第139話 やっぱりドラゴパシーって便利だよね
「ちなみにエルドリッヂさん、私のクランに入るつもりはありませんか?」
現世非リアの
転生者なら原作知識も十分あるはずだし、彼が仲間に加わっても文句を言う人はいないだろう。だが――
「嬉しいお誘いありがとうございます、ですが申し訳ございません。実は自前のクランを数ヶ月ほど前に立ち上げているのです」
「えっ、そうだったんですか!?」
「ハイ。ドラゴパシーの量産体制を整えるため、ワタクシは自前の工場クランを立ち上げてしまいました。クランリーダーとなった以上、別のクランへ所属することはできません」
「そうでしたか……」
残念だがこればかりは仕方ない。
それによく考えればエルドリッヂも転生者だ。大好きなゲーム世界に転生したのであれば、自前のクランを持ちたいと思うことのほうが自然である。
「しかし我々は転生という妙縁で繋がった間柄。よければワタクシのクランと、同盟を組んではいただけないでしょうか?」
「断る理由なんてありません! むしろこっちからお願いいたします!」
ということで私たちは同盟を結成。
聖火炎竜団・あたたか牧場に続き、3つ目の同盟クランとなった。
ちなみにエルドリッヂのクラン名は、
「もしリオ様が望まれるのであれば、強力なアイテムや装備品はこちらでお作り致しましょう。またレア素材を抱えておりましたら、それなりのお値段で買い取らせていただきます」
「はいっ、その時はお願いします!」
段々と横の繋がりも増えてきていい感じだ。同盟クランとフレンドの数は多いに越したことはないからね。
これにてエルドリッヂとの話も一段落、転生に絡む話も済んだので私たち三人はリビングへ。
すると食卓には全員が腰掛けており、メイドさんから運ばれてくる食事を雑談しながら待っていた。
「おお、リオ。ようやく話が終わったのか」
「はい。あと事後報告ですが、エルドリッヂさんのクランと同盟を組むことにしました!」
「まーた大事な話を簡単に決めおって。まあ反対する理由はないから構わんのじゃが」
「そんなことよりリオー、早く席につきなよ! スピカとアリャンナの隣が空いてるよ!」
「誰がアリャンナだ、ころ……怒るわよ」
おお、ちょびっとだけアリアンナの態度が軟化してる!
思わず嬉しさでヨシヨシしてあげたくなるが、ここで構い過ぎてはまたウザがられるだろう。
ここはグッと我慢し、適度な距離感を保ちながら接するべきだ。
「アリアンナ、お風呂はどうだった?」
「……まあ、悪くはなかったけど」
「そっか、良かった」
「なによ。なにか言いたいことがあるなら言いなさいよ」
「ううん、アリアンナみたいな強い子が仲間になってくれて嬉しいな~って!」
「別にアンタの仲間になりたくてなったわけじゃない。私は高ランクダンジョンに行きたいから付いてきただけ、期待ハズレだと思ったらすぐに抜けるから」
「任せて! 必ず後悔させない冒険者生活を送らせてあげるから!」
私が揺れない胸をドンと叩いて見せると、アリアンナは私の顔をまじまじと見つめた後、プイッとそっぽを向いた。
うん、今はこれでいい。
それにツンデレ少女が簡単に落ちたら攻略しがいがない。
いずれは私の膝上に平然と座ろうとするくらい懐かせてみせるんだから!
