第1章〜4〜『英雄の魂と最初の神』

頭のおかしい老人?


英雄の生まれ変わり?


真実?


聖杯?


神?


何の話だ???何が何だかわからない。。。


俺はただ死地を探しにきただけなのに、俺は何と遭遇し、どういう状況下に立たされていて、今後どうなるのかも想像がつかない。


これは何かの冗談だ。冗談であってくれ。

もし本当に英雄の生まれ変わりというのであれば、もっと理想なヒーローのような人生を送らせてくれよ。

誰かを助けて、誰かに夢と希望を与えられるような人生を歩ませてくれてもよかったはずだ。


悲劇的な出来事があったからこそ、ヒーローはより強くなったり、理不尽に立ち向かい、敵と戦うのが英雄というやつらであれば、俺じゃない誰かでよかったはずだ。


『なんで俺なんだ』


『何がだ?』


『俺はなんで英雄の生まれ変わりとやらなのか?って聞いてるんだよ』


『それはそういう宿命であったのであろう。何も特別な理由はなかったと思うぞ』


誰でもいいなら、俺ではない誰かでいい。


『英雄の生まれ変わりなら、俺はなんでもっと幸せになれなかったんだ?』


『小僧、お主はバカか?』


『は??ただ、俺はそんなものに生まれたくなかったって言ってんだよ。あれだよ。あれ、英雄なら、過去の徳が来世にいい影響を及ぼす的なあれだよ』


『英雄が楽な人生を歩める訳がなかろう。お前が不幸だったのは、お前の英雄の魂に何かが働きかけていたのであろう。英雄になるための因子を持って生まれたが、英雄になるか、何もしないで指を咥えて見てるだけの傍観者になるかは小僧次第だと思うがね』


結局俺が不幸なのは、自分のせいであったと言われたようなものだ。


そのせいで色んな人を欲望のままに傷つけたり、帰らぬ人にしてしまった。

親も、親友も、俺のせいで死んだのではないか。

そんなのだったら、生きる理由を探すなんて考えるべきではなくて、そもそも生まれてこなければよかったんだ。


『ちなみに言っておくと、どうやらお主の周りに死人が絶えないのはお前のせいではないと思うぞ』


『本当か!?』


本当なのか?

その言葉を信用していいのか?

では、なぜ周りに死人が絶えなかったのだ。


『体は入れ物に過ぎないし、魂は生き方を決めてくれるだけの役割しかないよ。お前の体からも、魂からも呪いのたぐいは一切感じない』


『そ、そうなのか?』


正直、あまり信用できない。そもそも、呪いなんて本当に存在するのか?


『まぁ、入れ物がどこで生まれて、どの魂が宿るかは運命としか、言えないが、体も、魂も個体識別番号みたいなのがあってだな。。。』


『それがこの世の真実なのか?』


『まぁ、一部だな。この世の真実はより儚い』


『儚い?』


『あぁ、儚いとも』


『お前次第だが、あの聖杯の中にある黄金の血を飲み干せばわかる』


黄金色に輝く血なんて初めて見た。


幻想の世界にあるような産物が、今俺の目の前にある。

まだ教会の中に入ってもいないのに、黄金色に輝いているのが、外から見ても分かるほどの光沢だ。


『あれは何なんだ?』


『わしの血じゃ』


『アトラさん、ツッコミどころはたくさんあるのだが、なんであれを飲む必要があるんだ?』


『生きる理由が知りたいのじゃろ?選択肢はお前にある。この提案を飲むか、飲まんかは全てはお前次第だ。しかし、懐かしいのぉ、何かをお前に提案するのも、、、』


えぐいことをやらせてくるじじぃだな。そういう癖の人間なのか?


