第110話 vs剣聖オーウェン②

 ギガブレイドは剣聖のマスタースキル、才能レベル100で獲得できる単体攻撃スキルだ。


 もちろんマスタースキルだけあって威力は破格。クリティカル効果はないものの、攻撃力五倍のダメージをほぼ予備動作なしで発動できる。


 魔力消費量もそこまで多くないため、近距離戦なら連打してしまっても構わない。


 ひとつ難点があるとすれば命中率がシビアで、相手次第では回避されてしまう。


 しかしゼロ距離ともあれば防ぎようはない。だからこそオーウェンにとってこれは必殺の間合いだった。


「……だが、やっちまったなぁ。旦那はもっとネチっこいショーをご所望だったんだが」


 フィオナがあまりにも挑発めいた口を効くため、怒りに任せてギガブレイドをブチ込んでしまった。


 衝撃波ブレイドショックで蓄積させてきたダメージもあり、さすがに跡形も残ってないだろう。


 あとでお叱りの一つくらいは受けるかもしれない。ルキウスのキモい声で罵倒されるかと思うと、早くも憂鬱な気分だ。


 そんなことを考えつつ、剣を鞘に戻そうとしていると――オーウェンの鎧、左半身が縦に引き裂かれる。


「!?」


 反射的に間合いを取り、今しがた立っていた場所に右手で剣を構え直す。


 するとそこには消し飛ばしたはずのフィオナが、幾多の傷を負いつつも立ち尽くしていた。


「あ、ありえないっ! ギガブレイドをあの至近距離で、耐え凌いだのか!?」

「確かに貴様の攻撃は強力だった。さすがはレベル100を越える剣聖と言ったところだ」

「そうだっ、俺はレベル101の剣聖だ! その俺のマスタースキルを受けて、立ち上がれるはずがない!」

「レベル101? それは本当か?」

「当たり前だ! 俺はレベル上限を越えた剣聖だぞ!? それなのになぜあの攻撃をっ!?」


 オーウェンが自らの力とレベルを誇り、あり得ないと連呼する。だがフィオナは眉間にシワを寄せ、怪訝な表情でこんなことを聞いた。


「……一応、聞いておくが。貴様はこの一ヶ月、どの程度の鍛錬を詰んだのだ?」

「鍛錬? なに言ってんだ、俺は大陸最強の剣士だぞ? その俺が最強になった後も、なぜ鍛錬を詰まなければならない?」

「まさか、なんの鍛錬もして来なかったのか? 魔法剣士だって新しく取得した才能と言っていたではないか?」

「手に入れた時は多少のレベル上げはしたさ。だが能力ステータスは最高レベルの才能に依存する、だったら弱い才能を鍛え直しても意味がないことに気付いたのさ」

「じゃあ剣聖としての鍛錬は?」

「答える義理はねえな」


 その答えを聞き、確信する。


 フィオナたちが奈落でレベル上げをした一ヶ月、オーウェンはなんの鍛錬もして来なかったのだ。


 一ヶ月前にもらったトライアンフの情報はすべて覚えている。今対峙する男オーウェンは、一ヶ月前の時点でレベル101の剣聖だった。


 しかもオーウェンは第三才能まで獲得していたはずだ。その才能を鍛えるだけでもスキルポイントを多く獲得できる、それは冒険者としての常識だ。


 それなのに楽に獲得できるスキルポイントさえ回収せず、自分が最強だという自負の元に鍛錬をしなかった。……あまりの傲慢さに目まいを覚えてしまいそうだ。


「反面教師と呼ぶのも烏滸がましいほどの、堕落ぶりだな……」

「抜かせ! それより答えろ! 俺のギガブレイドを受けて、なぜ立っていられる?」

「それは簡単だ。お前の放った攻撃が、私の攻撃に押し返されただけの話だ」

「は? なに言ってんだ? 俺は――」

「レベル101の剣聖なのだろう? 何度も聞いて知っている、だが私はレベル102の魔法剣士だ」

「な、なにを言ってんだ?」

「私は魔法剣士のマスタースキルで自己強化を図り、貴様の必殺技に合わせて魔法剣を打ち込んだ。それで威力が相殺されたのだ」

「……そんなバカなことがあるか! ギガブレイドの威力は攻撃力五倍の攻撃力を持っているんだぞ!? いくらなんでもその攻撃と相殺できるはずがないっ!」

「あとはこの剣に力を借りたまでだ」


 そう言ってフィオナは、両手に握る終末剣を中段に構える。


「種明かしをするつもりはなかったが、貴様のしつこさに免じて答えてやる。この剣はSS+ランクの業物だ、しかも複数の追加効果を持っている」

「追加効果だと?」

「ああ。それは戦闘時間ターンが経つにつれて攻撃力が高まっていくという物だ。だから私はこの剣の威力を増幅させるため、あえて時間稼ぎをしていた。……わかるか?」

「――まさか、お前ッ!」

「そうだ。お前は都合よく雑談を好む人間だったからな。こちらからも質問させてもらったり、防御に専念して時間を稼がせてもらった」


 オーウェンはその時になってようやく悟る。


 これまでフィオナはひたすら防戦に徹し、ほとんど攻めに回ってくることがなかった。


 戦闘に入ってからの優位は覆らなかったのは、自分が強かったからではない。フィオナが意図的に戦闘時間を引き延ばしていたからだ。


「おかげさまで終末剣の攻撃力は最大まで高まった。しかも貴様は『天罰』によって攻撃力も下げられている。果たしてギガブレイドとやらは、どの程度の威力だったのだろうな?」

