第1章〜14〜『精霊王と異世界の青年』

精霊王の神殿は、遥か彼方に聳える古代の巨大な建造物のようであった。


その壁は、時の流れと共に彩られた壮麗な絵画で飾られ、中庭には幻想的な植物がたくさんあり、植物たちと小さい精霊たちが踊っている。


神殿内部は、神秘的な光が踊る中、静寂と神聖な雰囲気に包まれており、訪れる者の心を畏敬の念に満たすようだ。


しかし、そんな雰囲気をぶっ壊すほどの存在が目の前で座っている。なぜ精霊王はこんなに太々しくてヤクザのような見た目をしているのだ?


 図体は普通の人間の数十倍のデカさなのに妖精の羽が小さい。


 身体中傷だらけなことからも、かなりの猛者であることはわかるのだが、何故にこんなに太くてでかいのだ。


あと、ずっと、タバコの煙がこの部屋に充満している。ものすごくタバコ臭い。

 

『おめぇらが森を焼いた奴らか?』


このヤクザ王様はこっちを少し睨みながら、俺たちに問いかけた。


『本当にすいませんでした』


情けないぐらい全力の土下座を決めた。

我ながら無沙汰だと思うが、森を焼き払ってしまったのだ。仕方がない。


『おぉ、すまんのぉ〜。精霊王とやら、オイラたちも命がけだったんでのぉ』


『いやいや、いいってことよ!!!大いに許す!寛大な心で許す!ここの森の治癒能力は完全無欠だからなぁ』


『おぉ、さすが精霊王じゃのぉ〜。王はそうでなければならぬ』


『ずいぶん度胸のあるガキじゃねぇか!気に入った名を名乗れ!』


声がでかすぎる。


『オイラの名を魂に刻むが良い!!天地無敵の破壊神シヴァ様だ!!!』


いや、堂々と名乗りすぎてるだろ。


『ガハハハハハハハハハハハァ!!!!!そうか!!!神であったかぁ!!!通りで俺様の森が簡単に焼け野原になったわけだ!!!ガァッハハハハハハハ!!!』


でかいでかい声が、鼓膜が破れちまうだろ。


『おい、小僧と神父殿も表を上げて名の名乗れ』


『はい。異世界から来ましたアキラと申します』


『僕は最近シルバーヘイブン村の教会に配属されることになりました。ジョセフと申します』


『異世界人と神と神父とな!!!!これはおもろい奴ら俺様の神殿に来たもんだなぁ!!!!ガハハハハハハ!!!』


『おもろいじゃろ??アッハハハハハ!!』


お前も一緒に笑ってるんじゃねぇよ。


『ところで精霊王様、何故森を焼き払ったアキラとシヴァの罪をお許しになり、神殿までお呼びになられたのですか?』


ジョセフが問いかける。


『おぉ、そうだった。そうだった。呼んだ理由は他でもない。お主らに頼み事があってな』


『お、やっと本題か。じゃが、もうわかっておる。ここらへんに住んでいた妖精たちを探して欲しいんじゃろ?なら、どこにおるかわかっとる』


『なら、話は早い。申してみい』


『妖精たちはオイラたちがきた村のどこかで監禁されておる。生命力とマナを吸い続けるためにな』


『そうか。そうか。やはり。。。あのクソ司祭が。。。』


精霊王は悲しい顔をしながらタバコを吸い始めた。

こっちの世界の葉巻なのか?

木炭のような木の棒を吸い始めた。


『やはりってことは、気づいていたんですね』


ジェセフが悲しげな顔をしながら精霊王に問いかけた。


『おう。そこの神父様には悪いが、お主たちに頼もうとしてたのは、あの司祭を殺して欲しいと依頼したかったのだ』


殺す?俺たちに人を殺せっていうのか?

今まで、どれだけ人を傷つけてこようとも、この手で人を殺そうと思ったことはない。

殺せと言われたとたん。俺の手の震えが止まらなくなった。

 

