第12話 兄妹愛
シェルネが腕を振り、グングニルを構えた。
それを見てニィッと口端を上げたエリアスが大剣を構えて突っ込んでくる。低い姿勢での横薙ぎ。俺の脚を狙った先制攻撃。
(あっぶねっ、千切れるって!)
俺は咄嗟に後ろ脚で立ち上がった。
大剣が空を斬る。しかしエリアスは振り抜いた勢いを殺さず、弧を描く様に反転させた。流れるような斬り上げが俺の腹に迫る。
(ぎいぃやぁぁぁぁぁぁ!)
冗談抜きに死ぬぅ!
危機を感じて、反射的に空へ駆けた。
「は? っ、おいずりぃぞ!」
空を飛んだことに驚くエリアス。
ふぅ。流石に空は飛べないらしい。エリアスなんてもう人間辞めてっから、下手したら空も飛べんのかと思ったわ。
「ちょっと、なんで逃げるの!」
俺が心を落ち着けてたら、上から心を乱す声が。
(なんでって、あんなゴッツイ剣あたったらどうすんだよ!)
「ロスカなら大丈夫でしょ! たぶん! やられっぱなしじゃ私の気が収まらない!」
(たぶんってふざけんなよ! お前の気なんか知るか!)
「はいでたビビり」
あ?
(マジあいつら百回ぶち殺すぞ)
大体、あいつら空まで追って来れねぇならよぉ。
(シェルネェ! こっから雷撃ちまくれ!)
「あはっ! わかったわ!」
シェルネがエリアスに向けて左手を翳す。その腕に付けられた金色の腕輪から、雷撃が放たれた。
「はぁ!?」
慌てて避けるエリアス。しかし続け様に雷撃が降り注ぐ。
「っ、お前らずりぃぞ!」
「あははっ! その無様な姿、とてもよくお似合いよエリアス兄様!」
シェルネが最っ高に生き生きしてた。
「おいエリアス。お前の妹は大丈夫なのか」
「なんかあったらすぐ調子に乗るやつなんだよっ」
腕を組んだ金髪が、エリアスに話しかけている。エリアスは余裕なさそうに雷撃を避けながらも、なんとか応じていた。
「手を貸そうか?」
「……ああ、頼む。飛ばせろ」
エリアスは少し悔しそうにしながらも、素直に頷いた。
「容易い」
金髪が呟く。大剣の柄を両手で持ち、大地に突き刺した。すると大地に巨大な魔術陣が浮かび上がった。
(おいなんかしてくんぞ!)
「やれるもんならやってみなさいよ!」
シェルネが金髪に狙いを変える。
「させねぇ!」
エリアスが金髪の前に飛び込み、大剣で雷撃を弾いた。
「痛ってぇな!」
大剣と雷撃の衝突による反動はきつかったらしい。
いや、感電すんだろ。普通。
「行くぞ!」
金髪が構築していた巨大な魔術陣。そこから大地の柱が飛び出した。
「ナイス、ヨハン!」
複数の柱を足場にしてエリアスが跳び上がってきた。
(あいつら何でもありかよ!)
「空中戦なら足場が無くても飛べるこちらに分があるわ! 撃ち落とすわよ!」
エリアスが空中で雷撃を弾く。しかし反動でエリアスの体が横に飛ばされた。これなら直ぐに落とせるかと思ったが、ちょうどそこに大地の柱が迫り上がる。エリアスはくるっと宙返りして柱を蹴り、再びこちらに詰めてくる。
「あれ邪魔ね!」
シェルネがグングニルを投擲する。
エリアスは雷撃と同じように弾こうとしたが。
「っ!?」
すんでのところで思いとどまり、体を捻って回避した。グングニルが容易く背後の柱を砕くのを見て目を見開く。
「なんでその槍持ってきてんだよ国宝だろ!?」
「王国のものは私のものよ!」
ジャイアニズムぱねぇっす。シェルネさん。
シェルネが俺のアースメギンを動かし、グングニルを縦横無尽に飛ばす。それはエリアスを狙うと同時に、柱を破壊し続けた。
柱はもう殆ど残ってない。どうすんのこれ?
「っ、さっさと決めねぇと、な!」
エリアスが舌打ちをする。
すると、砕けた柱の破片を足場にして跳躍を繰り返し始めた。
うそーん。
さっきよりも遥かに速度を上げて迫りくる。かえって足場が増えたことで、小回りが利くようになっていた。
シェルネはグングニルを手元に引き寄せ、接近戦に備える。落とせないとわかっていながらも、雷撃を連射した。
エリアスは時に弾き、時に躱しながら、俺たちの眼前に迫った。
「……こっちばっか見てていいのか?」
はっ、と下を見ると大地の槍が勢いよく迫り上がってきていた。
これを警戒させないために、金髪はずっと攻撃してこなかったのかよ。
「土魔術は任せたわよ!」
(やってやらぁ!)
全てを貫かんと迫る大地の槍。その先端を、俺はやけくそでぶっ叩いた。大地の槍の先端が砕け、衝撃が大地へ浸透する。波打つように伝わる衝撃が、大地の槍を破壊していき、魔法陣が展開されていた大地に到達して弾けた。
金髪が吹き飛び、遠くで受け身をとっている。
一方シェルネは。俺が前屈みの姿勢になったことで、少し前方に押し出された勢いを使って槍を薙ぎ払う。紙一重で避けたエリアスの頬に一筋の傷がついた。
「これでっ!」
エリアスが、グングニルを側方から弾き飛ばした。シェルネの手から槍が離れる。
「槍を動かしても間に合わねぇぞ!」
シェルネが苦し紛れに、至近距離で雷撃を放つ。それが当たる筈もなく。
エリアスが大剣の腹を向けて、シェルネに薙ぎ払う。
「きゃあっ!」
(おいっ!?)
シェルネが大剣を避けようとしてバランスを崩した。らしくねぇ、まるで女子みたいな声を上げて落ちていく。
「っ!」
しかし戦いはすれども、兄妹。
エリアスがシェルネに向かって手を伸ばす。
「エリアス兄様っ!」
シェルネは媚び媚びボイスを上げて、エリアスの手首を掴んだ。
右腕で。
「?」
エリアスはなにか違和感を感じたのだろう。その直感は正しく、だがもう手遅れだ。
邪悪に笑うシェルネの右腕には、金色の腕輪が付いていた。それは『九夜の腕輪』が創り出したもう一つの腕輪。
付けられた名は『星縛の腕輪』。
その力は、触れた対象の重さを引き上げる。
「くたばれェクソ兄貴ィッ!」
星縛の腕輪の力が、エリアスに流れ込む。
「なっ!?」
シェルネが手を離すと、超重量となったエリアスが高速落下する。地に叩き付けられ、衝撃が周囲にまで伝播した。土埃が舞いその姿が隠れる。
俺は落下するシェルネを背中で受け止めた。
「ちょろいものだわ!」
(あのさぁ……)
さすがにちょっと引いたわ。
煙が晴れると、大地には人の形の穴が空いていた。
(死んだんじゃねぇの?)
「死なないから面倒なのよ」
もう人間に似た、前世の人間とは違う何かなんだろうな。
俺とシェルネが地上に戻り、金髪に近づく。
「それではごきげんよう」
「あ、ああ」
金髪は、シェルネにまるで悪魔でも見るかのような目を向けていた。正解!
「ひゃ〜っ! 気分がいい!」
(性格最高!)
気持ち良さそうなシェルネと俺は、その場を後にした。
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