第137話 ただいま炎竜団ハウス!
ノボリュに乗ってエレクシアを発った私たちは、ニコルにある炎竜団ハウスへと舞い戻った。
「ガーネットさん、会いたかったですー!」
「私もですよ、リオさーんっ!」
屋敷の前で出迎えてくれたガーネットと、人目をはばからず熱烈なハグを交わす。すると胃もたれしたような表情のレファーナが、大きなため息をしながらジト目を向けてくる。
「帰宅早々、暑苦しいヤツじゃのう」
「もー、ガーネットさんが先だったからって妬かないでくださいよぉ。ほらレファーナさんもハグしてあげますから!」
私はそう言ってレファーナにハグをする。
「おおっ、今日はレファーナさんの抵抗がない! やっぱり私のハグを求めてたんですね?」
「……もはや抵抗する気も起きんだけじゃ」
「照れ隠しぃ~!」
そう言って私はレファーナのモサモサヘアーに頬を擦りつける。いつもは抵抗されるだけに、大人しくハグを受け入れるレファーナが愛おしくて仕方ない。
久しぶりの再会にイチャイチャしてると、アリアンナが顔を引きつらせていた。
「アンタ、なにやってんの……?」
「なにって、見ての通りです。愛を確かめ合ってるんですよ!」
「まさかとは思うけど、人と会うたびにそんなウザいことしてんの?」
「さすがにいつもってワケじゃありませんけど。久しぶりの再会で高まった時は、ついハグしたくなっちゃいますねっ!」
「私には絶対にやらないでよ、勝手に抱き着いてきたらブッ殺すから」
「了解!」
……と、口では返事をしたものの、簡単に引き下がるつもりはない。
なにせゲーム脳の私にとって、アリアンナは攻略難度SSSのツンデレヒロインだ。
言葉の切れ味は強すぎるが、年相応の少女らしさも何度か見せてくれている。マキシマにも心を許すような態度を取ってたし、きっと根気良く付き合っていけば少しずつ心を開いてくれるに違いない。
それに
であれば、ほどよく距離感を保ちつつ、アリアンナから信頼を勝ち取りたい。
そうしていつか言わせてやるんだ「リオしゃん、かっこいぃ……。私の
「ところでリオ。新しく連れてきたそやつは……」
「あっ、ご紹介がまだでしたね!こちらは新しく仲間になってくれたアリアンナです!」
私がジャジャーン! と効果音がなりそうなテンションでご紹介。
……だがアリアンナは視線を逸らし、ぶすっとした表情を崩さない。
うーん。予想はしていたけど、第一印象を良くしようとする気配がない。沈黙。
下手に出ることもないレファーナも、その態度を受け沈黙。早くも微妙な空気到来。
これからどうしたものかと悩んでいると、ガーネットからの助け舟が出た。
「こんにちはっ、私はガーネット。あなたがアリアンナさんですよねっ、? これからよろしくお願いしますっ!」
ガーネットによる純度100%の笑顔がアリアンナを照らす。が、アリアンナはそんな圧倒的好意も華麗にスルー。
しかしぶっきら冒険者の接客を続けてきたガーネットは、相手が無愛想でもお構いなし。太陽のような笑顔でアリアンナを照らすことをやめはしない。
「あれっ、ごめんなさい。聞こえなかったかな? 私はガーネット、よろしくお願いします!」
するとアリアンナもガーネットが諦めないことを悟ったのか。
「……よろしく」
と、小さく呟いた。
「はいっ、よろしくお願いします!」
ガーネットは返事をしてくれたことを喜び、ひと際まばゆい笑顔で応えてあげる。するとメイドさんたちと戯れていたスピカも、ガーネットの前へと戻ってきた。
「ネットさん、ただいま!」
「はい、スピカちゃんもお帰りなさい。二人とも長旅で疲れたでしょ? まずはお風呂に入っちゃいましょうか?」
「え。いいわよ、私は……」
「ダメですよっ? お家に帰ってきたらまず体をきれいにしないと! アリアンナさんもリブレイズの子になったのなら、私たちのルールに従ってもらいます!」
「どうせ風呂なんて入らなくても、死ぬわけじゃないし……」
「なに言ってるんですか! 女の子がお風呂に入らないなんて、死んだも同然ですよ!」
「そーだよ! それにアリアンナ、けっこークサいよ!」
「なっ……!?」
「はい。今のアリアンナさんはクサいです!」
スピカにクサいと言われた時は、食って掛かる素振りを見せたが……ガーネットにもクサいと言われると、アリアンナは一転して戸惑った表情になった。
「だからお風呂に入りましょう! せっかく綺麗な髪色をしてるんですから、丁寧にケアしてあげないと可哀想ですよ?」
そう言ってガーネットが、アリアンナの赤い髪へと触れる。
――瞬間、私たちの間に緊張が走る。髪に触れられたアリアンナの目つきが、鋭くガーネットへと向けられたからだ。
