第2話 神獣
急に光が差し込んできた。目閉じてたのにくそ眩しいんだけど。
うっすら目を開けてみたものの視界がぼやけすぎててよくわからん。
ってか俺死に損なったのか。
紐切れたとかか?
徐々に鮮明になった視線の先に女子がいた。どこの国の人だよって感じの、銀髪で顔が整いすぎてるたぶん同年代の女子。
ぎり死ぬ前にこいつが止めに来たのかな?
とりあえず不法侵入者だし警戒した方がいいか。なんか見たことないくらいキラキラした目で見られてるし、でかい槍持ってるし。
そこでふと周囲を確認してみた。
美術館とも違う気がするけど剣とかアクセサリーとか宝石とか何に使うかわからん小道具とかが綺麗に並べ慣れてる。ガキの俺が見ても、どれも価値のありそうなもんばっかりだ。
あれ、不法侵入者……俺じゃね?
目が冴えてくると、なにかまずい状況なんじゃないかと思えてきた。スーッと血の気が引く。とにかく状況を把握しないと。
正当防衛でこの女子にボコされるかもしれない。
ただ、槍からは手を離してくれている。両手を合わせて知らん言語をペラペラ喋りながらヤバイ目で見つめてくるから怖くて仕方ないけど。
女子が少しずつ近づいてくるので後ろに距離をと……。
?
咄嗟に体を動かしたけど、なんだ今の感覚。
立ち上がったつもりが四つん這いでサワサワ動いた。俺の手どうなって……。
……恐竜の足?
いやまって、なにが?
右手確認しただけの筈なのに恐竜みたいな足が二本見えた。とりあえず左手を見るとそこにも恐竜みたいな足が二本。
首を捻って下半身を見ると馬の脚が四本。
しかも手足含めて体中に黒と金の装甲? みたいなのが付いてる。
つまりあれか。俺は脚が八本ある恐竜だか馬だかわからん化け物になったってことか。
……納得できる訳ないよねぇ!?
えぇ?
ええええええええええぇぇぇェー!?
何度も何度も自分の体を確認していると、いつの間にか銀髪女子がすぐ側まで来ていて俺の肩に触れた。
「お、おお落ち着いてっ! どうしたのっ、どこか痛みゅっ!?」
……は?
急に銀髪女子の言葉が理解できるようになった?
「おおお落ち着いてっ! ね、一旦落ちちゅこ!?」
落ち着くのはお前の方だ。
……。
あれだ、緊張してても自分より緊張している人見ると冷静になれるってやつ。
おかげで少し落ち着いた。
まさかこの現象を見越しての神プレイってことは……
「あああどうしよ!? せせっかく神代の魔獣が孵化したにょになんか調子悪しょうなんだけどっ!?」
ないな。
なんで急に言葉が理解できるようになったのかだけど、たぶん銀髪女子が付けてるネックレスが原因だと思う。俺の体から銀髪女子の体を伝って変な青い光がFみたいな形のネックレスに集まってるから。
どうにか俺もしゃべれないものか。
「グルルッ」
(あー、あー)
「誰っ!?」
銀髪女子が慌てて扉の方を見た。しかし、その先には誰もいない。きょろきょろと周囲を確認するが結果は同じ。
「グラウゥ」
(えーと、こちら貴女の前にいる化け物です……)
「えっ? ……貴方なの?」
銀髪女子がきょとんと俺を見る。
この反応は、伝わってるか?