『悪いが王様。俺は人殺しはしません』


俺の手で誰も殺したくないから。

俺の心が誰も殺したくないから。

俺の魂は誰も殺したくないから。


『なら、奴の罪をどう償わせる?被害あった者どもの恨みを晴らすんだ?』


『救う。でも、司祭には罪を償わせる。それから、司祭も救う』


『甘ったれたことほざいてるんじゃねぇぞ。ガキィ!!!ぶっ殺せっ言ってんだよ。奴の血で、奴の骨で、奴の魂で償ってもらえって言ってんだよ』


精霊王は怒りを露わにしている。

今まで殺してきた人たちの怨念を武器にして、俺たちを威嚇しているようだ。


『今までの歴史と何が違うんですか?争いが、また新しい争いを生むだけじゃないんですか?』


『生意気なクソガキが、お前に何が分かるんだ!!』


でも、俺の震えは威嚇されてるから震えているわけではない。


今まで喧嘩してきた相手に威嚇されてる感覚より何百倍も怖いが、この震えは違う。


これは自分が本当にやってはいけないことをやってしまうことに対する恐怖だ。


でも、俺がやらないといけないことはわかってる。


『俺は原始の神に頼まれて、この世界を救いにきた。方法はまだわかんないけど、この世界を救う前に暴力を暴力で解決するのは違うと思う。ただ、俺はそう思っただけです』


『な!?原始の神とな!?!?がっ、ガハハハハハハハ!!!てっきりガキの戯言かと、子供の儚い夢かと思ったが、どうやら嘘をついていないようだ!!ガハハハハハハハ!!!』


精霊王の笑いで地面が揺れている。


『ちょっと見直したぞ。アキラ』


『おぉ、見直せ。見直せ。はっきり、まだこの世界感に慣れてない。でも、最低限俺がやらないといけないことはわかってる』


『じゃあ、お前がやらないといけないことはなんだ?』


『救ってこいって頼まれたんでな。あの可愛い神とクソ案内人に』


ジョセフは驚きながら、俺を見つめていた。


『ふーん、まぁ、今はそれでいいんじゃねぇか』


シヴァは少し笑っていた。


『シヴァ、ジョセフ、俺に力を貸してくれないか?』


『あぁ、アキラさん。あなたの力になりますよ。共にこの世界を救いましょう』


『当たりめぇだ。オイラはお前に力を貸さんといかんでな』


『ガッハハハハハハハハハハ。本当に面白い奴らだな!お前らに賭けた!!俺はお前らの今後に賭けるぞ!!』


誰かと協力するなんていつぶりだろう。

親友のジンが死んでから初めてだ。


『じゃあ、ジョセフに神の加護を与えないとな。アキラ』


『どうするんだ?この力をもらうために俺は一回死んでるぞ?』


『え?死ぬ?いきなりめっちゃ怖くなってきたんですけど』


『いや、お前、言われたこと忘れたのか?お前ら同士で契約するんだよ。そしたら、ジョセフにもオイラではない他の神が召喚されて、そいつの力を使うことができる。それも、最初から契約が成立した状態でな』


『めっちゃずるいじゃん。俺なんて一回呪いを解除するために殺されて、お前の本体と契約したにもかかわらずボロッカスに言われたんだぞ?』


あの時、確かに心臓を貫かれた。

今思い出しても悪寒が止まらない。

考えるだけでも背中がむずむずしてしまう。

貫かれた感覚をいつでも思い出せるレベルだ。


『なんか、いきなり怖すぎるんですけど。。。』


『でも、ジョセフ。正直、多分この力がないと世界を救うなんて夢のまた夢だ。俺と契約してくれ』


『あぁ、いいよ。僕も君たちと世界を救いたい。それは僕が長年追い求めていた夢でもあるんだ。だから、僕を君たちと一緒に連れてつってくれ』


『いいのか?神父様、教会に居られなくなるぜ?』


少し笑ってしまった。


『あぁ、望むところだ。ただの巡回だよ。巡回』


『よし!双方の契約が成立したと見える!では、儀式を始めるぞ!Invoke God Contract:Search Almighty』


(だから、なんで毎回英語なんだよ)

と、思った瞬間。


暗闇の中に浮かび上がる無数の魔法陣が、俺とジョセフを取り囲み始めた。


禍々しい模様が光り輝き、空間を満たし始めた。


そして、中心に輝く巨大な魔法陣が描かれると、強力なエネルギーが漲り始めた。

 

すると魔法陣の中から声がした。


『あなたたちですか?私を召喚した人間たちは』


その中から小柄なのにらちょっと太々しいペンギン?なのか?とにかくでかい頭のペンギンが現れた。


貴族のような服を着ている太々しいペンギン。


『お!久しいのぉ』


『あぁ、あなたがいたんですか。できれば、もう関わりたくはないのですがね』


新しく召喚された神はシヴァの何らかの因縁があるのだろうか?物凄く嫌そうな顔をしながらシヴァに野次を飛ばした。


『まぁ、昔のことは昔のことじゃ!今は仲良くやろうぞ!』


『そうするしかなさそうですね』


『あ、あなたの名前は?』


ジョセフは少し怯えながら話しかけた。


『私は司法の神。正義、平和、真実を司る神です。フォルセティと申します。以後お見知りおきを』


自己紹介が済んだ途端、フォルセティはポケットからシガレットケースを取り出し、誰でも知ってそうな一般的なタバコを取り出し、安そうなライターで火をつけ始めた。


ここにはヤニカスしかいないのかと思ってしまった。

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