第107話 襲撃の緊張感に怯えつつ、四十層ボスと対決!

 デュランダルたちを脱出ゲートに投げ帰した後、私たちは四十層に向けて歩き出した。


 だが、ここからはより警戒を強めなければならない。


 なぜならトライアンフの最高到達記録は、三十層ボス討伐までだったと聞いている。つまりこのあたりが彼らが到達できる臨界点。


 ――が、その情報も一ヶ月前のもの。


 私たちがこの一ヶ月でレベリングしていたのと同じように、トライアンフも力をつけたハズだ。


 レベルを上げスキルを獲得し、新たな才能も得ているだろう。よって到達記録を伸ばされていてもおかしくない。


 つまり襲撃は四十層ボス討伐後、五十層の可能性だってある。もしくはいまこの瞬間も尾けられており、休憩や就寝のタイミングを狙われているかもしれない。


 すると必然的に雑談の余裕はなくなってくる。四人で別方向を警戒しつつ、ヒリついた空気で探索を進めることになった。


(……さすがに神経を使うなぁ)


 これまでも気をつけては来たが、ここからの危険度は段違いだ。しかも中途半端なフロアで対人戦を仕掛けられれば、周囲の魔物にも気取られてしまう。


 すると魔物に襲われながらの戦闘となる。条件はトライアンフも同じなので有利にも不利にもならないが、両者全滅の可能性だけは上がるだろう。


 無エンカ十倍速で足を進めているが、私たちの位置は見破られてると思っていいだろう。先ほどデュランダルはスマホのような魔道具で通話している姿を見た。ナガレの持たされている魔道具と同じ物だったし、アレを通して私の居場所は筒抜けになっているはずだ。


 ――そうして警戒を怠らないまま三十五層に到着。


 そこで夕飯を取り、スピカを除いた三人で不寝番を回しながら休息を取った。


 が、朝までトライアンフは襲って来ず。いつ襲撃されるかわからないというプレッシャーもあり、朝食の味がまったく感じられなかった。


(つら……こんな状態をもうしばらく続けなきゃいけないの?)


 いっそのこと、すぐに襲ってきてくれた方が楽なくらいだ。


 これもトライアンフの作戦の一部だとしたら、悔しいけどめちゃくちゃ効いている。このままだとノイローゼになっちゃうかも。


 なんて思いながら探索を続けていると、襲撃のないまま四十層に到着。ボス部屋を前にした私は、みんなに向かって激励の言葉を送る。


「ここまでお疲れ様ですっ! なかなか気を休められず、しんどいとは思いますが……私たちに勝てない敵はいません! お互いの体力管理を大事に、さっさと火力でゴリ押してしまいましょう!」

「「「おうっ!」」」


 誰もが精神的に疲れてはいるが、ここが正念場だ。


 私はポーチに仕舞っておいた瓶エナドリを全員に配り、のどを鳴らして一気飲み。


 みんなが気合を入れ直したことを確認し、ボス部屋の扉を押し開ける。そしてボス部屋に入ると同時――全員が驚きに息を呑む。


 なぜなら桜都おうとは大火に見舞われていたからだ。


 桜の木や石塀、点在する長屋や遠くに見える城。そのすべてが激しい炎を上げており、空は赤黒く染め上げられていた。


 そんな地獄のような光景の中で、小綺麗な佇まいで鎮座する一匹の獣がいた。


 その獣はツンと澄ました表情をした、九つの尾を持つキツネだった。




 名前:九尾きゅうび傾国けいこく

 ボスランク:S+

 ドロップ:石つぶて

 レアドロップ:妖霊石

 盗めるアイテム:火遁

 盗めるレアアイテム:村正(S)




「みなさん気を付けてください、九尾は倒れる間際、ラストアタックを打ってきます! 終盤の体力管理を大事にしてくださいっ!」


 ナガレから受け取っていた攻略情報は三十層まで。つまり今回からボスと遭遇したあとに対策を練る必要がある。九尾の注意点はラストアタックだけじゃないが、今は挑発でみんなを守らないと!


