第131話 地上百メートルでの戦い
「ギュッフッフ。トライアンフはなくなっちまったが、こりはこりで悪くにぇーなぁ?」
キャッスルゴーレムの頂上でふんぞり返るルキウスが、地上を見下ろしグフフと笑う。
チームゴールドが負けた時は取り乱したが、非常時に備えて保険はかけていた。
それが地中に忍ばせていた魔物であったり、屋敷に擬態させていたキャッスルゴーレムだった。
理由は彼らが生きた魔物ではないからだ。食事を与えずとも機能停止をせず、必要になった時だけ魔力で起動すればいい。しかも地中に潜めておけば、いつでも呼び出すことが出来る。
しかも裏切る心配はない。そう考えれば最終的に信頼できるのは、自分と自分の持つスキルだけだ。
「アーロンや私兵の連中もあっさりオイラを裏切った。ヤツらにもいずれ報復はする必要があるぎゃ……まずは目先のポンポコポンを踏み潰してやらにぇーとな!」
聖教騎士団の殲滅はもちろん、リブレイズを仕留め損ねたアリアンナやマキシマも同罪。ナガレとリブレイズは言わずもがな、だ。
本当は可能な限り苦しめてやりたいが、ルキウスには報復したい人間が多すぎる。だったらいっそのこと蟻のように踏みつぶし、名声を挙げたヤツらも自分に比べたらクズであると世間に知らしめてやることにした。
「よし! こいつらを踏みつぶしたりゃ、このまま
「――そうはさせませんよ!」
ルキウスの高笑いに応じたのはもちろん、
「出やがったな、リブレイズのリオっ! おみゃーのせいでトライアンフはおしまいだぎゃ! どう責任を取ってくれりゅつもりだ!?」
「自業自得じゃないですか。あなたがクラメンを手ひどく扱ったから、そのしっぺ返しを食らっているだけです。それにクラジャンファンの一人として、あなたのプレースタイルを見過ごすことはできません!」
「なにをわけのわからないことを! こうなったらオイラが直々に手を下し、おみゃーに命乞いをさせてやりゅっ!」
「へぇ、どうやってですか?」
「決まってるだりょ! オイラの使役する、キャッスルゴーレムでだぎゃっ!」
「……これがなくても、ですか?」
そう言って私は、右手に握ったモノを掲げてみせる。
これはルキウスが数秒前に握っていた武器、
この武器は装備すると、
武器性能自体は高くないが、魔物の使役にだけ焦点を絞ればかなり有用な武器だ。
その武器がなぜか私の手元にある。答えは簡単、今しがたルキウスから盗んだからだ。
「……え?」
自分の手からムチがなくなっていることに気付き、ルキウスの顔が真っ青になる。
その様子を見て、自分の予想が当たっていたことを悟る。
ルキウスはやはり、装備による上昇補正でキャッスルゴーレムを使役していただけだった。
キャッスルゴーレム(SS)を使役するための調教LVは18。だがこれまで会った冒険者たちを見ても、ルキウスがそのレベルに達しているとは思えない。
であれば装備によって習熟LVを補強するしかない。それが私とキサナの出した結論だった。
こうしてバハムートに乗って近寄ったのは、ルキウスの装備品を近くで確認するためだ。地上ではロクにルキウスの姿すら拝めなかったが、こうして空中まで来てしまえばルキウスの姿は丸見えだ。
さて、ではここから第二問。
対人戦における盗むで、ルキウスからムチを奪ったらどうなるか?
