第130話 キャッスルゴーレム使役のカラクリ

 トライアンフ領は戦場と化していた。


 地中から這い出した魔物はゴーレムやアンデッド系のものが多く、ランクはC~A相当と幅広い。


 しかもその数は千体をゆうに越えており、精鋭ぞろいの聖教騎士団も防戦一方である。


 近くのキャンプには王太子や、救い出した歯車組を避難させている。そのため防衛線を死守しつつの、厳しい戦いを強いられていた。


 だが、その時。周囲に光の雨が降り注ぎ、魔物たちを縦横無尽に焼き尽くした。


「この光は、もしかして……!?」

「大聖女様だ! ダンジョンから戻った大聖女様が……俺たちを助けに来てくれたんだ!」


 聖光瀑布ホーリー・フォールの支援を受け、騎士団は強力な援軍が来たと歓喜する。


 まだうら若き乙女でありながら、大侵攻を食い止めたエレクシアの行ける伝説。その雄姿を一度は拝みたいと、スピカの方へ目を向ける。すると――


「目障りな魔物たちめ、死ねーーーっ!」


 と、暴力的な魔力を解き放つ少女の姿があった。


 その姿に騎士団はあっけに取られたものの……


「……だ、大聖女様に続けぇっ!」

「「「うおおおーーーーっ!」」」


 と、士気を取り戻し、魔物をバッタバッタとなぎ倒していく。


 しかし魔物の数は多く、敵も雑魚ばかりではない。目下には手足の生えたルキウスの屋敷、百メートル近い巨体のキャッスルゴーレムが立ちはだかっている。


「な、なんですかあれっ!?」

「あれがキャッスルゴーレムだったとしても……いくらなんでもデカ過ぎない!?」


 桜都から帰還したばかりの私とキサナは、あまりにも巨大なゴーレムを前に顔を引きつらせる。


(現実のキャッスルゴーレムを見たのは初めてだけど……いくらなんでもデカすぎでしょ!?)


 が、あれほどの巨体であるのは不自然だ。もしかするとビッグホーリースライムのときと同じく、ルキウスの屋敷と一体化したことで変異体になったのかもしれない。


「フィオナさんは騎士団の支援をお願いします!」

「わかった!」

「キサナちゃんとアリアンナには手を貸して欲しいです。私について来てくれませんかっ?」

「もちろんですっ!」

「ルキウスのケツ拭きは癪だけど……やるしかないわね」


 話がまとまり次第、キャッスルゴーレムの方へ駆けていく。地上のザコ狩りはとりあえずスピカとフィオナにお任せ。私たち三人はザコも使役している本体、キャッスルゴーレムの上に立つルキウスの元へ駆けていく。


 すると周囲の景色が次第に暗くなっていく。キャッスルゴーレムが巨大すぎるあまり、周囲一帯の太陽光が遮られているせいだ。


 ルキウスは巨体の頂上にいるはずだが、下から見上げてもその姿は見えない。角度によっては太陽の逆光で目を傷めるだけだ。


 また近寄って初めて気づいたのだが、暗くなったゴーレムの近くでは二人の冒険者が戦っていた。


「ナガレさんっ、加勢します!」

「リオ、もう戻ったのか!」


 キャッスルゴーレムと対峙していたのは、脱出ゲートから離脱していたナガレとマキシマだった。


「すまねえな、ウチの旦那が迷惑かけっぱなしで」

「いえいえ~、大変なリーダーを持つと大変ですねぇ?」

「ホントさ、家庭クラン内暴力も日常茶飯事で――」

「アンタらッ、井戸端会議してんじゃないわよッ!」


 アリアンナがツッコミを入れつつ、マキシマの肩に飛び乗った。定位置に戻ったアリアンナは持っていた杖を振るい、ゴーレムに煉獄パガトリィをお見舞いする。


 しかし屋敷の胴体から零れ落ちた落石で、煉獄パガトリィは瞬く間にかき消されてしまう。そもそもレンガや石造りの体に炎を見舞ったところで、どれほどのダメージを与えられるかは疑問だ。


「状況はどうですか?」

「見ての通り、芳しくはねえな。やっこさんも足は潰されたくねえのか、絶え間ない落石が降ってくる。実のところ、まだ一撃も加えられねえのが現状だ」


 ナガレの話にこたえるかのように、天から落石の雨が降ってくる。


 Aランク土魔法、礫榴弾クラシュトンだ。しかも高所から打ち込まれたせいで範囲は通常よりも広がり、また重力も乗っているため一撃の威力が倍増している。


 私たちはその場で散開するも、今度は地面が激しく揺さぶられる。どうやらキャッスルゴーレムが足踏みしたことにより、地震のような揺れを一体に引き起こしたようだ。


 立ちすくみそうな揺れの中で、私たちはなんとか落石をやり過ごす。――が、地面を揺らされたことが原因だろうか、地中からはまた新しいアンデッドやゴーレムが這い出してきた。


(くっ、これは確かに手も足も出ないっ!)


