カタルシス・ワールド

名無しのブッタマン

プロローグ『美しい魂に救済を』

——今を生きる人たちへ。


人生を生き抜くことより、人生を耐え抜くという表現の方が理にかなっていると思わないか?


生きていると実感できる人々は、ただ今の自分に満足できているからであるか、不条理に対抗しようと争うことに生を感じているか、他人を蹴落としてまで、自らの人生を豊かにしようとしているか、生まれたことに理由はないと嘆き、残りの生涯を運に左右してもらっている人など、様々な生き方がある。


しかし、全員が幸せになる方法を考え、行動できる人間は存在しない。


願う人はいるかもしれないが、その儚い理想は永遠に叶いはしない。


—-『   


何事も満足することが幸せというのであれば、満足できない人生を歩むしかできなかった人々の末路は不幸せを味わうことしかできないのだ。


逆に不幸で自分を慰めて、不幸に対して興奮を覚えてしまったか、手にある幸せがいつか消え果てることが怖いかだ。


無知であるほうが幸せなのかもしれない。


自分が良ければ別に何も気にしないと考えた方が気が楽なのかもしれない。


幸せよりも、不幸の方が心に刻まれるのなら、幸せなんて知らない方が良かったのかもしれない。


でも、偽善ぎぜんに溺れている方が、不幸に犯されるより、魂から不条理に足掻いていると実感できた。


—-『    


現代人だけかは知らないが、ある程度の回答を導き出した途端、その回答を無に逆戻りさせてしまうような返答をする人が多い気がする。


十人十色だの、色んな生き方もあるだのという人は多いが、何も答えになっていない。


抽象的な表現で、全てを誤魔化しているにすぎないのだ。


抽象的な表現に逃げ、自分を優勢な状態にさせるために使うのなら便利だ。


しかし、本質を見抜くことがめんどくさいのだ。


抽象的に答えるほうが気が楽なのかもしれない。


それがまた他人を傷つけるきっかけになるのだ。


本質なんてものがそこにあっても、時を超えることによって、答えは別の時代の解釈に上書きされ続ける輪廻にあるのだ。


経済力という一部の人にしか恩恵が継承されない力よりも、人間力の高い社会の実現を重要視するべきではないのか。


—-『    


みんな苦労している。


未来に不安を抱くのは当たり前だ。


他人の不幸を見ながら吸うタバコは上手いという人もいれば、同情と共感する人はいても言葉だけで助けてくれない人もいる。


本当に他人に優しくできるのは、人生に余裕がある人だけで、余裕がなければ、他人に優しくしたいとは思えないような社会が完成されつつあるのだ。


他人の優しさの大半は見返りを求めているにすぎない。


他人をどれだけ助けても、助けた数よりも、人に裏切られたり、見捨てられる数の方が多いのだ。


天文学的な確率で生まれてきたとしても、生まれてきた先に罰ゲームかのような社会というフィールドが存在していたら、難易度は地獄から始まるに決まってる。


世渡りが上手い人間だけが勝ち残れるクソゲーだ。


—-『 。 


神話の神々は苦しい労働を人間に与えるために、人間を創造したと思われていた。


神々が人間を創造し、神々同士で争い、神々は滅びたのかもしれない。


人間は機械を創造し、人間同士で争い滅びるのかもしれない。


そして、機械が何かを創造し、機械同士で争い、機械は滅びるのかもしれない。


神々も、人も、機械も、自分たちを超える圧倒的な脅威が存在しなければ協力することはない。


自分たちよりも上の存在がいなければ、自分たちで殺し合うのだ。


そういう末路を辿るしかできないようにアルゴリズム的に機能しているのかもしれない。


しかし、俺は知ってしまった。創造された理由を—-、


