第125話 ついに桜都最奥! 五十層ボス・第六天覇王
翌朝。私たちはテントを片付けて、深層に向けて歩き出した。
目標は五十層。今日はこのままダンジョンボスに挑戦し、地上へ帰ろうと思っている。朝この方針を話したところ、フィオナに意外そうな顔でこう言われた。
「めずらしいな。いつものリオであれば、数日は滞在すると思っていたのだが」と。
もちろん滞在も考えたが、昨日のザコ戦をこなす中でその線はなくなった。
なぜなら特注ダンジョン最大のメリット、未実装レアを持った魔物がいなかったからだ。未実装レアがなければ特注ダンジョンにこだわる理由もない。
また四十層付近まで来たのだからレベリング、も考えたがそれもパス。今回はお客人であるアリアンナも連れているし、ダンジョン配信とドラゴパシーの宣伝も仰せつかっている。だったらレベリングの光景ばかり映しても視聴者たちは退屈だろう。
だから今日のうちに五十層まで進み、ボス戦の配信でフィナーレを飾ろうと考えたのであった。
エルドリッヂは「レベリング映像でもみなさま楽しんで頂けると思いますが……配信者様がやりたいことをやるのが一番です」と了承してくれた。
ということで、私たちは無エンカ十倍速で五十層へ。
その日も配信は朝から開始されており、私たちは無言で歩く映像だけを流し続けている。
(みんなさっさと戦闘シーンを見せろ! とか思ってるんだなぁ……)
……なんて考えていたのだが、そんなことはなかったらしい。
無エンカ十倍速は一般人には見慣れない光景だったため、移動するだけの映像でも
Sランク冒険者は徒歩も一流である、という謎な評価を得てしまう次第であった。
そして移動中。もうすぐ五十層に着くであろうという状況下で、意外なことにアリアンナが私に話しかけてきた。
「ねえ、盗賊。アンタどうやってアルフを倒したの?」
ドラゴパシーを胸元に取り付けたアリアンナが、隣に並んで聞いてくる。
「あれ? アリアンナちゃんはその時のこと、見てなかったんだっけ?」
「私は大聖女に眠らされたから見てない。起きたらアルフが倒れてて、他の連中が九尾と戦ってた」
「……ああ、そっか。そういえばそうだったね」
「私はアルフとパーティを組んでたし、過ごした期間も長いからアイツの強さは知ってる。だからアンタみたいな女盗賊が、アルフを倒したことが信じられない」
問いかけてくるアリアンナの表情は、極めて真面目だ。
本当は話しかけてもらえて嬉しいのだが、変に愛想笑いを見せるとまた睨まれそうだ。出来るだけ私も淡々と返事をすることにしよう。
「……盗賊のマスタースキルに脱兎反転ってスキルがあるんだけど、そのおかげかな。あれは逃げと回避の数でダメージが累積する大技だから」
「へえ、そんなのあるんだ。じゃあ五十層ボスにも、それで攻撃するつもりなの?」
「使わない、っていうか使えないかな。あれって使うと累積した攻撃力がリセットされちゃうから」
「え。じゃあ私はそんな滅多に見れない大技を、寝てたせいで見逃したってワケ?」
「あーそういうことになるかなぁ……」
「ハァ、最悪。アルフを倒したそのスキル、どんな大技か見たかったのに」
……ん?
この子いま、私のスキルが見たかったって言ってくれたの?
初対面に死ねと言われてビビっていたが、アリアンナも一流の冒険者。高火力を叩き出すスキルには並々ならぬ興味があるらしい。であれば冒険者らしい話題をであれば、アリアンナと距離を縮めることはできるかもしれない!
「も、もももしアリアンナちゃんが見たいって言うならぁ……何度か一緒にダンジョンに潜ったりすれば……いつか見せてあげられるかもね!?」
「は? アンタとはこれっきりに決まってるでしょ。っていうか”ちゃん”付けやめろよ、殺すぞ」
「あっ、うん、すまんでござる……」
少しでもすり寄ろうとした結果、これである。
とはいえ初対面に比べたら、だいぶマシになったほうだ。昨夜、高級牛肉の二枚目を食べさせてあげたのが原因かもしれない。
ていうか高級牛肉って満足度上昇率100%でしょ? それを二枚も食べておいて普通に「殺すぞ」が出てくるアリアンナって、どんだけ満足度マイナススタートしてるの!?
――なんて思っている内に五十層へ到着、いよいよ桜都最奥ボスとの戦闘だ。
「みんな準備はいい?」
「問題ない」
「いけますよ!」
「早く倒しておうちに帰ろう!」
「じゃあ……出発!」
撮影役のアリアンナを最後尾に添え、私たちは五十層ボスのいる部屋へ足を踏み入れる。
辿り着いたボス部屋の中は……九尾戦と同じような大火に見舞われる、城下町の内観を模した場所だった。
だが九尾戦の時とは違い、建物は少なく拓けた荒野が広がっていた。
そして荒野の奥、立派な天守閣を持つ城が激しく燃え盛っている。さらには燃える城を背景に、邪悪に微笑む戦国大名の姿が映っていた。
名前:第六天覇王
ボスランク:S+
ドロップ:高級茶器
レアドロップ:城ダンジョンのタネ
盗めるアイテム:なし
盗めるレアアイテム:なし
「うわ、めっちゃ楽しいボス来た!」
「た、楽しんでるヒマありますかっ!? タイプ相性を考えたら結構キツい戦いになる気がしますけどっ!」
「……二人とも。ここのフロアボスになにか心当たりがあるのか?」
ボスの正体を悟った私とキサナに、不思議そうな顔でフィオナが聞いてくる。
「はいっ! 今回はザコの大軍隊を相手にするだけのボスです!」
「大軍隊、だと?」
「今回のボスは実体を持ちません。ひたすら出てくる大量のザコを蹴散らし、敵の在庫を空にすることが私たちの勝利条件です!」
「でも注意してください。敵軍は全員が属性持ちなので、不利属性で戦うと一気に窮地へ追いやられる可能性がありますから」
「わかった。……って今更だが、キサナ殿もやたらボスの情報に詳しいのだな?」
「あ、ああああっ!? りおりーと同じ古書館で、勉強したことがあるのでぇっ!?」
「アンタたち、呑気に話してる時間なんてあるの? ボスの周りにいた兵隊が、こっちに突っ込んでくるけど」
アリアンナの声を聴いて前を向くと……
「とりあえず敵の数を削りたいので、単体攻撃は控えてください!」
「わ、わかった! 全体攻撃で数を削ればいいのか?」
「そうです!
「了解した!」
フィオナが終末剣を構え、マージストライカーを起動する。そして――
「スピちゃん!」
「はいはーい?」
「背中に乗って! またあの戦法で行くよっ!」
「がってんしょうち!」
私はスピカを背に抱え、
――第六天覇王はとある戦国武将をモチーフにしたボスだ。だが武将本人と戦うことはなく、雑魚をすべて倒しきればそれで勝利となる。
この戦場も数百万の大軍隊がぶつかりあう、戦国時代の
そしてこのボスを楽しいと言ったのは、数万と現れる雑兵たちを全体攻撃で蹴散らすのが、すんごくキモチイイからである。
「じゃあスピちゃん、合図したらいつものをお願い!」
スピカを背に抱えた私は、大群とぶつかる直前で跳躍。そして数秒経過したタイミングで合図を出す。
「いまだっ!」
「おけーい! 久しぶりの出番だよっ、
甲冑を身に着けた覇王の配下が、次々と破壊の雨を浴びて吹き飛んでいった。
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