達成度15.あるいは、こんな青春も悪くないのかもしれない。(下)
その後。僕と東間はともに下校していた。
あの後二人でちょっとした雑談をする中で帰り道が偶然同じであるということがわかり、東間から一緒に帰ろうとの申し出を受けたのだ。
誰かと一緒に帰るなんてもう何年ぶりだろうか……多分中学の頃以来だ。
だから何を話せばいいかわからない。僕は自然と少し緊張しながら歩みを進める。
「塩江君と一緒に帰るの、これが始めてだよね?」
「あ、ああ、そうだな」
「そうだよね。ふふっ、ちょっと特別な感じ」
「あ、ああ、そうだな」
ダメだ、受け答えがぎこちなさすぎてろくに台詞のないNPCみたいになってしまっている。
「そうだ、お菓子あげる。お近づきの印に」
「お菓子? くれるのか、ありがとう」
「うん。はい、歌舞伎揚げ」
シブいなこの子……。
そういえばこないだもお礼にお煎餅をもらったんだっけか。
僕と東間は並んで歩き、歌舞伎揚げを開けて食べようとする。すると不意に東間が口を開いた。
「塩江君ってさ、結構大人っぽいよね。落ち着きがあるというか、余裕があるお兄さんって感じ」
「ぶほッ!?」
「し、塩江君!? 大丈夫!?」
「あ、ああ……大丈夫だ。ただちょっと生死の狭間を一瞬彷徨いかけて死んだばあちゃんが川の向こうで手振ってる姿が見えただけだ、気にするな」
「だいぶ危なくないそれ!? 本当に大丈夫!?」
まさに口にしようとしていた歌舞伎揚げを喉につまらせるところだった。あ、危ねぇ……。
「い、いやそうか大人っぽいか? そんなことはないと思うぞ。僕なんてずっとゲームしかしないまま誰とも喋らず親友も彼女もいないままに卒業するような人間だから、むしろ人生経験なんてそこらの高校生より無いまであるぞ」
「ど、どうしてそこまで自分のことを……というか、卒業までってまだわかんないよ?」
「……ま、まぁな」
「でも新しい友達ができて嬉しいよ。僕、あんまり友達いないからさ」
「────」
「塩江君?」
友達。そのたった漢字二文字の響きに、僕の胸がふと高鳴る。
……そうか、そうだったのか。
僕たちはもう、友達だったのか。
自分では気が付かなかったけれど。
いや、違う。僕も内心ではとっくに彼を友達だと思っていた。
けれど僕が勝手に友達と呼んでいいのか、彼を僕の友達とそう位置づけてしまって構わないのかどうか。
それが怖くて、その一歩をずっとずっと踏み出せずにいたのだ。
「し、塩江君? えっと、大丈夫?」
またもや心配そうな表情を浮かべてこちらを見ている東間に気づき、僕はハッとなる。
「ああ悪い、僕も嬉しいよ。これからよろしく、東間」
「うん、よろしくね!」
そう笑いながら、東間は僕の差し出した手を握り返したのだった。
二年前にタイムリープして、変な美少女と出会って暫定生徒会とかいう変な部活(?)に無理やり入れられて。
それで何週間か経ってようやく、僕はここにやってきたのだ。
ここまでやってようやく、一人目の友達を得た。
ああ全く、随分と遠回りしたものだ。
普通の高校生ならもうとっくに出来ているだろうに。タイムリープして二度目の青春をやり直す機会を与えられようと僕はこうも遠回りしてしまった。
初め思い描いた理想の青春からはかけ離れているけれど。
これが僕の青春の正規√とは思えないけれど。
それでも、まぁ────あるいは、こんな青春も悪くないのかもしれないな。
歌舞伎揚げをかじりながら、僕は沈みつつある夕日に向かってふっと微笑んだのだった。
★
ちなみに僕はそれからあらゆる手立てを尽くして鏡野を止めようとした。
あんな広告を張り出すことは逆効果にしかならず、本気で人を呼び込みたいならせめて普通の宣伝ポスターを作るべきだと。
そのために購買で買ってきた焼きそばパンを賭けてまで『僕が買ったら鏡野は図書新聞での宣伝を辞退し、鏡野が勝ったら焼きそばパンを差し出す』というルールのもと闇のデュエルみたいなババ抜きを行ったりもしたわけだが、そんな努力もむなしく結果は僕が彼女にパンを献上しただけに終わった。
……かくして、翌週に発行された第二回の図書新聞。
その下段には『暫定生徒会はあなたを見ている!』だとか『暫定生徒会にはあなたが必要です!』だとか『加入者募集中! 未経験者優遇! 校舎から徒歩五分! アットホームでフレンドリーな空間でともに生徒会を打倒しましょう!』などという怪しさ100%を超えてもはやオカルト臭すら漂ってくる強烈な文面の宣伝文が載せられたのだった。
……もうこれ誰も来ないだろ。来たら怖いよ、逆に。
前言撤回。やっぱりこんな青春は嫌だ。
「もっと普通で、キラキラした青春が欲しい……ッ!!」
そしてこの文を掲載してからわずか二日後。まさか新たなメンバーが旧生徒会室の戸を叩くことになるとは、この時の僕は予想だにもしていなかった。
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