 私が挑発を打ち込んだ頃には九尾は攻撃態勢に入っており、周囲にたくさんの人魂ひとだまを浮かび上がらせていた。その人魂は一定数を集めると巨大な炎に姿を変え、こちら目がけて突っ込んできた。


 Sランクの単体炎魔術、煉獄パガトリィだ。


 単体攻撃とはいえ攻撃範囲が広く、すべてを躱すことは難しい。私はなんとかダメージを三割程度に抑え、クールタイムの隙を見てトリモチを投擲。


 素早さ減少の効果を確認した後、強奪を打ち込むべく態勢を立て直す。


「寄越せ、村正むらまさっ! 出来れば一回で!!」


 私は二連撃の強奪をたたき込み、後方へと跳躍。ハズレの火遁をポーチに仕舞い、次の攻撃に備える。


 が、切りつけられた九尾の体から、魂のようなものがこぼれ落ちる。すると零れた魂は子ギツネのような敵ユニットに姿を変え、牙を剥いてこちらに襲い掛かってきた。


(くっ、そうだった。九尾にはこのめんどくさい攻撃があるんだった!)


 九尾はダメージを受けると同時、子ギツネの形をした魂魄こんぱくを出現させる。


 この子ギツネは魂喰霊ライフバイターと呼ばれる、捨て身の自爆攻撃を仕掛けてくる分裂体だ。もし子ギツネの自爆を浴びれば、この戦闘中に限り体力上限値の5%削られてしまう。


 もちろん体力の上限カットは累積し、四匹の子ギツネにかじられれば体力上限の20%が奪われる。


 もし全員が子ギツネにかじられまくると大変だ。体力の最大値が足りなくなってしまい、ラストアタックを凌げない状態へ陥ってしまう。


 そのため定期的に全体攻撃を打ち込み、出現した子ギツネを一掃しなければいけない。しかも子ギツネは霊体のせいか、魔法攻撃しか受けないというオマケつき。


 子ギツネを処理しないと全滅は必至。本体への攻撃に集中させてくれない、面倒なボスである。


(ひえええっ!? いつの間にか三十匹以上の子ギツネが追いかけてきてるうっ!)


 攻撃しているのは私だけではないため、九尾はいつしか大量の子ギツネを生み出していた。


 私は回避に手いっぱいのため、みんなにギミックの説明をする余裕がない。すると――


「スピカ様、フィオナさん! りおりーを追う子ギツネを、魔法で処理してください!」


 同じく原作知識を持つキサナが、私に代わって指示を出す。それに気付いた二人は聖光瀑布ホーリー・フォールと、吹雪ブリザードを使って子ギツネを処理。


「ありがとうございます! 数が増えた時は、またお願いしますっ!」


 そう言って私はポーチから水遁すいとんを取り出し、残った子ギツネを一掃。ふたたび九尾に向かって強奪を仕掛けに行く。


 以降。スピカは聖光瀑布ホーリー・フォール中心の攻撃に切り替え、定期的に子ギツネの処理に貢献してくれた。


 フィオナは状況を見つつ終末剣を振るい、子ギツネの数次第では吹雪ブリザードを詠唱。


 全員が攻撃に一極集中すると子ギツネの数が増えすぎてしまう。そのため時には待機を選択することも、九尾との戦闘では重要になる。


(……いいね。スピちゃんもフィオナさんも、連携に磨きがかかってきた!)


 クラジャン廃人のキサナは言うまでもないが、二人も空気を読んだ行動できるようになっている。


 戦闘中ではあるものの、みんなの成長が嬉しくニヤけてしまう。


 すると気持ちも乗っていたおかげか、次の強奪で盗むレアの村正(S)をゲット! あとはボスの体力が削りきれるのを待つだけだ。


 とはいえ、九尾も大人しく殴られ続けるほど弱いボスではない。


 攻撃手段は煉獄パガトリィだけではなく、全体土魔法の礫榴弾クラシュトン(A)も定期的に打ち込んでくる。


 回復を疎かにすれば、ラストアタックで一掃されるのはこちらである。そのためキサナは安全を取って、定期的な全体回復に回ってくれている。


 子ギツネ一掃を兼ねた全体攻撃で、九尾本体の体力もじわじわと削れている。九尾が沈むのも時間の問題だ。


 ――――クオォォォォン!


 フィオナが終末剣を振るうのと同時。九尾の切なげな遠吠えが、焼けた桜都に響きわたる。


 すると九尾の体は光の球へと変わり、ゆっくりと空へ昇って……天井付近で滞留し始めた。


 空へ昇った光は少しずつその数を増やし、次第に大岩ほどもある光弾へと姿を変えていく。


「来ますよっ! 九尾のラストアタック、流星ミーティアです!」


 叫んだ瞬間、無数の光弾が地上へと降り注ぐ。無属性の全体攻撃魔法、流星ミーティア(SS)だ。


 ゲーム中に登場する魔法の中でも、屈指の攻撃力を持つ最上位の全体攻撃魔法だ。


 無属性のため装備でこれといった対策を打つこともできない、頼れるのは魔法防御と体力の数値だけ。私たちは防御の姿勢をとり、少しでも受けるダメージを軽減する。


 辺りには爆音が響き、焼けた桜都もろともすべてを吹き飛ばしていく。


 そして地獄とも思える六十秒を乗り切ると――辺りには建物のなくなった荒野だけが残っていた。


 突如おとずれた静寂に、キーンとした耳鳴りの音だけが残る。


 私は全員が立っていることを確認し、残り体力をステータスバーで確認。



 リオ――体力28%

 フィオナ――体力32%

 キサナ――体力24%

 スピカ――体力30%



 よしっ、なんとかみんなラストアタックを耐えられたみたいだ!


