第100話 一気に桜都十層ボス! 待っていたのは……?
一方。リブレイズ一行とナガレの五人は『常時ダッシュ』と『エンカウントなし』で快適な探索を進めていた。
桜咲きほこる日本古都を模したダンジョン、桜都。
雅やかな風景に浸っていたいという思いもあるが、のんびりはしていられない。
「もう八層まで来たのか。やはり常時ダッシュは便利なスキルだな」
「エンカウントなしも使えば、散歩気分でダンジョンを歩けますからね。念のためダッシュLVを上げてきた甲斐もありました!」
今回の探索では通常の魔物やボス戦以外に、トライアンフからの襲撃に備えなければならない。
だが襲撃はどのような形で、どの階層で行われるのかは不明だ。そこで追跡されても追いつかれないよう、常時ダッシュのLVを5から10にまで上げておいた。
そのため歩みを進めるスピードはいつもの倍になっており、これまでにない早さで探索を進められている。
「りおりー。この調子だと間もなく十層に着きますが……今日中に何層まで進む予定なんですか?」
「う~ん。できれば二十層のボス部屋前には到着したいかも? もちろん十層ボス戦での疲れ具合にもよるけど」
「二十層ですかぁ……。でも忘れないでくださいね? 歩くスピードは倍になっても、脚には距離相応の疲れがたまってくるので」
「あ、そうだったね。じゃあ十五層くらいを目標にしておこうか!」
「それでも十分な速さだがな。普通、冒険者が一日に目安とする探索階層は五~六層だぞ?」
「フィオナさん、いまさら私を常識に当てはめる気ですか?」
「……それもそうだな。リオを主に据えた以上、常識の話なんてしても仕方ないな」
「そういうことですっ!」
和気あいあいと探索を進める一方――ナガレは私たちの跡をつけるように歩いている。
ナガレの傷はブーストポーションで回復させたが、探索を始めてから質問の返事くらいしか言葉を交わしていない。
おそらくルキウスにそう指示されているのだろう。
同行人として背後をつける、口数の少ないナガレ。普通であれば不気味で極まりない存在だが……私はそれを見てナガレの内通が真実だったと確信した。
だって装備を持たせてもらえないのは変だ。
もしナガレがルキウスの指示で内通のフリをしていたなら、口八丁手八丁で私たちに取り入ろうとするはず。
そして私たちの信用を得た後、寝首を掻いたほうが奇襲としてスマートだ。だがナガレの手持ちを掌握眼で確認しても、武器や防具は一切見当たらない。
ナガレを奇襲の
無装備で送り出したということは、ナガレが不要になったことの証明だ。私たちへの内通がバレてしまい、ダンジョン内で一緒に始末するつもりなのだろう。
(……ということは、逆説的にナガレさんは信じても良さそうだね)
同行人として遣わせたのは、胸元に装着されている
それを見た瞬間、私とキサナはギョッとしてしまった。だってその魔道具にはレンズがついており、スマホと酷似した外見をしていたのだから。
おそらく魔道具を通して、トライアンフには私たちの映像が流れているのだろう。そこで得た情報を元に、私たちの襲撃を効率化させるつもりなのだろう。
それがわかっている以上、魔道具は取り外させたい。だがナガレのことを考えれば、口を出すのは気が引けた。
だって歯車組であるナガレは、家族を人質にとられている。もし私が魔道具に口を出してしまえば、ナガレの役目は完全になくなってしまう。そうなった時、ナガレやその人質がどうなるかわからない。
そのため背後から私たちを撮影する魔道具は無視することにした。その方がきっと、ナガレのためにもなるだろう。
――と、思索にふけっていると十層に到着。ボス部屋を示す大扉の前までやって来た。
「ではボス部屋に到着したことですし、さくっと倒してしまいましょう!」
「「「おうっ!」」」
「ちょ、ちょっと待った」
私がボス部屋の扉に手をかけると……ずっと口を閉じていたナガレが、思わずと言った様子で声をかけてきた。
「あれ、ナガレさん。いかが致しました? トイレですか?」
「い、いや。これからボス戦だってのに、気構えもせずに挑むから驚いちまって」
「あ、そういうことですか。でも私たちも別のSダンジョンで鍛えてきたんです、簡単にはやられたりしませんよ!」
「そうかもしれねえが、桜都の十層ボスは…………いや、なんでもねえ」
忠告をしようとしたナガレは言い淀み、気まずそうに視線を逸らす。もしかするとこの魔道具は声も拾ってるのかもしれない、不用意な発言はしないように注意しよう。
「では、気を取り直して出発! ナガレさんは攻撃の射線に入らないよう、気を付けてくださいね?」
ナガレが頷いたのを確認し、私たちはボス部屋に足を踏み入れる。
部屋の中央にはナガレにもらった、攻略指南書に書かれていたのと同じボス。そして私たちが数十回と戦った経験のある、四つ足ロボットが佇んでいた。
「あー! 奈落にいたのとおんなじロボだ! こんなところにもいたんだぁー!」
スピカが無邪気に指を差す先。そこには奈落三十層にいたのと同じボス、人工災厄・ラグナレクが青いセンサーをピコピコ光らせていた。
「さあ、みんな! ラグナレク周回の延長戦です、いつもの要領で片付けちゃいましょうっ!」
名前:
ボスランク:S+
ドロップ:オートボウガン(A)
レアドロップ:ギャラルホルン(S)
盗めるアイテム:鉄鉱石
盗めるレアアイテム:オリハルコン
私はいつものように挑発を入れ、トリモチを投げつける。同時並行でスピカが天罰、フィオナの
キサナがかぶと割りで防御ダウンを入れた後は……虐殺の始まりだ。
私たちは奈落でラグナレク周回をしていた時、全滅とは無縁の戦いが出来ていた。だが今回はそれ以上に余裕をもって戦える。
なぜなら私たちは奈落帰還後、新しい武器や防具を手に入れているからだ。
「よーし、いよいよ疾風神雷の
私はパルシャナのバザーで手に入れた、
すると斬撃を追うような形で、追加効果の
反撃のチェーンソーを後方へ飛んで躱すと、ラグナレクの機体に短剣の跡が刻まれているのが見えた。
(よおぉっっっし! ラグナレク相手に初の手応えっ!)