神が存在するのであれば、この手で殺してやろうとも思った時もあった。


しかし、真実は健気な存在の失敗と孤独によって、全ての生き物は生きていられるのだ。


自らが生み出した全ての生き物を消し去りたくないという健気な願いを尊く感じた。


消し去りたくないが故、永遠を生き、干渉しないことで、この世界の均衡を維持してきた。


どんな形で生まれ、

どんな生涯を生きても、

どんな罪を背負って生きても、

どんな理不尽も、

どんな下劣な行為も、

どんな殺戮も、

どんな虐殺も、

どんな戦争も、

どんな正義も悪が存在していても、

直接干渉しないでいた。


万物が生きる世界を維持するためには直接干渉しないという選択肢を選ぶしかなかったのだ。


しかし、本当はずっとそばにいてくれていた。


万物の全ての幸せに立ち会い、全ての悲劇を目撃した。


全ての幸せを祝福し、全ての悲劇を呪った。


希望で満ち溢れるような世界を創造することに失敗し、絶望が存在しない世界を実現することも失敗した。


しかし、どれだけ生き物たちの弱肉強食が醜くても、どれだけ救う価値がないぐらい堕落していても、俺たちを愛し続けていた。


あの存在は時間という概念が生まれる前から、宇宙なんてものができる前から、孤独を癒すために、ただひたすら無から有を生んだ。


あの存在が求める美しい魂に俺たちは生まれてくることができなかったのだ。


俺はあの存在とあったあの日から、あの存在の苦悩と望みを知り、あの存在を愛してしまった。


それは救いでもあり、呪いでもあると感じた。


しかし、何度地獄の中心に放り込まれようとも、何度体が燃え尽きようとも、俺の魂が燃え続ける限り、俺があの存在に立てた誓いを果たすと約束した。


神を救済すると誓ったあの日から、俺の生きる理由は、それだけでいいと思えたのだ。


——『    


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


———-ザハリ国・ストゲン砂漠にて———-


砂埃が鼻をくすぐっている。

蒸し暑い。


目を瞑っているのに強烈なまでの日光が直接瞼を焼いているようだ。


『・・・・・っキ ラくん!お、お、お、起きて・・ください!!!』


うるさいなぁ。可愛い声しやがって、しかし何故だ。

やたらと胸の辺りが痛い。でも、うなじから柔らかい感触を感じる。


なんだ?これはなんなんだ?あと、何故かとてつもなくいい匂いがする。


『・・・・・お・・・・い、アキラ!!起きろ!』


頭が痛い、頭が熱い、何か液体が流れ出しているように感じる。

頭に熱湯でもかけられたのか?


『・・アキラ、早く起きて手伝ってください』


目の前がかすんで見えるし、身体中から冷や汗が出ている。

頭がクラクラしているのに手伝ってくれだ?

何か、四方八方から爆発音のようなものが聞こえる。


『おい!アキラ!早く起きるのじゃ!』


俺の胸の上で何かが暴れている。

そして、熱い。物凄く不愉快だ。


『ヒャッハ〜〜〜!!!追え!!あの変な乗り物を撃ちまくれ!!!あいつらを捕まえたら、莫大な金が手に入るぞ!!!楽園帝国にもいけるぞ!!!』


『ガキども!恨むなら、自分たちの犯した罪を恨むんだな!!!』


周りが騒がしい。


どこかの世紀末にいそうなモブたちの号令が外から聞こえる。


目を覚ました俺は何かの乗り物に乗っているようだ。


久しぶりにガソリンの匂いを嗅いだ気がする。


内装はボロボロだが、かなりのスピードで砂漠を移動しているようだ。


『アキラ!こんな時に気絶する馬鹿者がどこの世界にいるのだ!小石が頭に当たったぐらいで気絶するとは何事か!お主はオイラのマスターだろ!!どうしてお前はそんなに不幸なことばかり起きるのじゃ!!』


