第122話 四十一層の探索再開、いよいよストリーマーデビュー?
四十層でナガレたちと別れた後、私たちは四十層で一泊。翌日から最深部の五十層へ向けて発つことにした。
なぜかダンジョン配信をすることになったが、久しぶりのガチ探索である。
昨日まではチームゴールドの襲撃を恐れてきたが、もうその心配はなくなった。ここから先はレベリングもスティールアンドアウェイも、やりたい放題である!
「さあ、みんな準備はいい?」
「ああ」
「大丈夫ですよ」
「早く先に行こうよー!」
「………………」
大切な仲間のやわらかい視線×3に、殺気を放つ不穏分子×1
もちろんトライアンフの占星術師、アリアンナである。
ダークなオーラを放ち続けるアリアンナに、私はお愛想笑いを向けてみるが……向けられる殺気は強まるばかり。
(とりあえず撮影役は引き受けてくれるみたいだけど……前途多難だなぁ)
私は以前「死ね」の特大クリティカルをもらったため、どこかアリアンナには苦手意識がある。
背には今もザクザクと殺気が刺さり続けているが、攻撃まではして来ないと信じて先を進むことにする。
すると背後から、アリアンナに話しかけるスピカの声が聞こえてくる。
「ねえねえアリャンナー、手つないで歩こー?」
「繋ぐわけないでしょ、勝手に握ったりしたら腕もぐから」
「あはは、なに言ってんの~? スピカには『守護神の羽衣』があるんだから、もげるわけないじゃーん?」
「言ったわね、絶対もぐ」
そう言ってアリアンナはされてない挑発に乗り、自分からスピカの手をひったくる。
魔力による身体強化も施した上で、本気でスピカの腕をもごうと万力をこめ始めた。だがスピカは笑いながら「あはは、痛ーい」とか言って喜んでいる。
多少のダメージも入っているようだが、『癒しの雨』で十分に間に合わせられる回復量。
だがアリアンナは本気だ。スピカの手をもごうと、奥歯を噛んで全力を振り絞っている。
「……リオ、いいのか? あのままにさせておいて」
アリアンナの行動を見かねたフィオナが、私に耳打ちをしてくる。
「う~ん、確かにじゃれ合いにしてはハードですけど。スピちゃんがいいって言ってるなら、いいかなあって」
「私はリオの方針に従うが……正直、あの少女はどうかと思う。昨日まで敵だった相手に、主が背中を向けているなんて……私は反対だ」
「ふふっ、でも私の騎士様が守ってくれるんでしょ?」
「そ、それはもちろん死ぬ気で守るが。って、私が言いたいのはそういうことではなくてだなぁ……」
フィオナが真剣に身を案じてくれるのが嬉しく、私はちょっとだけイジりを入れてしまう。するとフィオナは少しだけむくれ、拗ね始めてしまった。
なんてゴッドプリティなんだ、私の騎士様は。
拗ねるフィオナに、わちゃつく少女たち。そういえばキサナの姿が見えないな、なんて思っていると死にそうなキサナの声が聞こえてくる。
「……ね、ねえ、りおりー。もう撮影って始まってるんですか?」
「うわ、ビックリした!? っていうかキサナちゃん大丈夫? 顔、真っ青だよ」
「だって生配信するんですよね? つまりボクが死ぬということじゃないですか」
「ど、どういうことだってばよ……」
「だってボクはハゲの中年男性なんですよ!? こんなオッサンが女の子たちの配信に交じったら、叩かれるに決まってるじゃないですか! 百合に挟まる大戦犯として、石を投げられるに決まってます!」
「いや、ここに百合とかないから」
「視聴者が百合だと思ったら、そこに百合はあるんですよぉ……」
なにやら哲学的な返しをされ、見えないなにかに怯えている。
う~ん、総じてカオスだ。配信映えするようなシーンが一つもない。
一応、エルドリッヂに配信オンオフの操作は聞いている。私たちはこれでも乙女の集まりだ、人目に晒す映像は選ばせてもらいたい。
私には視聴者を楽しませるトーク力はない、だったら戦う姿くらいはいいところを見せないとね。
――なんて思っていると、いよいよ魔物たちの姿が見えてきた。
ナガレから渡された攻略指南書にも載っていなかった、桜都四十一層以降の魔物たちだ。
名前:ブレイド・コアトル
魔物ランク:S+
ドロップ:鉄鉱石
レアドロップ:強壮の血液
盗めるアイテム:氷の牙(B)
盗めるレアアイテム:レイピア・グレイシア(A+)
名前:カミカゼ・サムライ
魔物ランク:S+
ドロップ:脇差(E)
レアドロップ:風来帽(A)
盗めるアイテム:万能薬
盗めるレアアイテム:影食(A+)
名前:キング・ミノタウロス
魔物ランク:S+
ドロップ:鉄の斧(E)
レアドロップ:高級牛肉
盗めるアイテム:興奮剤
盗めるレアアイテム:破城斧・マサカリ(S)
うんうん、いい感じにSダンジョン最奥って感じの魔物たちだ!
