第1章〜6〜『奇跡の旅立ち①』
神の加護とは何だ?
奇跡みたいなものか?
水をワインに変えたり?
食料を増殖させたり?
目を見えるようにしたり?
案内者みたいに死者を蘇らせたり?
海の上を歩いたり?
それとも、もっと現代的な奇跡ってやつですか?
ワクチンとか、ペニシリンの開発に成功したことか?
月面に立ったことか?
生存確率1%の難病が治ったことか?
大規模な自然災害から生還したことか?
人間として生まれてくる確率のことか?
『あなたからの加護なら、受け入れます』
少し惚れてくれるかなと期待した。
ってか、このロリ神様は全生き物を愛しているとして、1人の人間を愛することができるのか?
ってか、待て、俺はなんでこんなことを考えてしまっているんだ??
俺はこのロリ神様に惚れてしまったのか??
ちょ、ちょっと、明後日の方向を向かせてくれ。。なんか、恥ずかしくなってきた。。。
『・・・・・・?』
何だ、この幼女は、いや、ただ俺には幼女に見えているだけか。複雑な気持ちしかない。
このロリ神幼女様は俺の顔を覗き込むかのように見てくる。そんな純情な顔をされても困るし、それは計算されたあざとさだと思わせてくれ。どうしたらいいか、わからなくなってしまう。
今まで知らなかったが、俺はそういう類のやつだったのかもしれないと、自分自身が怖い。でも、それでも、この方は俺の死の烙印を、俺がずっと不幸だと思い込んでいた呪いのようなものを消してくれた恩人じゃないかと脳裏にちらつく。
複雑な感情が俺の脳を破壊しようとしている。
言葉も、思考も、凍りついてしまった。
心臓が恋愛しているかのようにあったかいのに、何かに掴まれているかのように痛い。
複雑な心情はこんなに脳と心臓を圧迫するのか。
ナヨナヨとしている俺にロリ神は人差しを俺の心臓に向けてきた。
『わ たし に 少 し 触 れ てく ださい』
『こ、こうか?』
俺はこの小さい指に自分の人差し指を当てた。まるで、いつか見た大きな絵画のようだ。
少し触れた途端、複雑な気持ちで胸を締め付けられていた俺の心臓に、本当の意味で何かが掴むような感覚がした。
案内者に脳と心臓を貫かれた感覚が、まだ残っているというのに、またこいつらに心臓を弄ばれているような気がする。
『っぐぁあ!』
痛くはないのに、心臓がきつい。
そして後ろから心臓のど真ん中を目掛けて何かを植え付けられているような気がする。
そして、その瞬間、心臓が炎の渦に包まれ、情熱に掴まれたかのように激しく鼓動を打ち始めた。しかし、何故か心臓を燃やされているのに心が和む。
変な感覚だが、悪くない。
鼓動が徐々に治ってきたころ、背中に違和感を感じ始めた。何か少しかゆい気がする。
『どうですか?神々の加護を授かった感想は』
『なんか、ここにきてからずっと変な感覚にしか襲われていない気がする』
『まぁ、神々の加護というのは、あなたのように異世界に向かうシーカーと力を与える眷族にしか与えられませんからね。そのためにアトラ様はあなたに自分の血を飲ませたのですから』
『シーカー?』
『えぇ、我々は異世界を探求する方をシーカー(探求者)と呼称しております』
『ふーん』
『ってことは、俺はアトラのじじぃの眷族ってことか?』
『いや、あの人はまた特殊なので違いますよ』
特殊なことが多すぎるな。
でも、シーカー。なんか、かっこいい響きだなと思ってしまった。
男の子であれば、みんなが抱くであろう厨二心というやつだ。
というより、じじぃの血に、そんな力があったことも驚きだ。
『じじぃの血を飲むと神々の加護をいただけるわけだな』
『えぇ、生身でしたら、見る影もなく体が爆散していたと思います』
怖いことをいうなぁ。爆散だけは死んでもごめんだね。
『ところで、俺は何の神の力を得たんだ?』
『まだ、加護が体に馴染むまで時間がかかります。加護とはいい、プログラム的なものに近いですので、同期作業中のような状態ですね。異世界に到着後に力が解明されると思いますよ』
『ふーん、異世界に行くってことはめっちゃ便利で強い力なんだろ?』
少しばかり軽いウォーミングを行いながら、体の筋を伸ばし、力が全体に馴染むように体操を行った。
『うーん、使い方によるとは思いますが、使いこなせるかはあなた次第とだけ言っておきます』
『まぁ、ぼちぼち訓練でも、、、あ、いや、修行をしないといけないわけだな』
『あと、新米のシーカーなのですから、眷属を増やされてはどうですか?最大3人まで付与できます』
神々の加護を授かったことは体に伝わったが、それ以外で体の変化はあまり感じられない。
本当にシーカーの能力とやらは、俺に備わったのか?
『眷属を増やす?なんでそんなことしなければならないんだ?』
『仲間と冒険してみてはどうですか?その方が祝福で溢れる良い旅になると思いますよ?』
『仲間ねぇ、、、』
他人と長く関わることにやはりまだ抵抗がある。
死の烙印が解除されたかは体感できていない点もあるが、仲間という響きに少し不安を抱いている。
あまり他人を信用できないという考え方が、まだ頭の片隅にあるのだろう。
誰にも迷惑をかけず、1人で旅をしようと思った。
『まぁ、いいや。異世界に行く前に一つ頼みがある』
『頼みですか?
俺の願いは一つだ。
『旅に出る前に親に会いたい。会わせてくれ』
俺は親に何も言えてない。それだけがずっと心残りであった。
『えぇ、構いませんよ。体は無理ですけど、霊体化した魂と会わせることはできます。祝福に満ちた旅を迎えられるように、その願いを叶えましょう』
いいところもある奴じゃねぇか。
俺はどういう因果か、ロリ神の儚い理想を叶える旅に出た。
『始祖の創造主、俺はあんたの願いを叶える。ここで待ってな』
『いっ て らっ しゃい。英雄様』
『またな。また巡り合おう』
『では、行きましょうか』
ロリ神は少し微笑んだように思えた。
ロリ神を持っていくことはできないのか?
持って行きたくてしょうがないという気持ちではあった。
この始祖の創造主がいる場所から出た瞬間、俺は神を恨んでいたことをすでに脳の記憶と感情を司る機関から削除されていたかのように、とてつもなく気が晴れた気分になった。
神様は、いい奴すぎた。儚すぎた。独りよがりの恨みは単なる愚行だと思ってしまった。
世界に生きるすべての人間に言いたい。
神を恨むな。あの尊い存在は、あの健気な存在は誰よりも俺たちを愛しているのだ。愛がないのは、俺たち人間だけであった。
幸せになれる愛を欲するのであれば、恥のない人生を歩め。
そうするだけで、少しでも他人に優しくできるかもしれない。他人に優しくしようと思えるかもしれない。
余裕がない人生にも、温かい色彩に包み込まれるかもしれない。
とてつもなく、途方であり、無謀な気がするが、俺が人類みんなを救う方法を見つけるまで人生を耐え抜いてくれと心の奥底で思った。
そして、俺は案内者と共に、両親が待つこの時空の出口へと誘われた。
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