ぎんなんの、おいしい季節になりました

 家族連れが、ぎんなんを取りにやってきた。

「今年はまた、実がたくさんなっているなあ」

「天気が良くて、お月様がよく出てたから」

 たくさんのぎんなんを見上げて、夫婦は満足そうだった。

「ねえねえ、おかあさん。あれほしい。あの実とってえ」

 まだ小さい女の子が指をさして、取って取ってと騒いでいた。

「あれはちょっと古いわ。熟し過ぎよ。だいぶ年寄りじゃないの」

 母親は、もっと若くてみずみずしい実のほうがいいと言う。

「おい、これなんかどうだ。二つあるうちの片方が異常にデカいぞ」

 夫が大きな実をムギュッとつかんで引っぱった。腕力が存外に強力なので、ぎんなんを包んでいる皮が限界まで伸びる。

「それほしい、ほしいの」

 女の子が、ほどよく成長した犬歯を見せておねだりした。

「それって病気の実じゃないのさ。食べたらヘンな味するよ」

 食材の目利きに関して、母親は慎重だ。とくに我が子の口に入るので、健康なモノだけを持ち帰る気である。

「こっちのが良さそうよ。実の色がきれいだし、血管も太くて血行が良さそう。きっとコリコリしてジューシーで、お刺身でもイケるよ」

 彼女の爪は鋼鉄のように硬く、しかも切れ味がよい。爪を立てて握り潰すように引き千切った。凄まじい悲鳴があがるが、ぎんなん取りにはよくあることなので気にもされない。

「わたしもとりたい、とるう」

 鬼の女の子は、自分で取りたいようだ。

「じゃあ、持ちあげてやるからな。おまえの爪じゃまだ無理だから、この鋸を使うんだ。根元から切るんだぞ」

 鬼の父親が子供を持ち上げた。小さいが不吉すぎる手が睾丸をギュッとつかむと、次なる凶事に脅えた男が悲鳴をあげる。

 鬼たちが捕らえた人間の男は、逆エビ反りにしてから両手首、両足首を一つに縛って吊るされていた。二百体を超える男たちが、ちょうど陰部が真下になるようにぶら下がっている。

 今年は晴天に恵まれたので、夜の人間狩りは順調だった。数多くの獲物が捕らえられて、鬼たちの棲む巨大な洞窟に集められた。腐らないように、極力生きたまま保管されている。

 取ったぎんなんを手籠に入れて、親子は洞窟の先へと進む。入れ物の網目からは、ひどく生臭い鮮血が滴り落ちていた。

「次はスイカね」

「でっかいのがいいなあ。この前は双子だったよ。あれは美味かった」

「でっかいのう、でっかいのう」

 鬼の子がうれしそうに、はしゃいでいた。


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