第1章〜8〜『檻の手記』

人は単純な生き物である方だと思う。


環境が変われば、人生が良くなったと思うようにもなれるし、人生が悪化したと思うようにもなれる。


都合の良い幸せは環境を変えるだけで簡単に手に入るし、他人を不幸せにしたいのなら劣悪な環境に誘い込めばいいだけだ。


本当は都合のいいように世界を解釈したいし、都合のいいように他人を利用したり、他人を迫害したり、自分の醜い欲望を都合のいい倫理観に包めて他人にぶつけたりするものだ。

正しさを強制したり、他人を利用したり、他人の欠点を、弱点を露わにさせたり、ネガティブな思考回路は腐るほどある。


人間は争うために生まれてきたと思えてしまうほどに欲望の押し付け合いは邪悪だ。


自分という存在が脅かされる恐怖を味わいたくないから、他人に優しくするように善人を演じる人もいる。

誰も見ていなければ、見て見ぬふりを良しとし、誰にも優しくはしないものだ。


仕事が辛いなら、ある程度お金を頑張って貯めて、転職すればいい。

それも、ちゃんとしたホワイト企業をあらかじめ調べてからだ。

人間関係で悩んでいるなら、悩みの種である奴と関係を切ればいい。

基本的な悩みは行動を一つ起こすことで解決することが多い。


しかし、行動を起こさない人が大半だ。


機会がないから変化を起こしたくない?

世渡りが上手くないから変化を起こしたくない?


色んな人に悩みを聞いてもらったり、色んな人に相談するが、本当は悩みの回答なんて、元々わかっていたのではないか?


ただ、後押ししてもらうために、色んな人を巻き込んで話すが、それでも、行動を起こさないのは傲慢だとは思わないか?


他人の善意を否定し、自分の傲慢な回答を共感されたり、理解してもらうまで、後押ししてもらうまで他人の時間を殺し続けるのだ。


しかし、今は別にそんな話はどうでもいいと正直思っている。


なぜなら、今檻の中にぶち込まれているからだ。


え・・・?なんでだ?なぜこうなってしまった?


状況を整理しろ。


———. 落ち着くんだ。


俺は高校を退学させられ、朽ち果てた教会にいたじじぃの血を飲んだことで宇宙の最果てまで飛ばされた。

そこで、始祖の創造主と変な案内者と出会い、長年の悩みを消してもらった。

そんで、俺の頼みで死んだ両親と再開し、別れを告げてから異世界に飛ばされた。


そう、全ては人類と創造主を救済するという願いを叶えるためだ。

と思えた途端、自分は今まで何者にもなれなかったが、当分の間、死に場を探すよりも有意義な生き方ができると思った。

だから、お礼に俺はあいつらの願いを叶えることに決めた。


それなのに、なぜ、異世界に飛ばされてきた途端、速攻で罪人扱いされ、俺は今檻の中にいるんだ?


え?なんで?ふぁ?不幸体質なのは消えてない感じなん?


起きてまだ間もないが、早朝の輝かしい日の出が俺の目を貫くかのように神々しく感じる。

状況がやばすぎて、ほのぼのとした気持ちなのに鉄格子を見た途端現実に戻されてしまう。


え?俺、詰んだ?ってか、あんなに自信満々でいってきますって親に言っておいて、気づいたら、檻の中にぶち込まれてるって、なんかのドッキリですか?

案内者のやつのせいに違いはないと思ってしまう。

あいつの意地の悪さはこれぐらいやりそうだ。


おい、異世界系のアニメとか、お伽話のような映画でも、転移した瞬間罪人になる展開なんて滅多にないはずだ。


え?ってか、俺現実世界だったら、前科持ちと変わらないことになるのでは?


え?俺異世界にきたら、罪人扱いされるって、かなり不幸じゃないん?なんで?


『おい!さっきから、太陽なんか見てないで、オイラの話を聞けよ!』


『誰だよ。お前は』


『ふふふ、天上天下唯我独尊!!オイラはシヴァ様だ!平伏すが良い!!人間!!ガハハハハハハ』


『・・・・・・・・・?』


青い肌と赤い目、蛇の形をしたようなスカーフみたいな布を首に巻き、ジャラジャラと陽キャのような真珠のネックレスをたくさんかけている。あと、ひたいには少し割れ目があるが、あれはなんだ?