答えは簡単、ルキウスの下にいたゴーレムは野生に帰ったということである。
「リ、リリリリオ
ルキウスが冷や汗をかきながら、苦し気な笑みを浮かべている。
「う~ん、どうしよっかなぁ~~~?」
「その武器はオイラの命綱ともいえる武器でございましゅ。早めに返していただかないと、大変なことに――」
「あーーーっ、手が滑ったーーー!」
私は最後までルキウスの話を聞かず、あさっての方向にムチを投げ捨てた。
「ぷぎゃああああああ!!!!!」
遠ざかっていくムチに手を伸ばしながら、ルキウスが全身の水分を
顔に浮かぶのは絶望。そして絶望するルキウスの頭上に――巨大な影が忍び寄る。
影の正体は、ゴーレムの手のひらだった。調教LVが足りなくなった以上、ルキウスとゴーレムの関係は普遍的な魔物と人間に成り下がった。つまりただの敵同士である。
ゴーレムは自分の頭に乗っていたルキウスを、二本指でつまみ上げた。握り潰さなかったのは、せめてものゴーレムの良心……ではないだろう。魔物だって汚物と接する面積は、最低限にしたいだろうからね。
「は、はなしぇぇぇぇぇーーーっ、オイラはお前のご主人様だじょっ!? 何十年もお前と共に過ごした、いわばソウルメイト! あの思い出の詰まった日々を、思い出してくりぇぇぇぇっ!!!」
ルキウスが汚水を巻き散らしながら、ゴーレムに向かってみっともなく命乞いをする。
だが相手は心を持たない土人形。命乞いなんて通じるはずがない。ゴーレムは機械的な動作で腕を振りかぶると――近場の山に向かってルキウスを投げつけた。
「ほんぎゃあああああーーーーっ!!!」
叫び声をあげながら、ルキウスが山の中腹に突き刺さった。
「……あちゃー、さすがに死んじゃったかなぁ?」
「どうかしら。アイツ死ぬのだけは極端に怖がってたから、そこそこいい防具を着てるはずよ。しぶとく生きてるんじゃないかしら」
「まるでゴキブリみたいだね」
「ゴキブリに失礼よ」
私がバハムート越しにアリアンナと雑談していると、岩石の雨が横殴りに襲い掛かってきた。
「っと、しまった! キャッスルゴーレムはまだ生きてるんだった!」
ルキウスは脱落したがキャッスルゴーレムは健在。
野生に帰ったゴーレムは本能により、人間へと攻撃を開始。標的にされるのはもちろん、一番近くを飛び回る私たちだ。
「っ、やっぱりこれ以上の接近は無理ね。敵の体が大きいせいで、飛んでくる
「だ、大丈夫? 盗賊の私が乗ってたら回避補正が入って、全弾避けられたりしない?」
「無理に決まってんでしょ!」
強靭な体を持つバハムートでも、高速で飛んでくる大岩を浴びて次第に弱っていく。
「悪いけどもうすぐバハムートの
「ええっ!? こんな高いところから落ちたら死んじゃうけどっ!?」
「大丈夫でしょ。竜騎士のスキル、フォールインパクトで着地すれば落下の衝撃は誤魔化せるハズよ」
「あ、確かに!」
前回フォールインパクトで地上へ降り立った時、私の体は落下時の衝撃を受けなかった。であればバハムートが力尽きても、私は無事に地上へ辿り着けるハズ。……だが。
(地上へ戻るのは最善じゃない。さっきもゴーレムの足元で戦ったけど、一度も攻撃を入れられなかったし)
巨体の足元は影になっていて視界も悪く、足踏みによる立ちすくみや重力の乗った
「アリアンナ! バハムートの体力が尽きる前に、もっと高いところまで飛んでもらえないっ!?」
「ハァ? 意味わからないんだけど!」
「取りあえずお願い! それさえできれば、ゴーレムを倒せるかもしれないから!」
「……上手くやんなさいよっ!」
これまでの実績を信用してもらえたのか、アリアンナは説明も聞かず高高度への飛翔を開始する。
ゴーレムはその間も
召喚獣であるバハムートの体は、ただの魔力となって中空へと溶けていく。
「ありがとね、バハムート。あとは私に任せてっ!」
私はまだ実体を保っていた背を蹴って、ゴーレムの死角になる真上へと跳躍。そして――
「フォール、インパクトッ!」
スキルの発動と同時。私の体は人間ミサイルとなって、ゴーレムの頭に直角急降下。落下の衝撃でゴーレムの頭はわずかに砕けたが、攻撃力が足りず有効なダメージが入ったとは言い難い。
だがフォールインパクトを入れたのは攻撃が目的じゃない、頭に着地すること自体が目的だ。だって攻撃の間合いにさえ入れれば、勝負はついたも同然である。
「だって私には即死効果を持つアサシンダガーがあるからねっ!」
キャッスルゴーレムは通常の魔物、つまり即死攻撃が有効打。短剣の間合いに入った以上、勝利は約束されたようなものだった。
「でもまだ終わらせないよ。だってキャッスルゴーレムからは……地母神のローブ(S)が盗めるからねっ!」
経緯はともあれ、目の前にはレア装備を持った魔物がいる。だったら盗んであげなければ逆に失礼という物だ。
ルキウスも戦闘不能になっているので、この戦いは対人戦から通常エンカウントに切り替わっている。つまり盗む枠を無限にリセットさせることが可能だ。
据え膳盗まずは盗賊の恥、謹んで秘蔵の品を預かり申すっ!
「ということで久しぶりに始めましょうか! 地上百メートルからの、スティールアンドアウェイ!」
こうして私は空気を読まず、ゴーレムの頭上でスティールアンドアウェイを開始したのだった。
―――――
いよいよ長かったトライアンフ・桜都編も終わりそうです。締まらない展開ですが……笑
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