第14話 挑戦者

「第一回ロスカ弱すぎ会議を始めたいと思いまーすいぇーーい」


(ダマレーー)


 野営中の一幕。シェルネと俺が拍手して、ふざけた名前の会議が始まる。


「私はロスカが戦い慣れしてないのが原因だと思います」


(俺もそうだと思います)


 そりゃ、いきなり戦えって言われてもねぇ。今んとこ相手って、ドラゴンと化け物王子たちだしさぁ。明らかに初心者向けの相手じゃない。


「そこで! これから帝都に向かう途中で出会った戦えそうなやつに、片っ端から喧嘩を売っていくというのはどうでしょうか!」


(ん〜、却下!)


「……理由をお伺いしても?」


(まず相手のレベルを考えないと練習になりません! あと、ここはもう王国ではないのでシェルネの王族パワーでゴリ押せません! 捕まります!)


「なるほどなるほど」


 帝国の城に忍び込む前に、指名手配犯になってどうする。


「異議あり!」


 しかしシェルネが元気に挙手をして食い下がってきやがった。


(はいシェルネさん)


「捕まります、とのことですが王国での旅路を思い出していただければ分かる通り、ロスカさんのスピードなら誰にも捕まえられないのでは? そして罪を犯し追われる身となったとしても、我々はその情報が届くより先に動くことができます……問題ないのでは?」


(さすが小賢しいことに定評のあるシェルネさんですね! 道徳と倫理観があればパーフェクトです! でも残念! 道徳と倫理観がないので0点です!)


「……じゃあどうするのさー」


 シェルネが不貞腐れて、俺の頬をぐにぐに引っ張り出した。


(とりあえず片っ端からってのはやめようぜ)


 めちゃくちゃ強かったらどうすんだよ。こちとら素人だぞ。


「えー」


(俺より弱そうなの狙いまくろうぜ)


「女、子どもとか?」


(流石にどうよ)


 マジでイカレてんな。こいつが王位継承権一位じゃなくてよかったなアルダフォール王国。一代で国を滅ぼす逸材だろ。


(そういや魔物とかは? ドラゴン以外にもいんだよな?)


 化け物がいるって話は聞いたけど、全然見かけてない。まだドラゴンだけだ。


「いるけど、大抵はロスカに警戒して近寄ってこない。戦おうとしても、逃げてる背中にトドメ刺すだけになるんじゃない?」


(そんじゃ意味ねぇな。飯にすんなら兎も角)


「強い魔物ならその限りじゃないんでしょうけど。ドラゴンは来たわけだし」


(あのドラゴンくらいなら丁度良さそうなんだけどな。大したことなかったから)


「うーん……」


 腕を組んで考えている。少し俯いていたが、ハッと何か思いついた様に顔を上げた。どうせ碌でもないことだろ。


 そして翌日。


 帝国領初の村を訪れた俺たち。


 いつものことながら、俺を見て村人たちが怯えている。もう慣れたもんだ。


 どこ吹く風、と村の広場まで歩いていく。


 この世界では村人を魔物の脅威から守るため、数人の騎士が村に常駐してるらしい。その騎士たちがおろおろとしている。


「止めた方がいいよな?」


「だな」


「お前がいけよ」


「言い出しっぺだろ。お前がいけ」


「ちょ、お前がいけって」


 女子に話しかけようとする男子中学生みたいな騎士だ。互いに肘で小突いて仕事を押し付けあっている。


「静粛に!」


 シェルネが俺の上から声を張り上げた。王族モードだ。村人たちは何が始まるのかと黙ってみている。


「我々はチャレンジャーを募集している! 腕に自身のある者は是非、このロスカと手合わせ願いたい!」


 そう言って俺の頭をテシテシと叩く。


 昨日思いついたのこれか? 


 襲うよりマシだけど、騎士があれなら誰も来ねぇだろ。


 案の定、「何言ってんだ?」みたいな顔で見合わせる村人たち。何ともいえない空気が続く。そんな中、腰の曲がった爺さんが前に出て来た。


 シェルネが口を開く。


「チャレンジャーか!」


「ち、違いますじゃ!」


 爺さんが慌てて首を振る。


「帰れぇ!」


「ま、待ってくだされ!」


 爺さん困っててワロタ。


「では何故前に出てきた!」


「聞いていただきたいことがあったんじゃ!」


「チャレンジャーか!」


「ちゃ、チャレンジャーという訳ではないのじゃが……」


「帰れぇ!」


 だめだ。まともそうな爺さんが太刀打ちできる相手じゃない。


「は、話だけでもどうか……!」


 尚も食い下がる爺さん。そのタフネスにあっぱれ。俺なら中指立てて諦めてる。


 シェルネがつま先でトントンしだした。あー、めんどくさがってんな。ただ俺に乗った状態でそれすんのやめてくんね。俺の腹蹴ってんだよね。


 そして僅かな沈黙の後、シェルネはゴミを見る様な目で睥睨する。それはもう冷たい目だった。こいつの内面を知らなかったら超怖ぇと思う。


「……お腹が空いたわね」


 村人たちは言葉を失う。


 察した爺さんが目配せして女の人が数人、慌ただしく走っていく。


「た、只今お食事をご用意致しますので少々お待ちいただければと思いますじゃ」


 いつの間にか王女としての待遇になってねぇか。偉そうにしてりゃ割といけるもんなのか?


「……」


 シェルネは何も言わない。爺さんは変な汗をかき始めてる。


「そ、それで話なのですが……」


 恐々としながら爺さんが話し始めた。爺さんのゴリ押しも結構すごいぞ?


 んで爺さんの話によると、つい先日、村の近くにアイアングリズリーって魔物が出たとのこと。鉄の鎧すら粉々に砕ける硬え毛皮の巨大熊らしい。


 今んとこ被害は農作物だけで済んでるらしいが、人的被害が出るのも時間の問題。しかし村に送られてきた騎士じゃ敵わない。偶々国境付近に来ていた実力者である第二皇子が戻って来るのを待つつもりだったが、そこに俺らが現れたと。


「強い相手と戦いたいとのことでしたから、貴女方にとっても良い話かと思いお話しさせていただいた次第ですじゃ」


 なるほどねー。


 俺たちは出された飯を食いながらそんな話を聞かされた。


(それってあいつのことか?)


「ん?」


 俺が顔を向けて示すと、シェルネがソーセージを食いながらそっちを見た。


 デカい獣が四足歩行でのしのしと歩いてくる。艶のある黒い毛に光が当たり、銀色っぽく見える。飢えているのか涎を垂らし、獰猛な瞳を村に向けていた。


 俺の知ってる熊の三倍はあるけど……。


 遅れて村人たちもそちらを向く。


「ぎ……」


「ぎぃやぁぁぁぁぁぁ!?」


 村中でパニックが起こった。

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