第111話 vsアリアンナ&マキシマ①

 四十層ボスの討伐を終えた後、スピカがドロップした宝箱に駆け寄ったところ――バーサーカーのマキシマに蹴り飛ばされた。


 中身の開封権がないため横取りはされないものの、楽しみを奪われたスピカはおかんむりだ。


「いったぁ……なにするんだよぉっ!」

「殺そうとしてんだよ、大聖女! いまに痛いとも言えなくしてやるから!」


 スピカの抗議に応えたのは、マキシマの肩に乗るアリアンナ。赤紫の衣装にとんがり帽子をかぶり、小さな魔女と言った風貌だ。


 対するマキシマは最低限の軽装を纏った大男だ。拳にはトゲ付きのグローブを嵌めており、見るからに近接戦特化のスタイルだ。


「スピカ様、大丈夫ですかっ!」

「そんなに痛くないからヘーキ! それより聞いて、アイツらムカつくんだよ!」


 キサナが回復を入れつつ、マキシマたちと対峙。だがスピカの言葉を聞いたアリアンナの罵倒は止まらない。


「なにがムカつくだ、お前にムカついてんのはこっちなんだよ! 大聖女のクセして、お遊び気分で冒険者ごっこ? こっちは毎日命がけでダンジョンに潜ってんだぞ!」


 怒りに任せたアリアンナの言葉に、キサナとスピカは思わずたじろいでしまう。


「大聖女って国のために聖堂で祈り続けるんじゃないの? なんで冒険者なんかやってんの? お前がそうやって遊んでるから、私たちは不幸なままなんじゃないの!?」


 アリアンナは止まらない、感情を吐き出すことを止められない。


「なにがエレクシア聖教だ、なにが大聖女だ! 不幸な子供を救うとか言ったって、私たちの生活はなにも変わらない。ルキウスを肥やすための歯車として使われるだけ! ならクソの役にも立たない大聖女なんか、私がブッ殺してやる!!!」


