第99話 #リブレイズ暗殺計画、スタート!

 リオたちがダンジョン桜都おうとへ潜り、ノボリュがトライアンフ領から飛び立った後。


 敵の目がなくなったのをいいことに、ルキウスは我慢していた怒りを吐き出した。


「ムキイィィィィー!!! なんだ、あのクショガキィッ!? オイラが下手したてに出てればいい気になりやがってぇぇーーーーっ!!!」


 ルキウスはその場に地団太を踏み、怒りの丈をブチまける。


 周囲に控えている側仕えや私兵、護衛のアーロンもルキウスの怒りが収まるのを黙って待っている。


 ここで余計な気を遣って話しかけに行かないほうがいい。過去にそのようなことをした側近は、決まってとばっちりを食らっていたのを知っている。だから彼らはルキウスから指示が出るまで動けない。


「大聖女の力でSクランになれただけのクセに、イキがりやがってえぇっ! 絶対にブッッッッ殺してやりゅっ!」


 散々キレ散らかした後、ルキウスはダンジョンの入り口に怒鳴りつける。


「オイッ! 聞いていりゅな、追撃隊ついげきたい!」

「――もちろんで御座いますッ!」


 するとダンジョン入口に隠れていた三人の冒険者が、ステルスフードの合間から顔だけをのぞかせる。


「追撃隊・隊長。インフェルノ・ゴッド・デュランダル、ここに推参いたしました!」

「リブレイズの尾行を開始しろ、そして隙を見せら即殺しぇ。アサシンダガーは持っていりゅな?」

「すぐ取り出せるようにしております!」

「おみゃーらのために人数分を用意してやったんだ。ブロンズのままでいたくなけりゃー、オイラの期待に応えてみせろ」

「心得ておりますとも! このインフェルノ・ゴッド・デュランダル、ルキウス様の温情と勅命に報いるため、誠心誠意――」

「御託はいい! さっさと行け、このクズっ!」

「……ははっ、申し訳ありません」


 デュランダルはルキウスの機嫌が最悪であることを察し、二人の部下を連れて桜都の中へ潜っていった。



 ルキウスの遣わせた『追撃隊ついげきたい』は、チームブロンズの三人からなる素早さ特化の襲撃部隊だ。


 ブロンズ大将のデュランダルは盗賊。そして部下の二人も忍者・暗殺者と素早さに特化させた人員に寄せている。


 目的はステルスフードで気配を消し、アサシンダガーでリブレイズを暗殺すること。


 彼らがどんなに強いパーティだったとしても、食事や就寝中は必ず隙を見せる。そこを即死率50%のアサシンダガーで葬ってしまおうという計画だった。


 一人でも殺せば彼らにはボーナスや待遇改善が約束されている。所詮ブロンズなのでそこまで期待はしてないが、一人でも持っていければめっけもの。ルキウスはそう考えていた。



「アーロン、ドラゴパシーを寄越しぇ」

「は、はいっ! こちらに!」


 気を取り直したルキウスは、ドラゴパシーでチームシルバーの大将・モルグルに連絡を取る。


「モルグル、もうスタンテイシアには着いたのか?」

「はい、ルキウス様。ただいま交易街ニコルへ向かっているところです」

「指示があるまで目立った行動は取るにゃよ? いくら休んでても構わにぇーが、腕をなまらせたりしゅるな?」

「了解です」


 チームシルバーは現在、ニコルへの滞在を言い渡されている。


 理由は生活種の二人を”保護”するためだ。事前の下調べで、生活種の二人は聖火炎竜団同盟パーティに身を寄せているとの情報を得ている。


 ルキウスの目的はリブレイズの資産や権利を奪い取ること。だが戦闘種の四人を片付けても、生活種の二人が無事では意味がない。


 だから炎竜団を排除するため、チームシルバーを派遣した。


 冒険者同士の戦闘はご法度はっとではあるが、リブレイズはトライアンフの同盟クラン。戦闘種が全滅したとあれば、トライアンフには残された二人を保護する大義名分がある。


 もし炎竜団がこれに歯向かい、戦闘が起こっても同盟であるトライアンフの方が有利だ。しかも国家間の問題へと発展させてしまえば、国力の強いエレクシアが有利になる。


 だから多少のペナルティを負っても、炎竜団とは戦闘になっても構わないと判断した。


 炎竜団の力量は図れてないが、小国のSクランなんてたかが知れている。チームシルバーでも十分に制圧できるだろう。



 そして最後にチームゴールド。トライアンフの最強戦力を持つ四人は当然、リブレイズ強襲のかなめとして使うつもりだ。既に一週間ほど前から桜都に潜伏させており、とある階層で彼らの到着を待っている。


