第9話 本物なのに偽物扱いされる勇者【ざまぁ】
――――【ノルド目線】
はぁ……。
ぶるぶると頭を抱えて震えるケインを見て、ため息が出た。雑魚いことは知ってはいたものの本当にケインは勇者に覚醒するのかと思ってしまう。
「おいそこのヘタレ。もう終わったぞ」
「えっ!?」
「おい、ケイン。俺がすべてお膳立てしてやったんだ。必ずエリーゼをモノにしろ!」
「なんでボクの名前を……」
「それは知らないほうが身のためだ。それよりもエリーゼと結ばれたくないのか? 答えろ、ヘボ勇者!」
「は、はいっ! む、結ばれたいです! エリーをボクだけのお嫁さんにしたいですっ!」
「ふん、ならさっさと行け! おまえがエリーゼに会い名乗り出れば……『まあケインさま! 私の下に来てくださるなんて。素敵! 婚約しましょう』ってなもので、チョロインと化し、すぐにでもおまえに簡単に股を開いてくれることだろう」
俺はエリーゼの声色を真似ながら、ケインにチャンスであると促した。ケインは立ち上がり拳を握って、やる気を見せている。
「うじうじ悩んでいる暇はないぞ。あいつはあの見目だ。ライバルは多い。おまえが守ってやれ」
「はいっ! どなたかは分かりませんが、ありがとうございます。ボク、がんばります!」
ケインは俺に唆され、もの凄い勢いでマグダリア伯爵家の方向へ走り出していった。
ヨッシャァァァァァァァァァァ!!!
うまく行ったぞ。
これでケインがエリーゼの屋敷へ行けば、二人は見事結ばれて俺は平穏無事なスローライフが確定ってもんだ。
やっぱWin-Winの関係でいかないとな。
――――【エリーゼ目線】
両手で頬杖をついて、どれくらい時間が過ぎてしまったのか……。
最近勉強にも治癒の施しにも身が入りません。
それもこれも、貧しい人たちの住む街であの方に助けていただいたときからです。
「ケインさま……」
ねずみ色のフードをかぶり、髪色はほとんど分からなかったけど風で揺れたとき黒っぽい髪の毛が覗いていた。鼻から下の顔半分を布で覆われていたから、はっきりと見れなかったけど、その分あの美しく蒼い瞳が私の脳裏に焼きついて離れません。
あの猛禽類を思わす鋭い視線、見つめられるだけで凍ってしまいそうな濃いブルー。見ると怖くて、ぞくぞくと身体が震えてくるのに、見るのがクセになってしまいそうなほど美しい……。
「エリー……どうしたと言うの? ずっとため息ばかりついて」
びくぅぅぅっ!?
「お、お母さま……いつの間に?」
「さきほどからずっと声をかけていますよ」
いつの間にか私の肩に触れて、お母さまが言葉をかけてくださったのにまったく気づいていませんでした。
「私、実は……いえなんでもありません」
テーブルに並んだをお菓子をしばらく経っても一口もつけていないことを心配したお母さまが訊ねてきたけど、口をつぐんでしまった。
もしかして、これが恋なの?
眼鏡をかけたメイドのリンが困り顔で訊ねてきた。
「失礼いたします。エリーゼさまにお目通り願いたいという者がおりまして……いかが致しましょう?」
「その者の名は?」
「はい、ケイン・スォープと……」
えっ!?
リンの口から出た名前に思わず心臓が止まりそうになる。
あれだけ私の招きをお断りになられていたのに、まさかケインさまから私の下に来ていただけるなんて!
「リン、お会いいたしますので、すぐにお通ししてください」
「かしこまりました、エリーゼお嬢さま」
応接室に移るとケインさまを名乗る少年が立ち上がり、握手を求めてきました。
「エリー! ボクと会ってくれてありがとう」
えっ!?
あの私を窮地から救ってくれたケインさまということでお会いしたのですが、なにもかもがお会いしたときのイメージと違っていて私は戸惑うばかり……。
平民、貴族という隔たりは気にしないほうなのですが、ケインさまだと名乗り出た男の子が取る、妙に馴れ馴れしい態度に僅かながら腹立たしさを感じたのです。
私は彼の手を取ることなく、名乗りました。
「エリーゼ・マグダリアと申します。単刀直入にお訊ねいたしますが、あなたは本当にケインさまなのですか?」
「ボクが正真正銘ホンモノのケインです!」
そう言い張る彼を訝しみながら、紅茶に口をつけました。まだ熱くて、舌を火傷しそうなほどでしたが……。
「リン、お紅茶が冷めてしまったようです。取り替えてくださいますか?」
「かしこまりました」
リンはティーポットをワゴンに載せて応接室から引き上げてしまいました。
すると……。
「お嬢さま! あやつですか!?」
「はい、彼を地下牢へとご案内さしあげてください」
「なんだって!? ボクがなにをしたんだ!」
リンと交代に現れたのはお屋敷を守ってくれる屈強な騎士たち。ケインさまを騙る少年の椅子を引き、彼を椅子にすぐさま縛りつけ拘束しました。
ケインさまの女の子をキュンとときめかさせてしまうような鋭い眼差しも、あの強く自信に満ち溢れながらも気品ある物言いも、どこか影のある危険な香りも、目の前にいる男の子とは正反対と言ってよいほど違いました。
「なにをしたですって? あなたはあろうことか、私の命の恩人であるケインさまであることを詐称したのです! あなたが何者であるか分かるまで当分の間身柄を拘束いたします」
「エリー! ボクが本当のケインなんだよ! 信じて! 信じてったらァァァァーーーーーッ!!!」
ケインさまを騙る少年は騎士たちに連れて行かれる最中、手を伸ばして言い訳がましいことを宣っておりましたが、そんな見え透いたウソに騙される私ではありませんでした。
真実の愛のまえでは見え透いた嘘など簡単に看破できるんですから。
リンが新しい紅茶をカップに注ぎながら、
「いつも寛大なご処分をなさるエリーゼさまが拘束されるなんて、珍しいですね」
「ええ……」
不思議そうに訊ねてきましたが、どうしても私はケインさまを騙った少年が許せなかったのです。
あの少年は私の純真な恋心を踏みにじったのだから……。
ああ……ホンモノのケインさまはいずこに……。
熱んっ……!
熱湯の紅茶で舌を火傷してしまいそうになりましたが、ケインさまとなら、火傷するような大恋愛をしてみたいと思ったのです。
―――――――――あとがき――――――――――
ノルドの無自覚トラップ発動! ケインを生け贄にエリーゼを召喚! ノルドへの
まあ勇者のくせに生意気ということでw
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