第7話 ファーストコンタクト

――――【エリーゼ目線】


 私はドアもなく、ただつるくきで編んだもので出入り口が塞がれているだけのぼろぼろの住まいにいました……。


「うっ、うっ、痛え……」

「傷つきたる子羊に地母神ユルハの慈悲をお与えください。【治癒ヒール】!」


 私は足が折れて動けないほどの怪我をし、うめき声をあげているおじさんにミスリル製の杖をかざすと苦痛に満ちた顔が安らかな表情へと変わってゆく。


「はい、これでよくなりますよ」

「ありがとうございます、エリーゼさま……これは少ないですが……」


 おじさんの奥さんと思しき女性が小袋を渡そうとするとジャラジャラと音がした。


「いえ、お金はいただいておりません。お気持ちだけでうれしいのです」

「ああ……まだ小さいというのに……まるで聖女さまのよう……」

「あーがと、お姉しゃん……」


 ぼろぼろの服を着た私より小さい子がお礼を言ってくれたので思わず、疲れも吹き飛んじゃいました。


「す、すまねえ……エリーゼさま。うっかり貴族さまの館を建てているときに足をすべらしちまってこのざまだ」

「手当てもなしで放りだすなんて……」


「いまはどこもそうですぜ……ですがよぉエリーゼさまのおかげで、この通り!」


 おじさんは治癒した足を伸ばして、元気になったことをアピールすると彼の家族が笑って、狭くてぼろぼろの家のなかがぱっと明るくなったような気がしました。


「エリーゼさま、ありがとうございやした」


 治療を終え家の外に出ると、おじさんとその家族8人が私に手を大きく振って、見送っていました。



 私の両親は王都で恵まれない人々に治癒の施しを行っていて、おじさんたちと別れて少し歩いたところで両親と落ち合いました。周囲を見ても、明日の食事すら得られないんじゃないと思うほど貧しい人たちでたくさん……。


 治癒はできても、お腹を満たしてあげることはできない。


 でも、私のできることはやってあげたいと強く思っていました。


「お父さま、お母さま! こちらの方々の治癒は終えました。そちらにお怪我やご病気の方はいらっしゃいますか?」


「いやこちらも終わったよ。だがエリー……こんなことは私たちだけでよいのに。もっと同年代の令嬢たちと友誼を結んだほうがいい」


「お父さま、お気になさらずに。これでも私、治癒魔導のお稽古ができて楽しいんですよ。ちょっとずつだけど上手くなってくるのが楽しいんです」

「ごめんなさいね、エリー。でも私はそんな健気なエリーのこと大好きだから」


 お母さまは私を抱きしめて、頬を重ねてくれます。うれしいような気恥ずかしいような……私もそんな両親が大好きでした。



 手分けして、恵まれない方々に治癒を行っていると私は夢中になってしまい、両親とはぐれてしまったことに気づいたときには遅かったのです。


「なんですか、あなたたちは!」

「へっへっへっ、お嬢ちゃん。あんま見ねえ顔だなぁ、ずいぶんと綺麗な顔してるじゃねえか!」

「いまでも十分高値で売れそうだが、将来はもっと化けそうだ」


 私を取り囲むギラギラとした目つきの柄の悪そうな男たち……。気安く私の顎を下から掴んで、まるで品定めするように見てきていた。


「やめてください!」


 彼らはおそらく人攫ひろさらいの奴隷商。


「私はマグタリア伯爵の娘エリーゼ! このような横暴は許しません!」

「ひゃっはーー!!! 貴族さまのご令嬢かぁ! こいつは高く売れそうだ」

「お父ぅ……うーっ! うーっ!」


 私が大声で叫んで両親を呼ぼうとしたら、彼らは私の口を塞ぎ手足を掴んでいました。


(だ、だれか助けて!!!)



――――【ノルド目線】


 メイナさんとマリィに書き置きして、朝早く屋敷を出た俺。


 ちょっと実物のロリーゼに興味があったというのは内緒だ。


 いやいや女の子にだまされちゃいけない。かわいい顔して、ブスリと心臓を一突きだもんな。


 まあノルドは嫌がる彼女のあそこピーを何度も突いてたから自業自得だけど……。


 そんな馬鹿なことを考えながら、王都の外れを歩いていると、いつもなら生気に欠ける人たちがやけに生き生きとして明るい表情へと変化していることに気づいた。


 間違いない! エリーゼは確実に来ている!


 確かエリーゼとケインが出会うのは、王都のスラム街のこの辺りだったはず……。


 王都を守る外周の城壁のため、昼間でも薄暗く陰うつとした雰囲気の場所。家すらなく野宿している者も多かった。


 俺は頭の片隅に残ったスチルを基に二人を探していた。


 いた! って……。



 うわっ! 攫われそうになってる!?


 エリーゼは一人の男に口を押さえられ、残り二人の男が彼女の身体を抱えて馬車に乗せようとしていた。


 あのままエリーゼが人攫いどもに攫われたら、俺はどうなるんだろう? という疑問が頭に過った。


 そう思ったのも束の間、俺の目の前には路地裏からそーっと攫われそうになっているロリーゼを見つめる後ろ姿が見える。


 ケインだ!


「どうしよう、どうしよう。ボクの憧れのエリーゼさまが攫われちゃうよぉぉ……。助けに行ったほうがいいのかな? でもボクじゃあいつらに敵いそうにないし……」


 隠れながら、ぶつぶつと呟くだけのケイン。


 すぐにさっき頭を過った疑問の答えは出た。


 くそっ、エリーゼが誘拐でもされて、酷い目にでもあったら、こいつが病んで俺も巻き込まれてヤバいことになるじゃんかよ!


 なかなか行動に移さないケインに業を煮やしそうになった。だけど影からじれじれを堪能してやろうと思っていたから長いコートにシャツ、半ズボンと貴族の令息丸出しの格好で来てしまっていた。


 こんな格好、すぐにヴィランス家の者だと身バレしてしまうだろう。


 どうやったらエリーゼにバレずに済むのか……。


 そのとき辺りを見回すと名案が浮かんだ。


「おい、そこの男。そのボロ布を売れ!」


 麦藁むぎわらで編んだ茣蓙ござのようなものの上に座っている髭をぼーぼーに生やした物乞いの男性に俺は声をかけていた。


―――――――――あとがき――――――――――

運営さまからちゃんと修正したと認めてもらえましたので、心おきなく連載できます! って、調子に乗ってたら、またお叱りを受けることになるので自重しますが……。それにしても今回、警告も修正確認も対応が鬼早でした。


フォローにご評価、応援コメ、レビュー……いっぱいおっぱいいただき、ありがとうございます。

マジ感無量です(≧▽≦)


ノルドのおしべとエリーゼのめしべがファーストコンタクトするお話って、読者の皆さまはご希望なさいますか? もしご希望でしたら、フォロー、ご評価ヨロシコです。

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