第128話 長かった桜都もついに踏破! おうちに帰ろう!
「まだ結構な数が残ってるな」
フォールインパクトで後方の軍勢を吹き飛ばしたが、敵はまだ十分な兵力を残している。早く戦線に復帰して敵の数を減らさないと。
上空を見上げるとバハムートがこちらへ舞い降りてくる。
ふたたび空へ運んでくれるつもりなのだろう。地上スレスレまで近づいたところで跳躍し、バハムートの背に着地。私を拾ったことを確認したバハムートは、翼を押し上げて上空へと舞い戻った。
すると驚くべきことが起こった。なんとバハムートが話しかけてきたのだ。
「やるじゃん、アンタ。腐ってもSクランのリーダーね」
「アイエエエエェェェ!? バハムトサン、シャベレタンデスカァ!?」
「……うっさいわね。しゃべってるのはバハムートじゃなくて私、アリアンナよ」
バハムートの声帯を使っているせいか、アリアンナの声は地の底から響くように重々しい。
「召喚士って、召喚獣を通してお話しできたの!?」
「まあね、召喚って召喚獣を操るようなもんだから。召喚士の習熟LVを上げれば普通にできるみたい」
なにそれ、面白そう!
自分も召喚士になって、召喚獣越しに話してみたい。バハムートになり切って「力が、欲しいか?」とか言ってみたい!
単細胞な私は、早くも取得したい才能リストに召喚士を追加する。
「でも感覚としては操る、なんだ? バハムートの口を使って話してるのに」
「そうね、だから私自身が空を飛んでるって感覚はないわ。その上からバハムートを見下ろしてる感覚、って言うの?」
なるほど。そうするとなりきり召喚獣ごっこをするのは難しそうだ。感覚としては
「っと、それより戦闘に集中しないとね! 次も私が後衛を吹き飛ばすから……アリアンナは「竜王の息吹』で前衛を削ってくれる?」
「わかったわ」
……意外にもあっさりと了承されてしまい、思わず拍子抜けしてしまう。
これまでだったら「指図するな!」くらいの憎まれ口、覚悟はしていたのだが……先ほどの戦いぶりを見て、私の評価を改めてくれたのかもしれない。
(クラジャンの攻略も楽しいけど……ツンツン少女と信頼関係を築いていくのも楽しいよね!)
あまりにもゲーム脳すぎて、人との信頼関係も好感度感覚でしか考えられないワタシ。こればかりは死ぬまで変えられそうにない。
「ということで、いってきまぁーーーすっ!!!」
私はまたフォールダブルインパクトを決めるため、バハムートの背から跳び上がったのだった。
――それから約三十分後、私たちは敵軍の全滅に成功した。
軍隊そのものが本体である六天覇王は、最後の兵隊を消し飛ばしたことで消滅。これにて桜都五十層の踏破に成功した。
「まさか本当にSランクダンジョンを踏破する日が来るとはな……」
フィオナは自分が成し遂げたことが信じられないのか、わずかに声を震わせて拳を握りしめている。
「こうして踏破できたのも、フィオナさんがいてくれたおかげです! 本当にありがとうございました!」
「……礼を言うのはこちらの方だ。私をここまでお連れしてくださったこと、心より感謝します」
なぜか儀礼的な振る舞いのフィオナは、その場で傅いて頭を垂れる。
本当は「そんなのいいですよ~」と茶化したいところだが、今回ばかりは我慢。Sランクダンジョンの踏破には並々ならぬ思いがあったのか、フィオナは伏せた顔をあげようとはしない。
私はどこか暖かな気持ちで傅くフィオナを見下ろしていると、なぜかスピカが不満そうに私の腕を掴んできた。
「リオだけズルいよ! スピカもアリャンナのバハムートで、空を飛び回りたかったのに!」
「あ、あはは。そしたら今度は一緒に乗ろうか? 竜騎士が同乗する飛竜だったら、他のクラメンも一緒に乗れるはずだし……」
「それは無理よ」
平坦な声でツッコミを入れたのは、バハムートの召喚主でもあるアリアンナだった。
「輸送に特化した飛竜ならともかく、戦闘特化の竜は背中に一人しか乗せられない。そもそもバハムートは二人も乗せられるほど、体も大きくないからね」
「あ、あー……そういえばバハムートって、思ったより小さいって思ったかも」
大きな体を持ちつつ、人間と共生が出来るほど温厚。そのため大昔にも飛竜タクシーと言う文化が発展した。……古書館で読んだ本にそんなことが書いてあった気がする。
「えええ! それじゃスピカだけ地べたに這いつくばって戦わなきゃいけないの? そんなのヤダヤダ!」
「そんなに空が飛びたいなら竜騎士や魔物調教師、もしくはそういったことが出来る才能を獲得することね」
「大聖女はレベルが上がりにくいから、スピカは第二才能が取れないの! 自分で取れる頃にはスピカ、おばあちゃんになってるよ!」
「生きてるまでに取れるならいいじゃない」
「絶対ヤダ!」
駄々をこねるスピカが、アリアンナの腕にまとわりつき始める。
アリアンナは心底ウザそうな顔をしているが、スピカを振り払おうとはしていない。これはきっとスピカとの好感度が上がった……わけではなく、単純にあきらめているだけのようだ。
「りおりー、お疲れ様です」
「キサナちゃんもお疲れ様! さすがにタイプ相性の壁は結構キツかったね」
「でもりおりーが獲得したスキルのおかげで急場は凌げました。ボクもいざという時のために、全体攻撃スキルを取っておかないとですね……」
「キサナちゃんは錬金術にもポイント割いてるし、無理しないでね? それに竜騎士のフォールインパクトだけでも、十分に戦力は底上げできたと思うし」
