第11話 バトルジャンキー

 俺たちは街中だとそれはもう目立った。俺の馬だか竜だかわからん化け物みたいな見た目の所為もある。他にも、付き従う複数の兵士の存在も大きかった。


 しかもどうやらあの偉そうなおっさん、街中に御触れを出してたっぽい。間違っても一国の王女にバカな真似をする輩が現れない様に徹底していた。


 当然俺らは話のネタにされる訳だけど、聞こえてきた話ん中に気になる名前があった。


(エリアス殿下ってことは、兄弟だよな? 近くに来てるらしいぞ)


「エリアス兄様は自由な人だから、何処にいても不思議じゃないんだよね」


(兄様……ぷふっ。似合わねぇーー!)


 笑っていると。


 チャキッ、と首筋に冷たい感触が。


 ……グングニルはやめようぜ。


(……何しに来てんのか知らねーの?)


「さあ? 何か聞きつけては、突然何処かへ行くから。私には関係ないし気にしてなかったなー」


(はーん。とりあえず無視でいい?)


「もちろん」


 それからは数日掛け幾つかの村を通過して、帝国への道を順調に進んでいた。


(帝国ってどんなとこなん?)


「海に面してるから、王国うちより水産資源が豊富かな。あとは土魔術陣の技術開発力が高いから建築とか農業も発展してるイメージ?」


(なんでもあんじゃん)


「そうなんだけど肝心の鉱山が少ないんだってさー。幾ら食料自給率が高くても、今の時代、魔術陣を刻むのに適した魔力伝導率の高い素材が他国依存ってのは結構しんどいらしいよ」


(それな〜……)


「わかってないでしょ」


(魔力界の伝道師ですらタコ食い損ってのはきちいよな)


「憐れね」


 シェルネの残念なものを見る目を無視して歩いていると、横の方で重いものが勢いよくぶつかった様な、大きな衝撃音が響いた。何度も何度も。


 そっちに目を向けると結構な数の人影が見て取れる。


(祭りでもやってんの?)


「楽しそうね。行ってみましょ」


(行くしかねーよな)


 衝撃音が鳴り続ける方へ歩いていく。


「げっ……」


 近づいてみると人影の正体は、鎧を着た騎士っぽい奴らだった。二つの勢力に分かれておりそれぞれ別の鎧を着ている。シェルネの嫌そうな反応的に、片方は王国の騎士なんだろう。ってこたあもう片方は帝国の騎士か?


 そして騎士たちが見守る中、大剣を振り回して戦う男が二人。


 銀髪のイケメンと金髪のイケメンだ。


「戻りましょ」


(えー)


 なんか面白そうなことやってんのによぉ。


 少し名残惜しかったが、俺はそそくさと踵を返した。


 しかし。


「んあ? ちょタンマ! わりぃ、あれ妹だわ」


 男の声とともに衝撃が止む。


「おーい! シェルネー! おもしれーのに乗ってんな! ちょっと貸してくれよ!」


 見つかってしまった様だ。


 ニコニコと銀髪のイケメンが手を振りながら、こっちに歩いてくる。


「走って」


(挨拶くらいしといてやれば? 大事な兄様ぷふっ、なんだろ?)


「い・い・か・ら!」


(はぁ……。わーったよ)


 あんま仲良くねーのかな?


 知ったこっちゃねーけど。


(ちゃんと掴まっとけよ)


「わかってるって」


 そうして俺がスピードを上げ始めた時。


「ふははっ! 珍獣か! いいな!」


 金髪のイケメンがそう言うと。


「乗れっ! エリアスっ!」


 大剣をこちらに向けて投げ飛ばしてきた。金髪の膂力はゴリラも真っ青な程で、もの凄い速度で大剣が迫ってくる。


「おっ、気ぃ利くな! サンキュー!」


 更には銀髪、エリアスが大剣に飛び乗った。


(シェルネの兄貴めちゃくちゃじゃねーか!?)


「あーいう人なの! うち一番の変わり者で、バトルジャンキー!」


 いや、一位タイだろ。もう一人はもちろんお前な!


 大剣に乗ったエリアスは、まだ加速しきっていなかった俺を追い越した。この体の瞬発力はかなり高けぇんだけどそれでも間に合わなかった。


 エリアスが飛び降りながら大剣を掴む。自身の大剣と合わせて両手に一本ずつ手にしていた。空中で体を捻り、こちらを向く。更に二本の大剣をくるりと逆手に持ち直し、それを地に突き刺し急制動をかけ、俺たちの前に立ち塞がった。


(か……)


「ん? ロスカ?」


(かっけぇよ兄貴ぃ!)


 なんだよあれ俺もやりてぇ!


 目を輝かせて感激する俺をシェルネが呆れた目で見てくる。ったくよぉ。兄貴じゃなきゃお前だって感動してたろどうせ。


「逃さねーぞ?」


 言いながら大剣を投げる。それは俺たちの背後へ歩いてくる金髪イケメンの手に収まった。


「見たことのない魔物だ。アルダフォールではよく見かけるのか?」


「いんや、俺も初めて見た」


「強そうだな」


「ああ、やべぇ感じがガンガンくるわ」


 前門のバトルジャンキー。後門のバトルジャンキー。


「っはぁ……」


 シェルネが大きく溜め息を吐く。


「気絶でもさせないと、どこまでも追ってくるパターンだわこれ」


 今みてぇにギラついた目の兄貴を見たことあんだろうな。


(やるしかねぇよなぁ!)


「いいわ。やってあげる。妹だからって舐めた真似できない様、完膚なきまでに叩き潰すわよ!」


 お、おおう……。シェルネまで目がギラついてやがる。昔なんかあったんか?

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