第12話 天才が努力してみた

――――ヴィランス家の庭園。


 庭園の遠くに見えるヴィランス家の屋敷。フランスのヴェルサイユ宮殿を想わす壮麗な建物は俺をまるで海外旅行にでも行ったかのような気分にさせてくれる。


 これで死亡フラグさえなけりゃ、最高なのに……。その死亡フラグを回避するため、俺は修行に明け暮れていた。


常闇の波動ダークウェーブ


 木剣から放たれる黒い衝撃波が大人の身長よりも高い大岩にぶつかり、こなごなに砕けた。岩のあった場所には穀物を挽いたような岩の粉が積もっている。


 くそダサいスキル名だが闇系魔導のファイアボール的立ち位置なので仕方ない。



 また別の日は……。


「ククク……暴れ川と名高いドラケンよ。俺の剣の冴えを受けてみよ! 唸れ、【闇刻龍破斬!】」


 激流に腰上まで浸かり、下半身の動きが制限されるどころか流されないよう耐えながら、川の流れに反しながら厨二病スキルを打ち放った。


 俺の放った斬撃は黒い波動となり、川を目で見えないほど遠くまで激流を斬り裂く。打ち放ったあとには深く抉られた川底と斬撃に押された水流の衝撃で川の対岸に土が盛り上がってしまっていた。


「他愛もない。暴れ川と聞いて、修行に来たが実にがっかりだ」


 俺は領内に修行になりそうな川があれば、出かけて試し斬りしてみたが、大したこともなく拍子抜けする。


 そこで気づいた。


 家伝の秘宝のひとつ、ガリアヌス蛇腹剣がチート武器すぎるのだと。漆黒の剣身に黄金で刻まれた刻印、こいつをずっと眺めていると古~いF1チームのJPSジョンプレーヤースペシャルカラーを想起させてしまう。


 俺が強いんじゃなくガリアヌスが強いのだ。


 こいつを使うと川の流れを変えるどころか、山がひとつ無くなってしまったので、修行の際は木剣で暗黒剣スキルを使うように心がけていた。



 次の標的を用意しようとしていると声をかけられる。


「ノルドさま! さぞかしお疲れになったことでしょう。おっぱい……飲まれますか?」


 メイド服姿で現れたメイナさんはふくよかなバストをシャツの上からぽむぽむっと揉んで俺に休憩するよう促してきた。


「い、いやいい」

「やはり年増の乳房など見たくも吸いたくもないですよね……ああ最近お肌の張りも……肌荒れも……」


「違う! いまはいいと言っただけだ。あとでたっぷり飲ませてもらうから、よく揉んでおくのだ」

「はい! このメイナ、ノルドさまに授乳できて幸せ者です」


 おかしな性癖にならないよう努力はした。だけどおっぱいを吸わないとメイナさんが闇落ちしそうで俺は仕方なくアラサー美女のおっぱいを甘受していた。


「お兄しゃまぁ! メイナらけじゃなく、私のこちらも……」

「マリィ……何度言えば分かるのだ、人前でスカートをめくり下着を見せるのははしたないと」


「ほかの男の子に見せたりなどしましぇん。お兄しゃま、らけれす!」


 ぷっくぅと頬を膨らませて怒るマリィ。


 俺が実妹に手を出す最低最悪の野郎だったらどうすんだよ! っていつも思ってしまう。


 俺の想いはノルド語に変換され、マリィへ伝わる。


「やれやれ。マリィのおパンツ見せてもらって俺の精力はこの国中の女すべてを孕ましてもまだ余るくらいになったぞ!」

「まりぃもそのなかに入ってるの?」


 子ども怖えええーーーーー!!!