 流星ミーティアは多段攻撃でもあるため、スピカも大きなダメージも負っている。だがエレクシア法衣は防具としても強力なため、レベルの低さもなんとかカバーしてくれたようだ。


 もちろんスピカには『戦闘終了後全回復』があるので、既に元気になってるけど。


(私も子ギツネに二回噛まれてたから、食い縛りのテナシティを装備しといたけど……なんとかなったみたいだね)


 九尾のいた場所には三個の宝箱がドロップ、ボス部屋の出入り口と脱出ゲートが出現した。




 ――瞬間、オールエリクサーを地面へ叩きつけた。


 光の粒が私たちを覆い、体力と魔力を全回復。


 息をつく間もなく、ボス部屋が暗転。切り刻まれた音ともに、フィオナが血まみれになっていた。


「――がっ!?」

「キサナちゃん!」

「はいっ!」


 状況を理解したキサナは大回復ハイヒールをフィオナに使用。すると背後でスピカが大男に蹴飛ばされ、地を転がっていく姿が目に映る。


「スピちゃん!!!」

「――どっちを見てやがる!」


 男の声に反応し、私は短剣を打ちあわせて攻撃を防ぐ。


 目の前には漆黒の衣装を纏う、暗殺者。


 つばり合いで防いだ相手の武器はアサシンダガー。50%で相手を死に至らしめる、対人戦における最悪の武器。


「こんなすぐに会えると思わなかったぜ、リブレイズ」

「……それはこちらのセリフです。よくあなたたちに九尾が倒せましたね?」

「ここは俺たちのホームだ、他に先越されちゃ世話ねえだろ」


 力は相手の方が上だ。そう判断した私は、短剣に体重を乗せ後方へ跳躍。


 横目に状況を把握すると、ボス部屋にはチームゴールドの四人が揃っていた。


 大男バーサーカーの肩には、占星術師せんせいじゅつし少女アリアンナが腰掛けている。フィオナへイクリプスを打ち込んだのは彼女の仕業だろう。


(九尾がラストアタック持ちと分かった瞬間、ボス戦後の襲撃は予想してたけど……実際にやられるとムカつくなぁ!)


 一番効果的な奇襲は、相手が安心した瞬間。奇襲をかけるならこれ以上ないタイミングだった。オールエリクサー使用のタイミングが遅れていれば、フィオナは危なかったかもしれない。


 当のフィオナは最後に悠々と現れた、剣聖けんせいオーウェンと睨み合っている。


 治療を受けたとはいえ、フィオナの聖白は血で真っ赤に染まっている。せっかくの衣装が台無しだ。


 スピカの介抱に回ったキサナは、バーサーカーのマキシマ・占星術師アリアンナの二人と対峙。


 そして私の前にはリーダーのアルフレッド。


 いつしか私たちは個々に分断され、似通った才能を持つ者同士の戦いを強いられることになってしまった。




―――――


※おさらい

 一ヶ月前にもらったチームゴールドのステータス情報です。

 相手がこれより成長していたとしても、今のリオたちには把握できません。


☆☆☆



・ゴールド大将

 名前:アルフレッド(■結成組■)

 第一才能:暗殺者(レベル:106)

 第二才能:武闘家(レベル:80)

 冒険者ランク:SS


・ゴールド副将

 名前:オーウェン・オルコット(■結成組■)

 第一才能:剣聖(レベル:101)

 第二才能:魔法剣士(レベル:68)

 第三才能:聖魔術師(レベル:60)

 冒険者ランク:S


・ゴールド次鋒

 名前:アリアンナ(◎歯車組◎)

 第一才能:占星術師(レベル:78)

 第二才能:闇魔術師(レベル:58)

 冒険者ランク:S


・ゴールド先鋒

 名前:マキシマ(◎歯車組◎)

 第一才能:バーサーカー(レベル:85)

 冒険者ランク:A


☆☆☆

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る