それよりも、何よりも先に鼻についたのは、こいつはチビだということだ。俺の足ぐらいの身長しかないチビだ。


・・・・・それが神様?

笑わせてくれたもんだな。

神様ってのはみんなちっこいのか?


『お主がわしの初めての契約者ということだ。しかし、地上に降りてくるのは久しぶりじゃのぉ〜。異世界だけども、大いに結構!』


『おい、待て、お前みたいなチビが俺の加護なのか?』


『チビゆうな!アホんだら!!ぶっ殺すぞ!!』


急に奴は俺のおでこにゲンコツをかましてきやがった。めちゃくちゃ痛い。檻も鉄、床も鉄、こいつのゲンコツも鉄なのではないか?

俺は何回ももがきがなら転がりまわった。


『神をもっと敬え、讃えろ、そして絶賛するのじゃ。人間』


『ってえ〜・・・何すんだよ。てめぇ!!』


俺はやつの顎に殴りかかった。チビでも容赦はない。

俺はぶん殴ってきたら、ぶん殴り返すだけだ。今まで通りに———。

と思いながらも、もう一度、悶絶しながら、床を転がりまわった。

拳が割れそうなほどの痛みに襲われた。

真っ二つに割れるかと思うほどにだ。


『哀れじゃのぉ〜人間。オイラに拳を喰らわせるなんて、尻が青いガキじゃのぉ〜』


『すいません。。』


『それで良いのじゃ。生贄を祭壇に権上する資格を与えよう』


『承知いたしました。シヴァ様、何をお求めでしょうか!』


『肉じゃ!!!!肉が食べたい!!!!!!わしは肉がいいのじゃ!!!!!』


こんな檻の中で食えるわけねぇだろ。

外を見回すと少し人口が多そうな村のど真ん中に俺たちはいる。

普通は噴水とかを真ん中に置くもんだと思うのに、受刑者が逃げないように高い位置に檻を設置しているようだ。

逃げられないようにするためなのか、ずっと監視できるようにか、それとも晒し上げにされて屈辱を与えられているのかは知らん。


『じゃあ、肉を食いたいんなら、まずはここから出してくださいよ』


『無理じゃ、お主を守るために力を全部使ったでのぉ〜。3日ぐらい何もできんぞ』


『え?どういうことですか?』


え?このチビに俺は守られたのか?こりゃあ、本当に天上天下のシヴァ様なのでは。。?


『うむ、どうやったのかは知らんが、到着時に何者かにお主は眠らされてしまったのじゃ。着地点に昏睡状態だったお前を森の獣たちから守ってあげてたのじゃ』


『なるほど・・・。飛んだ失態を犯しましたシヴァ様。すいません』


『うぬ、分かれば良いのじゃ』


『それで、なんで俺たちはここに閉じ込められているのですか?』


『おう!それはのぉ、久しぶりの初陣じゃからさぁ〜?気合いが入りすぎて、着地点の周辺を焼け野原にしてしまったからじゃと思う』


『てめぇのせいじゃねぇか!!!』


シヴァをありったけの力で殴りかかった。


『なんじゃ!人間!さっきの敬いの心はどうした!!』 


檻が揺れるほど、殴り合った。こんな無邪気に殴りかかったのは久しぶりだ。切ない気持ちを押さえながらも、すこし楽しいと感じた。本気でぶん殴りあったのはいつ以来だろう——-。


あいつと一緒に旅がしたかったなぁ———-。


『人間の・・くせにやるじゃない・・・。この姿で・・はなかったら、お主・なん・て秒で・・灰にさせられるの・・に』


『無い物ねだりはやめましょうぜ。もっとちっちゃく見えちゃいますよ』


『なんじゃ・・と・・・。クソガキが・・・。お主・・・・名・前は・アキラ・・で合ってる・・か?』


『そう・・ですよ』


シヴァから返答がない。


あっちはもう気絶したようだ。


あの鉄のように硬い体に拳をぶち込みまくったら、意外にもダメージはあったようだなと笑った。


初めて神とまともにやり合えたのかな?

あっちが先に気絶したってことは俺の勝ちでいいってことか?


『へへ。やるせねぇ気持ちだな・・・あぁ、また意識が遠のいて・・いく・・・』


最後に檻の外にいた奴が呟いている声が聞こえた。神父のコスプレ——-?


『僕は一体何を見せられていたんですか。マジで』


そして、また目の前が真っ暗になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る