第3話 ルーンを求めて

「まっ魔物だと!?」


 おっさんが短剣を構え、一定の間合いからこちらの様子を窺っている。


 怖えよ!


 凶器を向けられたので、とりあえず俺も槍を正面に浮かせて牽制する。


「なっ、グングニルがなぜ動いている!?」


 謎言語を喚き散らすおっさん。


 どうしたもんかね。


 一番問題なのは悪いのは俺だってことなんだよね。これで槍使っておっさんぶっ飛ばすのは流石にどうよ。


 おっさんは悟られぬようにか、じりじりとすり足で後退している。


 おっとそれはよろしくない。


「くっ! 完全に制御しているというのか!?」


 俺は体中を廻る青い光を動かし、おっさんの退路を槍で阻んだ。考える時間をください。凶器持った人たくさん呼ばれるのはちょっと……。


 時間を稼いだのはいいものの、名案は思い浮かばない。なんでこんな体になってんのかも、ここがどこかもわからない。現状を把握するためには銀髪女子に話を聞くのが一番だと思うけどどっか行ったし。すぐ戻ってくるとは言ってたけど、このまま耐えれるか?


 そうして無い頭を使ってあれこれ考えていると、


「ちょっと!? これどういうことよっ!」


 倉庫外の様子は見えないが塞いだ退路の先から誰かが駆けつけてきた様だ。


 ……一旦逃げるしかねぇか。


 この建物の構造も周辺の地理もねーけど、それしかないよなぁ。


 俺は槍を正面に構え直し、おっさんを下がらせながら倉庫を出た。ここって地下だったんだな。


 きょろきょろしてるとおっさんの後ろに銀髪女子を見つけた。服の上からプレートアーマーとガントレットを身に付け、ブーツはグリーヴに履き替えられていた。背中には大きな鞄と槍を背負っている。


 ……何そのいかつい装備。


 俺のことやっちゃおうとしてない?


 待ってて、ってそういうこと?


 はあぁぁ?


 舐めたことしてくれんじゃないの。


 俺は槍をぶんぶん振り回して銀髪女子とおっさんを退かせる。


「きゃっ!? どうしたのよ! さっきまでは友好的だったじゃない! ……まさかあんたなんかしたんじゃないでしょうね!」


「い、いえ、私はなにもっ!」


 何やら銀髪女子がおっさんの胸ぐらを掴んでぐらんぐらん揺らしている。


 仲間割れか?


 これはチャンスだ、と揉めている二人の横をそそくさと通り過ぎようとした時。体に触られた。


「待ってよ! どうしたの?」


 銀髪女子の言葉がすんなりと理解できる。


「ググゥ」

(俺は逃げる!)


「私も一緒に行くわ!」


「ウゥ」

(え、なんで?)


「こんなとこもううんざりなのよ! その為に準備してきたんだから!」


 準備、と聞いて銀髪女子の背負った大きめの鞄が目に付く。確かに俺を殺す為なら鞄は要らない気もする。というか動きの邪魔だ。ってことはフル装備してんのも遠出の準備ってことなのか?


 出歩くのに鎧着るってどんだけ治安悪いんだよ。ここは紛争地帯かなんかか?


「殿下、何をお一人で……」


「黙りなさい!」


 ひぅ!


 なんか言ったおっさんに銀髪女子が怒鳴りつけた。やめろよ怖えよ。


「グルァァ」

(俺のこと殺さないかんじ?)


「なんでそう思ったか知らないけどそんな訳ないでしょ! 私は貴方と旅をするんだから!」


「グル……」

(え、俺は旅なんてしないけど……)


 キッ、と銀髪女子に睨まれた。


「グルゥン!」

(あー旅してぇ! ってか旅に出ないやついるぅ! なんならもう俺が旅なんだが!)


 銀髪女子が満足そうに頷いた。


 ふぅ。


 俺の直感が言ってる。銀髪女子は怒らせちゃダメな系だ。


「話せなくなると面倒だからついてきて」


 俺はしぶしぶ銀髪女子についていき倉庫内に逆戻り。銀髪女子は金色の腕輪を嵌め、宝石類等を幾つか見繕って鞄に入れていく。


「これくらいあれば暫く大丈夫でしょ。行こっか」


 銀髪女子が俺の背に飛び乗った。何故か俺の体には元々鞍みたいなのがついてて、それも体の一部らしく感覚があった。女子のケツって意外と硬ぇんだ。


「グングニル貸して」


グングニルなるものを所望してくる。たぶん槍のことだろうけど、上に乗られた挙句に槍なんて持たれたら俺のこといつでもやっちゃえますやん。


「早く」


「グゥ」

(はい)


