第1章〜11〜『神のご加護を!①』
今日もまた鳥の鳴き声がする。いつもは肌寒さを感じるのだが、今日は悪寒を感じる。
すぐ近くで鬼畜な所業が行われていると思うと、あまり寝れないもんだな。
『アキラさん、シヴァさん起きてください』
『ジョセフ、おはよう』
シヴァは起きない。こいつは起こされても起きない病気にでもかかってるのか?
『これ、頼まれていた弓です。あんまり、見られないようにしてくださいね』
細長い竹弓をジョセフからもらった。こんな細長いもので矢を放てるのか?
正直、心配なってきた。
『ありがとう。ジョセフ』
『いえいえ、僕はあなたたちにかけてるだけですよ』
『努力するよ』
『でも、矢もないのに、どうやって訓練するんですか?』
『俺もよくわかんないんだよな』
『火で矢を作る魔術はありますけど、檻の中で打ったら絶対ダメですからね』
そわそわしながら話すジョセフに俺は頼み事をしてみた。
『頼みがある。俺がここから出たら、この世界のことをいっぱい教えてくれ』
忘れてはいけないここは異世界だ。俺の世界とは違う伝承とか、わくわくするような伝説がたくさんあるはずだ。魔王だの、魔女だの、勇者とか!
『あ!さっき聞いた話なんですけど、近日中にアキラさんは妖精王の元へ招かれる予定です』
妖精王、、、一体どんな奴なんだろう。
『え?な、なんかお叱り的なやつ?で、でも、俺もうちょいで出られるってことだよな?』
『お叱りかは分かりませんが、そうなりますね。その道中にでも色々と語らせていただこうと思います』
『やったぜ』
俺は寝ているシヴァにドヤ顔をして見せた。
『僕は仕事がありますので、教会にいってきます。朝食は普通のパンと牛乳なので安心してください』
そういってジョセフは走って行った。仕事してる奴は忙しそうだな。
通勤っていうのにありがたいことだ。
俺はできれば仕事なんて一生やりたくないね。
でも、ここで過ごしているだけで朝食が入った包みをもらえるのはありがたい。
しかし、俺も人間だ。やはり、肉が食いたくなってきた。
『肉が食いてぇ〜』
『オイラもそう思っていたところじゃ』
いきなりシヴァが起きてきて、俺の頭に乗っかってきた。なんか体があついなこいつ。
『お!弓が届いたか!どの時代になっても、男は弓ぐらい扱えないとな』
『俺みたいな現代っ子は弓道部とかじゃないと弓なんて撃てないぞ』
『何部だったのじゃ?』
『帰り道喧嘩ばっかしてた帰宅部でぇす』
『はっ、お主の青い春は喧嘩しかないのか?可哀想じゃのぉ。まぁ、オイラと変わらんか』
『お前も喧嘩ばっかしてたんじゃねぇかよ』
『まぁ、オイラの伝説は次の機会にたっぷり語ってやる!!今はとにかく弓じゃ!』
『おう、どうすればいいんだ?』
『まだ使えんぞ?お主は正式にはまだ完全に契約は成立していない状態じゃからのぉ。マナと力を使えるようにするための刻印を起動させておらんからな』
『マナ?』
なんかめっちゃウキウキしてきたぞ。異世界要素がこの狭い牢屋で始まるわけだな!!
今ここで!!!!
『おうおう、ウキウキしてるようで何よりじゃ』
『早く教えろよ!シヴァ!』
『まぁ、まずはオイラの真の姿に会わせてやる』
『真の姿?』
『あぁ、瞑想してみ』
『こ、こうか?』
『あぁ〜、左手は上向きにして、右手は拳を作って親指だけ立てて、みぞおちのあたりに左手をあてて、その上に右手を乗せてみるのじゃ』
『これであってるか?』
見たことないポーズだな。
『おう、そんでこう唱えよ。InvokeDivineBlessings:Code Shiva」
ニヤニヤしたシヴァがこっちを見て詠唱を唱えさせようとしてくる
『い、InvokeDivineBlessings:Code Shiva』
『もう1人のオイラによろしくな。いってらっしゃい』
⬛︎+.
