第1章『神との誓い』

第1章〜1〜『不良少年の不幸』

第1章 『神との誓い』

第1章〜1〜 『不良少年の不幸』


——— 人生のターニングポイントは前触れもなく訪れる。しかし、俺の人生にターニングポイントが訪れすぎていると今でも思う。


異世界で大冒険を繰り広げることになったきっかけと俺の生い立ちから語らなければならない。

結論から言わせてもらおう。ことの始まりは高校を退学させられたことから始まった。それも高校3年生が始まろうとしていた春にだ。


遅刻の常習犯ではあったが、その日、朝の10時に登校した。閉まっていた高校の門の前に担任が立っていた。そして、直接退学通知を受け取った。


こくな話だが、頑張れよ』


『なんとか頑張ります。今まで迷惑をかけてすいませんでした。では、さようなら———』


財布なんて持っていない。自分のズボンのポケットにある全てが俺の全財産だ。


養護施設にいたけど、1週間ほど前から逃げ出してきた。居心地が悪いわけではなかったが、不幸すぎる自分の人生に答えを導き出すために旅に出た。


今を思えば、出発したときは自由を求めて旅に出たと思っていたが、ただ迷子になりたかったのだと思う。


生い立ちについては悲劇の連続だ。

親は殺されてしまった。

親戚の家は地獄だった。

親友は自殺した。


他に頼れる人なんていなかった。


かなりむごいし、救いようのないクズだが、自分の生い立ちについて語らせてくれ。

生まれは貧しい家庭だったが、貧しいことに不満なんてなかった。

しかし、親父も、お袋も良くも悪くも人が良すぎた。故に他人に利用され、殺されたのだ。


小さい頃に親父は少しでも金を稼ごうと頑張っていたが、仕事場がブラックすぎたせいでどんなパワハラを受けても耐えるしかなく、職場を辞めると家族を崩壊させると脅されていたらしい。


