第1章〜15〜『正義とは?』

フォルセティ。


奴は自信を司法の神だの、正義の神と名乗った。


俺は奴に正義とは何かをぶつけたくなってきた。


『フォルセティ。正義ってなんだ』


『正義?あぁ、その話はここから出たあとで話しましょう。私は早く外の景色が見てみたいのです』


どこまでも太々しい、高潔な奴なのは確かだ。


『え!?ま、まぁ、それでもいいや』


『ガハハハハハ!!召喚儀式とは珍しいな!!俺の神殿で召喚しよって!!』


『これからクソ野郎を懲らしめに行くんでね。協力してもらいますよ』


『あぁいいとも、この精霊王ゼルディアが協力しよう。ってか、お前ら武器とかないのか?』


今まで喧嘩する時は全て拳でどうにかしてきた。今更武器なんて扱えるんだろうか。

 

『僕には魔術があるので武器はいらないです』


『私も武器はいりません。既に持っていますのでね』


『オイラは火があるでのぉ。でも、こいつは弓の使い方がわからないのだ』


シヴァは呆れながら俺を見て言った。


『悪かったな』


『じゃあ、異世界から舞い降りた青年にこれを与えよう』


精霊王の家来である精霊から少しサビれた銃剣を渡された。


『ほ、本物の銃??初めて見た。ってか、銃弾はあるんですか?俺本物の銃を持ったのも初めてですけど』


『これは異世界人が持っていた武器と言われていた代物でな。オークションにかけられていたところを俺が買ったもんだ。ガハハハハハ』


『そんな貴重な物持って行っていいんですか?』


『良い良い。異世界から来た先輩も喜ぶだろう。大事に扱えよ。後輩』


『そんじゃあ、お前ら、村に戻って、あの神父を懲らしめてこい』


『おう!!!!』


俺たちは新しい仲間であるフォルセティを召喚することに成功し、精霊王から古い銃剣を貰った。


全てはシルバーファング村で起きている拉致、監禁事件の黒幕である司祭をぶっ飛ばすためだ。


精霊王の神殿から出た俺たちは外が徐々に夕暮れを迎えようとしていることに気づいた。


『フォルセティ。あなたが見たかった外の景色ですよ』


ジョセフは初めてフォルセティに話しかけた。


『マナが満ちている。。。久しぶりにいい光景を見れました。ありがとうございます』


『どういたしまして』


ジョセフは安心した顔で返事をした。


『そうじゃろ?前の世界では全て枯渇したマナが、この世界にはある。最高の戦場じゃろ?』


『あなた、また、、、、いや、この話はやめておきましょう』


不気味な笑みを浮かべたシヴァは少し怖かった。


それにフォルセティは意味深な言葉を言い放とうとしていたが、急に止めた。前の世界で何かあったんだろう。


大人シヴァが監禁されていた理由と関係しているのかもしれない。


馬車に乗り込んだ俺たちは帰路に立たされた。

 

来る最中は真夏の温度になっていた道も、帰り道は少し肌寒い。

 

俺、シヴァ、ジョセフ、フォルセティは夕暮れを眺めながらお互いに知りたいことを質問しあった。


俺は詠唱の仕方、コントロールの仕方を教えた。


フォルセティの力はどうやら戦闘向きではないらしい。


フォルセティの力は主に攻撃の強制解除、戦闘意欲を削除することがメインらしい。


ある意味チートくさい響きだが、難点があるとしたら、カゴを使用している際にフォルセティは指一本も動かすことができなくなるらしい。


だから、フォルセティと十字架を抱えながら戦闘を行わないといけないリスクを抱えることになるとのことだ。


あとはたくさんの情報を交換しあった。

前の世界のことや、この世界のことを。


俺たちがこの世界で成さないといけないこともだ。


そのあと、村に着くまではひとときの安息を堪能した。

 

しかし、俺は正義の神と名乗るこのフォルセティに正義とは何かを問いかけずにはいられなかった。


『結局のところさ、フォルセティ先生!!正義ってなんだ!?』


『僕も知りたいです!フォルセティ先生!』


長年理解できなかった問題を投げかけた。それは多分ジョセフも同じ気持ちだったんだろう。


『うん?正義ね。何でしょうね』


『え?正義の神でしょ?』


『そんなのわかってたら苦労はしませんよ。誰も争うことも、誰も悲しむこともなかったでしょう。万物が争い合い、喰らい合うような世界でなければ、最初からあの原初の神も、皆の前に顕現していたでしょうに』