だが特注ダンジョンの目玉、未実装レアを所有してないようだ。少しばかり肩透かしではある物の、手に入る武器は結構な粒ぞろい。
入れ替えで使うほどの性能はなくとも、持ち帰れば結構なお金になるだろう。
だがこの中でも、私が一番に気になっているのは……キング・ミノタウロスから手に入る高級牛肉だ。
これはクラメンの”満足度”を上げるためのアイテムである。
満足度とはNPCに存在する、戦闘と無関係のパラメータである。
主に生活種メンバーに対しての重要数値となっており、この数値が高ければ高いほど仕事の質が向上する。
満足度はパーセンテージ単位ですべてのNPCに割り振られている。スタメンに起用する戦闘種は連れ歩くだけで満足度を上昇させるが、生活種は放っておくと徐々に満足度を低下させていく。
そのため満足度アップのアイテムを支給して、このクランでいることに満足させてあげるのだ。
ちなみにリリース初期は満足度がゼロになったクラメンは、クランを脱退するという仕様もあった。が、これは炎上の末に修正された。当然と言えば当然の話である。
……と、話は脱線したが、なぜ高級牛肉が気になるのか?
それに単純に、美味しそうだからである。だって高級牛肉の満足度回復量は……驚異の100%!
もしこれをアリアンナにご馳走すれば……冷え込んだ関係を改善できるかもしれない!
盗むで手に入る品じゃないので、落ちるかどうかは運頼み。だけどWアサシンダガーを持つ私なら、最高効率でミノタウロスを屠ることが出来る。
今日の夕飯と、アリアンナと関係修復のために。ここらで狩りを始めましょうか!
「みんなっ! 欲しいアイテムがあるから、しばらくエンカウントなしで進むよっ!」
「あいあいさー! またチーム分けはする?」
「今回は盾役が私だけだからナシかな。あと出来ればミノタウロスを優先して倒して!」
「りょーかいっ!」
「それと……」
エンカウントなしを外す前。私は最後列に立つアリアンナの方を向き、下手にお願いする。
「あ、あのぉ、アリアンナさん。ひとつお願いがぁ……」
「……ドラゴパシーの電源、入れればいい?」
「あっ、うん! お願い……します!」
アリアンナがドラゴパシーのスイッチを押すと、レンズ横のランプが赤く点灯する。おそらく配信開始の合図だろう。
「あ、あ~……リブレイズのリオ、ですっ。いまからSランクダンジョンの魔物と、戦いまーす、がんばりまーす……」
なにをしゃべればいいかわからず、声が尻すぼみになってしまった。
顔を晒し続けるのも恥ずかしいので、私は背を向けて魔物たちと対峙する。
そ、そうだ。冒険者は口で語るものじゃない、戦う背中で語るものだっ!
そう言って自分にフォローを入れつつ、私たちリブレイズは四十一層にて雑魚戦を開始したのであった。
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