「じゃあ全員揃ったことだし、そろそろいただこうか?」
ルッツの声でみんなが一斉に前を向き、揃っていただきます。
久しぶりにみんなで囲む食卓に癒されつつ、その日はゆったりとした時間を過ごすのであった。
***
そして翌日。
炎竜ハウスの一室で、リブレイズは作戦会議をすることになった。
当面の目標であった桜都の攻略が完了したので、今後の方針を話し合うことになったからだ。
これにはエルドリッヂも同席。そして旧トライアンフ領にいるナガレたちにも、ドラゴパシー越しに参加してもらっている。……そして。
「アリアンナ。久しぶり、元気そうだね」
「……アニキはガリガリじゃない。ちゃんとメシ食ってんの?」
「最近は食べられる量も増えて来たよ。でもまだ胃がたくさんの量を受け付けなくってね、少しずつって感じかな」
「せっかく助かったんだから、頑張って食べなさいよ。解放された後に死んだりしたら……マジで許さないんだから」
「うん、気を付けるよ」
ドラゴパシーにはアリアンナと同じ、赤い髪の少年が映っている。
相手は言わずもがな。アリアンナが人質に取られていた、お兄さんのエーリックだった。
せっかくの再会にも関わらず、アリアンナはドラゴパシーの前で腕を組み、そっぽを向いている。
(きっと照れ隠し、なんだろうなぁ)
アリアンナは憎まれ口を叩きつつも、画面上のお兄さんをチラチラ気にかけている。
誰もがそれを微笑ましい気持ちで眺めている。照れ隠しとわかりつつもそれを指摘する人はいない。だって指摘されたアリアンナはきっと、反対のことを言って飛び出してしまうに違いなかったから。
そうして兄妹のぎこちない会話が済んだ後。歯車組の代表でもあるナガレから、旧トライアンフ領の近況を確認する。
「こっちはまだ半数がテントで寝泊りしてる状況だ。魔物が這い出しせいで土地は荒れたままだし、農業を始められるのはずいぶん先になりそうだ」
ルキウスから解放された歯車組は、全部で二百人。
私はその歯車組を買収&養う費用として、セドリックにもらった4億クリルをそっくりそのままナガレに預けている。
だからこそ食には困っていないものの、安定した生活が送れているとは言いづらい。
なにせ地中から魔物が這い出したことにより、彼らが寝泊りしていた建物は倒壊。現在はその復旧作業だけでも、手いっぱいになっているらしい。
「それに住居を建て直しても、俺たちには農園を作る
「農地開発の専門家、ですか……」
「それなら牧場主のロブが良いのではないか? あやつは畜産だけでなく農業も営んでいたはずじゃ」
「いいですねっ! さっそく声をかけてみましょう!」
「――では通話をお繋ぎしましょうか?」
そう言ってエルドリッヂがマジックポーチから、別のドラゴパシーを取り出した。
「ロブさんの連絡先、ご存知なんですか?」
「当然です。ロブ様のクランはいまやエレクシアでも屈指の産業クラン。ドラゴパシーも発売当日に100台をご購入いただいた、当社の大型顧客に御座います」
「100台!?」
「まあ仕事で使うつもりなら、そのくらいは必要じゃろう。そんなことより早くロブと繋いどくれ」
「了解で御座います!」
そう言ってエルドリッヂは多数登録されている取引先から、あたたか牧場を選択。 ドラゴパシーに呼び出し画面が表示され、私たちは肩を突き合わせて繋がる時を待つ。
(ロブさんか、懐かしいなぁ)
あたたか牧場で会ったクランリーダーのロブは、細目でおっとりしたザ酪農家のような男性だった。
私たちが蟲毒の宣伝を終えた後もダンジョンの客入りは順調で、その売り上げを元手に大型クランへ成長したと聞いている。
私が『激アツ牧場』になれますよ、と力説しても『激アツかぁ~』と他人事に語っていたのが懐かしい。
今や大型クランの仲間入りを果たしたと聞いているが、ロブはどうしているだろう? もしかしたら今も変わらず、麦わら帽子をかぶって牛の世話とかしてるかもね。
私がそんな平和な妄想をしていると、ドラゴパシーに豪華な部屋の一室が映し出された。
(……あれ?)
なんだか想像と百八十度違う映像が表示され、私の頭には特大のクエスチョンマークが浮かぶ。
その部屋は貴族屋敷を思わせるきらびやかな造りで、部屋の細部には繊細な模様や、金箔のアクセントが施されている。
そして画面中央には玉座のような椅子が、こちらに背後を向けながら鎮座している。
「……エルドリッヂさん? これってあたたか牧場の映像ですよね?」
「ええ、もちろん。ロブ様っ、リブレイズとの映像が繋がっておりますよ!」
「ああ~ごめんねぇ。いま作業を終わらせるからあ」
のんびりとした返事と共に、玉座が横に回転して表の姿を見せる。
するとそこにはダブルのスーツに身を包んだ、サングラスの男性が腰かけていた。
「………………誰ですか?」
「いやあ、久しぶりだから忘れちゃったかなぁ。僕はあたたか牧場のリーダー、ロブだよ」
「ウソっ!?」
「本当だよ~リオさんたちのおかげで僕たちのクランは大所帯になってねぇ、色々と環境が変わっちゃったぁ」
「いくらなんでも変わりすぎでは!?」
「そうだねぇ。だからそれに伴ってクランの名前も変えようと思ってね。実は明日からクラン名も『ネオ・あたたか牧場』に変える予定なんだ」
「「「ネオ・あたたか牧場!?」」」
突然飛び出した珍妙な名前に、リブレイズのみんなが素っ頓狂な声で聞き返す。だが私は逆の意味でロブへと食って掛かる。
「げ、激アツ牧場じゃないんですかっ!?」
「あ~そんなことを言われたこともあったねぇ、すっかり忘れてたぁ」
「そんなあっ!?」
絶対に激アツ牧場の方がネーミングセンスあったのに! ……と、私は謎の悔しさに歯噛みするのであった。
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