第1章〜12〜『神のご加護を!②』

神の力を手に入れた人間の末路はどうなるのだろうか。


ただの頭がおかしい異端人と思われて刑罰を受けるのか。

神の力を手にしたが、自然の力には抗えずに死ぬのか。

悲劇に巻き込まれてしまい処刑されるのか。

本物の英雄によって殺されるのか。


どうであれ、人は生まれてきた時点で死が訪れることは確定している。例外はない。


アトラのじじぃも長く生きたが、役割を全うし、死んだ。


創造主ですら死ぬのだろうか?


たとえ、いずれ、もし遠い未来に人が死なない世界になったとしても、不老不死の生き物でもいずれ死を選択するのだ。


死ぬ定めであるからこそ、不死を求める。

不死であるからこそ、死を求める。


しかし、どれほど知能があっても、どれほど悠久の時間を過ごしてたとしても、意識が芽生えず、のうのうと過ごしている人間で溢れかえっている。


自分の人生に答えを見出せない人はインターネットに繋がっていない機械と変わりはないのではないか?


『アキラ!!火を起こしてみるのじゃ!』


火、現代人が意識を持つ要因となった最初の要素、ルーツとなるものなのではないか?


『ぼーっとするな!はよせい!』


動く雲をぼーっと眺めていたのにうるさい奴だ。


『わかったよ。うるさいなぁ』


『ほれ!ほれ!早く火を起こしてみるのじゃ!』


『そもそも、どうやってやるんだよ』


『唱えるのじゃ!!Release divine protection:Code Shivaってな!』


なんで神の力をプログラミング言語みたいに詠唱しないといけないんだよ。まぁいいや。


『はいはい。Release divine protection:Code Shiva』


その刹那、無数の魔法陣が俺の前に現れた。宙に浮く無数の魔法陣が俺の目の映った。


『おぉ、まぁ最初にしてはいい方じゃないか?』


適当な返事だな。もっと褒めろよ。こっちとらZ世代様々なんだよ。


『この魔法陣をどうしたらいいんだ?』


『魔法陣をコントロールしてみな。イメージじゃ。イメージが重要なのじゃ。火力は弱めに設定してあるから思う存分使ってみな』


『イメージ。。。なんか、むずいな』


『まず、火が灯るイメージをするのじゃ』


『火が灯る。。イメージ。。』


『そして、火を灯したい場所を指定してみな』


シヴァと俺の間の空間に火が灯る想像をした。


『な、なんか火がでかいぞ』


『あれ?思っていた以上に火が強いではないか。まぁ、いいじゃないか。火はでかい方が綺麗だからな!』


また、適当なことを言いやがって。


『アキラ!そのまま火の矢を作るのじゃ!』


『おう!こうか!?』


俺は火を錬成し、変形して矢になることを想像した。


矢になれ。矢になれ。矢になれ。矢になれ。全てを燃やし尽くす矢になれ。矢。矢。矢。矢。矢。


ってか、どう念じるのが正解なんだ?


『あっつ!』


『おぉ、作れたではないか。まぁ、最初にしては上出来ではないか?』


『そんでこれをどうするんだ?』


『ゆっくり動かしてみるのじゃ。飛ばしたい方向に飛ばせるように想像してみな』


補助輪つけながら自転車を漕ぐ練習をしているようだ。何これ?