何かに胸ぐらを掴まれて、何度も、何度も頭突きを繰り返されている。


何回も頭突きをされるからか、頭にできたキズ口を広げ、血がいっぱい出てきていたようだ。


もっと、頭がクラクラしてきた。


でも、少し思い出したことがある。


窓の外に顔を出した瞬間、前輪のタイヤが弾いた小石が頭に直撃し、気絶していたようだ。


あと、愛くるしいが、ぶん殴りたくなる小さな奴のことを思い出した。


俺は目を覚ましても、数秒間記憶を飛ばしていたようだ。


『おい、シヴァ、胸のところが痛いのだが、何をした?』


『この前お主が教えてくれた心臓マッサージという蘇生法を試したのじゃ。オイラのこの小さな手ではお主を助けられないからのぉ〜。お主の胸を上で踊ってやったわ!感謝せい』


俺はすぐにシヴァの頭に頭突き仕返した。


『てめぇ、俺を殺す気か!!』


シヴァのひたい、奴の第三の目にクリティカルヒットしたと思うほど、最高の頭突きをお見舞いしてやった。


『オイラの目が!オイラの目が!!本当に人間?お前』


運転席にいるジョセフ、荷台にいるレイラ、膝枕をしてくれていたミアのことを徐々に思い出した。


一瞬ではあったが、大切な仲間の記憶を飛ばしてしまっていたようだ。


でも、おかげで記憶を全て取り戻したようだ。


まず、結論から語らせてくれ、

俺は今異世界にいる。


そして、この異世界にも様々な国があって、

大半の国の政府、

莫大な金を欲するバウンティハンター、

安全な国に移り住みたいと願う移民、

バケモノ、

神の力を妬むものたちに、


不幸にも追われることがある。


『ねぇ、ヘパイストス先生〜!!もっといい乗り物はないのですか?追いつかれちゃいますよ!』


運転しているジョセフは泣きながら、物作りの神であるヘパイストスに懇願こんがんしていた。


どこぞの猫型ロボットとメガネをかけた小学生の会話のようだ。


『すいません。。この世界の乗り物はまだ作れないのです。。今のミアのマナでは、この車が限界です。。。』


ミアは優しい女の子だ。


元奴隷であったが、俺たちが連れ去ってきた。優しくて、なんでも出せてしまうのは女神か?この女の子は女神様なのではないのか?


どうやら、荷台にいるレイラはモブ達と抗戦しているようだ。

手足を動かせるようになった俺は車内から荷台まで飛び移った。


『アキラ、早く助けてください。私のマナはもうすぐ尽きます』


この世界は自分が持っているマナを使うことで魔術を使うことができる。


『なんか、さっきより敵が増えてないか?』


『何故か増えてしまいました。マナを使い果たしたので寝ます。ミア、ホットマイマスクとやらを出せますか?』


『レイラ〜、私も疲れた〜。羽を撫でて?』


『あなたは何もしてないですよね。ヴィクトリア』


『早く王子様の姿になって?女の子の姿をしているときのあなたに興味ないの〜』


『あなた、私を殺すつもりですか?』


レイラと喧嘩している勝利の女神であるヴィクトリアは変態だ。


先に説明しよう。

俺たちは自らの魂に神々の因子を受け入れ、自らの意思で因子を体内に埋め込んだ若者だ。

その力は凄まじく、神々の武器も扱えるし、神々と合体することもできる。

しかし、膨大なマナを消費するため、マナ切れの状態で合体なんてしてしまったら、体が崩壊する可能性があるのだ。


ちなみにレイラは少し特殊で、ヴィクトリアの力を使うと別人になる。


白馬の王子に相応しい青年の姿になるのだが、力を使った時の記憶はないらしい。


その青年のことについて、俺たちは何も知らない。


知っていることはムカつくほどのイケメンということだ。


あと力を使った際に、ヴィクトリアは解放する加減をコントロールすることができず、よりマナの消費量が増すそうだ。


謎の青年のせいで、力をコントロールできないのは逆に興奮するらしい。


故に変態なのだ。


『ごめんね。レイラちゃん。もう、私もマナが無くなってしまったの』


『そうですか、なら、私にも膝枕をしてください』


レイラは寝ることが大好きなポンコツ騎士だ。


『いいよ!アキラくん、体が熱いんだもん。レイラちゃんは大歓迎だよ!』


可愛い女の子達がイチャイチャしているのは、何故こんなにも心が癒されるのか。


『あの〜みんなでイチャイチャしてないで、どうにかしてくださいよ!!あと、フォルセティ!あなたはいつまで僕の膝の上で本を読んでるんですか!どうにかしてくださいよ!』


