第1章〜16〜『死屍の願いと始まりの光』

禍々しく、醜い姿にされたグールの群れ。

 

血を欲し、肉を喰らい、魂を啜りとる。


周りは血肉が泳ぎまくってる地獄の海の中。

 

逃げ惑う村人、女、子供を守る大人たちを喰らいつくそうとするグールたち。


前の世界では見ることはなかったであろう邪悪な現実。


『あなたは生者をグールにすることでマナを永遠に吸い続けていた!!そんなこと、、、人がやっていいことではない!あなたは悪魔だ!キンブレー司祭!!』


教会の地下室では、生者をグールに変えるための


『あははははは!!!!悪魔ではない!!私は神だ!!これが私の救済だ!!唄え!!謳え!!!天国を歌え!グール共!!』


外道が、これが神のやることか?

まるで鬼、いや、人間の皮を被った悪魔だ。

この世界にも悪魔という存在がいるのか?

そんなの、今はどうでもいい。


『クソじじぃ、、、撤回しろ。さっきの言葉』


『いや、私は言葉を撤回しないぞ。それより、もう死んでいいよ君。目障りだ』


『お前は神のことを何も知らない』


『お前は無知で何もできないクソガキだ。楽園帝国から来た闇の商人から得た知識さえあれば、我々は誰よりも大儲けできるのだ。邪魔はさせないぞ。小僧』


闇の商人?今回の事件はそいつが本当の黒幕ってことか。

まぁ、今はどうでもいい。

俺の中にある何かが弾け飛びそうな気がする。

理性か?感情か?いや、これは完全に怒りだ。


『アキラ!人がグールになってしまったら永遠に戻ることはない。殺すのじゃ!!』


グールと戦っているシヴァが俺に殺せと言ってきた。


『嫌だね。そんなんじゃあ、誰も救われない』


『そんなことを言っている場合か!!早く殺すのじゃ!!』


『うるせぇ、、、いいからてめぇの力をよこせ。。シヴァ!!』


視界が急に真っ白になった。


何かが俺の後ろにいる気配がする。しかし、顔を振り向けられない。


金縛りにあっているようだ。だが、少しずつ、幼い子供の声が聞こえてくる。そして、俺の耳元でこう囁いた。


『——-君の力を見せるときだ。全部燃やしちゃいなよ。そして、銃口を相手に向けて、こう唱えるんだ。シャルヴってね。マスター。あなたを愛してるよ』


この声に反応して体が燃えるように熱くなり、視界が赤くなっていく。込み上げてくる怒りで頭がおかしくなりそうだ。


我を失いそうなほど、体が燃えたぎる。

 

炎天下の砂漠を一瞬で灰に変えるほどの怒りが視界を支配している。


『なっ!?ア、アキラ!?』


『<Release divine protection:Code Shiva>』


体の中から込み上げてくる怒りが具現化し、銃剣に禍々しい赤の魔法陣がたくさん浮かび上がらせた。


なぜだろう。禍々しいのに、温かい———。


『お前はなんだ!?その力はなんなんだ!?』


あれほど意気込んでいたキンブレー司祭が禍々しい魔法陣を見た瞬間、自分の死を悟ったのかのように、急に膝から崩れ落ちた。


『報いを受けてもらうぞ。キンブレー』


『———やっちまいなよ。そんなクズ』


途端に耳元で女の子の声がした。殺気に満ちた声なはずなのに包み込まれるようだ。


『あ、悪魔。。!?お前の方がよっぽど悪魔じゃないか!』


俺の頭の中を掻き回されながら、不思議な声の主は俺に詠唱を唱えさせようとしている。


『炎天の奇跡よ。怒りの瞬きよ。異端の救世主の名の下に、全ての死者に救済が在らんことを、、、、、シャルヴ』


『な。。。!?シャルヴじゃと。。!?!?馬鹿野郎!空に向けて放て!!』


シヴァが俺の銃剣の銃口を空に向けた。


刹那、銃剣の先から禍々しい救済の光が、闇の中に突如として現れる。

 

光はまばゆく、そして恐ろしいほどに美しい。

 