 殺意に駆り立てられたアリアンナが、持っていた杖をスピカに振りかざす。


「跡形もなく燃えろ、煉獄パガトリィ!」


 杖の効果により生み出された、Sランクの炎魔術がスピカに襲い掛かる。しかし――


「あっつー!」


 スピカは直撃を受けるものの、受けたダメージは体力の一割。『守護神の羽衣』の効果により、スピカは強力な攻撃でも最小限のダメージに抑え込んでしまう。


 そしてまだ収まらぬ煉獄の中で、スピカは平然とした表情で戦いの下準備を整える。


「みんなに癒しの雨! そして天罰!」


 クラメン全員に小回復効果の雨を降らせ、山盛り弱体効果デバフの天罰を敵全体に付与。


 すると遠くからスピカ目がけて苦無くないが飛んでくる。暗殺者アルフレッドによる超遠距離攻撃だ。


 しかし、その攻撃はリオの手裏剣により阻止。軌道を逸らされた苦無は、あさっての方角へ飛んでいく。


「ちっ、アルフのヤツ! 大聖女は私の獲物なんだから、茶々入れんじゃないわよっ!」


 味方の援護にも文句を吐きながら、アリアンナは次の魔術を行使すべく意識を集中する。が――


「避けるぞ」


 マキシマの一言により、アリアンナは魔術の使用を中断。マキシマにしがみつき、衝撃に備える。


 次の瞬間、金属が激しくぶつかる音が響きわたる。


 いつの間にか至近距離に立っていたキサナが、マキシマに人喰らう鉤爪(S)を振り下ろしていた。


 それ察知していたマキシマは拳に嵌めた装備、ジャイアントキリング(S)で受け止める。


 武器を打ち合わせた二人は、わずかに睨み合って距離を取る。が、マキシマが後方に飛ぶ合間を縫ってアリアンナが攻撃魔法を詠唱。


「死ね、ハゲオヤジ! 虚空穿こくうせん!」


 キサナの周囲に闇の粒子が出現し、対象を食らわんと空間に孔を穿つ。


 単体闇魔法、虚空穿こくうせん。聖属性の破壊光線と対を成す、Aランク級の攻撃魔法だ。


 直撃を受けたキサナはなんとか攻撃を凌ぎ、守りを捨てて自らに回復魔法をかける。またスピカも味方の窮地を察して、攻撃魔法を打ち込む。


「キサナをいぢめるなっ! 聖光瀑布ホーリー・フォール!」

「ハハハッ! バーーーカ! アンタの攻撃は対策されてんのよっ!」


 敵全体チームゴールドに破壊光線の雨が降り注ぐも、全員が光吸収対策済み。敵全体に大回復の塩を送ってしまう。


「むむむっ、ズルいぞっ!」

「遊び半分で冒険者なんてやってるからよ! 見てなさい、アンタの前で仲間を皆殺してやるから!」


 聖光瀑布ホーリー・フォールのない大聖女は脅威たりえない。そう考えたアリアンナは、大回復ハイヒール持ちであるキサナを優先して攻撃する。


「暗闇の中で死ねっ、イクリプス!」


 暗転した世界で、ナニカがキサナへ襲い掛かる。


 世界に灯りが戻ると、アリアンナの目には片膝をつくキサナの姿が映っていた。


「マキシマ、追撃よ! いまならハゲを倒せるわ!」


 と、声をかけるもマキシマは動かない。


「なにしてんの、今がチャンスでしょ!」


 そう言って自分を担ぐマキシマを見下ろすと――マキシマは全身を何者かに切り裂かれていた。


「なっ…………これは、イクリプス!?」

「そうだよ! 魔女っ子がイクリプスを使うのに合わせて、スピカも同じ魔法を使ったんだよ!」


 つまり世界が暗転したのは一回だったが、ほぼ同時にイクリプスを打ちあっていた。そのためキサナがイクリプスを受けたのと同時、マキシマも直撃をもらっていた。


「なんでアンタもイクリプスを使えるのよ、そんなの聞いてないっ!」

「へへー、最近覚えたばかりの魔法だかんね!」

「アンタ、大聖女でしょ!? なんで占星魔術が使えるのよ!」

「仕方ないよね~、だってスピカは大聖女だから!」

「は、意味わかんない。死ね!」


 アリアンナはポーチから回復薬を取り出し、自らを運ぶマキシマの手当を始める。その間にスピカはキサナと合流し、回復魔法で互いの傷を癒す。


 そして二人は小声で作戦会議を始め、互いに頷き合う。


 するとキサナは装備を鉄球マスターキーに持ち替え……スピカはキサナの左手にぎゅっとしがみついた。


「は、なにその格好? やる気あんの?」


 アリアンナが眉をひそめるのも無理はない。なぜなら敵は大真面目な顔で鉄球を握りつつ、片手にスピカをぶら下げているのだから。


「……本気、ですよ。スピカ様をこのように使うのは、ちょっと気が引けるんですけど」

「私たちの戦い方をマネたつもり? それなら奇をてらわず肩に乗せときなさいよ、こっちのほうが楽に戦えるでしょ?」


 アリアンナの言葉にキサナたちは取り合わない。無視されたことに腹を立てたアリアンナは舌を打ち、マキシマは近距離戦に持ち込むべくキサナたちへ突っ込んでいく。


(あのハゲ、バカね。拳装備のマキシマを相手取るなら、どう考えても鉤爪の方が戦いやすかったでしょ!)


 これまでマキシマが積極的な近距離戦を仕掛けなかったのは、相手が未知の鉤爪を装備していたからだ。バーサーカーと僧兵では力で押し負けないとわかっていても、警戒し過ぎるに越したことはない。


 だが相手は装備を鉄球に持ち替えた。そこにどんな意図があるのかわからないが、鉄球では小回りが悪い。マキシマが距離を詰めれば、瞬く間に戦況は有利になるだろう。


 鉄球の有利とする戦域は中距離、そして攻撃魔法持ちの大聖女は遠距離が得意。だったら近距離戦に持ち込めれば、相手はなすすべもない。


 マキシマは飛んできた鉄球を躱しつつ、一気にキサナとの距離を詰める。そして拳を振りかぶり――全力の一撃を叩き込む。


 が、キサナは信じられない行動でその攻撃を受け止めた。


 なんとスピカが抱き着く左手を前に出し、スピカを盾にしたのだ。


(は――?)


