第112話 vsアリアンナ&マキシマ②
幻獣王バハムート。その名を呼ぶと共に、アリアンナの体から膨大な魔力が抜けていく。
すべての魔力を出しきると、アリアンナはその場にへたり込む。そして
「……ウソ、あの子。バハムート召喚できるの?」
召喚士が呼び出すための幻獣は、対象によって使役可能な条件が異なる。
特定のボスを倒すことで無条件獲得できたり、基本スキルLVを上げることで入手したり、スキルポイント交換が条件だったり。
その中でもバハムートは、スキルポイント交換で手に入る幻獣だ。
しかも幻獣王バハムートは才能LV100が交換条件になっている、召喚士のマスタースキルだ。
つまりアリアンナはこの一ヶ月で、新たに取得した召喚士レベルを100まで育てたということだ。
……キサナは思わず怖気立ってしまった。
アリアンナの怒りに満ちた言葉は、相手が子供であることを考えれば、強い言葉を振りかざすだけの云わば可愛いものだった。
だがあの言葉がすべて本心で、その執念に基づいた努力をしていたのであれば……アリアンナほど恐ろしい敵はいない。
―――ギャオォォォォッ!!!!!
アリアンナの魔力によって顕現したバハムートが、術者の怒りを代弁して咆哮。
そして巨大な口を開くと、喉の奥に莫大なエネルギーを集まり始めた。
「っ! スピカ様、気を付けてくださいっ! 『竜王の息吹』が飛んできます!」
キサナたちが身構えると同時、竜王の息吹が二人の頭上に降り注ぐ。
威力は四十層ボスのラストアタックで使用された、
「ううっ、まさか幻獣王バハムートと戦わされる日が来るなんて………」
「キサナぁー、だいじょーぶ?」
バハムートの攻撃が収まったのを見計らい、心配したスピカが駆け寄って回復魔法を入れてくれる。
「ありがとうございます。でも気を付けてください、すぐに次の攻撃が――」
「――回復するための時間は、私が稼ごう!」
キサナたちの横から、ドレスアーマーの女騎士が駆けていく。フィオナだ。
ドラゴン種の弱点属性を纏った終末剣を、バハムートめがけて振り下ろす。
「グギャアアアアァァァァッ!?!?!?」
SSランクの幻獣王と言えど、SS+武器の弱点攻撃を受けてタダで済むはずがない。鋼よりも硬いウロコを紙のように裂き、絶大なダメージをバハムートへ叩き込む。
「わー、ヒオナやばーい!」
さすがのスピカも頂上決戦ともいえる戦いに、思わず感嘆の声を上げる。
しかもフィオナは死にスキルとしていた『挑発』を使って、バハムートの気を引いている。キサナたちの回復時間を確保させるとはいえ、盾役でもないフィオナに攻撃を集中させるのは危険だ。
「スピカ様、大変心苦しいお願いなのですが……羽衣効果でフィオナさんの盾になっていただけませんか?」
「いいよー! でもキサナはどーするの?」
「僕は回復と中衛からの攻撃に専念します。前衛ほど攻撃は集中しないはずなので、自分でなんとかできるはずです」
「わかった! じゃあスピカ行ってくるね!」
合流したスピカは迷うこともなく、フィオナの片腕にぶら下がる。そしてバハムートの振り下ろした物理攻撃をスピカ盾で受け、ふたたび
スピカを盾に使う戦術は、事前にスピカの同意も得た立派な作戦だった。
剣を両手持ちしていると盾を装備することはできないが、
しかもこの盾は回復魔法や、攻撃魔法まで使うことが出来る。先ほどマキシマにしたように不意の攻撃を突いたりと、戦術の幅を無限に広げることが出来る。
バハムートが振り下ろす爪、ジェノサイドクローは強烈な攻撃だ。フィオナが直撃すれば体力の八割強は持っていかれるだろう。
だがスピカ盾はそのダメージを一割に抑えた上、指示しなくとも自発的に回復までしてくれる。有能どころの話ではない。
しかしこの戦術にも唯一のデメリットがある、それは子供を盾にするという罪悪感だ。痛みを意に介さないスピカはノリノリだが、使用者にはとてつもない罪悪感が降りかかる。
だが最強の剣と最強の盾を手にしたフィオナは、バハムート相手にソロで大善戦。キサナはそのわずか後方から、足りない回復と鉄球で追撃を積み重ねている。
強敵ではあるがパターンに入り始めた。このまま同じ行動をとっていけば、いずれ――
「っ!?」
甘い考えに力を抜きかけたところで、キサナは近寄ってくる人影に気が付いた。
「あなたは……バーサーカーの?」
キサナに近寄ってきた人影はマキシマだった。だが彼の顔に覇気はなく、こちらに攻撃しようという意思を感じられなかった。
だが放置するには危険な存在だ、かといってトドメを差すつもりもない。キサナは弱った敵の扱いに困っていると、マキシマは力ない表情でこう言った。
「……ナを……めて、くれ」
「えっ?」
「…………アリアンナを、止めてやってくれ」
突然の申し出に、キサナは困惑した表情を浮かべるのであった。
***
その後、キサナは前衛で戦うフィオナと合流した。
「フィオナさん、申し訳ありません。スピカ様をお借りしてもよろしいですか?」
「っ、しかしもう少しでバハムートを討伐できるところまで来ている。それが終わってからではダメなのかっ?」
息も絶え絶えに、フィオナが激戦を繰り広げるバハムートを睨み据える。
バハムートは未だ戦意を失っていないものの、体中のウロコが引き剥がされ、片方の翼は千切れかかっている。とても冒険者一人が負わせた傷とは思えない。
「ですが討伐してしまうと、今より悪いことになる可能性があります」
「なんだと? それはどういうことだ!?」
「今はボクを信じてくれませんか。そしてその上でバハムートを足止めして欲しいんです」
「……ハハ、すごい注文だな」
「わかっています。でもフィオナさんの他に、頼める人がいないんです!」
「了解した。キサナ殿がそこまで言うなら、やってみよう!」
「ありがとうございます!」
スピカがキサナの腕に飛び移ると、フィオナは挑発をかけ直してバハムートを誘導。頼み通りバハムートの注意を逸らしてくれた。
一方スピカを肩に乗せたキサナは、作戦の説明をしつつバハムートの背後目指して回り込む。
が、バハムートの後ろにはアリアンナが控えている。術者への接近だけは許さないと、巨大な尾を振り回してキサナを妨害。
「……やっぱり挑発中でも背中は開けてくれませんか。ではスピカ様、お願いします!」
「わかった!」
スピカの返事と共に、キサナは装備していた鉄球を振り回す。
そして振り回した尾がキサナを襲う寸前、キサナは鉄球を見当違いの方向へ投擲。だがその狙いに間違いはない、なぜなら――
「鉄球に乗ったスピカが、発射されたからだぁーーー!!!」
振り回された鉄球にはスピカがしがみついており、投げ出されると同時に鉄球から両手を離していた。
空振りとなった鉄球はキサナの手元に戻るが、手を離したスピカは高速の弾丸となってバハムートの背後へ突っ込んでいく。
そして狙い通り、バハムートの背後――術者アリアンナのいる地面に頭から突っ込んだ。
「あー頭いてぇー! 首の骨、折れたかとおもったよー」
「……なんで折れてないのよ」
「答えは簡単、スピカが無敵だから!!!」
スピカがドヤ顔を向けた先には、ドン引きした表情のアリアンナが佇んでいたのであった。
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