 実際のところ。私は今回の戦闘を侮っていた。


 なぜならキャッスルゴーレムはボスではなく、魔物調教師テイマーが使役可能な普通の魔物だ。つまりアサシンダガーの即死が有効な相手である。


 だが頭上から散弾式に降り注ぐ礫榴弾クラシュトンは範囲が広く、足踏みで地震を起こされると立つことも出来なくなってしまう。そのため回避値をカンスト近くまで高めた私でも、迂闊には近寄ることはできなかった。


 また通常の魔物ならエンカウントなしや逃げるも使えるが、ゴーレムを使役しているのはルキウス。対人戦では強引に気配を消すこともできない。


 巨体を生かした広範囲攻撃により、戦況は膠着。このままでは埒が明かないため、距離を取って作戦を練り直すことにした。


「キャッスルゴーレムは通常の魔物なので、アサシンダガーの即死が効きます。だからなんとか接近したいんだけど……」

「俺たちもリオが帰ってくるまでの間、いろいろと試したがゴーレムの足元までたどり着けねぇ。……まぁ、あっちからしたら蟻を相手にするようなもんだからな」

「なに投げやりなこと言ってんのよ。残った歯車組はナガレの今後にかかってるんだから、少しはシャキッとした態度見せなさいよね」

「……ハハハ、悪ぃな。リブレイズが戻ったと思ったら、つい気が抜けちまった」


 桜都を脱出してからずっと戦っていたのだろうか。ただでさえやつれ気味だったナガレが、ぼんやりした表情で薄い笑みを浮かべる。 


 マキシマも桜都脱出前に回復したとは思えないほど、体に傷を創っている。二人はもう限界だろう。


 するとキサナが深く考え込んだ様子で、ポロっとこんなことを聞いてきた。


「……そもそも、なんですけど。ルキウスはそんなに強力な調教師テイマーだったんですか? SSランクの魔物を従えるとなると、相当の習熟LVが必要になるはずですけど」

「それは私も思ってた! SSランクの魔物を従えるには、最低でも【魔物調教:LV18】は必要だったはずなのに」


 魔物調教LVを18まで上げるために必要なスキルポイントは460。


 そして一才能をレベル100にすることで得られるポイントは300。もちろん二才能、三才能目を取得してれば手に入るポイントはより多くなる。


「トライアンフのみなさん、ルキウスが取得していた才能の数は覚えてますか?」

「魔物調教師と軍師の、二つだけだったはずだ。もちろん旦那が新しい才能を取得してなければの話だが……」

「それはないんじゃないの? 冒険者をしてた時ならまだしも、今のアイツが才能を取るための鍛錬なんてするハズがない」


 するとルキウスの持っている才能は二つ。


 そして460のスキルポイントを獲得するためには、最低でも二つの才能レベルを77まで上げている必要がある。


 しかもそこで得たスキルポイントは【魔物調教:LV】に極振してようやく到達できるLVだ。


 才能二つをレベル80以上にした冒険者は、アルフとアリアンナ意外に見たことがない。その中でルキウスがその二人に並び、かつ【魔物調教:LV】極振りしていたかと問われれば首を傾げてしまう。


 つまりなにかがおかしい。ルキウスがキャッスルゴーレムを使役するには、なにか別の力が働いているはずだ。


 そして私とキサナはクラジャンを知り尽くす廃人だ。二人揃って同じ結論を導き出し、視線を交わして頷き合う。


「アリアンナ、またバハムートで私を空に連れて行ってくれない?」

「それは構わないけど……バハムートでも今のアイツに近寄るのは難しいわよ?」

「そうだね。でもそれとは別に、試してみたいことがあるんだ」


 ルキウスが正規の手法でゴーレムを使役してなければ、そこに穴はある。だったらその弱点を突く形で仕掛ければ、勝機は十分にあるはずだ!


「さて、そろそろ連戦も飽きてきたし……ゴーレム君には沈んでもらいましょうか!」


 とりあえず地上にいてはルキウスの姿さえ見えない。私はこの状況を打開すべく、まずはアリアンナのバハムートで大空へと飛び立ったのであった。

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