『過去の俺が何なのかは知らないが、俺の名前はアキラだ。神道かみみちアキラ』


『ほう、この国の名前は難しいのぉ〜。まぁ、アキラよ。一つ伝えておくことがある。昔のお主は一度失敗しておるが、しかし、今回は大丈夫じゃろう』


『何を根拠に言ってるんだ?』


『腹が減っているんだろ?』


3日間、水しか飲んでいないし、食べ物は安いお菓子ぐらいだ。

正直、腹が減って、血でも何でも飲めるし、栄養が補給できるのなら、何でも食べれると思う。


『あ、あれを飲めばいいのか?』


『あぁ、そしたら、わしの悲願は達成される。やっと、妻のところにいける』


『どういうことだ?さっきから、回答をはぐらかすことに意味があるのか?』


『芸術がわからん小僧じゃのぉ。オペラとか、演劇とか見たことないのか。賢者はすぐに答えをベラベラ言わないものなの』


うざく感じてきた。元気なのか、死にかけなのか、よくわからなくなってきた。


『アトラさん、あんた、他に説明することはないか?』


『すまんのぉ、説明はできん。騙されて飲んでくれ。説明してはならぬ契約なのじゃ』


『じゃあ、どうやってあんたを信用したらいいんだ』


『わしを信用するか、信用しないかの話ではない。自分の人生に答えを見つけたいのなら、飲めばいい。飲まないのなら、ここで野垂れ死ぬだけだ』


『ここで死ぬのも悪くはないが、あんたと一緒に死ぬのはごめんだね』


『なら、飲むんだ。飲むか、飲まんかはお前次第だ。わしの旅の終点はここということじゃ。それ以上は聞くな。それ以上は言えぬ』


頑固なじじぃだ。だが、会話を重ねているうちに、懐かしさを感じてきた。

もし、この老人の話が本当なら、生まれ変わる前の俺も、この老人から何かを得るために巡りあったのかもしれない。


『じじぃ、じゃあ、最後に聞く。本当にあれを飲めば、俺が求めている回答が得られるんだな?』


『もう、じじぃ呼ばわりか。それも懐かしい響きだ』


昔の俺もそう呼んでいたのか。

しかし、俺は誰なのだ?4000年前の歴史なんて勉強したこともない。

何時代なのかもわからない。

そもそも、アトラ・ハシースなんて人物が歴史上に出てくることすら学ぶ機会はないだろう。


『まぁ、それだけは約束しよう。わしが失った国に誓おう、わしの不死に誓おう、わしの最愛の妻に誓おう。そして、わしの死に誓おう』


カッコつけやがって、これだから自称賢者ってやつはイかれてるんだろうなぁ。

真っ当に生きていたら、こんなじじぃの誘いに乗ることはなかったのだろう。

しかし、もう失うものは何もない。求めているものが手に入るのなら、人生の最後、イカれた老いぼれの妄言もうげんを信じてみようじゃないか。

会話の中で、このじぃさんは自分の妻を相当愛していたのだろう。


このじぃさんを信じる理由は、それで十分だと思った。


『あれを飲めばいいんだな』


『あぁ、頼む、英雄』


『英雄なんかじゃないさ。俺はただの不幸な青年だぜ?』


俺は教会の中に入った。


聖杯の中から溢れる賢者の血は、その深紅しんくの液体が、生命そのものが内包されているかのように感じた。


その輝くような色合いは、まるで生命の奇跡がこの一瞬に宿るかのようで、禍々まがまがしさではなく、むしろ生命力という祝福がその中に息づいているかのようだ。


いい匂いだ。


その血からは、極上の匂いが鼻腔をくすぐり、それはまるで、大地が春の訪れを告げるような芳醇な香りだ。

森林の奥深くに広がる生命の営みや、古代の神秘的な祭典の記憶を思わせるかのようだ。

その匂いは、鼻に抜ける一瞬の感覚だけでなく、魂の奥底にまで染み入り、心に深い感銘を与えるものだった。


『喰らうのだ。わしの生命を喰らえ』


俺は狂気に囚われたかのように血を貪った。


闇の深淵から湧き上がるような欲望が体を支配し、血の赤と影の黒が絡み合った。


その瞬間、魂が砕かれる感覚にも襲われたが、先に狂気が俺を包み込み、人間性を喪失したかのように、ただ無情な獣の本能だけが魂を支配した。


聖杯から滴る黄金の血を飲み干した俺は、意識が朦朧としたままアトラのもとに戻ろうとしたが、先に倒れ込んでしまった。


