第105話 桜都三十層ボス、大魔導士エビル・アルヴィース
二十層ボス討伐後、私たちは二十五層で宿泊。翌朝に三十層のボス部屋に到着した。
(ここまで特になんの妨害もなく来れちゃったね……)
事前に聞いた情報では、トライアンフは戦闘種を三つのパーティがいると聞いている。
だから本命の三十層に到着する前に、一・二回の襲撃を予想はしていた。が、特に何事もなく来れてしまった。
(すると三パーティ全員が襲い掛かってくる、もしくはレファーナさんたちに戦力が割かれているかもしれないな……)
自分たちのことはともかく、生活種の二人に攻撃の手が及ぶのであれば不安にもなる。
聖火炎竜団はSランクパーティ、それにノボリュもついている。よほどのことがない限り負けないとは思うが、地上のことはわからない。もし三パーティがすべてレファーナたちのところに向かったことを考えると……
そんなことを考えていると、私の不安に気付いたのだろうか。フィオナがぽんと肩をたたいてくる。
「大丈夫だ、私たちはリオの判断を信じている。今はできることを、精一杯にやろう」
「……そうですね。では三十層ボスも、気合入れていきましょう!」
「「「おうっ!」」」
私たちは大きな声で気合を入れ、ボス部屋の扉を押し開けた。
足を踏み入れた部屋の中央。桜舞う広場の中心に、フードで顔を隠した魔導士が立っていた。
名前:エビル・アルヴィース
ボスランク:S
ドロップ:マジシャンズローブ(D)
レアドロップ:恵みのロザリオ(A)
盗めるアイテム:マジックポーション
盗めるレアアイテム:ソウル・オブ・テナシティ(A)
フード奥の両眼がキラリと光り、幽鬼のように突き出した両手に魔力が籠る。
攻撃魔法の気配を察知し、その場で散開。戦闘開始だ!
アルヴィースは複数の属性魔法を行使する、魔導士姿のSランクボスだ。
戦闘AIも優秀で吸収や無効属性の魔法は使用せず、弱点があればそれを的確についてくる。事前装備を間違えればかなり厳しい戦闘を強いられる。だがS+のラグナレクも討伐済みの私たちにとって、そこまで脅威となる相手じゃない。
いつものようにトリモチ・天罰・かぶと割り・
(いくらか余裕のある戦闘だ、私は盗むレアをゲットすることに専念しよう!)
ソウル・オブ・テナシティ(A)は戦闘不能を一度だけ回避する、いわゆる食い縛りを持つアクセサリーだ。保険を考えるならエンジェリックリボンと並び、全員に持たせたいアクセサリーだ。持ってることがわかった以上、早々に盗んでおきたい。
もちろん盗むを重ねている間にも、アルヴィースは複数の攻撃魔法を打ち込んでくる。
使用される攻撃魔法は氷・風・土の三属性。対して聖・闇・炎の三属性は一切使って来ない。
聖と闇を控える理由はすぐにわかった。なぜなら私たちには体質で聖吸収と闇無効を持つ
だが炎魔法を控える理由がすぐにわからなかった。わかったのは戦闘中、後方で待機するナガレを目にした時だった。
ナガレには先日、煉獄外套を貸している。煉獄外套は炎吸収を持つSランク防具だ。
どうやらアルヴィースはナガレも私たちのパーティメンバーと認識しているため、炎を含めた三属性を禁じていたようだ。
ちなみに使用された攻撃魔法は以下の通り。
単体攻撃の
一人を1ターン行動不能にする
全体攻撃の
多彩な攻撃魔法に翻弄されつつも、私たちはフィオナを軸に攻撃をたたき込んでいく。
回復魔法はほとんど使用していない。なぜなら――
(新調した防具は、どれも魔法耐性に優れているからね!)
私の装備する忍装束・星影は、物理防御は高くないが魔法への耐性は高い。
またフィオナのドレスアーマー・聖白も魔法防御寄りの防具だ。『受けた魔法の魔力を吸収』という効果もあるので、マージストライカーとの相性も抜群。攻撃を受ける度に
しかも魔力吸収は仲間からの回復魔法にも反応する。また終末剣はターン経過にて攻撃力が上昇。長期戦になればなるほど、フィオナの攻撃力は右肩上がりに上昇する。
奈落でのレベリングと装備強化で、フィオナの戦闘力は私たちより三歩も四歩も先を行っている。
どれだけボスの
空間を抉り取るような終末剣の斬撃。一太刀を浴びせるごとにアルヴィースは目に見えて、生命力を失っていく。
装備しているのがフィオナでなければ、相手は血も涙もない魔王にでも見えたかもしれない。相手の命を事務的に削り取る様は美しく、どこか冷酷だった。
そして特に苦戦することもなく、アルヴィースはフィオナの斬撃で完全に消滅した。
フィオナが剣を鞘に納めると同時、アルヴィースの場所にはひとつの宝箱がドロップ。どうやら今回は確定枠だけしか落ちなかったようだ。
「……けど、盗むレアはしっかり獲得したもんね!」
攻撃をみんなに任せてる以上、私も盗賊としての役目を果たさないとね。ということで盗むレアのソウル・オブ・テナシティ(A)をゲット!