その輝きは深淵の底まで届き、暗闇の闇をさえも照らし出す。


しかし、その光は救いをもたらすだけでなく、同時に深淵の底に潜む恐怖を露わにする。


銃剣から光が照らし出される姿は、過去の罪や後悔の影を浮かび上がらせ、天に風穴を開け、月を堕とすかのような破壊力と共に、周辺のマナを吸い尽くした。


人が死なない程度に、もう争えない程度にマナを吸い尽くし、吸い尽くされたマナを傷ついた村人とグールの再生に少しずつ使われた。


『破壊、再生。。。奇跡。。。』


『ジョセフ!早くアキラの攻撃を止めなさい!』


慌てたフォルセティがジョセフに命令していた。


『ど、どうすれば!?!?』


目の前で天を穿つほどの光の柱を見せられて、ジョセフはパニック状態に陥っていた。


『教会でグールたちの攻撃を止めた魔術をアキラに使いなさい!』


『あ!!そういうことか!!ヴーンツァ・ナ・フリーデン(平和十字)!!』


シヴァは空に放たれた光を見て言った。


『トリシューラ、、貴様、、、オレを裏切ったな、、、』


何を言ってるだ?シヴァ。。?トリシューラ。。?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


同時刻・・・


 >>シルバーファング村周辺北側


『あらあらあら、凄まじいわ。さすが私が見込んだ存在ね。ますます惚れそう♡』


『彼の力がどうであれ、あなたには敵いませんよ。マギア』


『あんた使い魔のくせに生意気よ。やっと、この世界に来てくれたんだもの。私を殺すために』


『もう少しでライブが始まりますよ。歌姫。いや、暴虐の魔女』


『あ、そうだった!あんたも早く帰還しなさい!』


『了解』


『みんなぁ〜♡今日のライブに来てくれてありがとう!!♡』


>>シルバーファング村周辺西側


『ぶったまげたな。あんな光こっちに向けられてたら死んでたわい』

 

『あなたなら反転させれば済むことじゃない。でも、あの光、この世界の力ではなさそうね』


『面白そうな異世界人と神の力だな。しかし、シェイド、野次馬が集まりすぎた。早く下界に帰ってこい』


『あいよ。大賢者様。それより、あんたはあの化け物たちに勝てそうか?大賢者ルター殿』


『うーん、我々とではなく、彼らには世界と戦ってもらおう。その方が美しいことが起きると思わないか?』


『はいはい』

 

>>シルバーファング村周辺南側


『見えますか?総隊長?あれは明らかに人間の力じゃないですよ〜』


『めっちゃえぐいっすね。総隊長』


『勝てます?あてしたちの祖国と大英雄様は?』


『俺を誰だと思ってるんだ。絶対に勝ってみせるさ。大英雄ヴィンセント・A・ストライドの名に誓おう。我々の国家がもう一度世界一の大国に返り咲くためにもな』


>>シルバーファング村周辺東側


『マスター、あなたの古いご友人はもう人間ではないと思います』


『いや、その逆だよ。あいつは恐ろしいほど人間的な奴だ』


『神の力も、悪魔の力も、世界も否定したあなたが1人の人間に関心を持つ必要があるのでしょうか。私にはわかりません』


『アキラは僕の最初で最後の親友だからね。あいつのことならなんでも知ってるさ。そして、次は必ずこの楽園帝国にくる』


『申し訳ありません。機械の私にはわかりません』


『わからないことがたくさんあるから、まだ世界は面白いんだよ。まぁ、基本悪いことしかないけどね。あなたもそう思うでしょ?マキナ』


『はい。ジュリエッタ様』


『アキラ。。。僕が君を必ず救い出してみせる』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ジョセフが俺の攻撃を止めてくれたことで、なんとか意識を保つことができている俺は現状をシヴァに聞いた。

 

『シ、シヴァ。。。!?どうなった?』


『オイラたちのシャルヴで村周辺のマナは全て喰らい尽くされたようじゃな。もう誰も争える状態ではないし、吸い尽くしたマナが負傷者を全員癒えているだろう』


『そっか、初陣にしてはちゃんとみんな救えたんじゃないか?』


『あぁ、そうじゃな。救えたな』


あまりこの現状を良く思ってなさそうな声でシヴァは俺に答えた。


『おい!野次馬ども!ちゃんと目に焼き付けておけ!これがオイラたちの力だ。この破壊神シ。。。』


誰かに向けて俺たちの名前を言い放とうとしたシヴァの手を掴み、残った力を振り絞って耳元で囁いた。


『誰に言ってるのかわからないけど、シヴァ。。。頼む。名前を晒すのはさすがにやばい。。。使うなら偽名を使ってくれ。。。』


『そうか?いいじゃろう。破壊神アスラ様と相棒のニーチェ・スミスがこれからもっと増える愉快な仲間たちと共に、この世界を救済しに行く。じゃから、首を洗って待っておけ!!』


なんでニーチェ?それにスミス?


『ニーチェ?私がもっともまともな話し相手だと思った人間の名前を使うのですね。センスがいいと思いますよ』


『かっこいいと思いますよ!』


『まぁ、なんでもいいや。でも、初めてこんな綺麗な夜空を見た。今まで見てきた中でも格別だと思えるほどにな』


血肉の臭いも、酷い獣臭も消え失せた。


残ったのは助かった村人たちの歓声と綺麗な夜空の風景だった。


『お主が作った夜空だ。誇って良いぞ。アキラ』


『初めて何か誇れるものができたような気がする』


『生きる理由が少しはできたか?』


『まぁ、多少はね』


今夜の騒動で一気に不安が解消された気がした。賢者モードのような状態に近い。


卑猥な意味ではなく、本当の意味で清々しい。まるで心臓を縛りつけていた鎖が砕かれた感覚に近い。


でも、今までにないぐらい清々しい。

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