それでも、家族のために頑張る親父は休むことなく働き、毎日帰ってくると玄関で気絶していた親父はお袋に抱きしめられ、頭を撫で回されていた。


その光景を小さい頃の俺は毎日のように見ていたし、永遠に忘れることはない。


時間の流れは残酷で数年後、親父は過労死で亡くなった。


親父を過労死まで追いやった奴らは捕まったが、金の力か、コネか、どちらかはわからないが、すぐに出所したらしい。


親父の死後、無駄に勉強ができた俺のために、不自由な思いはさせたくないと学歴もなかったお袋は風俗で働いた。


お袋はかなり美人だったのと、誰よりも優しい性格だった。


他の嬢にも、客にも優しく、病んでいる嬢には相談や、ご飯を奢ったりしていたし、仕事に悩む客にはちゃんと向き合い話を聞いていたりしていた。


それが理由で人気嬢になるのに、そこまで時間はかからなかった。


しかし、そんな生活は長くは続かず、当時まとわれていたストーカーに殺された。


かなりイカれていた野郎で、警官たちの話によると、死体は見るに耐えないほど、無惨な姿に変えられていたらしい。


野郎は、のちに獄中ごくちゅうにいる男たちに手を出そうとして返り討ちにあって殺されたらしい。


親父とお袋のことは誰よりも尊敬していたし、好きだったが、そのお人好ひとよしな人柄を俺は呪った。


親を無くした俺は、それから親戚の家で住むことになったが、毎日虐待ぎゃくたいを受けていた。


人間ではなく、おもちゃのように思われていたのだと思う。


ある日、流石に殺されそうな勢いで痛めつけられたいた俺は、叔父の鼻を思いっきり殴りつけた。でも、中学生だった俺の拳でも叔父の鼻をへし折ることができた。


もがいていた叔父の前歯を砕こうと、もう一度拳で殴りつけた途端、激痛のせいか、叔父はもがきながら意識を失った。


自分の正気が戻ったと気づいた頃には、俺は何も考えずにまず外に出たいと思い、あの地獄から逃げ出した。


逃げている最中に、初めて他人を殴った俺の指から脳天を目掛けて激痛が走った。

アドレナリンの効果が徐々に消えていったのであろう。


一番近い交番まで走って行った俺は警察に匿われ、虐待の罪で叔父は捕まった。


その日、拳だけが自分を守ってくれると感じた。自分の拳のおかげで窮地きゅうちを免れた感覚を感じたことはあるだろうか。


そこに罪悪感はなく、むしろ感謝の気持ちと涙が溢れ出していた。


俺は生まれて初めて親からもらったこの体に感謝したと同時に、それ以来、不条理な現実や、自分自身を守るためなら、何もかも拳で解決してきた。


その後、途方に暮れていた俺は施設に引き取られた。でも、いいことはあった。

ある日、ニヤケ面が似合わないヘラヘラしたバカがやってきた。やたら俺に馴れ馴れしくしてくる奴だったから、何度も、何度も殴って突き放そうとしたが、倒れず、仲良くしてくる奴だった。


お互いの生い立ちを話し合って、施設にいるいじめっ子たちにイタズラしてらしめてやったりした。


その根性とバカな性格を俺は好きだった。


あいつと過ごした日々は、俺の心に光が差した時間だったようにも思える。


日を重ねていくと、俺は生まれて初めて他人に友情を抱いていたことに気づいた。しかし、ある日、自殺した。


原因はわからず、俺は生まれて初めてできた親友も死へと誘ってしまう不幸な人間なのかもしれないと、自分を呪うしかなかった。


深く縁を結び合った人を全て死へといざなってしまう人間なのではないかと思い始めた。


それ以来、俺は段々誰かと深く関わることが怖くなっていった。


高校は別に居心地が悪かったから行かなかったんじゃない。

他人と関わることで、また人が死ぬかもしれないと思うと怖くなったのだ。

他人と関わりたいのに、関わると自分も、他人も不幸にしてしまうのが怖いから行かなくなった。


膨大な時間が手に入った俺は、まず刺激を求めた。


適当に恋愛をしてみたが、寂しさを埋めるための依存関係であり、他人を信用することができないのであれば、安らぐどころか、幸せがこぼれ落ちることに怯えるしかなくなってしまうのだ。


数ヶ月もしないうちに理由もなく振った。


恋愛がダメなら、他人と殴り合うことで生を感じられるのなら、手っ取り早く生を感じる方法は喧嘩をふっかけまくったらいいのかもしれないと思い始めた。


自分に恨みを持つ人、自分を妬む人やつらなら、自分の不幸が彼らを殺すこともないだろうと思い、気づけば俺は他人をおもちゃに思い始めてしまっていたのかもしれない。


他人を傷つけたり、愛のないたわむれで生きている居心地を探すために他人を利用しているだけだった。


他のクズと何も変わらない。


自分もクズの仲間入りじゃないかと思い始めるのに、そんなに時間はかからなかった。


勘違いしないでほしい。


別にヒーローにも、ダークヒーローになろうとも思っていない。


親と過ごしていた時は、テレビに映るヒーローに憧れていたが、理不尽が重なるにつれ、子供が抱く正義感などは捨てた。


故に、人生に意味を与えることができるのなら、あの頃の俺は他人が不幸になろうが、人生が破滅しようが、どうでも良くなっていた。


膨大な時間が手に入ってから夜が長くなった。


自分の不幸にはパターンがあるのかもしれないと思い始めた。


俺のことを大切に思えば思うほど、死に近くになるのかもしれない。


俺に直接危害を加えた人間たちは別に死ぬことはなかったのだからと思い、このパターンは可能性の一つして考えた。


色々と自分の不幸に対して仮説や、悩み込んだことはあったが、人の不幸を証明することなど到底できないと悟り、考えることをやめた。


それ以来、徐々に他人と関わらなくなっていった。


高校最後の春、俺は嫌な思い出しかないあの街から逃げ出すように旅に出た。


目的地はなく、力尽き、どこかで野垂れ死ぬのであれば、それが宿命なんだと思えば、野垂れ死ぬまでに、どこかで安心して過ごしていける場所が見つかれば、幸運が訪れたと思えばラッキーなもんだ。


そう思えば、どこにでも行けそうだと思った。


もう一つ勘違いしないでほしいことがある。俺は別に病んでいるわけではない。


ただ生きることに価値を見出せないだけだ。

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