〜神の核『シヴァ』〜
視界の全てが黒くなった。いや、黒く光っているのか?
黄金色の彼岸花が黒く燃え盛っている。
その光華はまるで悲しき思い出を、また新たな悲しき炎で塗り潰しているようにも見える。
『我が眠りを妨げるとは哀れな人間だ』
奥から殺気の気配を感じた。
『お、お前が本物のシヴァか?』
『さよう。我、始まりと終わりを告げる破壊神シヴァなり。我、破壊と再生を司る神である。お主と共にしているのは我の魂の一部にすぎない』
神々の威厳を保ちながらも、その神性は鎖によって冷酷に縛りつけられ、無限の力が虚弱で震えている。
黄金の光がかつての栄光を示すかのように微弱に輝き、しかし、それは囚われた神の無力さを残酷に浮かび上がらせている。
布と鎖で身体中を縛られているにも関わらず、瞳は遠くを見つめ、自由の欲望が静かにただよっているが、その望みは拘束具によって絶え間なく挫かれ、シヴァの深い悲哀がその全てを包み込んでいるように見える。
『なんでお前は囚われているような姿をしてるんだ?』
『あの忌々しい原初の神によって、我が身は永久に封じられることとなった。遥か昔の話、史実が残らないほど昔にな』
『何したんだ?』
『貴様には教えぬ』
『ふーん』
『神の核に踏み入れた理由を申せ。揶揄うためにきたのであれば、魂まで焼き殺すぞ。小僧』
布で隠されているはずなのに目が合っているように思える。殺気を撒き散らすだけで身体中焼かれそうなほど熱い。
強制的に自分の体が業火の中で炙られていることを連想させてくるような威圧を体感させてくる。
しかし、俺は言い放った。手を伸ばしながら、ゆっくりと。
『契約を完全に成立させよう。シヴァ』
『汝は力を得てどうする?』
『その力で始祖の創造主を救う』
シヴァは聞いた途端に禍々しい殺気を放ちながら笑った。
神の殺気、全てを燃やし尽くすほどのオーラを肌で感じてしまった。
『やはり哀れだ。人間。我はその創造主を殺したいと懇願しているにも関わらず契約者となるお主は救いたいときた。不愉快ではあるが、嫌いではない』
『あぁ、皮肉な話だ。だからお前もいつか救ってやる。現にもう1人のお前は新しい世界を満喫しようとしてるぞ。まぁ、まだ檻の中から一歩も出れてないけど』
すまん。俺もこれに関してはお手上げだ。恥ずかしいが照れ隠しが下手な気がする。
『人間。我が力を貸してやってもよいが、条件がある』
『な、なんだ?』
『お主が世界に絶望し、全てがどうでもよくなった時、お主の魂を捧げ、この鎖を打ち砕くための糧となれ。お主の体を使って、全てを破壊する。今お主がいるこの別次元の創造主と共にな』
『最初から世の中に絶望しているけど、世界をぶち壊そうとは思ったことはないから、永遠に来ないかもな』
嘘だ。壊れてしまえばいいと何回も願ったが、俺はただ自分の手でぶち壊そうと思ったことがないだけだ。
『前の世界、しかもあの国の絶望などと比べものにならないほど、この世界ではより深い絶望を味わうことになるかも知れぬ』
『まぁ、あり得そうだな』
『楽観的な考え方もいいが、環境が変われば平和ボケした考え方がお主を殺すぞ』
『そ、それもそうだな』
現に俺は今の世界に全く適応できていない気がする。そもそも、檻の外の世界がどうなっているのかがわからない。それもそうだ。だって、檻から一歩も出てないんだから、未知な部分が多すぎるのは当たり前だ。
あの村で起きてる悲惨なことに対して、俺は恐怖を感じてるだけで、何をしたらいいのかもわからないし、自分の無力差を痛感するだけしかできない。
