第1章〜9〜『ファースト十インプレッション』

『いい加減起きてください。本当に怒りますよ』


『・・・あ、頭が痛い』


『水でも飲んで徐々に体調を回復させてください』


朦朧とした俺の目の前には1人の男が立っていた。


来る前から心配していたことの一つとして、俺が使っている言語が通じるか少し疑問に思っていたが、心配ないようだ。


神父のような服を着た青年?


丸メガネなのにファッションセンスがある。

正直、ちゃんと着こなせていると思う。


髪型はおとなしめな感じで、少し長い襟足が気になるが、そういうファッションなんだろう。


それに右手には聖書のようなでかい本を持っている。


もう一冊は手帳か、それ以外の何かかな?


それに首に下げているのはみんなが知っているような十字架ではなくて、マルタ十字架に近い形をしている。


どうやら、異世界にも宗教が存在するのかもしれない。


『質問は俺からしたらいいのかな?』


『一歩間違えれば、精霊の大森林を焼き尽くしたかもしれない大罪人たちに質問する権利があると思いますか?』


『だよな・・・』


ここにきて初めてファンタジー要素満載の単語が出てきたのに素直にワクワク感を露わにできない。


俺の後ろで寝ているシヴァの野郎はムニャムニャと言いながら気持ちよさそうに寝ている。


俺はこの神父の目の前で正座をして反省することしかできない。


表を上げることは不可能だ。


できるのは床の鉄がなんで錆びついていないのかを考えることしかできない。


肩身が狭くなり続けていく中で、質問攻めされることを覚悟していた。


『あなたの名前をお聞かせください』


『アキラです』


『名字は?』


『神道です。神道アキラ・・・』


『神道アキラさんですか。変な名前ですね。異国の方ですか?』


奴は笑いながら質問を続ける。


『まぁ、そういうもんです』


『入国許可証は?』


『いや、持ってないです』


え、結構ガチじゃね?

難易度高過ぎん?

異世界にも、パスポートみたいなの必要なんですか?

海外も行った事もないし、むしろパスポートとかも作ったことがない。


『まぁ、宇宙からいきなり落ちてきたんでなさそうですね』


『はい』


『森林失火罪と不法入国罪は免れないですね』


『燃やした場所が場所なので、死刑が確定するかもしれません』


『え、あ、え、は、はい・・・』

え?この世界の神父は弁護士か、何かの仕事もこなされてるのですか?


親父、お袋、ロリ神様、俺の異世界の旅は始まって数日で終焉を迎えそうです。


『どこからきたんですか?』


『あ、はい、えーと、い、異世界です・・・』


『厨二病か、何かですか?』


『いや、そういうわけでは・・・』


え、地獄過ぎん?

え、この世界に厨二病って概念が存在してるのか?


『あの、僕本当に異世界から来たんですけど、この世界のことについて教えてくれませんか?』


『え、マジで言ってます?』


『はい・・・・』


『・・・・』


やばすぎるだろ、この空気、えぐいて。。。


『異世界からきて、大森林を燃やせるほどの炎の力を持つ子供を連れた青年———』


お、なんか、伝承か、何かですか?

勇者の伝承、もしくは伝説の英雄の伝承みたいな話があったりとか。


『世界に最悪の大厄災をもたらす四人の愚者たちのリーダーじゃないですか・・・・・』


『・・・・・・・・・』


え?


『・・・・・・・・・』


『・・・・・・・・・』


うん?え?


『・・・・・・・・・』


勇者とか、英雄じゃない?

え?

大厄災?

四人の愚者たち?

ふぁ?

くそ貶されてるやんけ。


『信じるわけないじゃないですか。ガチで今年1番の笑い話ですね』


信じてないと言われて、めちゃくちゃ笑われた。

いや、まだ好都合だ。

そういう伝承があることがわかっただけでも貴重な情報だ。

檻の中にいたら、外の情報を得るなんてできるわけがない。

この神父から色んな話を聞く方がいいと思う。


『その子供が炎を使っていたのはわかりますが、炎のギフテッドを持つ子ですか?かなりの火力だったようで』


『お、おれ、いや、私は近くで寝ていたので、何があったかわからないです。責任は全部こいつのせいでいいので、私をここから出してください』


責任を全て押し付けようとした瞬間、シヴァがいきなり起きてきた。

予想はついていたが、真っ先に俺の顔面を殴ってきた。


『バカもの!責任をオイラに押し付けるなんて、なんて罰当たりな小僧なんじゃ!』


『暴れないでください。また、2人とも気絶されたら、困ります。。。』


『おい、神父のガキ!こいつがオイラの召喚者じゃ!こいつも道連れじゃ!』


『なんだと!このクソ神もどきが!!調子に乗りやがって!』


また殴り合いになったが、さっきみたいに痛くはない。


むしろ、殴られている感覚がない。


徐々に拳を握れなくなったシヴァは弱気な声で言った。


『アキラ、オイラ、本気で力が出ない。何か食わせてくれ』


『2人とも本当に落ち着いてください!今お二人の刑罰は審議中ですから、牢の中で下手なことしたら、本当に死刑になってしまいますよ!』


『え?』


シヴァが先に反応した。


『あ?』


今なんて言った?審議中?