これまで火力役ではほとんど貢献できなかったが、疾風神雷のおかげで今までにないダメージを通すことができた。おまけに左手にはずっしりした鉱石の感触、棚ぼたオリハルコン!
距離を取られたラグナレクが、遠距離戦に切り替えようと砲門を開くと同時――世界が暗転。スピカの
金属を裂く耳障りな音が響き、ひしゃげたロボットがふたたび姿を現した。だが息をつく間もなくラグナレクの横っ腹を
――あと一息で討伐だ。誰もがそう考えていたところ、天井に衛星兵器のマッピング映像が現れる。
ラグナレクの全体攻撃、サテライトレーザーだ。
柔らかな光が地表に降り注ぎ、破壊光線の雨が地表を蹂躙する。
これまでの私たちはサテライトレーザーを打たれれば、その攻撃が終わるまで耐え凌ぐことしかできなかった。終わった後は回復の立て直しにも追われてしまうので、周回中は打たれるたび憂鬱になっていた。
……だが、今は違う。
破壊の雨を意に介さず、颯爽とラグナレクに飛び込む剣姫の姿があった。
ドレスアーマー・
「お前との連戦で得た物は多い、感謝している」
フィオナはそれだけを口にし、振り上げた終末剣を――ラグナレクに向かって振り下ろす。
漆黒の大剣はドス黒い衝撃波を放ち、ラグナレクの胴体をたやすく両断。
すると破壊の雨は不完全燃焼を起こしたように止み、辺りは不気味なまでの静寂に包まれる。……どうやら、フィオナが一撃で決めてくれたようだ。
「やりましたね、フィオナさん!」
「ああ」
私はフィオナに駆け寄り、勝利の喜びを分かち合う。
が、フィオナはなぜか晴れない表情でラグナレクを見下ろしている。不思議に思ってフィオナの視線を追うと……思わずその光景にゾッとしてしまった。
終末剣で両断されたラグナレクの胴体は、黒く溶解しておりブクブクと泡を立てていた。
マージストライカーで魔力を乗せた、終末剣の斬撃。威力が高すぎたせいだろうか、見たこともない亡骸を見てしまった。
「これを対人戦で使う際は、注意しないとな」
「……ですね」
溶解したラグナレクも宙に溶けていった頃、ラグナレクのいた場所に三個の宝箱が出現。
おっ、フルドロップだ。今回も運がいい。
だが既に終末剣を完成させているので、大喜びするほどでもない。私は感慨もなく流れ作業でギャラルホルンをポーチへ収納した。
「リオー、早く先に行こー? スピカ、ラグナレクじゃないボスと戦いたーい!」
「そだね。今回は周回する必要もないし、さっさと次に向かおうか」
「さんせー!」
スピカが片手をぴっと上げ、ボス部屋の出口へ向かって行く。
「では十一層に向けて出発! ほら、ナガレさんも。なにボーっとしてるんですか?」
「……い、いやいやいや! ツッコミ役、不在かよっ!」
呼びかけられて我に返ったナガレが、今日イチ大きな声を出す。
「ア、アンタら、どうなってんだ!? あのカラクリ野郎、ほぼ無傷で倒すなんてイカれてるぜ!?」
「これくらい当然ですよ。それに私たちはSダンジョンを踏破するつもりで来てるんですよ、十層くらい軽くあしらえないでどうするんですか?」
「十層ボスが普通こんな強いワケないだろ!? 最悪、俺はここでお陀仏のつもりで来てたんだ、それをお前……」
「じゃあ次に行けることを喜んでくださいよ。私たちは万全の準備と、たくさんの
私がドヤ顔を隠せずに言うと、ナガレもつられたように苦笑して見せる。
「どうやらアンタらは、想像以上に力のあるクランらしいな」
「ええ、もちろん! ナガレさんにはしっかり最奥ボスまで書記をしてもらいますからね?」
「はは、そいつぁ楽しみだ。……本当にな」
ようやく明るさを取り戻したナガレと笑い合い、私たちは十一層へと踏み出したのだった。
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