第127話 土壇場で忘れていた才能を活用します!

「スピちゃん、後ろへ下がるよっ!」

「えー!? スピカまだ魔力残ってるよ!?」

「違うのっ! あいつらは聖属性だから聖光瀑布ホーリー・フォールが効かない、吸収されちゃうんだよっ!」


 闇の軍勢を打ち滅ぼした後、私はスピカを連れて後方へ跳躍。それに代わる形でフィオナが前に出る。


「ようやく私がリオの前に出れる時が来たなっ!」

「無理しないでくださいね!?」

「いや、させてもらう。ようやく主を背に、騎士の本懐を果たせるのだからなっ!」


 フィオナの終末剣からドス黒いオーラが噴出、終末剣の攻撃属性を闇に切り替えた。


「ここから先は何人たりとも通さない、私がリオの騎士である限りなぁっ!」


 終末剣を脇に構えたフィオナが、横薙ぎに一閃。前方の軍勢を一掃した。


 だが聖なる軍勢はこれまでの四属性と違い、一個体の性能がSランクへと強化されている。


 加えて弱点を突けるのがフィオナしかいない上、横薙ぎ一閃は聖光瀑布ホーリー・フォール並みの攻撃範囲は持たない。するとやはりこちらが不利だ、なにか他の攻撃手段を考えなければならない。


 当然ながら大群相手に単体攻撃はまるで意味をなさない。私とキサナが全体攻撃を所持しない以上、これまでの有利がひっくり返されるくらいマズい状況にある。


(盗賊って強い全体攻撃スキルあったっけ? いや盗賊じゃなくてもいい、竜騎士や忍者でもっ!)


 私は脳をフル回転させ、取得できたスキルを必死になって思い出す。だがこの大群を相手にできるほどの大技はすぐに思いつかない。


 とりあえずスピカを安全地帯に避難させるため、撮影係アリアンナのいる最後方まで下がることにした。


「スピちゃんはコラプスロッドと深淵の指輪でサポートをお願い!」

「え~なんか地味だよ~。それなら前に出てヒオナの盾になったほうがよくない?」

「スピちゃんの羽衣チートは連撃に弱いから、大群相手にはちょっとね……」

「でも軍団はちょっとずつ近づいてるよ? ヒオナ一人だけじゃ負けちゃうんじゃないの?」

「うっ……」


 スピカの指摘に私は思わず言葉を詰まらせる。


 しかも目の前にいるアリアンナは、ドラゴパシーで配信中だ。活躍の場を見せようという配信の場で、クラメンに論破されるという恥ずかしい現場を撮られてしまった。


 だが現状、パッと思いつく打開策が思いつかないのも事実。って、このままじゃまさかの全滅配信になるのでは!?


 私がそんな最悪な想像に頭を抱えていると……だんまりを決め込んでいたアリアンナが、ジト目を向けながらこう聞いてきた。


「……なによ。私たちに勝っておいて、ここであっさりと全滅するつもりじゃないでしょうね」

「ぜ、全滅だなんて滅相もない!」

「の割には余裕がないように見えるけど?」

「あ、あはは……そんなことはない、かなぁ……?」

「ウソをつくならもっと堂々とつきなさいよ。その辺は私の知る悪人の方がよっぽど上手かったわね」


 アリアンナはため息を吐きつつ、胸元のドラゴパシーを取り外してスピカへと預ける。


「私が手を貸すわ」

「えっ?」

「……アンタらが負けたら私も殺されるでしょ。せっかくルキウスが消えてくれるのに、ここで死ぬなんてゴメンだわ」

「それって私たちの味方を……」

「勘違いしないで! 私が手を貸すのは、今回だけなんだからねっ!」


 アリアンナが叫ぶと同時、地面に緑の魔法陣が出現する。――これはトライアンフ戦で私たちが戦慄した、あの召喚獣を呼んだ魔法陣。


幻獣げんじゅうおうバハムートッ! 目の前にいるザコ共を虐殺しろ!」


 アリアンナの体から膨大な魔力が放出されると、私たちの前に巨大な竜が出現する。


 ―――ギャオォォォォッ!!!!!


 バハムートは顕現したのも束の間、喉の奥から高濃度のエネルギー波を発射。竜王の息吹だ。


 放たれたエネルギー波は、フィオナに近づいていた軍勢を的確に消し飛ばす。さすがのフィオナも驚きで、目を丸くしてこちらを振り返っている。


「おおおおっーーー! アリャリャンナすごーーーい!」

「た、助かったぁ……」


 興奮するスピカとは反対に、私は安堵でへたりこみそうになる。


「バハムートは強力な全体攻撃をいくつか持ってる。こいつを上空へ飛ばせば、地を這うザコなんか軽く吹き飛ばせるわ」

「ありがとうアリアンナ!」

「は? なに私だけに任せようとしてんの? アンタもコイツにのよ」

「……え? バハムートに乗る?」

「だってアンタ、竜騎士でしょ? 飛べる竜がいるなら、それに乗って戦うのが当たり前じゃない」

「えええ!?」


 なにそれ!


