オーディション(合格内定済み)

 桜花島を離れ、福岡博多のオフィス。駅前のビルワンフロアを業務用のオフィスとして借りた。そこで本日、オーディションの第二審査を行う。

 まぁ、正直なところ生き残った八人は全員採用予定だ。年齢も十八以上で成人しているし、余程性格が悪い人でもない限りね。そんな人は動画審査で落としてるので今日の心持ちは第一審査よりはかなり楽だ。性格って大雑把になら意外と喋り方で分かるんだよね。

 俺がオフィスに設置した審査場で待機していると、山田君と大塚さんと妻橋さんが入室してきた。心なしか全員やる気が滾っているように見える。お昼ご飯が美味しかったからであろうか。知り合いの飯屋に弁当をオーディション受ける人たちの分も頼んだんだよね。料理の腕がいいから、ついついおかわりしちゃったよ俺。


「社長、そろそろ定刻ですので一番の方からお呼びしても?」


「うん、オッケーですよ。山田君は待機室での態度をちゃんと見といてね」


「承知しました」


 山田君は眼鏡をクイッと指先で調節し、オーディション会場の隣に設置した参加者待機室へと向かった。

 さぁ、オーディション開始だ。






「失礼します」


 オーディション会場のドアをノックして、どうぞの声を聞いてから入室する。リゼにとって大学の入学試験以来の面接である。

 入室したリゼを待ち構えていたのは赤い眼鏡の女性、黒髪でにこやかに微笑んでいる男性、ロマンスグレーでオールバックの御老人の三名。中央に座る男性が「おすわりください」と口にしたので、リゼは再び失礼しますと言って固いパイプ椅子に腰を下ろす。


「初めまして、リゼ・外入さん。私は桜花スターダム社長の鈴鹿静時です。こちらが事務処理担当の大塚さんで、こちらがチーフマネージャーの妻橋さん。

 何故、自己紹介したかっていうと、君は既にオーディションに合格しているからです」


 鈴鹿の発言を呑み込めず、リゼは一瞬硬直し、瞬時に答えをはじき出す。


「つまり、第一審査を通過したら内定が決まっていて、わざわざ福岡まで呼んだのは時間厳守やコミュニケーション能力を確認するためってことですか」


「うんうん、君は本当に頭の回転が速いね。行動するのも早かったし、きっと君は人気が出るだろうねぇ」


 腕を組んで頷く鈴鹿に、大塚は眉間の皺を伸ばしながら言う。


「社長、契約内容を説明して差し上げてください」


「あ、そうだね。外入さんは大学生ってことで、東京の大学に通学しながら基本的にはお家で配信や撮影をしてもらうことになります。

 えー、つきましてはセキュリティの高い住居に転居してほしいんだけども。一人で住む? お母さんと一緒に住む? 会社としてはどちらでも構わないよ。

 さきに潰しておくと、引っ越ししたくないってのは無し。冗談抜きにストーカーされたりするかもしれないから君には確実にセキュリティの高い家に引っ越してもらいます。

 あぁ、引っ越し費用や家賃は桜花スターダムが全額負担するのでご心配なく。金だけはあるからそこは安心してくれ。

 後は、給料の面だけど。契約から一年間は月給二十万円の固定給、二年目からは歩合制になります。だからバイトとかはしなくていいよ。とりあえずここまでで質問ある?」


 矢継ぎ早に出される好条件にリゼはクラクラと眩暈がする。詐欺じゃないかと疑われても仕方がない条件だ、オーディションに行けないと言ったら二十万をポンと送ってくるような会社だと事前に知らなければ、リゼは既に椅子を蹴って帰っているだろう。

 それぐらい桜花スターダムは非常に怪しい契約を持ち出しているのだ。


「……他の方たちは既に契約を?」


「うん、他の七人もガッツリ詐欺を疑ってきたけど、最終的には契約してくれたよ」


「私と妻橋さんのフォローのおかげですけどね……」


(この流れを七回もやったのか……。お二人ともお疲れ様です)


 リゼは心の中で心底くたびれている社長以外の二人に同情した。

 そして、社長以外の二人は信用できると思い、鈴鹿の目を見て口を開いた。


「質問はありません。契約、お願いします」







 オーディションから二日後。桜花スターダムのホームページからプレスリリースが発表された。


≪第一回桜花スターダムオーディションに合格した以下二名が一週間後の五月五日にWetubeの個人チャンネルにて初配信します。皆さま振るって御視聴ください!≫


≪姫を護る伝説の戦士、グリゼルダ・レジェンド≫


≪美しき珠玉の姫、真珠姫≫


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