 まさか国宝とも呼ばれる大聖女を盾にすると思わず、マキシマもアリアンナも頭が真っ白になる。


 盾にされたスピカは、正面からマキシマの直撃を受ける。物理特化しているマキシマの重い一撃だ、後衛の法衣装備をした大聖女に受けられるはずがない。


 が、スピカは受けられる。どんな重い攻撃もでスピカには一割のダメージしか入らない。そして――


「にゃーーー!!!」

「なっ!?」


 両手に鉤爪を嵌めたスピカが、八重歯を覗かせてマキシマの顔に飛び移って来た。


 そのままマキシマの首に足を巻き付けて体を固定し、ガリガリとその顔を掻きむしっていく。


 しかもスピカの両手に嵌められていたのは、先ほどまでキサナが装備していた人喰らう鉤爪。


 攻撃力の低いスピカであっても、人間ヒューマン特攻武器ともあればそこそこのダメージが入る。


 しかも視界を封じられたこともあり、マキシマは動揺で足をもつれさせる。すると――


「ちょ、ちょっと暴れるんじゃ……う、うわああ!?」


 マキシマの肩に乗っていたアリアンナがバランスを崩し、装備していたインフェルノスタッフ(S+)を取り落とす。


 落ちた杖を拾おうと、手を伸ばしたところで――目の前に鉄球が迫っている事に気付く。


「ごめんなさいっ!」


 キサナが謝罪を口にするも、攻撃を止めるつもりはない。真正面から鉄球の直撃を受けたアリアンナは、遥か後方へと吹き飛ばされる。これで二人を分断することが出来た。


「アリアンナっ!!!」


 マキシマは顔にしがみついていたスピカを引き剥がすと、引っ掻き傷だらけの顔をそのままにアリアンナの方へ駆けていく。


 が、簡単に合流させるわけにはいかない。キサナは深淵の指輪を取り出し、スピカは魔法の詠唱を開始する。


「さっきのお返しです、虚空穿こくうせん!」

「やられろ! イクリプス!」


 背中を見せるマキシマに容赦ない追撃。強力な攻撃魔術を立て続けに浴びたマキシマは、アリアンナの側へたどり着けず膝をつく。


「降参してくださいっ! 戦うのをやめてくれれば、ボクたちもこれ以上は攻撃したりしません!」

「そ-だそーだ! スピカの軍門にくだれ!」


 大きなダメージを受けたマキシマはその場から一歩も動けない。アリアンナも鉄球の直撃を受けた以上、体力も残っていないはず。


 ――この二人とは戦いたくない。キサナはそう考えていた。


 なぜなら二人は歯車組だから。ルキウスと結成組の二人を抑えてしまえば、事態はとても簡単に収束するだろう。


 ナガレの依頼を呑んだ理由も、リオが歯車組を助けようと考えたから。マキシマとアリアンナだって、家族を人質に取られていなければ立ち向かって来ないだろう。


 だから歯車組との戦闘に意味はない。戦えなくなるほどの傷を負ったことが敵の目にも明らかであれば、戦うポーズを取り続ける必要もない。


 このまま気絶したフリをしてくれれば、キサナたちは全員で結成組だけを倒せばいい。そうすれば歯車組は助かるのだから。


 だが、魔女服を着た少女は立ち上がった。


 肩をだらりとさせ、額から血を流しつつも、その目は衰えぬ殺気に満ちている。


「……ムカつく、なによ大聖女って。占星魔術も使えて鉤爪まで装備出来て、煉獄パガトリィだって効きやしない。反則だらけのやりたい放題じゃない。生まれの違いで、人間に優劣つけやがって! ……みんな、みんなブッ殺してやるッ!」


 奥歯を噛みしめたアリアンナは、両手を前に突き出し――詠唱を始めた。


 するとアリアンナの前に緑の魔法陣が出現した。そして詠唱者アリアンナの体から魔力が抜けていき、魔法陣の上になにかを形作っていく。


 その演出を知っているキサナは、いち早くアリアンナが使用する魔術の正体に気が付いた。


「スピカ様、気を付けてください! あれは……召喚魔法です!」

「しょーかんまほー?」

「ボスクラスの幻獣を魔力で従属させる、とても強力な魔法です!」


 ナガレからもたらされた情報では、アリアンナは召喚士の才能を持っていなかった。


 であれば習得したのは最近の話、それなら強力な幻獣は呼べないはず。そう思っていたのだが……


「来い、幻獣げんじゅうおうバハムートッ! ここにいる人間を、一人残らず食い殺せっ!」


 アリアンナの求める声に応じ、魔法陣の上に巨大な竜のシルエットが浮かび上がった。




―――――


・ゴールド次鋒

 名前:アリアンナ(◎歯車組◎)

 第一才能:占星術師(レベル:78→100)

 第二才能:闇魔術師(レベル:58→88)

 第三才能:召喚士(レベル:1→100)

 冒険者ランク:S


【アリアンナの装備品】

 インフェルノスタッフ(S+) 炎属性、使用時「煉獄パガトリィ」発現可能 

 ブラッディードレス(S) 体力自動回復(小)、即死無効

 とんがり帽子(A) すべての魔法効果+15%

 エンジェリックリボン(A) 全状態異常無効

 ホーリーブレスレット(A) 聖属性吸収


【習得スキル】

・占星魔術【LV:12】

・闇魔法【LV:12】

・幻獣召喚【LV:8】


イクリプス

・幻獣技能・引用

・特殊召喚:バハムート


・魔法攻撃力強化【LV:8】

・幻獣強化【LV:4】

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