第1章〜7〜『奇跡の旅立ち② 』
人生の中で1番自分たちが本当の意味で家族だと思える瞬間は限られている。
子供が生まれた時と家族の誰かが死ぬ時だ。
生まれた子供にとっては家族だと思えるタイミングは家族の誰かが死ぬ時か、新しい家族を築きあげ、新しい生命を授かったときだ。
日々過ごしていても、家族といる時間で幸せと思えるような場面は少ない。むしろ、不安要素が溜まることしかないだろう。
靴下を少し脱いで置いておくようなくだらないことで喧嘩をしたり、取り返しのできない失態を起こしたことによって家族が崩壊することもあるだろう。
テレビで見るような理想的な住居、理想的な家族が、この世にどれぐらいいるというのだ。
現実には毒親に人生を翻弄される子供がいたり、親ガチャといい理不尽に抗おうとも、努力しようともしない子供もいたり、理想の子供、理想の親を演じるさせるように仕向けたりする社会だ。
大半そんなことで議論になったり、簡単な理由で家族崩壊を起こせるのは平和な国だけなのかもしれない。
親が死んだ日のことを思い出しながら、俺はこの創造主がいる空間から出口まで向かっていた。
外の世界から断絶された死が蔓延する病室の空気は喰らうことができる邪悪だ。
親父が死んだときはお袋が一日中泣いていた。
死を理解することができないぐらい小さかった俺は泣いているお袋を見て泣いていた。
お袋が死んだ日、俺は死んだお袋を見て泣いていた。
死は理不尽までに強制的に全てを無に返す。
どれだけ自分の手で冷たくなってしまったお袋の手を温めようとしても、温かった手も深淵の中の氷のように冷たくなり、谷底に話しかけても、帰ってくるのは自分の苦しい叫びだけだ。
親がどれだけクズな毒親でも、みんなが生まれたときは愛と祝福に満ちていたはずだ。
幸せに満ちていた家族も親も子も死んでしまったら、もう話しかけても返答は永遠に返って来ない。
しかし、俺はどんな顔で親と再開したらいいんだ。
高校を退学させられ、挙げ句の果てに死ぬ場所を探し回ったり、今はそんな現実と決別し、俺は異世界に行くというのだ。
急にこんなことになって平然を装っているのに、心では不安だらけなのに変わりはない。
おとぎ話の世界に飛び込むような感覚を初めて体験する。
故に、未知に対する不安が肩を押さえつけているようだ。
今向かうところがどんなところかはしらない。
治安がすごく悪くて、人殺しが簡単に行わられる世界なのかもしれない。
しかし、そこに俺が生きてきた理由があると信じたい。
『よぉ、アキラ。大きくなったな』
親父が笑顔で俺に話しかけてきた。
この魂は本当に親父の姿をしていた。
正直、まだ本当なのかはわからない。
本当に俺の親父なのか。
『背が高くなったね。アキラ、ちゃんとご飯食べてたの?』
お袋が心配しながら、優しく抱きしめてきた。
この魂が本当にお袋なのか半信半疑だ。
でも、このお袋は本物だ。
『昔の俺みてぇだな。えらいモテてただろ』
親父が頭を撫でてきた。このでかい手、ガサガサした手の感触は本物だ。
『そんな髪の毛を金色に染めたり、イヤーカフ付けちゃって、おしゃれなのに高校の制服着てるから不良みたいよ。あと、男の子はイヤーカフは右じゃなくて左につけるの』
そう言って、お袋はじっくり俺の変わった姿を見ながら言った。魂のはずなのに、もう触れられないと思ってたのに、お袋はイヤーカフを右から左に付け直してくれた。
触れられるのに、感覚はあるのに、温もりは肌から感じられない。でも、2人の言葉と表情から温かいと感じられた。
再開する前から、胸のざわめきが止まらなかった。
正直、幻影でもいいから会いたいと願っていたが、本当に本物の親と再開できた。
上を向いて泣いていることを誤魔化したいのに熱い涙がほほを伝い、首を伝っていく。
自分の涙から温もりを感じることしかできない。
『ごめん。親父、お袋、俺高校追い出されちゃったよ・・・俺おじさんを傷つけてしまったんだ。親父とお袋と親友を殺したのは俺の死の烙印っていう呪いみたいなのが原因らしい・・・俺の、俺の、俺のせいでみんな殺しちゃったんだ』
俺のせいで2人が死んだ。その現実は変わらない。でも、泣いている俺を撫でながら言ってくれた言葉は永遠に忘れない。
『アキラが生きてくれるなら、それ以外に何もいらないよ』
お袋が言ってくれた。
『好きに生きろ。生きてればもっと悩むこともあるだろう。でも、泣きながらでもいいから、前を向いて歩けよ。アキラ』
親父が言ってくれた。
『今から異世界にいってきます。何回生まれ変わっても幸せでいてください。俺はずっと2人のことを忘れません』
ずっと言いたかったことをやっと言えた。ガキみたいに泣きまくりながら、俺は言いたかったことを言えたんだ。悔いはない。
『敬語使うなよ。らしくないぞ。いってらっしゃい。いい冒険にしてこいよ』
『元気でね。いってらっしゃい、アキラ。私たちはずっとあなたを愛してるわ』
2人は俺の背中を押してくれた。もう、2度と会えないかもしれないが、後悔はない。
でも、叶うならどんな形でもいい。
俺は何回でも会いたいと思う。
『もう、心残りはありませんね。アキラ様』
案内人が最後の質問に対して一切の迷いはなかった。
『あぁ、俺を飛ばしてくれ』
『あなたの旅路が祝福で満たされますように』
『まかせろって』
俺は涙を拭って、最後に笑顔を見せてやった。
刹那、眩しい閃光が瞬く間に俺を包み込み、現実の輪郭はゆがみ、崩れ去る。
まるで夢幻の扉が開かれ、俺は次元の狭間に引き寄せられるような感覚に襲われた。
空気は異質な静寂で満たされ、足元の地は安定感を喪失し、まるで重力そのものが変容したかのようだった。
そして、俺は何かにひっぱられたかのように宇宙空間を移動していた。無数の星々を通り過ぎていく。変な星の横も通り過ぎた。
俺は息をした方がいいのか?
