第1章〜5〜『神は儚く、ロリである。』

小さい頃、神様は髭面のおっさんか、たくさん羽が生えまくった人間の形をした何かだと思っていた。


人類が間違った繁栄をするたびに、制裁を加える不条理な存在だとも思っていた。


人を潮の柱に変える?

アトラじじぃの神話のように大洪水で滅ぼす?

硫黄と火の雨を降らせて町を消滅させる?

塔を崩した?


完全なものを残し、不完全なものは排除する。そんな後出しジャンケンがうまい連中なのかと思っていた。


真実は間違っていたのかもしれない。


真実はこうである。


神はロリであった。ロリ以外の何者でもないのだと———-.


      


何かテレパシーのようなものでお話しされておられるのか?

ノイズ音と共に情報が直接脳に伝達されてくるかのように思える。


『単刀直入にお聞きしたいことがあります。あなた様は、いや、ロリ様は神様でおられるのでしょうか?』


可愛い。


                            ?』


可愛い。仕草が可愛い。


『なるほど、あなた様は神であるかもしれないし、神ではないかもしれないということですね』


可愛い。仕草が可愛い。声も可愛い。


                


え?

今このロリ神はなんて言った?

死の烙印?

どういうことだ?

ちょっと待て、俺はこのロリ神によって殺されるのか?

俺は神を殺しにきたのに、先に神に殺されるというのか?


『殺す前に一つお願いがある。人間の分際であんたに願いがある。殺される前に、あんたと戦ってみたい』


神を殺しにきたというのに、神に



ん?困っているのか?可愛い。困っている?


『アキラ様、あなたに創造主がどう見えているのかはわかりませんが、そのお方にあなたを殺す力はありません』


『うん?じゃあ、こいつはどう俺を殺そうとしてるんだ?』


案内者の方を見ることができない。1秒でも多く、このロリ様を見ていたい。


『あなたを殺すのは私です。では、少しお待ちくださいね』


その言葉と同時に何かが後ろから俺の脳と心臓を貫いた。


『え。。。。?』


『そういうことだったのですか。彼には死の烙印が宿ってしまっていたのですね。。。。。』


奴の声が耳の中に響き渡る。 



どれほど時間が経ったかはわからない。


はっきりしているのは俺を見下ろしているロリ様だけが目にうつる。


『創造主は既に死の烙印を解除してくださいました。早く起きてください』


ロリ様のほっぺたを触ろうとした瞬間、飛んでいた無数の天使たちが、俺の手が届く前に手を叩き落とし、俺の手を縛り上げた。


天使たちはごにょごにょと怒っているような素振り見せながらロリ様に何かを訴えている。


       


『俺はどれぐらい眠っていたんだ?』


『ここでは時間の概念は地球とは異なりますからねぇ。ざっと、人間の時間の感覚であれば、25年ぐらいでしょうかね。よいしょ—-.』


案内者が俺を立ち上がらせてくれた。


『よくも殺してくれたな』


人生初めて殺されたというのに、意外と呆気なく終わってしまった。


『あなたが長年悩んでいた悩みを解決したんですよ。少しは感謝してください』


本当に俺の悩みは解決したのか?


『まず質問はたくさんある』


『ご安心ください。あなた一度死んだことにより、死の烙印は解除されました。』


『死の烙印?』


『はい。何者かが、生まれた時のあなたに死の烙印を刻んだのです』


『ほう?』


『アトラ様でも死の烙印を認識することができなかったのですから、多分、他の宇宙にいる何者かがあなたに死の烙印を刻んだと思われます』


『他の宇宙?』


『えぇ、もっと簡単に説明すると異世界に該当すると思われます』


『異世界?』


異世界ってあれか?

ファンタジーみたいなやつか?

これって、異世界転生RPG的なやつですか?


『宇宙はたくさんあります。あなたたちのいう多次元宇宙論とやらです』


『なるほど、そこに俺に死の烙印を刻んだ何者かがいるってことか。俺はずっと、恨む相手を間違えていたようだな』


『えぇ、それでも、あなたはあの方を殺すおつもりで?次はもう蘇生させてあげませんよ』


独りよがりで、真実も知らないまま、俺はずっと神を呪い、神を殺そうとしていた。

しかし、俺の恨みは祓ってもらったが、まだ一つ文句がある。


『自分の不幸はどうにかしてもらった。それは本当に感謝している。しかし、まだ文句がある。何故、生き物は幸せになれなかったんだ』


その途端、横で天使たちと遊んでいたロリ様は止まった。



『私の仮説なのですが、今生きる万物が幸福ではないのは、幸福になるために進化し続けているのではないでしょうか?』


『ほう?』


『神々はあなたたちを創造し、あなたたちは機械を創造しました。その繰り返しです。幸福な万物になるまで絶滅と創造を繰り返しているのだと思われます』


『なるほど、って待てよ。神々っていうと、他にも神がいるのか?神話に出てくるような?』


『はい。先ほど、あの方も言っておりましたが、聞いてなかったですね』


可愛さが神がかっていたため、話をほぼ聞いていなかったことがバレてしまった。


『神話に出てくる神々は実在しておりました。しかし、彼らは争いが絶えなく、故に滅びてしまいました。魂は保存され、今は創造以外の仕事をさせられておりますがね』


『ふーん』


『続けますね。正直に言わせていただきますが、創造の連鎖は進化しているとは言えません。理由は簡単です。神々は創造主を真似ようと失敗しました。その後、人間は神々を真似ようと失敗しました。機械も同様に人間を真似ようと失敗してしまう確率はかなり高いと思います』