「フィオナさん、お疲れ様でした! 今回もすごい活躍でしたね!」
私が今回のMVPを褒め称えると、フィオナはふっと笑みを浮かべてその場にひざまずく。
「これも主君が私に素晴らしい剣と鎧をくださったおかげです。あなたの剣となれたこと、心よりうれしく思います」
「えぇっ、どうしたんですか急に?」
「……い、いや。たまには騎士として感謝してみたくなったのでな」
そう言いながら立ち上がったフィオナが、照れ臭そうに頬を搔く。――が、それを見た私はブチギレ。
「自分でやっといて勝手に照れるとかズルいですよ! 完全にかわいいと思ってやってますよね!?」
「な、なにを言っている。私はただリオに日頃の感謝を……」
「なにが感謝じゃ、こんちくしょう! カッコいいだけじゃなく、萌え属性も手にしようとはケシカラン! レファーナさんが厚意で作ってくれた肩当ては、没収します!」
私はフィオナの肩当てを”盗む”でヒョイッと奪いとる。
「か、返してくれっ! 肩当てを外されると……露出が多くて恥ずかしいんだっ!」
「あざといフィオにゃんは恥じらっとけばいいんですよ!」
「言っている意味がわからないぞっ!?」
わたわたフィオにゃんが見れた私は増長。内なる嗜虐心の萌芽に興奮していると、宝箱の前にいたスピカが声をかけてくる。
「ねーねーリオー? 遊んでるならスピカが宝箱開けていいー?」
「あァん? 遊んでるわけじゃないけど、開けていいよ!」
「はーい! って、なんか変な本が出てきた!」
そういってスピカが掲げたのは、釜のようなシルエットが刻まれた分厚い本だった。
「あーそれは……」
「ボクが必要なやつですね」
といってキサナがスピカから受け取った。
これは『錬金の叡智』と呼ばれる、アイテム生成職専用のアイテムだった。
叡智を使用することで三品の錬金レシピが手に入り、またクラン全体の錬金スピードを底上げできるシロモノだ。
とはいえ、私とキサナに錬金レシピは必要ない。なぜなら私たちはすべての錬金レシピを暗記しているからだ。
素材の組み合わせを知っていれば、レシピを入手しなくても錬金は可能だ。そのため攻略情報が世にあふれてしまった現在、プレイヤーには錬金スピードを高めるアイテムとだけ認識されている。
もちろん同じ叡智を手にしても錬金スピードアップの効果は重複しない。それが出来たらここを周回するだけで、錬金スピードはカンストできちゃうからね。
「これは時間がある時に読んでおきますね。じゃあそろそろ四十層に向かって――」
「……キサナちゃん、静かにっ」
私の合図で皆が一斉に押し黙ると、ボス部屋の入口から複数の足音が聞こえてきた。
私たちは顔色を変え、すぐさま戦闘態勢を取る。だが……
(トライアンフの襲撃? このタイミングで? だとしたら段取りが悪いような……)
これが襲撃だとしたらお粗末にもほどがある。ボス戦直後とはいえ、もう一息ついてしまった後だ。隙をつくつもりなら、もう少しタイミングというものがあるだろう。
ペタペタと足音を鳴らして近づいてくるのも不自然だ。だが特注ダンジョンである以上、トライアンフと無関係な人がやってきたとは考えにくい。
様々な可能性を頭に思い浮かべて待機していると、足音の主は入口から普通に入ってきた。
「はあ、はあ、はあ……やっと追いつきました……」
息も絶え絶えに現れたのは、軽装に身を包む三人組の男たちだった。
三人は全身からものすごい汗をかいており、ボス部屋に入るなり手をついてうずくまってしまった。
目の前の顔には見覚えがある。
ナガレにもらった資料の顔写真に乗っていた顔だ、確かチームブロンズに所属する三人だったと思う。
「はあ、はあ、デュランダル様……俺、もう一歩も歩けません!」
「俺もです……寝ずに三日も走り続けたのなんて、初めてです!」
「……ですが、私たちはついにやり遂げたのです。リブレイズに追いつくという偉業を、ついに成し遂げたのですっ!」
三人は死にそうな表情で、私たちに追い付けたことを称え合っている。入り口の前でブッ倒れ、一歩も動けない体のまま。
「あ、あのぉ……」
「な、なんですか……私たちはいま、とても動ける状況に無いのですが……」
「……お水でも飲みますか?」
「おお、それはありがたい!」
こうしてデュランダル率いる追撃隊の三人は、無事リオたちに会うことが出来たのだった。
―――――
……これでいいのか?
―――――
第9回カクヨムWeb小説コンテストにて、当作品が特別賞を受賞することができました! これもたくさんの応援をしていただけたみなさんのおかげです! これからも継続で更新していけるよう尽力してまいりますので、引き続き応援いただけると嬉しいです!
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