 そんなん知らんし!


 だってゲーム版では竜騎士なんて才能なかったんだから!!!


 ……でも、私にそれを拒む理由なんてありはしない。だってバハムートに乗って戦えるなんて、絶対楽しいに決まってる!!!


 気付けば私は目を輝かせ、バハムートの背に跨っていた。


「ということで飛べっ、バハムート!!!」


 私の合図と共に、幻獣王が上空へと羽ばたいた。


 先ほどまで一緒に戦っていたスピカたちの姿がみるみる小さくなっていく。そして戦場を俯瞰できる高さまでやって来たところで、私はふと大事なのことを思い出す。


(って、思わずノリで飛んできちゃったけど、竜騎士ってなにが出来るんだっけ!?)


 竜騎士はノボリュに乗りたいがために獲得した才能だ。


 ダンジョン内にノボリュを連れて来れない以上、あまり戦闘に活かすことを考えてこなかった。そのためどんなスキルが獲れたかうろ覚えだ。


 ということで戦闘中だけどステータスオープン。竜騎士のスキル盤を開いて、使えそうな戦闘スキルを確認する。


(騎士の名を冠するだけあって、結構色んな戦闘スキルを持ってるな)


 他の才能で取得できるスキルもあるが、どうせなら竜騎士のオリジナルスキルを取ってみたい。だが一方で冷静になれと促す自分が、脳内でこう囁く。


 ――アリアンナとの共闘は今回限りでしょ? それにノボリュとは一緒にダンジョンに潜れないし、活かす機会の少ない死にスキルになるかもよ? と。


 スキルポイントの残りは700ちょっと。


 ストックは十分にあるが、それでも足りなくなるのがスキルポイントだ。ポイントの重要性は重々承知している。


 それに私は十一転生もキメたクラジャン廃人、あまりみっともないスキル振りはしたくない。


 ……って、思うじゃないですか? でもワクワクの前には我慢とかないんですよ!


 ということで私は気になったスキル「フォールインパクト」を獲得。


 これは落下した勢いで地上に衝撃波を起こす、範囲攻撃スキルだ。竜の上から使用することでダメージが上昇、また槍装備をしているとさらにボーナスがつく、らしい。


 生憎と高ランクの槍武器は持ってないので、今回はいつもの短剣で代用する。


「ということで早速、手に入れたスキルを使ってみよう!」


 バハムートは私を背に乗せたまま、竜王の息吹で聖の軍勢を一方的に蹂躙している。


 フィオナと守ろうと気を遣ってくれているのだろうか。バハムートは軍隊の前衛にだけ攻撃を集中させている。後方から矢を射る大群は手つかずだ、つまり狙い目はそこっ!


 攻撃地点を定めた私は少しでも威力を上げるため、バハムートの上で跳躍。そしてある程度の高さまで跳んだところで……重力任せの自由落下が始まった。


 地面に叩きつけられる恐怖は自然と感じない。これはきっとスキルの恩恵で、無事に降り立てることを確信しているからだろう。


 顔のパーツが吹っ飛びそうなほどの風圧を感じつつ、私は着地寸前で二対の短剣を振りかぶる。


「くらえっ、地上に降り立つ廃人の衝撃! フォール――インパクトぉっ!!!」


 高高度からの運動エネルギーを身に纏った私が、ミサイルのような勢いで地面へと着弾。すると周囲には爆音と共に、ドーム状の衝撃波が発生した。


 その数、実に二つ。なんとなくそうなるんじゃないかと思って試したが、予想通り二つの衝撃波を起こすことが出来た。


 左右の手を中心に爆風を発生させたため、破壊面積は大きく被っている。それでも1.5倍くらいに攻撃範囲は広げられただろう。


 左右にかぶさる二つの衝撃波。


 きっと上空からその光景を眺めれば、私を中心に二つの豊満な双丘ができていたことだろう。つまり私も実質巨乳の仲間入りを果たしたということだ。


「……ツッコミ役、不在ィッ!」


 爆風に抉られたクレーターの下で、私は自分の額を叩いてツッコミを入れる。


「と、こんなことしてる場合じゃないよねっ!」


 クレーターの上ではまだ戦いが続いている。先ほどの攻撃で敵の数は減らしたが、すべてを倒したわけじゃない。


 私は再度バハムートの背に乗るため、クレーターの上へと跳躍したのだった。

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