『たしかに、まぁ、そうか』


『一つ言えることがあるとしたら、正義とは、単なる規範や法律ではなく、人々の心の中にある理想なのです。しかし、善と悪の境界は曖昧で、その中で正しい答えを見つけるのはとてつもなく苦しいことなのです。正義は絶対的なものではなく、変わり続ける現実の中で見失わないように、正義の真理を誠実さと公平さの名の下に探求し続けるしかないのです。それが私の使命であり、永遠に背負い続けるからこそ、私は正義の神と呼ばれているのです」


フォルセティの言葉がジョセフの心に響いたのであろう。

ジョセフは立ち上がり、祈るかのように手を合わせてフォルセティに答えた。


『フォルセティ。僕もそうだと思う。だから、もっと正義について教えてほしい。僕も正義は何かを探求し続けて、いつか正義とは何かを突き止めたい』


『わかりました。あなたたちに定期的に私の講義で正義、平和、秩序とは何かを教えましょう』


『ま、まだ俺には少し早いかもしれないっす。。。』


『あなたはもう既に理解していると思いますがね。ただ言葉にされると難しいと思ってしまうだけで、心では理解しているはずです。しょうがないことなのかもしれませんが、あなたがいた国の人々は、そういう考えの人が多い気がします。気づいているのに、気づかないフリをしながら他人と意見を共有する。たぶん、自分の考えが否定されるのが怖いのかもしれませんね』


『まぁ、そこは分かる気がするよ。多分みんな、プライドが高すぎるんだろうな。だから、自分が傷つくことから避けて生きているんだ。あの国の人たちは。。。』


あの国の人の心の奥底には、誇り高い精神が脈打っていたのだ。自己の名誉と尊厳を何よりも重んじ、その誇りを守るために生きている。しかし、その誇りの背後には、繊細で壊れやすい心が隠されていたと思う。その心は、まるで薄氷の上を歩くように、慎重で傷つきやすい。