『ありがとう。わしの長い旅は終焉を迎えた。あとは頼んだぞ。暴君。神様によろしくな』


『暴君—-?神様——-?』


体が動かない。

体から力が抜けていく。

体から冷や汗が止まらない。

体に異変が起きているのはわかっている。

意識は保っているのに、体が言うことを聞かない。


上か、下か、よくわからないが、俺の心臓が地球の中心に引っ張られる感覚と宇宙に引っ張られているような感覚が同時に起きた。


地球と宇宙に綱引きされている感覚だと思う。


仰向けの状態なのに平衡感覚を失ったかのように引っ張られているような気がする。

視界が徐々に暗くなっていくことに恐怖を感じ始めた。


『。。。こ。。。こ、。。。。ここで死にたくない。。。。』


意識を完全に失ったと思うほど、深淵が目に映る。

目は開けているとは思うのに、視界が全て黒に染められた。


怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。


自殺はしたくなかったが、野垂れ死ぬなら、それが最後でいいと覚悟はしていたのに、いざ死が急に訪れると、やはり生きていたくなるのだろう。


ただ、死のうとする自分に酔っていたのかもしれない。


自分の魂が神によって救済されないのであれば、人は死に救済を求めるのだ。


『起きてください』


誰かが話しかけている?アトラのじじぃか?

いや、しかし、声が若いような気がする。


『あ、申し訳ありません。感覚を調整するのを忘れていました。完全に人間ですからね。お待ちください』


誰だ?


『最後に人間を招待されるとは、アトラ様は何を考えているのでしょうね』


アトラ様?

あいつはそんなに様付けされるほど、偉い人間には思えなかったぞ?


『なるほど、納得いたしました。脳は人間なのに、英雄の魂を持つ個体なのですね』


脳?

英雄の魂を持つ個体?

何の話だ?

ってか、脳と魂を見られているのか?

俺は頭蓋骨を開かれて、頭蓋骨か、胸にあるのかもわからない魂を見られているのか???


『調整は終わりました。早く起きてください。ここで寝られるのは不愉快です』


視界がぼやけているが、徐々にカメラのピントが調整されていくかのように目の前の景色を取り戻していった。


『私が見えていますか?神道アキラ様』


誰だ?こいつ。


しかし、さっきまで教会で死にかけていたのに、俺は今どこにいるんだ?


空には星々の輝きが見える。


都会のど真ん中でも見られないほどのたくさんの星々が、自分を1番に見てくれと言わんばかりの輝きを放っていた。


星の輝きが眩しいと思ったのは生まれて初めてだ。


風景は完全に草原が広がっている。

しかし、眩しいほどの星の輝きに照らされている。


月はない。


だが、変だ土を触っているはずなのに霧を触っているような感覚に近い。


『ここはどこだ??お前は誰だ??アトラのじじぃは??』


『テンプレのような質問をありがとうございます。ここは簡単に説明するのであれば、あなたが知る宇宙の最果てと呼ばれているところです』


『地球の草原とほぼ変わらないような気がするが?』


『人間の目に解釈しやすいように景色を調整しただけで、ここではあなたの都合のいい景色が見えます』


都合の良い解釈とはどういうことなのかは知らないが、とりあえずよくわからない場所に飛ばされたらしい。

宇宙の最果てといったが、よくわからないことが連続で起きている。

正直、こんな短時間で理解できないことが起きていることに吐き気を感じる。


『私に名はありません。生きてもいないですし、死んでもいません。存在しない存在に近いと思います』


『??』


『質問はしないのですか?』


『理解できないと思うから、聞くことをやめただけだ』


『話が早くて助かります。アトラ様はもう天命を全ういたしましたよ』


『死んでしまったのか??本当に??本当にアトラのじじぃは俺のせいで死んだのか??俺があの血を飲んだせいで、、、』


『死んだというより、喰われたが正解ですけどね』


喰われた?俺のせいか??