「バカな。じゃあギガブレイドを防ぎ切ったということは……」

「ギガブレイドは攻撃力五倍を叩き出す必殺技。つまり今の私は、貴様の五倍を超える攻撃力を持っているということだ」

「……う、うわあああああっ!」


 錯乱したオーウェンはソウルイーターを振り回し、衝撃波ブレイドショックをがむしゃらに連打する。


 しかし考えなしに放たれた攻撃を止めることなど造作もない。フィオナは向かってくる衝撃波を、丁寧に終末剣で打ち払う。


 まったくのノーダメージではないが、フィオナにはかすり傷程度しかつけることが出来ない。


「クソッ、クソッ! 倒れろよ! しかもなぜ回復の追加効果も入らないっ!」


 先ほどフィオナに反撃をもらったオーウェンには、受けたダメージの回復が急務である。しかしソウルイーターの追加効果、与ダメージ吸収効果がなぜか入らない。


 ――それも終末剣の追加効果によるものだ。終末剣には『攻撃された相手は被回復量半減』という追加効果もある。


 実際には微量の回復は入っているものの、かすり傷のダメージでは回復量もスズメの涙。


 すると追い詰められたオーウェンは、信じられないことを口にし始めた。


「お、おい女! いますぐに剣を鞘に納めれば、今回は特別に見逃してやる!」


 既に力の差が歴然としているにもかかわらず、オーウェンは上からの物言いを止められない。


 それも当然のことだ。オーウェンは父の威光と剣聖の力を使い、格下の者をすべて黙らせてきた。


 だから人への頼み方を知らない、許しの乞い方を知らない。命乞いをしているのに、身のほど知らずな事しか口にできない。


「そ、そうだ。お前を特別に俺の騎士にしてやろう! いい考えだろ、伯爵息子の騎士だぞ!? いまよりよっぽどいい待遇が得られるぞ!?」

「……生憎だが、私には心に決めた主がいる」

「そんなこと言わずに乗り換えとけよ、な?」

「簡単に心変わりできるような人間が、騎士を志すはずないだろう」

「だが今のリーダーなんて所詮、盗賊だろ? そんな底辺――」

「黙れっ!」

「ぐぎゃあぁぁぁぁ!!!」


 フィオナは終末剣を薙ぎ払い、オーウェンの鎧を粉砕。高威力の斬撃に吹き飛ばされたオーウェンは、地面をもんどり打った末に意識を失った。


「……ふう」


 力の調節は間違っていなかったようだ。今のフィオナであれば半分の力も出せば、オーウェンを跡形もなく吹き飛ばしてしまっただろう。


 どんなに腹立たしい言葉を吐かれても、もし仲間がやられてしまったとしても。こちらから相手の命を奪ってはいけない、それがリオからの厳命であったからだ。


 呆れるくらいのお人好しだ、もちろんフィオナもそれを承知で仕えている。


 だが、だからこそフィオナは自分の仕事に誇りを感じる。


 敵を殺めずに無力化した。それをリオに報告して褒めてもらえることを想像すると、胸が少しだけくすぐったくなる。


(……な、なにを考えている。まだ戦闘は終わっていないんだぞ!?)


 気を引き締め直し、周囲を見回すと三人はまだ戦闘中。どうやらフィオナが一番早く戦闘を終わらせたらしい。


 周囲の戦いに加勢しないと。そう考えたフィオナは二対二で攻防を続ける、キサナ&スピカの戦いに加わった。



―――――



 ※討伐時のオーウェンのステータスです(しかし一ヶ月前から成長しておらず)



 名前:オーウェン・オルコット(■結成組■)

 第一才能:剣聖(レベル:101)

 第二才能:魔法剣士(レベル:68)

 第三才能:聖魔術師(レベル:60)

 冒険者ランク:S


【オーウェンの装備品】

 ソウルイーター(S+) 剣技で与えたダメージの20%回復

 ブライトネスアーマー(S) 光属性吸収

 エンジェリックリボン(A) 全状態異常無効

 セーフティビット(A) 即死効果無効


【習得スキル】

・聖剣技【LV:12】

・聖魔法剣【LV:8】

・聖魔術【LV:8】


・武器両手持ち

・回復薬効果上昇【LV:5】

・体力自動回復【LV:5】


・剣心一体

・ブレイドショック

誘魔針マジックアース

・ギガブレイド


・攻撃力上昇【LV:8】

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