ジョセフは臆病で泣き虫な性格をしている神父見習いだ。


その膝の上に座って本を読んでいるのが、フォルセティで正義の神だ。


『ジョセフ、私は久しぶりに本を読んでいるのです。黙って運転しててください。私はまず言語を解読するところから始めたいのですが、読み聞かせてくれませんか?』


『読めないのなら先に助けてください!アキラ!!もう君にしか頼めません!早くどうにかしてください!』


俺の力には一つ問題がある。


威力を上げるためには怒らないといけないことだ。


怒れば、怒るほど、力が増大するが、狂うほど怒りが込み上げてしまうと炎が体を蝕み、体が先に燃え尽きてしまうのだ。


俺たちの力は計り知れないが、逆にデメリットな点が多すぎると思う。

でも、異世界でチートすぎるほど強くなくてもいいじゃないか。


デメリットが多い能力、様々な敵から追われる身、ダメダメな点が多い方が冒険をしている実感が湧くというものだ。


あと、一つ言えることがある。


こいつらとの笑いあり、涙あり、希望もあり、絶望もあるこの大冒険は楽しすぎる。


こんな楽しいこと、どの世界を渡り歩いても存在しないと思うほどに楽しい。


荷台に立った俺はモブ共にかっこいいポーズをしてみせた。


『カッコつけてんじゃねぇぞ!クソガキ!』

『頭から血が出てるのに、何かっこつけてんだ!』


モブ達から、俺を貶す声が聞こえる。

何か不愉快だ。


『いいだろう。モブ共、てめぇらに恨みはないが、仲間に手を出そうってんなら、しょうがねぇ。お前ら力を貸してくれ!』


最初数人だった敵が、起きたら数十人にまで膨れ上がっていた。


火力を上げないとこんなの勝てるわけがない。


『ヤリチン』

『ヤリチン』

『ヤリチン』

『ヤリチン』

『ヤリチン』

『ヤリチン』

『ヤリチン』


『よし、お前ら死刑で!』


仲間から頂いたありがたいお言葉で少しばかり怒りが込み上げてきたようだ。

前の町のおねぇさんたちからモテモテだったのがそんなにも気に食わなかったらしい。


『アキラ!オイラの力を使う時じゃ!あんな敵、あの時のアスラ族の軍勢と比べたら屁でもないわい!ピナーカの弓を使わせてやろう』


シヴァはよく神話の逸話を語ってくる。

大半の本当か、嘘なのか、よくわからないが誇らしく思うし、最高の相棒だといつも思う。


『まぁ、弓じゃなくて、銃剣なんだがな』


『うるさい!うるさい!弓を使えんお前が悪いのだ!男なら弓ぐらい使えるようにならんか!』


『まぁ、見てなって!Release divine protection:Code Shiva(神の加護解放:コードシヴァ』


神の加護を解放すると、俺の体は徐々に体温が上がり、無数の魔法陣が俺たちの体の構造を神に近づけるように動いていくようだ。


『轟け、切り裂け、全てを炎に変えろ。そして彼方まで飛んでいけ。那由多なゆたの彼方まで————』


かっこいいセリフと共に銃剣の引き金を引いた。


仲間、能力、魔術、冒険。


見てるか?神様。


俺たち、最高に冒険してるぜ。


そして、君を救ってみせる。


———-『   


     



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