙を見て寝首をかくつもりだった」
「おい……師匠とか敬いながら、人を試すのは反則だろ」
「我はノルドさまを信じておりましたので」
くそう……脳筋のくせして、心を巧みにくすぐってくる。
「ということでノルドさまは信頼に足るお方だと証明されたので、さっそく家に手みやげとしてエリーゼとの婚約の話を持ち帰ろうと思う所存」
「余計なことを持ち帰るな! 持ち帰っていいのは遠征時のゴミだけだ。まったく油断も隙もあったもんじゃない」
容姿こそ、まさに美少女と野獣って感じだがさすがは兄妹……似た者同士ってことがよ~く分かった。
「仮におまえがエリーゼをうちに寄越すというなら、俺はぜったいにおまえを弟子にすることはないと思え」
「それは遺憾! ノルドさまも我が妹を一目見ればたちまち恋に落ちるほどの見目をしておりますぞ」
エリーゼがいくら美しかろうが、俺の妹マリィのかわいさには敵うまい。
「それは知っている。そういう問題ではない! いいか、ぜったいに連れてくるなよ、ぜったいにだぞ!」
これでロータスがエリーゼを連れてくることはないだろう。うん、間違いない!
俺たちが庭先でわちゃわちゃと騒いでいるとたまたま、外で洗濯物を干すメイナさんの後ろにひっつき虫をしていたマリィが俺とロータスを見て、駆け寄ってきた。
ロータスを一目見て、彼に指を差すマリィ。
「お兄しゃま、クマしゃん飼いたい」
「こらこら、マリィよく見てみろ。こいつはクマじゃない人間だ」
「でもかわよいよ」
マリィの感覚からすれば、赤ちゃん座りするロータスはかわいいらしい……。
「し、仕方あるまい。我が愛しき妹マリィに免じておまえを飼ってやる。感謝しろ!」
「ありがたきしあわせ! マリィさま、このロータス、お心遣いに感謝いたします」
「あい! よかっらね、クマさん!」
ロータスのおかげでマリィの満面の笑顔が見れたので、よしとするか……。
ん? なんで俺……エリーゼじゃなく彼女の兄のロータスを飼うことになってるんだろう?
まあ細かいことは気にしないことにしよう!
ゲーム内でノルドはロータスを酷たらしく死に至らしめて、エリーゼから強い恨みを買ってるからなぁ……。
だから俺の周囲に近づけたくなかったんだけど。
「ロータス、おまえに任務を与える。そこにいるメイナとマリィの護衛するんだ。命に代えてもな!」
「はは、師の妹君ならば、よろこんで」
―――――――――あとがき――――――――――
ᓀ‸ᓂヴァニタス ヴァニタートゥム エト オムニア ヴァニタス
(やること為すことぜんぶ虚無っすよ:超訳)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます