第121話 まさかのダンジョン配信展開ですか?
『挨拶が遅れてしまい申し訳ございません。私は天才錬金術師エルドリッヂ、トライアンフ爆破の企画立案者でございます!』
ドラゴパシーに映るエルドリッヂが、気取った仕草で画面に一礼。私は困惑しつつも「どうも……」と画面に頭を下げ返す。
「この度は我々の計画に尽力頂き、誠にありがとうございました! その上で厚かましくも追加でお頼み申し上げたいのですが、これから貴女たちにはダンジョン配信をしていただきたいのです!」
「……ダンジョン、配信ですか?」
『ええ! ドラゴパシーは歯車組の解放にとーっても役立ちましたが、せっかく四十層まで到達されたのです。もし貴女たちが続きを探索するつもりなら、それを皆様に披露されてはいかがでしょう?」
「それは別に構いませんけど……皆様って、誰が他に見るんです? この映像を見てるのってルキウスと聖教騎士団、それにレファーナさんたちくらいじゃ?」
『そんなことは御座いません! 実はミラやニコルなど計四都市に、この映像を流すことのできる大型の投影魔道具を配備しているのです!』
「用意周到すぎるっ!?」
『あとはリオ様のゴーサインがいただければ、配信はすぐにでも始められる予定です。何卒、傲慢なワタクシめの願いを聞き届けていただけないでしょうかっ!』
画面に映るエルドリッヂが、またも仰々しく頭を下げる。
「……でも配信をしたとして、なんのメリットがあるんです? 私たちの映像が各地に流れても、エルドリッヂさんは得しませんよね?」
『そんなことは御座いません。なにせその点こそがレファーナ様へ持ちかけた”商談”なのですから!』
「そう言えば最初に言ってましたね、商談がどうのとかって」
『実はドラゴパシーは既に量産態勢を確立しておりまして、配信会場の四都市で即売会を実施する予定なので御座います』
「えっ、これ量産に成功してるんですか!?」
『ハイ、ワタクシ天才ですので』
エルドリッヂはさも当然のように言ってのける。
『しかし量産は出来ても効果的な実用例がなければ、お客様は興味を示されません。そこでリブレイズの皆々様にっ、その効果的な実用例になっていただきたいのです!』
「……なるほど」
つまり私たちの配信を見せることで、みんなに購買意欲を持たせたいのだろう。
この世界の人たちにとっては新しすぎる技術だが、私は別の世界でそれが当たり前の現実を知っている。おそらくこのプロモーションは大成功するだろう。
『つきましてはリブレイズには現地で売り上げたドラゴパシーの利益、30%を――』
『違う、50%じゃ』
得意げだったエルドリッヂの声は、画面向こうにおられる我らが守銭奴サマにかき消された。
『……失礼しました、お約束の数字は40%で』
『50%じゃ』
『よ、よんじゅうご……』
『50%じゃ』
『…………ハイッ! 50%の利益を還元いたします!』
自信満々だったエルドリッヂも、少しばかり笑みが引きつり始めた。
(……さすがはレファーナさん、お金のことになると強いっ!)
なんとも頼りになるリブレイズの大蔵大臣である。
「で、私たちはなにをすればいいんですか?」
『これまでと同じく、楽しく愉快に探索を続けてくださって構いません。皆様がおられるのはSランクダンジョンの四十層、普通にしているだけでも見ごたえのある映像になるはずです』
まあ、それはそうかも。
この世界はまだ奈落の踏破者さえいない世界だ。
(うわぁ、恥ずかしいなぁ……)
実のところ、私は人前で喋ったりするのが苦手なタイプだ。
それでもクラジャンの腕には自信があったので、転生前に解説付きで自分のプレーを録画したことがある。が、自分のボソボソ喋りがキモ過ぎて、すぐに抹消してしまった。
そんな私がダンジョン配信なんて出来るのだろうか、
「他に、なにか気にすべき点はありますか?」
『そうですねぇ。一応リブレイズ皆様の映像が欲しいので、撮影者としてチームゴールドの誰かに残っては欲しいですね』
「……残るのは、アリアンナ」
するとこれまで口数の少なかったマキシマが、真っ先にアリアンナを指名する。
「ハァ!? なんで私が!」
「地上が落ち着くまでの、時間稼ぎ。マキシマたちは地上に戻ったら、すぐ騎士団に逮捕される」
「え、意味わかんない。どうせ騎士団に捕まるなら、いつ戻ったって同じでしょ!?」
「意味はある。地上はいま大騒ぎ、すると騎士団も血眼でマキシマたちを捕まえる。でもアリアンナはその時、黙って逮捕されることできない」
「そ、そんなことないわよ。私だって……」
「騎士団に少しの反撃もしてはダメ、でもアリアンナは絶対反抗する。少しでも反撃したら、アリアンナの罪、一気に重くなる」
真っ直ぐ目を見て話すマキシマに対し、アリアンナはそっぽを向いて憮然としている。
「リブレイズと一緒に、最奥を目指せば、地上が落ち着く時間稼ぎになる。マキシマたちも騎士団に説明できる。そしたら騎士団も乱暴せず、アリアンナを逮捕する」
「……だからって、私だけが残るなんて」
「マキシマは、アルフとオーウェンを騎士団に差し出す。こいつらが目を覚ませば、マキシマたちには止められない」
「だったら私も!」
「お前は地上が落ち着いてからだ」
「なんでよ!」
「そうやって短気を抑えられないから」
奥歯を噛みながら睨むアリアンナの視線を、マキシマは涼しい顔で受け止めている。
「それにアリアンナは、年の近い者と話しをしたほうがいい。アリアンナは色々と、経験が少ない」
「上から目線で話しかけないで! なにが経験よ、私より才能の数もレベルも低いクセに!」
「……そうだ。だからリブレイズの戦いを見て、アリアンナはもっと強くなるべき。マキシマやナガレでは辿り着けない、高みに行ける」
マキシマがそう言ってやわらかい笑みを浮かべると、アリアンナはふんと鼻を鳴らしてそっぽを向く。
そんな態度もマキシマには慣れたものなのか。ふっと笑みさえ浮かべて見せ、私に向かって軽く頭を下げる。
「ということで。アリアンナのこと、連れて行って欲しい」
「そ、それは構いませんけど……」
「なにか気になること、あるか?」
「いえ、と言うか……」
私がおっかなびっくり、アリアンナの方を見ると……ギン! と鋭い視線が返ってくる。
「ひいぃぃぃぃ!!!!! 私、殺されたりしませんよねぇ!?」
「大丈夫。アリアンナは凶暴だけど、人を殺したことない。まだ」
「まだってなんすか!?」
私が思わずツッコミを入れると、横で見ていたナガレが高笑い。
「大丈夫だよ、あれは渋々だが受け入れた時の顔だ」
「人をわかった風に解説すんな、殺すぞ!」
「おー怖い怖い。そいじゃオッサン連中はこの辺でお暇させてもらうとしますか」
そう言ってナガレはドラゴパシーをアリアンナへ差し出した。
「そいじゃ、お嬢。また地上でな」
「うっさい。早く消えろ、浮浪者」
「はは、了解」
「…………お兄のことだけ、お願い」
「あいよ」
アリアンナと軽い別れを済ませた後。ナガレが私の方を向き、深く頭を下げてきた。
「嬢ちゃん……いや、リオ。今日までのすべてに感謝する。こんな大恩、どう返していいかすぐには思いつかないが……残りの生涯すべてをかけてでも、必ず返すとここに約束する」
「あまり気にされないでください。まずはトライアンフに所属していた人たちを、気にかけてあげてください」
「……そうだな。いつになるかわからないが、その時は必ず」
そう言ってナガレたちは脱出ゲートで帰還した。
後に残されたのはリブレイズ四人と、ドラゴパシーを持ったアリアンナだけ。
「……とりあえず今日はここで休もっか」
連戦に次ぐ、連戦で私たちはブッ倒れそうなほど疲れている。
その日はテントを張った後。みんな夕飯を取ることもなく、そのまま泥のような眠りにつくのであった。
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