 銀髪女子は手元にグングニルを浮かべると、手に取り扉の方へ投げた。


 派手な破砕音が響き渡り硬質そうな壁が木っ端微塵になる。


 えぇ……。


「なるほど。こんな感じね」


 青い光を使ってグングニルを手元に引き戻した銀髪女子が、グングニルを色んな角度から見ながら呟く。


「だいたいわかったわ。行きましょ」


「グルル」

(はいはい)


 俺も落ち着いて状況を整理するために、ここからは離れておきたい。


「ここは通しませんぞ!」


 グングニルを持った銀髪女子を乗せて倉庫を出ると、軽鎧のおっさんが増えてた。一人だけイケメンもいる。ちっ、人呼びやがって。


「グガァ」

(どうすんのこれ)


「ていっ」


 銀髪女子がおっさんたちの真上の天井にグングニルをぶっ放した。天井に大きな穴が空き瓦礫が落ちる。乱暴が過ぎますぞ。


「うおおっ!?」


「あっぶね!?」


 おっさんずとイケメンが慌てて後方に退避していた。どんまい! そして破壊の化身グングニル先生は銀髪女子の手に再び収まる。


「穴の上まで飛んで」


 おっけー穴の上まで……って天井どんだけ分厚かったんだよ。くそ高いけど。地下とはいえさあ。


「ガグァ」

(さすがに無理じゃね?)


「そうなの? 貴方ならできそうだけど……じゃあグングニル咥えてて」


 そう言って銀髪女子がグングニルの柄の部分を口に運んでくる。咥えたけど、何故に?


「絶対放さないでよ」


 銀髪女子によってグングニルが青い光で上に持ち上げられる。


「グルッ!」

(おい、まさか……!)


「飛んでけぇーーっ!」


 どんだけぇーーーーーーーっ!?


 グングニルに引っ張られて、俺たちは強引に穴の上まで飛んでいく。かなりの速度だ。あれだけ高く見えていた穴の上までもうたどり着いてしまった。


「ヴゥ……ヴゥ……」

(し、死ぬぅ……)


 心臓がバクバクいってる。グングニルを放して荒い息を吐いた。


「ったはぁーっ! ルーンの力は最高ね!」


 方やご満悦な銀髪女子。


「シェルネ! ふざけた真似はやめないか!」


 穴の下から声が聞こえてきたので俺と銀髪女子がひょっこり覗き込む。どうやら声の主はイケメンらしい。


「フィン兄様! 私はふざけてなどいませんわ! ルーンを復活させる為に旅立つのですから! 次にお会いした際はルーン女王とお呼びくださいましっ!」


 イケメン、フィンは銀髪女子の兄らしい。なんて言ってんのかわかんねーけど、大方旅に出んの止められたんだろ。


「ムッツリン公爵家との婚約はどうする!」


「チェンジで! 困るならフィン兄様が嫁げばいいのよ! ほら、さっさと行こ!」


 銀髪女子が俺に乗り直し催促してくる。


「おいっ、話は途中だ!」


 イケメンがなんか叫んでるけどまあいいだろ。


「グルー?」

(どっち行けばいい?)


「あっち!」


 銀髪女子が指差した先は……壁に見えるけど。


 困惑する俺を他所に、銀髪女子の投げたグングニルが壁を吹き飛ばした。なんて大胆なショートカット。俺は一直線に走り続け、何度かグングニルショトカを挟みつつ外に出た。


 陽の光も空気の匂いもやけに久しぶりな感じがして超気持ちぇー。後ろを振り向くとさっきまで居た場所が立派な城だってことがわかった。


 大分壊したけど大丈夫か?


 ……知ーらねっ!


 俺は解放感に身を任せ、城から離れるように目一杯の力で跳躍した。


「グルァァァァッ!」

(うそーん!)


 ちょ、高い高い高い高い!


 これなら地下からも余裕で跳び出せたわ!


「ひゃっほーうっ!」


 城は小高い丘の上に建っていたようで、俺のとんでもない跳躍力と合わさり下を見ると街を一望できた。


 ぎゅっと詰まったように並ぶ煉瓦色などのカラフルな建造物に、街を横断する透き通った川。川には赤や白の船が浮かんでいてすごく綺麗な街並みだ。俺は気に入りました!


「ほんと最っ高〜! 行きましょ! ルーンが私たちを待っているっ!!」


「グルアァァァァ!」

(うおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!)


 なんか楽しそうだから乗っておいた。

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