第104話 いざ桜都三十層へ。一方、チームゴールドの四人は……

 二十層ボスの無限スライムを倒した後、私たちは魔法特化の装備を持ち替え直す。


 いつまでも指輪をジャラジャラつけておく必要もないので、一度すべてポーチの中へ。


 ちなみに私は今回の戦闘で一度も盗むを実行していない。無限スライムはいいモノを持ってないし、制限時間戦だったので倒す方を優先した。


「リオ、杖の方は返す。助かった」

「いえっ、魔法メインのフィオナさんも新鮮でしたよっ!」


 今回のフィオナはメイン才能を氷魔術師に変更していた。


 レベル100の魔法剣士より、レベル87の氷魔術師のほうが魔力と魔法攻撃力が高い。それに剣士職ではコラプスロッドも装備できなかったからね。


 そのあたりを標準装備に整え直したところで、二個ドロップしていた宝箱も開封!


(……とはいえ、そこまで期待すべきものは入ってないよね)


 無限スライムの確定枠は普通の聖水だ。そして残りひとつのドロップもきっとノーマルの薬草だろう。そう決め込んで宝箱をあけたのだが……中に入っていたのは意外にもレアアイテムだった。


「おっ、運がいい。オールエリクサーだ!」

「ええっ、一生使えないアイテムじゃないですか」

「そう? 私は二個以上あったら結構使っちゃうけど」

「信じられないっ! ボクはとてもじゃないけど使えないなぁ、まだ使い時があるんじゃないかと貯め込んじゃうタイプです」


 オールエリクサーは一回の使用で全員の体力・魔力を全回復させる、切り札とも呼べるアイテムだ。


 錬金や購入で手に入れることはできず、一部のボスドロップやイベント報酬で入手するしかない。希少価値も高いので、もったいないオバケが無限回収しているアイテムだ。


 私は意外と言われるかもしれないが使っちゃうタイプだ。だってせっかく切り札として作られたアイテムだもの、使ってあげないとアイテムがかわいそうだからね。


 オールエリクサーを大事にポーチ仕舞った後、私たちは二十層のボス部屋を後にした。


 次はいよいよ三十層ボスだ。事前情報によると、トライアンフはここのボスまでは倒せたと聞いている。


 つまり彼らが私たちを待ち伏せできる最終ポイント。私たちが弱ったところを襲撃するつもりなら、襲撃される可能性が一番高いポイントだ。


「みなさん、次はいよいよ三十層ボスです。私たちならきっと勝てると思いますが……気を抜かないようにしてください!」

「ああ」

「わかりました」

「らじゃー!」


 含みを持たせた言葉に、三者三様の返事が返ってくる。


 ナガレが持たされた魔道具がどのような物であるかはハッキリしていない。だが音声まで拾われているなら、私たちが警戒しているとは悟られないほうがいいだろう。


 今回の探索は桜都の踏破であると同時に、トライアンフを返り討ちにする目的も含まれている。


 だからフロアボスのゲートで帰るつもりは最初からない。私たちはあえてトライアンフの策の中で泳いでみせている。


 理由はルキウスに私たちがぎょせる存在だと思わせるため。


 もし露骨な敵対姿勢を見せてしまえば、同盟は破棄され飛竜発着場への嫌がらせが始まるかもしれない。


 だから私たちはトライアンフの罠にハマり、真っ向から撃退する。トライアンフからチームゴールドと言うキバを抜いてしまえば、ルキウスも大胆な行動はできなくなるだろう。


 それに同盟という立場を使えば、歯車組の待遇改善も訴えられるかもしれない。


 だからこそ私は今回のクエストを受けた。踏破報酬の3億クリルが提示された時は、逆に安心してしまったくらいだ。


 だってルキウスが私たちにそんなお金支払うはずがない。つまりルキウスは私たちに桜都が踏破できないと踏んでいる、要はナメてくれているということだ。


 常に最悪を想定して身構えられるよりかは、自惚れている相手の方が戦いやすい。


 いつ不意打ちを受けるかわからない不安はあっても、それを顔に出さないほうが相手は油断してくれるだろう。


 だからこそ私たちは普段通りと変わらないノリで、ダンジョン探索を進めていくのであった。




***




 一方。こちらはとある場所で待機する、チームゴールドの四人。


 持たされたドラゴパシーからは、ルキウスが怒り狂った叫び声が聞こえている。


『チームゴールドの皆さま、アーロンですっ。聞こえていたかとは思いましたが、先ほどリブレイズは二十層ボスを討伐されました。想定より動きが早いので念のためご警戒ください』

