第15話 騎士団長に担ぎ上げられる

 翌朝、マリィとピクニックへゆくために準備をしていた。執事たちが大きな旅行鞄キャリーケース客車キャビンの後ろへ載せ、馬車担当の従者たちが俺たちの乗る馬車の点検を済まし、あとは出発するだけとなったのだが……。


「メイナ、なにをしようとしているのだ。おまえはこっちだ」

「ノルドさま、しかし私はメイドの身分……」


 メイナさんは客室ではなく、外に乗ろうとしていたので客室に乗るように促した。


「何度も言わせるな。メイナは俺とマリィの母同然。ならば乗る場所は決まっているだろう。それとも俺たちと同乗するのは嫌か?」


「めっそうもございません! むしろお二人を私の乳房でいっぱいかわいがってあげたいというか……」

「そ、そうか……」


 メイナさんは頬を赤らめると俺から視線を逸らし、胸元を揉んで準備体操を始めた。


「わーい! まりぃ、メイナのおっぱいだいちゅき!」


 マリィはメイナさんの足をひしっと抱いて、うれしさを大アピール中だ。


 俺も大好きだよ! 口には出せないけど……。



 馬車は屋敷から見える小高い丘を目指して走りだしていた。俺の修行がひと段落ついたところでピクニックへ行こうという約束になっていて、小さなマリィは大喜びしている。


 領内を一時間ほど走った頃だろうか? 俺は丘のてっぺん辺りで御者を務める青年従者に呼びかけた。


「モラン、馬車を止めろ」

「ここで野外歓迎会パーティーをされるのですね」

「ああ、よく分かってるじゃないか」


 モランは若いが従者のなかでも聡明で、俺の意をよく汲んでくれていた。そんな彼は馬をなだめて、ゆっくりと馬車を停めて、客室のドアを開けてくれる。


 馬車から降りるなり、俺は大声で一喝した。


 隠蔽、暗殺、防諜に特化した俺からすれば、たとえ巧妙に物陰に隠れていたとしてもサーマルビジョンを使ったようにその像は簡単に浮かびあがる。


「雑魚が雁首揃えたところで、なにができるんだ? 隠れてないで出てこい!」


 すると丘と丘との間の窪みからぞろぞろと人が出てくる。


 5人、10人、100人と出てきて、最後には1万人近い人数になってしまっていた。これから魔族相手に戦争でも始めます! って雰囲気だ。


 俺のまえに最初に出てきた男二人。


「ほう、また俺にやられにきたとはご苦労なことだ」


 ロータスの護衛をしていたあの二人の騎士だ。


「ふん、雑魚でも数に物を言わせればなんとかなると思ったか……モラン! メイナとマリィを頼む!」

「はい! で、でもノルドさまは……」

「俺がこの程度の雑魚どもに遅れを取るとでも?」


「いえ、そんなことは……」


 俺の修行を間近で見てきたモランでも騎士1万は多いと思ったのだろう。だが俺の乳母と妹の反応は正反対だった。


「モラン! 弱気はらめなの! お兄しゃまが負けるわけにゃいの!」

「そうよ、モラン。ノルドさまを信じるのよ」

「は、はい……」


 二人がモランを諭している間にも俺に復讐でもするつもりの騎士たちから喚声があがった。



 ――――ウォォォォォォォォーーーーー!!!



 騎士たちは人間はもちろんのこと馬までフルプレートをまとって、抜剣しつつ雄叫びをあげながら、俺に一直線に向かってくる。


「俺はそこの2人を倒したときより数倍強くなってるぞ! 俺直々におまえらの鎮魂歌を唱ってやろう」


 俺がガリアヌスを抜いたときだった。


 騎士たちは一斉に進軍を停止し、俺から一定の間合いを保ちながら、ささげ刀よろしく剣を顔に持ってきて、


「ノルド! ノルド! ノルド! ノルド! ノルド! ノルド、ノルド、ノルド、ノルド、ノルドォォォォォォォーーーーーーーーーーーーー!!!」


 いきなり俺の名前を雄叫びのような声で連呼する。


 なんなのかな?


 家族のまえでちょっと恥ずかしいので止めてほしい……。


「やめんか! まったく人の名をなんだと思ってるんだ!」


 俺が一喝すると連呼は訓練でもしてきたかのようにびったり止んだ。


 騎士たちはひそひそと俺の噂を始める。


「あれがノルド新団長さまのガリアヌスだっ!」

「なんと禍々しい!」

「だが強そうだ!」

「悪そうだが、見目麗しい!」


 褒めてんだか、貶してんだか……。


 口々に俺のことを話してるのだが、男に見目が良いなど言われてしまうとおしりを押さえたくなった……。


 魔導で眠らせたあの二人が現れ、俺のまえで跪いた。


「ノルドさま、いえ……ノルド新団長、先日に続き本日も重ね重ね、非礼をお詫び申し上げます。私はガゼル、そちらはフルトン。私ども近衛騎士団はロータスさまの後任として、あなたさまを歓迎するために参った次第、どうかロータスさまの願いをお聞き届け願います」


 ロータスも騎士たちも俺の意志などまったく訊いちゃくれない……。


「勝手に騎士団長などにするな!」

「我らノルド団長に忠誠を誓う所存です!」


 ガゼルの言葉に周りにいた騎士たちが深くうなずいた。


「おまえらの忠誠など要らぬ!」

「かくなるうえは団長さまに俺たちの忠誠心を見せるために心臓を捧げよう!」

「「「「「おう!!!」」」」」


 騎士たちは胸当てを外したかと思うと、各々ナイフを掴み、胸元に持ってくる。


 まさかあいつら、自刃するとかじゃないよな?


「では忠誠の証を立てるぞー!」

「「「「「おう!!!」」」」」

「くそっ! 世話の焼ける連中だ!!!」


木偶人形パラライズ


 俺は騎士たちの身体を麻痺させ、馬鹿げた忠誠心の示し方を引き留めた。


「痴れ者がっ! おまえらが命を捧げるのは国家アッカーセンであって、俺ではないっ!」

「「「「「はっ!?」」」」」


 まあ『成勇』ではノルドがアッカーセンを牛耳るので結局おんなじなんだけど……。


 みんな自分の愚かさをようやく悟ってくれたのか、しばらく驚いた表情のまま固まっていたが、ゆっくりとひとりが口を開く。


「さすがノルドさまだ……」

「なんという忠誠心の塊なのだ…。犬死にしようとした自分が恥ずかしい」

「やはり団長はノルドさまが相応しい!」

「我らがノルド団長さまにバンザーイ!」


 騎士たちは顔を見合わせると俺を一斉に取り囲んで、胴上げしようとしてくる。


「や、止めろおぉぉぉ~! お、おろせぇぇぇ!」


 俺は文字通り騎士たちから担ぎ上げられてしまっていた。


―――――――――あとがき――――――――――

読者の皆さまは騎士団長は白銀ノエルしか認めない派ですか? 作者、団長のこと知らないのにノエル団長が浮き輪に乗ったフィギュア買ってしまいました……。だってかわいかったんだもん(≧Д≦)

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