 冗談混じりに言ったことを真に受け、純真無垢な目で俺を見つめてきて、おパンツをさすりながらに入れて欲しそうにしていた。どのかはあえて言うまい。


「はははは、面白いことを言う! マリィが立派な淑女になれば、考えてやらんこともない。励めよ」

「うん、お兄しゃまに選ばれるレディになるぅ!」


 よしよしと頭をなでると、マリィは目を細めて、うれしそうにしていた。断ったからと言って、マリィも闇落ちしたりなんかしないよな……。


 もうちょっと大人になってくれれば、マリィも近親相姦がいけないことだと分かってくれることだろう。


「ノルドさまぁーーーっ、頑張ってくださーい!」

「お兄しゃま、かっこういいのぉぉーーーーー!」


 標的となる大岩を片手で掴んで遠くに飛ばし、そのまま空中にある岩を追って、木剣で微塵切りにして、着地すると二人からの声援が飛んでくる。


 額に汗がにじむと……、


「ノルドさま、汗をお拭きいたしますね」

「マリィも、マリィも!」


 二人ともハンカチは持ち合わせているはずなのに舌で俺の額や頬、顎に滴る汗を舐めとろうとしてきていた。


 俺はもう諦める。


「好きにするがいい」


 魔導だけで岩を破壊するのは容易いのだけど、自らの手足を使うという地味な作業をすることでノルドの弱点が分かったのだ。


 ノルドは剣技、魔導ともに優れていたが比較的疲れやすく、とにかく腕力と体力HPが低い。並みの相手ならワンパンで屠ってきたから、分からなかったんだろう。



 乳母と妹にえっな励まされ方をしながら、修行すること一年、とにかく無茶しまくって魔王に魅入られたノルドよりも強くはなったはず……。


 ただ実力をテストをしてみないことには詳細なデータは得られない。


 ということで腕試しにちょうどいい相手は……弱くては相手にならいのだが、俺の相手になりそうでちょうど良さそうな相手がそばにいなかった。


 まあ一人だけマシそうな人に修行を付き合ってもらう。


「どうした? 女勇者。ああ、元勇者だったな、すまんすまん。おまえは鍛錬もせずに舞踏会ばかり出かけているから、俺にいいようにされるんだ」


 舞踏会という名であるものの、実質合コンみたいなものらしいが……。


「うるさいうるさい! 私だって、あんたみたいなこまっしゃくれたガキの相手なんかしたくないわよ」


 怒りに任せて、緑色のくせっ毛をした行き遅れ元女勇者が俺に襲いかかってくる。


 名前は確かリリアンだったかな?


 本人は舞踏会で美しい剣技を披露すると言いつつ、結局決闘となり令息たちを叩きのめして、「この程度の斬撃すら避けれないなんて、ザコすぎますわ~、おーほっほっほっ」と高笑いしながら、悦に入ってるような奴だ。そりゃ婚期も遅れることだろう。


 ヒュンッ!


 リリアンの斬撃を通勤ラッシュ時の改札でまえから迫り来る人波を躱すように回避した。避けると遠くの岩が二つに裂けてしまっている。


「おお、さっきのはなかなか良い太刀筋だったぞ。だが脇を締めるのが甘く、当たっても致命傷は追わせられないだろうな」

「なんでノルドが私にレクチャーしてんのよ!」


「ああ、すまんすまん。つい成長しそうな者には手を差し伸べてしまうのが、俺の悪いくせだ」

「くっ、大人を馬鹿にして! 私が先生だってこと分からせてやるんだから!!!」


 10分後……。


 パシン!


「ひいっ!」


 パシン!


「ひいっ! 痛いったら! 私のおしりが腫れて婚期を逃したら、あんたを一生呪っ、ひいっ!」

「俺を分からせてくれるんじゃなかったのか?」

「さーせんでした……」


 俺を斬ろうとしたのだが、避けられそのまま地面にダイブしたリリアンのおしりをお仕置きがてら、木剣でぺちぺち叩く。


 俺の周りには剣技や魔導の指南役に招いた先生たちが仰向けだったり、うつ伏せだったりと倒れている。一斉にかかってきてもらったのだが、どうやら俺は彼らを遥かに凌駕してしまったらしい。


 ノルドではないけど、もうちょっとどのくらい強くなったのか試せる相手がいないものかと、ため息が出そうになっていたが、そのとき俺の屋敷のまえを通りかかった馬車。


「あの馬車は……」


 客車キャビンの壁にはユニコーンの紋章が大きく描かれており、近衛騎士団を表すものだ。並みの騎士なら騎乗して移動するところ、わざわざ馬車を用立てるところをみるとなかにいるのは……、


 エリーゼの兄にして筆頭聖騎士のロータス!


 ちょうどいい。あいつに相手してもらおう。


―――――――――あとがき――――――――――

瀟洒に見えるヴェルサイユ宮殿は水洗式おトイレがないだけでなく、尿瓶に溜まった乙女の聖水を窓からポイしてたらしいですね。

遡行転生したら、浴び放題じゃないですか(≧▽≦)

そこまでリアルな異世界恋愛作品をプリーズwww

なおハイヒールはう○ち避けのアイテムorz

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る