第126話 #リブレイズの無双劇に、興奮する観客の皆さん
「な、なんて戦闘だ……こんなのもう戦争じゃねえか!」
「しかも突っ込んでくる兵隊は、全部A+ランクの魔物だ! それを数千数万と相手するなんて絶望的だろ!?」
「でも見ろっ! スピカ様の全体魔法で、兵隊が木の葉のように吹き飛んでいくぞ!」
「あれが大侵攻を食い止めた光の雨! 俺たちは今、伝説の再来を目の当たりにしてるんだっ!」
桜都の五十層ボス・六天覇王との戦闘を機に、投影機には一層の人だかりが出来ていた。
大陸四都市に設置された投影機の前には、それぞれ万単位の人が押し寄せている。
ミラとニコルの投影機は冒険者ギルドの壁面に設置していたため、入り口が塞がれてギルド本来の役割を果たせなり臨時休業を強いられていた。
「すげぇ……戦闘種の才能って、磨けばこんなに強くなれるもんなんだな!」
「でもスピカ様は大聖女だろ? さすがに誰でもってワケにはいかないんじゃね?」
「だがそれを支えてるのは盗賊だぜ? あの最弱って言われてた!」
「確かに。さっきまで魔物との戦闘を避けたり、早く歩けるのも盗賊のサポートがあったおかげだしな」
「しかも挑発で注目を集め、それを全部避けてるしさ! 実は盗賊って結構やれること多いんじゃね?」
これはリオの名が知れ渡るにつれ囁かれ始めたことなのだが、世間の盗賊における評価が向上し始めていた。
これまで戦闘種の役割は『攻撃役・盾役・回復役』の三役だけが重要視されていた。そのためこの三役は戦闘種の花形で、補助スキルや便利スキル主体の才能は軽視されていた。
だが盗賊は盗むことで将来資産を増やし、常時ダッシュで探索の質を上げることもできる。また
それにより盗賊だけでなく、サポート役の地位全体が向上。賢い者は早いうちにサポート役の価値に気付き、今までになかったタイプの冒険者パーティも各地で頭角を現し始めていた。
「見ろ! それに活躍しているのは大聖女様と盗賊だけじゃないぜ!」
「なんだよあの女騎士! 一振りの横薙ぎで数百の兵を吹き飛ばしたぞ!?」
「それにドレスのような純白衣装に、真っ黒な両手剣って……なんかクるよな」
「わかるッ! 冒険者にしては色っぽいし……見惚れちまうよな」
フィオナは戦場に咲く、一輪の華だった。
漆黒を振るう、可憐な純白。どこか冷たい視線で鮮やかに敵を切り刻む様は、見るものを虜にする美しさがあった。
「あの坊さんもなかなかやるぜ? 派手さはないがアイテムの攻撃魔法と、全体回復で味方を的確にサポートしてる」
「女性に囲まれてても出しゃばったりしないから、なんか好感が持てるよな」
「わかる。昨日もスピカ様たちのケンカを止めてたし、なんか悟りを開いた坊さんって感じだよな」
続いてスポットが当たったのは、後方支援に回るキサナだった。
メイン武器の鉄球は単体攻撃のため、今回ばかりは支援役に徹している。コラプスロッドの崩落で雑兵を地に沈め、属性攻撃を持つ
「でもさ、気になったんだけど……昨日スピカ様とケンカしてた少女って、誰だ?」
「俺も思った。あの魔女っ子もリブレイズなのかもしれないけど、どうもツンケンしてるというか……」
「殺すとか言ってたしな」
「子供だったら殺すくらい言うだろ」
「まあ、言うけど」
そんなアリアンナはキサナの背後で、大人しく撮影役に徹している。リブレイズに打ち解けるとまではいかないものの、高級牛肉のおかげでいつもよりは角が取れているようだった。
と、
「なんだ!? さっきまで周囲が燃え盛っていたのに、今度は雪が降り始めた!」
「それに兵隊の来ていた甲冑も、赤から青に変わったぞ!?」
「遠くから射られていた炎の矢も、今度は氷の矢に!?」
――周囲の観客も気づいたこの変化は、六天覇王の持つギミックだ。
名前にもある六天の六とは、いわゆる六属性のことを指している。
最初に赤い甲冑を着ていた雑兵はすべて火属性。兵の数が一定まで削られると今度は氷属性の軍勢に変化する。
火から始まり氷、土、風、闇、聖と変化していき、全属性の大群を倒せば勝利となる。本命となるような強力な個体は存在しないという、一風変わったボスであった。
だが相手が大群とはいえ、強大な個体が登場しないのであれば弱いんじゃないか? と思われがちだが……そんなことはない。もし属性が偏ったパーティで挑んでしまえば、不利属性の大群に簡単に押し切られてしまうからだ。
そのため複属性の全体攻撃を持ってないと、かなりの苦戦を強いられるボスだった。
先ほどまで
――だが、それを助けるためキサナが背後に控えている。
「フィオナさんっ、炎のリングの力を受け取ってください!」
「わかった!」
キサナが十本指すべてに炎のリングを嵌め、強力な
「炎と風の力を纏った魔法剣、
自前の風属性と、キサナに借りた炎の力。それらを組み合わせた
その威力を見た観客から、一際大きな歓声があがる。
「す、すげぇっ! 魔法剣士ってあんなことも出来るのか!?」
「あの方法なら持ってない属性魔法剣も使えるってことだろ!? っていうか二属性の合わせ技なんて初めて見たぜ!」
「ううっ……!? 二才能目には剣聖を取るつもりだったけど、魔法剣士も捨てがたいなぁっ!」
観客たちが叫んでいる間にも、リブレイズは次々と各属性の雑兵を吹き飛ばしていく。
土、風の軍隊も退けて、次は闇の大群。
ラスト二属性の闇と聖は、これまでの四属性に比べて兵が強化されている。魔物ランクではA+相当だったものが、Sランクへと強化。
だがスピカの
ここまではなにも問題ない。だが聖属性の軍勢が現れた瞬間、戦局は一転した。
「……あれ? いままで前線で活躍していたスピカ様と盗賊が下がったぞ?」
「魔力切れか? まぁ、あんだけ強力な魔法を使っていれば当然か……」
「いや、違う! 敵が聖属性に変わったから……スピカ様の攻撃は吸収されちまうんだ!」
大群を吹き飛ばし続けた
リブレイズの無双劇も、ここに来てようやく鈍りを見せ始めるのであった。
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