「ゴアァ」
(そうです)
「すごっ! えっ、なんで!?」
「グガルルルゥ」
(貴女のネックレスが原因だと思います。俺から青い光が流れてるから)
「ネックレス? 青い光なんてどこにも……っ!? もしかしてルーン適性魔力を視認できるの!?」
「グゥ」
(これがルーン適性魔力? ってのかはわかりませんが)
「すごいっ! すごいわっ! しかも私が付けているネックレスが起動したってことは貴方に触れていれば貴方のルーン適性魔力を利用して私もルーン魔具が使えるってことでそれってもう私がルーン適性魔力を宿したのとほとんど変わらな……」
ペラペラペラペラ。
喋る喋る。
またどんどん目がヤバくなってるし頬も上気してきた。呼吸まで荒くなってる始末だ。
銀髪女子がトリップしているうちに改めて自分の体を確認するがやっぱり化け物だった。
人間だった頃と構造が全然違うのに思い通りに動かせる。人間だった頃の意識のせいか違和感はあるっちゃあるけど動かす分には問題ない。むしろ体力が有り余るというかエネルギーが溢れてる感じがあって体調は最高に良い。
あとはここがどこで銀髪女子が何者かだけど。
場所に関しては倉庫ってことくらいしかわからんな。
銀髪女子は襲いかかってくることも無さそうだしとりあえず安全と判断していいと思う。
銀髪女子が味方なら有難い。身なりからして裕福そうだからだ。
鎖骨の辺りと肩のところが透けた素材の白いシャツを着ていて肘から袖までは少し膨らんだシルエット。上品なベルトの内側にシャツを通していて、シャツは下の方のボタンだけ外しているらしく腰から下で左右に分かれている。黒のパンツとブーツもあっていると思う。
なんというか服の素材感が高そうだし品がある。たぶん金持ちだ。
品がないのは現在進行形で恍惚としている表情だけ。
彼女の庇護下に入れるなら当面困りそうにはない。
まあもともと自分で死を選んだ訳だから、拷問とかされなければ死んだら死んだでいいんだけど。
この体で生きてて何が楽しいんだって話だしね。
銀髪女子が俺から手を離したことで、既に彼女の言葉は理解できなくなっていた。彼女の口から出るさっきまで理解できてた筈の音が鼓膜を震わす度、俺の知能指数がゴリラ化してしまったんじゃないかと心配になる。
ふとトリップから帰還した銀髪女子がこっちを見て再び俺の肩に触れた。
「ちょっと待っててくれる? すぐ戻ってくるから! 絶対動かないでよ!」
一方的にそう告げて倉庫を出て行った。
動かないで、と言われたから動かないでおこう。
……。
この思考はだめだ。
誰かに言われたからって理由で、自分から動くことやめたら碌なことにならない。
常道や規則が守ってくれる訳じゃないなら、そんなもん気にしててもしゃーない。動こう。
さて、まずは倉庫内を見て回ろっかな。
なんといっても気になるのは壁に立て掛けられた槍。さっきまで銀髪女子が持ってたけど普通の中学生が持ってていい代物じゃない。槍からオーラというか、ただならない何かを感じる。感覚的には銀髪女子のネックレスを見た時と似てる。
銀髪女子のうるさすぎる独り言によると、俺が触れることで特殊ななにかが起こるらしい。触るのはやめておこう。
……。
…………。
ちょっと、ほんとにちょっとだけ。これはガチ。ほんーのちょっとだけなんだから。
恐竜みたいな前足でちょん、と槍を小突いた。
するとネックレスの時にも見た青い光が俺から槍へ流れる。まるで青い光が実体を持って支えているかのように、槍は宙に浮かび上がった。
おお!
しかも意識を向ければ青い光を自分の体のように動かせる。伸縮自在。ぐにゃぐにゃと動く青い光に合わせて槍が飛び回る。
うおおおっ!
なんか面白くて適当に動かしまくっていると、槍が棚に当たってしまった。掠っただけに見えた。にもかかわらず槍は棚を粉々に破壊して、高価そうな品の数々がガチャガチャと大きな音をたてて落ちる。
「なにごとだ!? 中に誰かいるのかっ!?」
異常を聞きつけた軽鎧のおっさんが力強く扉を開け放って入ってきた。相変わらずなに言ってんのかわかんね。
俺とおっさんの目が合うのは、一瞬のことだった。
あれ、俺、なんかやっちゃいました?
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