「わかった」


 ゴールドの大将、暗殺者あんさつしゃのアルフレッドは言葉少なにそう応えた。


「荒れてるな、ルキウス」

「これだから成金の平民はダメなんだよ。貴族としての品格や余裕がこれっぽっちもありゃしねえ」


 アルフのつぶやきに応えたのは、副将の剣聖けんせいオーウェンだ。


 彼はトライアンフのスポンサーになっている、伯爵の六男でもある。家督を継げる見込みがないため、剣聖の才を生かしゴールドの副将についている。


 無論、平民クランに使われる不満はある。だがトライアンフはエレクシアでも有数の大型クランだ。ここで実績を積むことで立身出世するという野心を持っている。


 二人はトライアンフの結成組。歯車組と違ってトライアンフで得た利益を享受している、ルキウスの同調者だった。


「リブレイズは思ってた以上にやるようだ。女ばかりの成り上がりクランと思っていたが、楽しませてはもらえそうだ」

「……そのことだが、本当に殺しちまうのか? 四人のうち三人は女だぜ? リーダーの盗賊はともかく、騎士と大聖女は顔も身分もいい。体で稼がせれば相当な金に……」

「無理だ。ルキウスは頭に血が上ってる、ヤツらを血祭りにあげるショーをお望みだ」

「はあぁ、もったいねぇな。なんで感情優先で動くヤツが、クラン経営成功させてんだよ。納得いかねえ」

「だがオーウェンもいい思いはしてるんだろ?」

「アルフほどじゃねえよ。……お前はいいよな、金だけじゃなく殺しという趣味も満たせてんだから」

「ククク、まあな。お前の親父のおかげで趣味の暗殺も楽しませてもらっている」


 ルキウスは儲かるためならなんでもやる男だ。


 スラムの子供をそそのかして働かせ、裏稼業にも平気で手を出す。そして発覚の危険があれば、容赦なく関係者を切り捨て証拠を隠滅する。


 関係者の処理はもっぱら、暗殺者アルフレッドの仕事だった。


 これまでもトライアンフと対立したクラン、政敵や商売敵を何人も処理してきた。足が着きそうになればオーウェンの父でもある、伯爵スポンサーが手を回してきた。


 このような裏工作を経て、トライアンフはエレクシア筆頭クランへと昇りつめたのであった。


「ところでアリアンナとマキシマは?」

「別階層で鍛錬中レベリングだ。もう行ってからずいぶん経つし、別にテントでも張って休んでるんじゃねえの?」

「そうか。少しでも戦力を上げようとするなら、口を出すことではないな」

「ったく、バカなヤツらだぜ。俺たちチームゴールドが負けるワケねえのによ」

「それでも万全であることに越したことはない。オーウェンも少しは見習ってレベリングでもしたらどうだ? 第三才能も手にしたアリアンナに、副将の座が奪われるかもしれないぞ?」

「んなワケあるかよ。少なくとも歯車のヤツらには”聖杯”の使用許可が出ない。レベル100を越えられないアイツらは、そこまで強くなれねーよ」


 オーウェンの傲慢な態度に、アルフはなにも言わずに笑みだけを浮かべる。


「……チ、お前はお前で薄気味悪いぜ。ここがSクランじゃなかったら、すぐにでも抜けてるトコだぜ」


 オーウェンはそう言って、自分のテントへ戻っていく。


 仲間に対して辛辣な言葉を吐くオーウェン。だがアルフもまた背を向ける仲間に、侮蔑的な視線を向けている。


(……ここ以外にお前の居場所はない。その場所をお前が見下すのであれば、お前自身が自分を見限っていることになるのだがな)


 もちろん、それは口に出さない。


 オーウェンはアルフのことも下に見ているので、自分が意見すればどんな言葉でも気を悪くする。


 二人の付き合いはそこそこ長いが、友人ではない。そもそもトライアンフのパーティとは、邪魔になればクラメン同士でも潰し合うのが普通である。


 事実オーウェンは副将におさまるため、ダンジョン内の事故を装ってクラメンを三人殺している。


 野心のあるこいつは間違いなく自分の排除を考えている。だが、それで構わない。


 増長した輩は返り討ちに遭った時、決まって情けない命乞いを見せてくれる。アルフは下に見られることを良しとしている。


 ――そんな歪んだ関係の上に成り立っているのが、トライアンフ・チームゴールドの現状だった。

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