第13話 弟子にして欲しそうにこちらを見てる

「なんだ!? 急に霧が出てきたぞ!」

「ああ、しかも黒く気味が悪いやつだ」


 俺の魔導により馬車周辺は黒い霧で覆われ、視界は猛烈なブリザード以上に悪くなっていると思われた。


 歩くくらいの速度になってしまった馬車のまえにフードとマスクで素性を隠して、踊り出ると御者を務める騎士が強く手綱を引いた。

 

「貴様何者だ! この馬車が王国近衛騎士団長ロータス・マグダリアさまのものと知っての狼藉か!」

「雑魚に名乗る名などない。死にたくなければ、去れ!」

「死が怖くて、近衛騎士が勤まるか!」


 御者を務める騎士の一人が馬車を降り、剣を抜く。


「ははっ! 威勢ばかりでは勝てぬと知れ! 【微睡みの冥暗スリーピング・シャドウ】」

「な……んだ、まぶたが重……い。zzz……」


 黒い霧の相乗効果バフにより、睡眠がよく効く。暗黒騎士の黒魔導で人も馬も夢のなかに誘うと、のような大男がまるで冬眠明けのように客室のドアを窮屈そうに出てきて、周囲の様子を窺っていた。


「馬もまとめて落ちたか。まったく最近の騎士は弛んどるな!」

「奇遇だな。それについては我も激しく同意する」


 大男は俺の言葉に口角をあげ笑みを漏らしたかと思うと仏頂面に戻り、騎士らしく名乗りをあげた。


「我が名は聖騎士ロータス・マグダリア。ずいぶん小さいようだが、子どものいたずらにしては度がすぎているな」


 可憐なエリーゼとは似ても似つかぬ脳筋騎士! たぶん容貌は北ピーの拳のラオウをパクっ、オマージュしたんだろう。


 ジェネリックラオウ……ロータスは魔導耐性がクソ高かったが、部下たちは大いびきをかいており、俺はつま先で彼らの甲冑をつんつんとつつきながら、ロータスに言い放った。


「その小さい俺にいいようにされるおまえの部下はどうなんだ? いたずらすら咎めることはできないとは……」

「それは認めよう。あとでこの者たちには鍛錬をしてもらう」


「はっはっはっ! まるでこの場を簡単に切り抜けられるといった言い草だな」

「勝ち負けではないのだ。騎士というものは!」


 ロータスが身の丈はあろうかという大剣を抜く。だが彼が襲いかかってくることはない。


「貴公は剣を抜かぬのか?」


 ロータスは聖騎士らしく相手が抜くまで待つといった正々堂々とした態度に部下たちとは違う実力者の凄みを見せる。


 なら俺も全力で実力を見せないとな、と思いガリアヌス蛇腹剣の束に手をかけようしていた。


「抜剣!!!」


 は? 俺……ガリアヌスを持ってきたよね?


 俺の手に握られていたものは……木剣。


「なるほど我程度なら木剣で充分と申すか……だが自信過剰は身を滅ぼすと知れ!」


 激高してくれるならよかったがロータスは静かに憤りを感じて、じりじりと間合いを詰めてくる。


「デヤァァァァァァーーーー!」


 上手い!


 ロータスはリーチの差を生かして、俺からは遠く彼に致命傷を与えられない距離で大剣を振り下ろした。


 ポン♪


 だが俺は焦ることなく切っ先をかわして、大剣の剣身を木剣で軽く叩く。


「くくく、聖騎士よ、よい武器屋を紹介してやろうか?」

「我は貴公を見くびっていたようだ」


 無用の長物と化した束を捨てるロータス。大剣は俺が叩いたことにより、まん中からきれいにぽっきり折れて、真っ二つになり転がってしまった。


 ロータスは背中に背負った得物を手にして、主語のデカいことを叩いた。


「やはり剣は好かぬ。男は黙ってメイス!」


(やっちまったなぁ!)

 

 とか言ってしまいそうになったじゃねえか!


 とにかくようやく本番って感じだな。


「ようやく本気を出す気になったか……次は茶番ではないことを頼むぞ」


 俺の言葉はノルド語に変換されて、やたらとロータスを煽る。


 俺が10歳前後のがきんちょにこんなこと言われりゃ、大人の余裕なんてどこへやら、大人気なさすぎる対応を取ってるところだけど、それでも冷静を保つロータスはできた人物なんだろう。


 ロータスはメイスを頭上に高々と上げ、勢いよく振り下ろした。


 狙いは当てずっぽうだが、地面に当たったメイスは石や砂塵を跳ね上げており、俺に向かって飛んでくる。


 勢いのついた石のみ木剣で弾いて処理したが……。


「なるほど、剣よりは幾ばくかマシになったな。だが石ころ程度で俺を倒せるとでも?」


 ただ砂まみれにされるのは嫌だったので、もう一度振り下ろされようとしたときに、今度は俺から間合いに入った。


「自ら当たりに来るだと!?」


 すとっ。


 力こぶが隆起したロータスの渾身の一撃を受け止めた俺。


「どうした、聖騎士? 俺を潰すつもりだったんじゃないのか?」

「馬鹿な!? 年端もいかぬ少年が我のメイスを受け止めるとは……しかも片手で……」


 しかも木剣を右手に持ち、左手で。【黒曜強化レインフォース】しても良かったが、腕力もどの程度強くなったのか、試してみたかったんだ。


 よし! とりあえず、腕力もだいぶついたことが分かったし、身バレしないうちに引き上げよう!


「ふん、聖騎士といってもその程度か……興醒めだ。まあ機会が会ったらまた会うこともあるだろう、さらばだ!」


 ズゥゥゥゥゥーーーーーン……。


 メイスを手から離してしまい、呆然とするロータス。メイスは地面に落ちると半分以上埋まってしまっていた。


 彼に止めを刺すような余計な一言を告げてしまった俺は逃げるように黒霧を最大濃度に上げてその場を立ち去った。



 それから一週間後。


(うーん、異世界の空気にも馴染んで……って)


 俺が屋敷のバルコニーで両腕を上げ、背伸びしていると、野太い声がこだましてきた。


「頼もう! こちらにノルド・ヴィランスさまがいらっしゃると聞いたのだが、ご在宅であろうか?」


 んげ!?


 見下ろすと玄関に鎧を着た熊が出没している。


 まさかなんで俺だってバレたんだよ!


 マズいマズい!


 近衛騎士団に喧嘩売ったことがバレたら、最悪逮捕ってことも……。


 俺が部屋に戻ろうと忍び足で歩いているとロータスが俺の姿を目ざとく見つける。


「ノルドさま、いやノルド大師匠! 我を貴公の弟子としていただきたく馳せ参じました」

「は? 弟子?」


 俺は意味が分からなかった。


―――――――――あとがき――――――――――

エリーゼときて、ロータスとなれば言うまでもなくブルボンのエリーゼですよね!(違う)

エリーゼにも幾つかバリエーションがあるんですが、ヤマハが腰上ヘッドチューンしたトヨタ2ZZエンジンのモデルは本気で欲しいと思ったものです。まあ実用性、なにそれ? みたいな車なので諦めましたけどね。書籍化は諦めてない作者でしたwww

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る