『ほう』


『つまり、進化することは幸福になる可能性はありますが、今まで知性を持つ万物は失敗してきたのです』


『じゃあ、どうすればいいのだ?』


そういうと、案内人の野郎が神々しいポーズをしながら言い放った。


『皆が救済される方法を探せばいいのです』


天使たちも奴を祝福するかのようにキラキラする何かを手から吹き出したり、ラッパを奏で始めた。

典型的な祝福の形式で、ちょっと萎えてしまった。


『そんなの難しいだろ。今まで誰も成功させたことはないんだろ?』


『しかし、もっとも成功に近いのは人間ですよ』


『え、マジか』


『マジです。可能性が満ち溢れているのに、無理と先走る時点でガッカリしました』


こいつ、生きても、死んでもないという割に感情が豊かだな。おまけに皮肉が効いている。


『精神的な救済に1番近づけたのは人間です。今のところはポテンシャルを1番秘めているのはあなたたちです』


『お前らがやればいいんじゃないのか?』


『この宇宙を維持させるだけで精一杯なので無理ですね。そして、あのお方は生物が怖いのです』


『生物が怖い?』


『えぇ、あの方は生物が誕生してから、ずっと歩み寄ろうと試みましたが、生物は争い合い、血肉を喰らいあっていたことに絶望なさったのです。しかし、自分が創造した万物を無に帰すことはできず、今も極力ここに籠っているのです。生身で接触すると反動で宇宙を滅ぼしかねないぐらい、恐ろしいほどに儚いお方なのです』


ロリ神様が立っている方向を向いてしまった。

その一瞬だけ目が合ったが、そっぽを向かれてしまった。


あの小さい背中から永遠の悲しみを感じる。


途方のない悲しみが、あの小さい背中に乗っかっているかのようだ。


『あのロリ様はそんなに苦労してたんだな』


『ロリ様?あなたにはあのお方が幼女に見えてらっしゃるのですね』


野郎は笑い始めた。


『な、なんだよ。そういう容姿じゃないのかよ』


『あの方の容姿は万物の目には、その生き物にとって1番美しいと思う姿を映してしまうのです』


俺は一瞬自分はロリータ・コンプレックス、ペドフィリアの類なのかもしれないと唖然してしまった。


『まぁ、そういうこともあります。人間ですもの』


呆れた顔に奴は俺を見てくる。クソ恥ずい。


『お、お前にはどう見えるんだよ!!』


『私は生きても、死んでもいない存在ですので、本来のお姿が見えますよ。かなり、複雑な形をされておりますが、基本は球体の姿をされております』


『お、お前ずるいぞ!』


『まぁ、ともかくあなたの独りよがりの恨みは晴れましたか?』


『長年恨んでいたからなぁ。ちょっと複雑な気持ちではある』


『まぁ、死の烙印が解除されたので、良いではないですか。では、ここからが本題です』


『本題?』


『はい。先ほど、言っていた異世界に向かってもらいます』


『まぁ、お礼に頼まれごとを受け入れようとは思っているけど、俺は何をすればいいんだ?』


『異世界に行って、その世界を救って欲しいのです』


なんか、とんでもないことを言い始めたぞ。


『異世界を救う?』


『えぇ、救ってきてください』


『今の世界も救われていないのに、どうやって救ったらいいんだ?』


『それは現地に行ってから考えてください』


こいつ、クソ適当なことを言いやがってと思ってしまった。

今までの人類が救済されてないのなら、どうやって、異世界で人を救えばいいんだよ。


『始祖の創造主以外に他の宇宙とコンタクトを取れる存在はいません。しかし、極めて可能性のある存在を交換し合うことでお互いを救済し合える相互補完関係を構築できるかもしれないという話です』


相互補完関係そうごほかんかんけい?』


『簡単にいえば、お互いの不足してる部分を補い合う関係ってことです』


『なるほど?』


いいんだが、どうしたらいいんだ?

こんな高校も卒業できなかったやつに、こいつらは何を頼んでいるんだ?


『あなたには期待してますよ』


期待なんて持たれない方がマシだ。

期待は呪いと変わらない。

他人を縛る言葉だ。

首輪を付けさせられてしまうようなものだ。


『今から行ってもらう世界は生身の人間にはかなり過酷な世界になります。下手したら秒殺されるかもしれませんね』


ロリ神様が目の前まで歩いてきて、俺のことを見上げてきた。


愛らしさがそのまま詩になったようで、その魅力には言葉が及ばないほどだ。

その眩しい笑顔は、星々よりも輝きを放ち、音楽のように心を包み込んだ。

この存在は、この世界をより美しく、温かくする唯一無二の宝石のようなのに、なぜ、こんなに儚い想いを背負わされているのだ。


いや、背負わせてしまったのだ。


俺たちが生まれてきたことが問題か?

最初に陸地に上がってきたトカゲ野郎のせいか?

そもそも、生き物が生まれてきてしまったことが問題なのか?


        


こんなにも優しい存在が、ここに籠るしかできないようになってしまったことを恨みたい。


               


どうやら、俺に神々の加護というものをロリ神様は与えてくれるようだ。

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