『精霊の森の精霊たちが無罪を主張しているのです。それで僕たちの村の司祭様と審議中とのことですから、まだ有罪が確定したかはわからない状態です』


『あ、左様でございますか』


『なんじゃ、やっぱわしは正しいことをしたのじゃな!アキラ!感謝せい!』


『あん?』


『なんじゃ?お主?またやるか?』


拳を握れなくなったシヴァを見て、ちょっかいを出したくなくなった。


『なぁ、神父様、何かこいつに食わせてやってくれないか?本当に力を使い果たしたみたいで、俺は腹減ってないから、こいつに食わせてやってくれ』


たぶん、アトラのじじぃの血が俺のお腹の中に残っているのかもしれない。

全然腹が減らない。


『じゃあ、この村1番の名物聖水ラーメンを持ってきますよ!少し待っててください』


聖水?ラーメン?

おい、それって本当に食べられるものなのか?それって、いわゆるあれなんじゃないんですか?


『なんでも食うわい、名物なのじゃろ?もってこい、もってこい、かまわん』


『少し待っててくださいね!』


『まて!お主、名前はなんというのじゃ。幼い神父よ』


『僕ですか?ジョセフです。ジョセフ・リリギウス・ヴァールハイトです。まだちゃんとした神父ではないですけどね。神父見習いってところです。すぐラーメン持ってくるんで待っててくださいね!』


そういって、ジョセフは走って行った。


『ほう、良い名ではないか。おい、アキラ、まずは奴を仲間にするぞ』


『あ?ってか、なんでお前が決めてるんだよ』


『オイラの第3の目を開眼せずとも分かる。あれは正義感の塊みたいな青年じゃ』


『第3の目?』


『あぁ、第3の目じゃ。色々と扱いに困るときもあるが、万能な目でな、欲望と宿命を見ることができる』


『へ〜』


『生意気な返事をする奴だな。まぁ良い、しかし、アキラよ。この世界に来て間もないが、お前はやらないといけないことがたくさんある。当分の目標はお主がわしの力を最大限に使えるようになるまで特訓せねばならないぞ?』


『そうだな。すっかりわすれてた。今1番にできないといけないのは。まず自己防衛するための術を知らないとな』


元の世界でも異国とかは治安が悪いところは悪いし、治安がいい国は物理的な脅威があまり存在しない国のことを指していた。


しかし、今回は異世界だ。


魔法だの、超すごい火力のミサイルとかあってもおかしくない。


よくよく考えてみたら、シヴァ神って超絶鬼強い神様じゃね?


破壊と再生を司る神だっけ?


あれですかね。異世界でチート能力使って無双する主人公の感覚に近いのかね?


檻の中にいるけど、今後やらないといけないことをいっぱい考えないとな。


まず旅とは何かを考えないといけない。


全てを明確にして、どんなやばい状況下に立たされても、突き進むための術を身につけないといけない。


『シヴァ様、あなた様のお力の使い方を教えてください』


俺はシヴァに期待の眼差しを向けた。

無邪気な子供のようにだ。


『先に言っておくが、あまり期待しない方がいい。使いこなせるまでお主は地獄で拷問を受けるよりも辛い経験をすると思うからな』


『え・・・?』


『うん?聞こえなかったのか?地獄よりも辛いと言ったのじゃ』


『・・・・チェンジで』


『はぁ?できるわけないじゃろう。諦めるのじゃな』


『・・・・チェンジで』


『まぁ、その人に1番適正と判断された力が与えられるから問題はないじゃろう』


『・・・・不幸すぎないか、俺』


運がいいのか、運が悪いのか、よくわからなくなってきた。


『持ってきましたよ!!』


ジョセフが聖水ラーメンとやらを持ってきたようだ。名前からして食欲があまりそそられないのはどうにかできないのかと問い掛けたい。


『おぉ!!やっと飯の時間か!はよぉよこせ!!』


空腹で死にそうなシヴァには食い物なら何でも良いのだろう。


『檻の中に食器を入れる手段がないので腕を檻から出して器用に食べてください』


おまけに不便すぎる。


シヴァがうつ伏せの状態で檻の外に両腕を伸ばし、箸を使いながら慎重に、そして器用にラーメンの麺を自分の口まで運んでいる。


一言で言うのであれば、これは哀れな光景だ。哀れとしか言えない。


『・・・・・、面白い味じゃのぉ』


シヴァは何かに気づいたような声で言った。


『まぁ、ここの名物料理ですからねぇ』


『ジョセフや、お前はこの聖水ラーメンが、いや、この聖水と呼ばれているものが何から作られているのか、ちゃんと理解しているのか?』


『え?どういうことですか?』


『シヴァ、説明してくれ』


『いやぁ、久しぶりに食ろうたわ。人間と精霊を』


シヴァの一言で、俺とジョセフがいるこの檻の中の世界と檻の外の世界を凍らせた。

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