……が、アリアンナは大人しくされるがまま。ガーネットは屈託のない笑みを崩さず、何事もなかったかのようにアリアンナとスピカの手を取った。
「さあ、一緒にお風呂へ行きましょう。私がお二人の髪を洗ってあげますね!」
「べ、別にいいって言ってるでしょ……」
「ダ~メ~で~す~! 」
「わーい! じゃあスピカがネットさんの背中を洗ってあげるね!」
「本当ですか? ありがとうございます!」
そう言って、至極当たり前のように二人を風呂へ連れて行ってしまった。
その様子を眺めていた私とレファーナは、その背を見つめながらぼんやりと呟く。
「……まったく、ガーネットはふわふわしてるようで強いのぉ」
「ですね……さすが冒険者ギルドで受付嬢をしていただけのことはあります」
アリアンナが殺気には全員が気付いていた。それはもちろん、ガーネットも。
だがガーネットは気づいていて尚、アリアンナへの態度をなにひとつ変えなかった。
「あれだけの殺気を浴びて、平静を保っていられるものではない。しかもアチシらはリブレイズとチームゴールドの戦いを、ずっと眺めとったのじゃぞ?」
「あっ……」
「あの娘はリオたちに牙を剥いた相手じゃ。しかしガーネットはそれを知った上で、アリアンナをあそこまで好意的に受け止めておる。並大抵の覚悟でできることじゃないわい」
言われてみればそうだ。
ここにドラゴパシーがあるということは、ガーネットもアリアンナが戦う姿を見ていたことになる。
まだ子供とはいえアリアンナはSランク冒険者だ。もし暴れ出すようなことがあれば、ガーネットに抗う術はない。
それなのにガーネットは物怖じした様子も見せず、屈託のない笑顔を向け続けている。一体どれほどの覚悟があれば、あのような振る舞いが出来るのだろう?
「ガーネットは助手としても優秀じゃ、しかしなにより助けられていると感じるのは、あやつの放つ雰囲気じゃ。ガーネットがその場にいるだけで、空気が自然と和んでしまう。ここ数ヶ月でアチシも丸くされてしまった、と感じるくらいにはの」
「そうですね……気付いたらレファーナさんだって、私のハグも抵抗せず受け止めてくれるようになりましたしね?」
「それはしつこくて諦めただけと言うたじゃろ」
「ふふっ。まぁそういうことにしといてあげますよ」
「わかった風に笑うでない、腹立たしい。……それと頼まれとった領地の選定、ニコル近郊で概ね決まりそうじゃ」
「おっ、待ってました!」
「数日後にはスタンテイシア東部を治める、エルスター
「やったぁ! さすがレファーナさん、バリキャリ天才縫製師ィ!」
「だからいちいち抱き着くなと言うておるじゃろうっ!?」
私はレファーナとじゃれ合いながら、炎竜団ハウスへ足を踏み入れる。
すると先に中へ入っていたキサナとフィオナが、炎竜団リーダーのルッツと話している姿が見えた。
ルッツは私の姿に気付くと、こちらに向き直って声をかけてくれる。
「リオ、おかえり。そしてSランクダンジョンの踏破おめでとう。同じ冒険者として心から尊敬するよ」
「いえっ! そんなことよりレファーナさんたちを守ってくれて、本当にありがとうございましたっ!」
「と、言ってもトライアンフは攻めてこなかったけどな。これだけで本当に500万ももらって良かったのか?」
「もちろん! 私たちの都合でSランクパーティを留め置いたんですから、それくらいの報酬を出すのは当然です!」
ということで、聖火炎竜団に500万クリルをお支払い。
別動隊の襲撃はなかったものの、炎竜団の護衛があったからこそ安心しての探索が出来た。その分の報酬を払うのは当然だ。
「でも不思議ですね。桜都でチームシルバーとは出くわさなかったので、その戦力は
「そうだな。トライアンフがリブレイズを侮っていたとはいえ、Sランク相当のパーティを遊ばせておくのは不自然だ。俺たちもそう思って毎日襲撃に備えていたんだが、やって来たのは――」
「フッフッフ! 実際のところ、チームシルバーはこの辺りに張り込んでいましたよ!」
私とルッツが首を傾げていると、珍妙な笑い声と共に
「ですが十層のラグナレク戦を見るや否や、シルバーのリーダーはトライアンフの敗北を確信。リブレイズとの反感を買うのは得策じゃないと判断し、ルキウスを裏切ることにしたようです」
「あなたは……」
「ハイッ! 対面では初めまして。ワタクシは天才錬金術師、エルドリッヂです!」
画面越しにだけ会話した、えらく陽気な男が仰々しく頭を下げてきた。
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