『あなたは自分のせいにするのが、お好きな方なのですね。優しすぎるというか、お人好しすぎるというか、人間味に溢れてらっしゃる』


『うるさい。早く説明しろ』


『まぁ、落ち着いてください。あの方の最後の使命は誰かに自分の仕事を引き継ぐことでした』


『仕事??』


『えぇ、彼は本当に歴史の教科書にも出るような超有名人なのですよ。ノアの方舟と聞いたら、子供のあなたでもわかるでしょ?』


たまにムカつくことをいう奴だな。

しかし、俺は知識人の話は素直に聞く主義だ。


『そのノアの方舟の主人公がアトラ様です』


『あのじじぃ、超偉い人じゃん』


『えぇ、不死の力を与えられていたのに、自分から不死を捨てたのですがね。それも妻を天国に行かせるために、、、教科書には出てこないような話です』


やはり、あのじじぃは妻を愛していたようだ。ちょっと、心がほっこりする。


『しかし、神々から呪いも受けてしまいました。7人を最初の神の生贄として捧げるまで死ぬことは許されないという呪いに』


『な、なるほど、、、深く深掘りすると話が長くなりそうだから、また今度聞かせてもらおうとしよう。ということは俺が最後の7人目ということか?』


『えぇ、あなたが最後の1人で、あなたが喰らい天命を終えました』


俺は人を食ったのか??

俺はあの偉人を食ってしまったのか??

もう、何が何だかわからなくなってきた。


『まぁ、あまり時間もありません。あなたがここに連れて来られた理由を説明させていただきたいのですが、その前に最初の神と会わせます』


『最初の神??』


『えぇ、万物はあのお方によって創造されました』


『俺は神が憎いんだぜ?俺をこんなに不幸な人生を送らせてくれた神が死ぬほど憎いのに会わせるだと?神をぶっ殺してもいいんだよな?』


そうだ。

この変な状況下に立たされたとしても、神が憎いことは変わりはない。

こんな不幸で、俺とみんなを不幸にした奴なんて死んでしまえばいいと思うのは罪か?

大罪人になってしまったとしても、魂が消えてなくなってもいい。

永遠に訪れない絶好のチャンスだ。


『あのお方にあなたを幸せにする力も、あなたを不幸にする力もありませんよ?あなたが生まれつき不幸なのは宿命なのでしょう。何かの因子が働いてるとは思いますが、何かはわかりません』


『そうか、だが、対面して話を聞かないと納得はいかないな』


その隙に殺せるチャンスがあるなら、速攻殺すがな。


『まぁ、あなたのお好きにしてください。では、参りますね』


その瞬間夜の風景は一変した。

まるでオアシスのど真ん中にいる風景に近いと思う。

しかし、砂漠にいるかのような感覚もないし、蒸し暑くもない。なんなら、涼しい。

そこには無数の羽が生えた赤ん坊たちが飛び交っていた。


あれだ。典型的な天使ってやつだ。


俺と名のない案内者は天使たちに連れられ、池まで案内された。

そこは幻想的という表現が1番しっくりする光景だ。

しかし、花の匂いや、自然の匂いは一切しない。

何故か、匂いもしないのに、空気だけが重い気がする。


『到着しました』


『現代人代表として神様とご対面ということになりました。よろしくお願いしま〜す』


腑抜けた感じで挨拶しようとした。

まるで、新しい学校に転入してくるような転入生のようにだ。


目が一瞬ぼやけて、何かが目の前に投影されるようにノイズなのだか、霧から現れているのか、よくわからない状態で徐々に投影されていく。

池に片足だけ突っ込み、天使たちに体を拭かれている存在がいた。


『え、え、え、え、おい、あれが本当に神なのか???』


『はい、あなたにどう見えているのかは分かりませんが、あれが最初の神です』


結論から説明させてくれ、最初の神と呼ばれている存在はロリであったと—————-。


容姿は美だ。

淡い金髪のロングヘアに眠そうな金色の目、白い肌、露出度の高い白いワンピースを着ている。

神なのに何故服を着ているのだ?

わからん。わからん。


神というのはロリということなのか?

そう、神はロリだ。ロリロリだ。ロリのロリのロリだ。


 、   




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