『お主が創造主を救い出す覚悟も確固たるものではないと感じる。我が力は膨大すぎる故にお主の体を魂と共に完全に焼き尽くすかもしれぬ。それでもお主は契約するのか?』
『あぁ、確固たる覚悟に変わるまでに、俺は新しい世界に適応してみせるさ。絶望に蝕まれてでも、今はただ力がほしい。頼む』
それでも、俺はあの儚い存在のために、自分ができる精一杯のことをしてみたい。
その気持ちは変わらない。
一方的に神を呪って生きてきた。
悲観的になっているだけで、悪いことを全て神のせいにしてきたことが罪なのであれば、何もない俺の人生に少しは罪滅ぼしができるなら、それでいいと思っている。
『未来に起きる災厄と醜い真実に絶望し、そして殺してくれと我に懇願することを祈る』
『それがお前の祝福の言葉だと思うとあまり感心しないな。でも、契約成立でいいんだな?』
『あぁ、いつでも殺してやる。不幸を祈る。人間』
人間は神に救いを求めて祈るのに、神に人間の不幸を祈られるのは、かなり皮肉が効いてる。
『お前も救ってやるさ。ここで大人しく待ってろ』
『童が世界を救えるわけがなかろう』
その言葉が心にずっと残っている。
⬛︎+.
『おかえり、アキラ』
俺の顔を覗き込むかのようにシヴァの顔が近い。
『おい、お前の本体に不幸を祈るって言われたぞ。性格悪すぎだろ』
創造主に祝福され、契約した神に不幸を祈られた。俺歓迎されてんのか、嫌われてんのかよく分からんな。
『可哀想じゃのぉ〜。まぁ、もう1人のオイラとはオイラは性格は全く似ておらんなぁ。世界を好きなように歩けるようになったオイラを妬んでいるだろうし、誰も信用してないのじゃろう』
奴は至って冷静だ。
『まぁ、これで契約は成立したということでいいな?』
『おう、じゃあ、試しにオイラの力を使ってみるのじゃ』
『どうすればいいんじゃ?』
『まずは説明するぞ。契約が成立したことでお主の体に大地からマナが通い始めた。この世界はマナで満ちている。オイラもこれでやっとマナを補充できるってもんだ!』
『俺たちの世界にマナはなかったのか?』
『う〜ん、オイラたちがいた元の世界は神々の最終戦争のせいで、マナが完全に消失してしまったのじゃ』
『そ、そんなに激しい戦いだったのだな』
世界からマナが消失するほどの戦争ってなんなんだ。。
『おうよ!もう、それはそれはすごかったぞ。山を吹っ飛ばしたと思ったら、秒で再生したり、海が一瞬で蒸発したと思ったら、海が隕石のように降ってきて大地を抉ったり、重力が急に反転したと思ったら、急に消えたり、天と地を同時に砕くほどの大爆発が起こったり、想像ができないぐらいとてつもなかったぞぉぉぉぉ』
ワクワクしながらシヴァは神々の戦争について語っていた。
『おぉ、そ、想像つかねぇほどの戦争。。。そんで?お前は何したんだ?』
『オイラか?ふふふ、跪くが良い!何千の神々を一つの槍で瞬殺してやったり、一本の矢で3つの都を破壊したり、炎で大陸を灰に変えたりしてやったわ!』
『おぉ!!そんなにすごい力が手に入るってことだな!』
『ふん、そんな少ねぇマナで出来るわけがないじゃろうが』
『俺ができるのはどれぐらいなんだ?』
『マナの使い方になると思うが、炎の矢を飛ばすぐらいじゃないのか?』
『槍は使わせてくれないのか?』
『あれは使わせぬ。お前の生命力を全て吸い尽くすからな』
『え、、、やべぇじゃん』
『あぁ、この世界を秒で滅ぼせる槍じゃ。扱えるのは自分だけとわかっていても、かなり怖いもんじゃのぉ』
『えぇ、、、、』
でも、ちょっと使ってみたいと思ってしまう好奇心を俺は隠せなかった。
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