いや、そんなのどうでもいい。
高速で移動していることはすぐにわかった。俺の目の前に広がる風景は、星々の輝きだ。
地球で見るよりも、眩しいような。美しいような。
まるで時間と空間の枠を越え、夢と現実が交錯した舞台まで案内されているようだ。
目の前の星に向かって徐々にスピードが落ちたようだ。
どうやら、この大きな星に転移するらしい。
インターネットで見た地球の写真とほぼ変わらないが、青い宝石と例えられる理由がわかった。
このような美しい星に生命が誕生したことは誰が見ても奇跡にしか思えないだろう。
だが、美しい星を舞台に森羅万象は永遠に終わらない争いを繰り返していた。故にロリ神は恐れたのだろう。
宇宙から見る輝く星を見ながら、創造主の苦労が身に沁みてくる。
徐々に移動速度を落としながら急降下していく、どうやらこの世界で確定したのだろう。
————落ちる。風を感じる。———-落ちる。
————-落ちる。大地が見える。
—————-落ちる。酸素を喰らう。 ———-落ちる。大気の温もりに抱かれる 。
———-落ちる。夜を知る。
———落ちる。 そして、落ちる。
星の輝きが徐々に霞始め、地上の明かりが俺の体を照らし始めた。
+. +.
◻︎オルティウム大陸・セレステリア国:妖精の大森林周辺・シルバーヘイヴン村
『綺麗〜!ママ!赤いお星様だよ!』
『本当に赤い。なんなのかしら?大森林の奥の方に落ちてきてるっぽいわね』
『お願いしよ!お願い!!早く大人になれますように!』
『可愛いお願い事ねぇ、すぐに叶うわよ』
『明日、神父様と見てくるよ』
『パパ!!抱っこ!!』
『おぉ!!ヨシヨシいい子だ!!』
+. +.
◻︎シャドウオアシス首長連邦:?X?の部屋
『私が1番求めていた存在が到着したころね。この目で見に行きたいけど、でも、明日からワールドツアーだしなぁ。。。』
『?X?の好きなようにしたらいいと思いますよ』
『わかった!本当にすきぴ最高!!でも、新しい子がきたから、あなたはもう要らないわ。とっとと死んでちょうだい〜』
『今までありがとうございました。幸せでした。あなたの血肉になれるのなら本望です』
+. +.
◻︎ エクリプトニア合衆国:合衆国軍本部
『楽園帝国周辺の大森林に赤い物体が宇宙から急降落下しているとのことです。いかがいたしましょう』
『あの帝国と関わるとろくなことがない。できれば、無視したいところだが、送り込んだスパイに見に行かせろ』
『利用価値があるなら、直ちに合衆国に持ち帰らせるのようにしなさい』
『承知いたしました』
『帝国は何かを企んでいるのか?それとも、我ら共にあの帝国を滅ぼしてくれるか。全てを滅ぼすのか。運命に委ねるとするかな』
+. +.
◻︎ オルティウム大陸・セレステリア国内・楽園帝国領土:王座の間
『観測解析結果報告いたします。赤い物体が妖精の大森林周辺に急降下中、拡大映像から解析結果出力、人間です』
『なんで、お前がここに・・・なんでお前が、あの忌々しい神の力を秘めながら急に現れたんだ?』
『擬似術式アルゴリズム起動・理論形成終了・虚構詠唱開始・コード:神殺し』
『少しあいつを眠らせてやってくれ。まずは久しぶりにいたずらしてやろうかな』
『擬似術式展開、標的を眠らせます。グッドラック』
『お前が思っているほど、この世界は甘くないぞ。アキラ』
+. +.
◻︎セレスティア国・妖精の大森林上空
なんか、空に浮いてる神殿とかも見えるぞ。
真下はでかい森だと思うけど、すごくたくさんの光が少しずつ動いているように見える。
結構遠いかもしれないけど、向こうにめちゃくちゃ明るい都市が見えた。近未来的な都市なのかもしれない。
そして、俺は今自分が見えている光景をまとめ、自分の心に言い聞かせた。
——-これが異世界の景色。
——-これが冒険の始まり。
——-これが黙示録の祝福。
——-これが救済への願い。
——-これが希望の開幕。
——-これが絶望の産声。
——-これが生きてる高揚感。
『なんでもかかってこい!!!俺が全部救ってやる!!!』
ってか、これどうやって着地するんだ?
刹那、急に俺の視界は真っ暗になった———-。意識を保とうとはしたが、抗うことはできず、意識は徐々に遠のいていった。
でも、魂から炎の灯火が芽吹いたことだけ、体は鮮明に覚えている。
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