互いの心に触れることを恐れ、言葉を選び、態度を慎む。自分の価値観、自分の意思、自分が掲げる主義も時代が進めば、進むほど押し殺してきたのだろう。

そのコミュニケーションは、柔らかな絹糸を紡ぐように、慎重で緻密な作業だ。

直接的な表現は避け、間接的な言葉や行動で意思を伝える。

その背景には、自分の精神を傷つけさせないという防衛本能がある。


対人関係は、儀礼と礼儀に彩られた舞台での舞のようだ。表面上は穏やかで和やかに見えるが、その下には常に緊張と配慮が張り巡らされている。

自分の心を守るために、他者との距離感を微妙に調整し、傷つけ合わないように細心の注意を払っている。


しかし、その場合、急に仲良くなってしまうと大半の人間関係は拗れてしまいやすくなってしまうのだ。


『ほら、やっぱりわかってるじゃないですか。誰よりもね』


フォルセティは俺の顔色を伺いながら言った。


『いやいや、俺は出来損ないの傍観者だっただけですよ。ただ、見ていただけだった』


またフォルセティはポケットからタバコを取り出し、吸い始めた。


『見ていただけだった。。。その言葉覚えておきます』


『もう少しで村に着くのぉ〜。お主ら心の準備はできたか?』


シヴァは気合を入れていた。


雲が徐々に曇ってきた。

そして、少しずつ村が見えてきた。


村中には蛍のように漂う明かりが灯されていた。

どうやら、村のみんなは俺が神殿に行っている間に、俺の歓迎会を準備してくれていたらしい。


『おやおや、お帰りなさい。そして初めまして、この村の教会で司祭を担当しているキンブレーと申します』


『どうも』


こいつがこの村で起きている悲劇の黒幕か。


『あれ?ジョセフ君、隣の小さい子は誰なのかな?』


『あ、この子は、その、、、も、森で見つけた迷子です!』


『そうですか。迷子ですか。では、教会にいるビーク君の元まで案内してあげてください』


『はい。では、アキラ、シヴァ、僕は少し教会の方に行ってきます』


教会の地下室に人々と妖精たちが捉えられているのだと思う。なら、シナリオ通りになりそうだ。


『おう、また後でな』


『さぁさぁ、村の皆があなたの為にパーティーを考えていただいたのです。主役なのですから、笑顔で参加していただかないとパーティーは始められませんよ』


キンブレーは和かな笑みを浮かべながら話しかけてくる。


『あぁ、はい。わかりました』


『こちらのテーブルにお掛けください。今から料理を持ってきますね』


念のため、一度俺たちはテーブル席に座った。


俺はシヴァの顔色を窺いながら、そして、シヴァも俺の顔色を窺うようにお互いの顔を見つめ合った。


俺とシヴァは全く同じことを考えていたのだろう。


シヴァは手で、俺は足で少し大きなテーブルをひっくり返した。


『な!?な、何をやってるんですか!』


急にひっくり返したことにキンブレーは驚きながら言った。


ジョセフは驚きながら見ていたが、フォルセティを抱き抱えいつでも戦闘ができるように準備をしていた。


『食えねぇな』


『喰えねぇのぉ〜』


村人は驚きながら、動揺を隠せずにいた。静寂が一瞬広がった後、村人の1人が怒りに震えた声で叫んだ。


『一体どういうつもりだ!君たちのためにみんなで考えた歓迎会なんだぞ!』


俺は冷静に答えた。


『俺たちにこんなやばいもん食わせてどうするつもりだ?司祭様?お前たち皆んなこの聖水が何でできるのか知ってるのか?』


キンブレーの顔が急に変わった。


『あぁ、あなたたちにはこの聖水が何からできてるのか知ってるのですね』


シヴァが鋭い目でキンブレーを見つめた。


『伝統料理にしては成分がちょっと怪しいのぉ。人間と妖精のマナと血を大量に使うとは鬼畜じゃなぁ〜人間。オイラたちを騙すのは一億年早いわ』


『キャアアアアーーーッ!!!!!』


急に教会の方から女性の悲鳴が聞こえた。

この場にいる全員、1人残らず教会の方に顔を向けた。


『お、女の叫び声だ。。』


『一体誰の叫び声だ?』


シヴァは何かが起きていることを瞬時に感じ取った。


『おぉ、来ているのぉ、死が』


俺たちは耳を澄ませた。教会から騒がしい足音が鳴り響き、徐々に腐った肉の臭いがし始めてきた。


村人たちが何かに慌てているようだ。


『何だ?何だ?何だ?』


『く、臭い!?こ、この臭いはグール!?』


グール?あれか?動く死体のことか!?


笑いを堪えることができなくなったキンブレーは不気味な笑みを浮かべながら高らかに笑った。


『何がおかしい!?キンブレー!?』


腹を抱えて笑っているクソ親父に俺は問いかけた。


<バンッ!!!>


複数の魔法陣がでかい十字架とフォルセティを抱えながらジョセフが教会の扉を蹴り飛ばし、逃げ出してきた。


『や、やばいですよ!!アキラ!!これは本当にまずい!!』


神々しい十字架であることから、多分あれがフォルセティの力なのだろう。

 

しかし、俺たちが咄嗟に気になったのは教会の奥から酷い獣臭だった。


『あれは…』


『グールじゃな』


シヴァが短く答えた。


村人たちは恐怖に包まれていた。キンブレーも唖然として立ち尽くしている。


『オイラたちが戦わなければ、村人が皆食い殺されるぞ。アキラ!』


俺の目に映ったのは、胸を締め付けるような悲惨な光景だった。


女、子供関係なくグールに喰われ、武器を持った男たちが必死に家族を守ろうとグールを殺そうとしている。


その瞬間、心の奥底に潜んでいた静かな怒りが、一気に表面へと吹き上がってきた。


まるで深い湖底に蓄えられていた火山の熱が、ついに抑えきれずに噴出するかのように、俺の感情は沸騰し、全身を駆け巡った。


その目には鋭い光が宿り、怒りは頂点をとっくに超えていた。


彼の心の内で嵐のように渦巻き、静かな決意となって燃え上がっていた。

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