『お!ちょっと動いたぞ!』


『愚か者!ちょっと動かしたぐらいでやめるでない!』


火は消えた。


『火、火が消えた。。。』


『は、早く火を起こすのじゃ!!』


火!、火!、火!、火!、火!、火!、火。


『あっつ!!!!!』


『ちょっ、待つんじゃ!!!!こんな狭いところででかい火を出すな!!!オ、オイラの服が!!あっつ!!』


部屋の半分を覆い尽くすほどの火を起こしてしまった。火を使う神なのになんで熱いとか言ってるんだ?こいつ。


『あ、熱すぎだって、は、早く消せ!!アキラ!!!』


『き、消えろ!、消えろ!、消えろ!、消えろ!!!』


鎮火した。


『お前、火力を調整してたんじゃないのか?』


『すまんが、オイラにもわからん。まぁ、コントロールはまだまだじゃったが、火力は想像を超えるぐらい高いってことではないか?』


『呑気だなぁ』


よく見れば、鉄格子が少し溶けている気がする。まぁ、よく見ないとわからないぐらいだと思うけど、バレないことを祈るしかない。


『あの〜なんか、めっちゃ暑くないですか?ここだけ』


『げ、ジョセフ。。!?』


少し怒った顔をしたジョセフが突如現れた。


『さては火を起こしましたね?ちょっと焦げ臭いですよ』


『す、すいません。。』


少し俺たちに呆れていたようにも見える。


『まぁ、それはおいといて、明日釈放されることが決定しましたよ!』


『おぉ!!!シヴァ、俺たちやっとここから出られるぞ!』


『おぉ!!!やっと肉がたらふく食えるのじゃな!?!?』


『肉。。』


『いや、何日も閉じ込まれていたのに食い物のことしか考えてないんですか?』


ジョセフは俺たちが肉のことしか考えていないことに笑っていた。


それはそうとも、さっきの火で肉を焼くことができるのであろう。


俺は来る日も来る日もパンと蒸した芋しか食っていなかった。いい加減、他の物も食べたくなり始めてきた。


パンを食べた瞬間、ひたすら肉を焼いた瞬間のことを想像していた。焼けるような香りを放ち、焼き目が美しく輝き、切り口からはジューシーな肉汁が滴り落ちる。


肉を口に運ぶと、まず匂いが俺たちの脳裏に焼き付いている野生の本能を叩き起こすかのように鼻腔を擽り、肉の濃厚な風味が口いっぱいに広がり、噛むたびに肉の柔らかさと旨味が舌を満たす。


その肉汁はまるで自然の恵みが凝縮されたようであり、食欲をそそるビジュアルと味は、食べ手を魅了し、心と身体を魂から震えさせるほどの味なのであろう。


この数日間、檻の中にいるだけの生活は俺の食欲を臨界突破まで増幅させるには十分すぎた。


少しずつ俺は原始的な人間の生き方を檻の中で学んだような気がする。


原始的な人間は大地の息吹と調和し、自然と共に生きる。


原始世界の太陽光を浴び、風のささやきを聞き、森の中で野生の音を感じながら、狩りを行い、果物を摘み、生命の循環に参加する。


どれだけ自然の摂理に抗おうとも、自分たちも弱肉強食の元で喰らい、喰らわれる輪廻にあることを受け入れ、土に帰る定めであろうとも抗い続けた。


しかし、営みは育まれてきた。


彼らの生活は季節の移り変わりと密接に結びついており、彼らは激しい喜びと深い哀しみを自然の営みと共有する。


彼らの生き方は、風や木々、動物たちとの対話から生まれ、物語は星々の輝きや火の燃える様子を通じて語られる。


彼らの文学は生命の神秘と共鳴し、自然の美と力に対する畏敬の念が織りなす詩的な語りとなったのだ。


この檻の中の生活で俺は何かを悟りそうな気がする。


『何をうまそうな食い物を想像しながらニヤニヤしてるのじゃ?』


『そりゃあ、ここから出られるんだぜ?異世界の色んな肉とか、肉とか、肉とかが出てくるに違いない』


『いや、異世界の色んな料理とかではなく、お主も肉のことしか考えられてないではないか。だが、しかし、わかるぞ。わかりみが深い!』


『ふ、お主にはわからないであろう。シヴァよ。肉を想像するだけで俺は悟りそうな気がするのだ』


『気持ち悪。どうしたお主?頭でもイカれたか?』


『うるせぇ』


『まぁ、とにかく今日はゆっくり休んでください。明日の早朝に精霊王の神殿までお送りします。僕も同行する許可を得ました。結構苦労したんですよ。本当に』


『あぁ、苦労かけて悪かったな』


『この世界のこと、あなたがきたという世界のことを少しづつ共有し合いましょう』


『頼むよ』


世界を知る第一歩はやはり外に出ることだ。


自分の知らない環境に行くことで自分の考え方も変わったり、自分にとって新しい世界を発見することができる。


世界を知り、世界を救済する。それが俺が与えられた義務だと俺は感じながら今日も眠る。

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