第14話 脳筋騎士

――――ヴィランス家応接室。


 笑っちゃいけないのだが、ロータスが椅子に座るとサーカスの熊が自転車に乗ってる姿が浮かんできてしまう。


 やたらと図体のデカい突然の来訪者にメイナさんとマリィはドアの隙間から不安そうにこちらの様子を窺っていた。


 よほど俺たちの話が気になったんだろう。しばらくすると給仕メイドでもないのにメイナさんは役を買って出たようで俺とロータスにカップに紅茶を注いでいた。


 メイナさんに一礼したロータスは大きな身体に不釣り合いなくらい小さなカップに口をつけたが、俺はその姿が滑稽でならない。なんせカップの取っ手になんとか太い指が入るくらいの奴だから。


 ロータスは半分ほど紅茶を飲むと口を開く。


「ノルドさまの弟子にしていただきたく、馳せ参じた次第にございます」


 ロータスは図体はデカいが態度はやたら低い。言い終わるとテーブルに頭突きをぶちかます勢いで俺に頭を下げていた。


「うむ、断る!」


 だが俺の気持ちも考えてほしい。10歳前後の少年に20歳を越える青年の弟子にしてくれというちぐはぐさを。


「そもそも俺のようなガキに入門したとなれば、騎士団はどうするんだ? それこそ体面というものが保てまい」

「心配ご無用! そのために騎士団長は辞職いたしましたゆえ、ご安心を!」


 いや辞めんなよ!


 逆に心配だよ、そんなことされたら……。それこそマグダリア伯爵家の没落の原因になっちまう。


 俺が一向に首を縦に振らないことにロータスは意味不明な提案をしてきた。


「では我が愛妹エリーゼをノルドさまに嫁がせようかと……」

「なんだと!?」


 なんで死亡フラグから逃れようとしたら、逆に向こうからやってくるようなことになるんだよ!


 俺があ然としてるとロータスはエリーゼのことを褒め称え始めた。


「手前味噌ではあるのですが我が妹エリーゼは目に入れても痛くないほど、我とは想像ができぬほど見目がよく、とても気立てのよいのです。お会いいただければノルドさまもきっと気に入っていただけるはず……さすればノルドさまは我が義兄となり、体面は問題ないかと」


 いやもう俺、ぜんぶ知ってるから……。だけど知らないふりして、ロータスの妹自慢に聞き入った。


 つか義兄になりゃ体面が保てるとか、そういう問題なのかよ。


「俺を兄と呼ぶのはマリィだけで充分だ。おまえにお兄さまなどと呼ばれると虫酸が走るわ!」


 にしても疑問点がいくつかあったのでロータスに訊ねてみる。


「なぜ俺だと分かった?」

「そのガリアヌス蛇腹剣の太刀筋と言えば、ヴィランス家において他ありませぬからな」


 しまった……。


 木剣をしなるように扱っていたから、ロータスぐらいになると丸分かりだったか。


 床の間ではないが、応接室の暖炉の隣に鎮座する愛剣ガリアヌスを今日ほど忌々しく思った日はない。


 俺はテーブルに両肘をついて頭を抱えこんでしまいそうだったが、それとは裏腹に修正力の影響か、テーブルに足を乗せ腕を組みふんぞり返っていて、マジお行儀悪い態度を取ってしまっていた。


 ロータスの口振りからするとどうやら俺は自身の想定を越えて、強くなりすぎてしまったらしい……。


 俺に魔獣使いテイマーのスキルがあれば、マリィによろこんでもらうためにロータスに玉乗りを仕込んでやろうかとも考えたが、残念ながら俺には女の子相手の調教師ぐらいしか務まりそうにない。


 ノルドに騎乗してもらいながら、女の子を調教していくんだけど……。


 ただ俺は弟子なんか取る気はなかったので、適当な理由をつけ、野良犬でも払うかのようにしっしっとロータスに帰宅を促した。


「ロータスと俺とでは使用する武器が違う。だから教えることなどできない。帰れ!」

「弟子にするまで帰らぬと言ったら?」

「叩きのめすまで!」

「望むところ!」


 俺とロータスは互いにメイナさんの入れてくれた紅茶を飲み干し、カップをソーサーへ置いたのを合図に扉を開けて、競うように飛び出る勢いでバルコニーへ出る。


「とうっ!」


 ロータスはかけ声と共に欄干を飛び越え4階から庭園へ飛び降りていったが、俺は急ブレーキをかけたのち、そっとバルコニーの扉を閉じた。


隠蔽結界ダークインビジブル


 俺は魔導を用い、ロータスからヴィランス家が見えないようにする。


「ノルドさま、よろしかったのですか?」


 メイナさんは外で必死に俺の屋敷を探すロータスを見て、心配そうにしていた。


「捨て置け。クマは人間に飼えるものではないのだ」

「は、はい……」


 やはり人間とクマは相容れない。


 それだけならまだしもノルドみたいな悪人ではないけど、エリーゼの兄貴ってのが問題ありあり! しかも俺に彼女の意志も訊かずに結婚させようとか脳筋通り越して、下衆の極みだぞ、ありゃ……。


「お兄しゃま……あしゅ明日は……」

「おお、そうだったな」


 マリィが応接室の扉をそーっと覗いたあと、客人が誰もいないことが分かったことで、俺の下に駆け寄り袖を掴んだ。


―――――――――あとがき――――――――――

脳筋で思い出したんですけど、なかやまきん君が第一空挺団に体験入隊した動画が上がってましたが、きん君には悪いけど吹いてしまいました。

なんというか、第一空挺団の筋肉はすべてを解決するみたいな感じとにかく凄かったです。

筋肉激弱な作者ですが、フォロー、ご評価お願いレンジャー!!!(`д´)ゝ

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