「ですね! ボクも現実オリジナルのスキルを目の当たりにして、ちょっとドキドキしちゃいましたよ!」
「だよねっ!」
ゲーム版のクラジャンを知る私たちは、竜騎士の持つオリジナルスキルに大興奮。
また
クラメンたちと勝利の喜びを分かち合ったところで、五十層の入口が解放され脱出ゲートも出現。ここまで来れば後は帰るだけだ。
「と、その前にドロップ品を回収しておかないとね!」
六天覇王は今回三個の宝箱を落として行った。すると確定箱にノーマル・レアとすべて回収できたことになる。
最初に開いたのは確定箱、中には至高の聖杯が入っていた。
これは言わずもがな、レベル100の上限を解放できるアイテムだ。奈落の四十層で必要分は使ってしまったため、とりあえずこれは保管。
続いて開けたノーマル箱の中には高級茶器、満足度アップのアイテムだが回復量は30%。また売っても結構いいお金になるので、あって困らないアイテムだ。
そしてレアドロップの中身は、城ダンジョンのタネ。これは領地を手に入れた後、
景観変化のタネは非売品なので、城ダンジョンを作るつもりならあればあるだけ困らない。
特に特注ダンジョン製作にもこだわるプレーヤーは、未実装レア持ちを引くまでリタマラするのは当たり前だ。もし城ダンジョンを作る気になったら100個くらいは拾っておきたい、その気になったらまた拾いに来よう。
私が喜々としてアイテムを回収していると、背後から突き刺さるような視線を感じる。
視線が気になって振り返ると、こちらを見ていたのはアリアンナだった。だがアリアンナは私を見ていたのではなく、持っていたアイテム。至高の聖杯に向けられていた。
「……そういえばアリアンナ。バハムートを召喚したってことは、召喚士レベル100になってるんだよね?」
「そう、だけど」
「もし上限解放してなければ……いる?」
「欲しいッ!!!」
食い気味に叫んだアリアンナが、ハッとした表情で口元を両手で隠す。
え。どどどしたん、急に!? めちゃかわいくなりますやん!?
思わず抱き寄せて頬ずりしたくなるが、絶対に嫌がられる。私は手の震えを深呼吸で抑えつつ、平静を装いながらこう訊ねる。
「……さっきの戦いに勝てたのは、アリアンナが協力してくれたおかげだし、良かったらもらってくれない?」
「わ、私はアンタたちに全滅されると困ったからで……聖杯が欲しくて手を貸したわけじゃないし」
「そっか。じゃあこれは保管しておこうかな」
私はそう言って、至高の聖杯をポーチへ仕舞おうとする。
するとアリアンナは「あああ……」と物欲しそうな顔で、片手をポーチのほうへ伸ばし始めた。
(くうぅぅぅぅっ! かわいすぎかっ!?)
駆け寄って抱き着きたくなる衝動を堪えつつ、私はアリアンナに歩み寄って聖杯をその手に握らせる。
「これはアリアンナが使って」
「い、いいの!? 私はアンタたちの殺そうとしたのよ? そんな相手にどうして……」
「もうアリアンナはそんなことしないでしょ? それにトライアンフがなくなったら、アリアンナはこれから自分の生き方を決めなきゃいけない。だったら少しでも強くなっておいた方が有利だよ」
私はアリアンナに聖杯を握らせ、一歩後ろに下がる。するとアリアンナは受け取った聖杯をじぃっと眺めた後、上目遣いでこう言った。
「あ……ありが、とう」
わずかに潤んだ瞳と、恥ずかし気な表情。その姿に私は……
ズキューーーーン!!!
(かーーーっ!!! ツンツン少女の照れ姿、五臓六腑に染みるばい!!!)
桜都五十層の先で手にしたのは、ツンデレ魔女のささやかなお礼だった。うん、素晴らしいハッピーエンドだね!
「では初のSダンジョン踏破、お疲れ様でした! 地上ではいろいろと後処理もあるかと思いますが……とりあえずお日様の下へ帰りましょう!」
私の号令と共に、リブレイズとアリアンナは脱出ゲートをくぐって帰還。
ナガレの話ではチームゴールドの襲撃と同時で、聖教騎士団がトライアンフ領に踏み込む手筈と聞いていた。
するとルキウスは既に確保された後だろうか? とりあえず約束した三億クリルは回収したいけど、果たしてどうなることやら。
それより今はふかふかのベッドで眠りたい。そんなことを思いながら地上へ戻ると……辺りには信じられない光景が広がっていた。
「な、なにこれっ……!?」
周囲では魔物の大群と、聖教騎士団が戦っていた。
魔物の発生源は……私たちの足元。どういうわけか地中に潜っていた魔物たちが、一斉に湧きだしたようだった。
「な、なにこれ!? どうなってるの!?」
「リオ、見て! あのお城、動いてる!」
「えぇ!?」
スピカの指差す先に目を向けると、ルキウスの屋敷から……手足が生えていた。
そして屋根の上に立っているのは、バルンと腹の突き出たトライアンフのリーダー、ルキウス。
「ギュフフフ! まさかおみゃーら、オイラが戦うことのできない、ザコとでも思ってたんじゃにぇーだりょーなぁ!?」
言いながらルキウスは手に持っていたムチで屋根を叩く。
「オイラだって元はSランク冒険者! 魔物のような魔物使いの異名を持つ、最強の
「えええええ!?」
「さあオイラのお屋敷こと――キャッスルゴーレム! オイラの覇道を妨害したリブレイズを、ぺちゃんこに踏み潰してやるんだぎゃーっ!」
――桜都を踏破したのも束の間。私たちはルキウスとの最終決戦を余儀なくされたのだった。
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