 もちろんリブレイズが途中で全滅するなら、それはそれで構わない。


 だがリブレイズは昇竜王を従え、大聖女も味方につけたSクラン。リーダーが盗賊という腑抜けでも、ゴールドと言う最強戦力をぶつけようと考えるのは当然のことだった。


 そのためここは根気強く、ヤツらが深層に辿り着くのを待つのが望ましい。


(グフフ、あんだイキがっていた小娘を屈服させる瞬間。楽しみで仕方ないじょ……!!)


 すぐには殺さない。あのスカした小娘には、みっともない命乞いをさせてやらないと気が済まない。


 本当であれば自らの手でお仕置きをしてやりたいが、暗殺者アサシンのアルフレッドに任せておけば問題ない。


 なぜならアルフの残虐趣味はルキウスの上を行く。むしろアルフのショーに感化され、ルキウスも趣味の幅が広がった。彼に任せておけば自ら手を下さなくても、満足の行く映像が見られるだろう。


「……ふうーーっ! 落ち着いたらたぎってきたじょ!」


 ルキウスは側仕えたちを仕事に戻し、アーロンと共に屋敷の自室へと戻った。


 そしてナガレの持っているドラゴパシー・モバイルを通し、自室にセッティングした巨大モニターにリブレイズ視点を映し出す。


「ギュフフフ。見ろよ、アーロン。3億クリルの報酬に釣られ、アホ面をさらすリブレイズのクショアマどもを!」

「はいっ、まるでピクニックでもしてるかのような浮かれ顔ですねえ。十層ボスですら倒せるかどうかも定かではないというのに」

「ナガレがヤツらに攻略指南書を渡したのはムカちゅくが、十層ボスは戦わないとその恐ろしさがわからないかりゃな」


 十層ボスの強さは規格外だ。なんで十層に配置されているのかがわからないほど強く、トライアンフでも初討伐までに相当の時間がかけた。


 三連続でパーティを全滅させ、四回目にアルフを交えた二十人パーティでなんとか初討伐。その時も十六人の死亡者を出している。


「オイラが育てた精鋭ですら苦戦したんだ、あっけなく十層でお陀仏かもしれにぇーな?」

「ふふ! そこまで弱いと期待ハズレな感じも致しますが、楽に飛竜タクシーの経営権が手に入ると思えば美味しい限りですね」

「クックック、しょのとーりだな! せっかくのダンジョン配信がすぐ終わっちまうのも、ちぃっとばかり残念だぎゃ……」


 二人は映像を眺め流れ笑いあっていると……デュランダル率いる追撃隊から連絡が入る。


「……ルキウス様、大変申し訳ございません。ただいまお時間よろしいでしょうか?」

「お、なんだ? リブレイズはもう全滅しちまったか?」


 ルキウスがモニターを眺めながら冗談を言う。が、通話口のデュランダルは深刻そうだ。


「いえ、その。大変申し上げづらいのですが……」

「もったいぶらずにさっさと言え、お前の言いまわしは、いつもまどりょっこしいんだよ!」

「も、申し訳ございません。単刀直入に申し上げると…………リブレイズを見失いました」

「……は? なにを言っているんだ? まだ探索を開始して十分ちょっとだりょ?」

「は、はい。そうなんですが、どうやらヤツらにもエンカウントをなくす手段があるようでして」

「にゃんだと!?」


 ルキウスが改めてモニターを眺めると、リオたちが魔物をスルーしている映像が目に入る。


「くうっ!? 小癪な! いいから後を追えっ!」

「で、ですからリブレイズの姿が見えないんです。今どのあたりにいるかご教示いただけますでしょうか?」

「めんどくしぇえな! アーロン、お前がガイドしりょっ!」

「えっ、私がですかぁっ!?」


 突然ドラゴパシーをぶん投げられたアーロンは、攻略指南書の地図と映像を照らし合わせてリオたちの場所を確認する。が……


「……デュランダル様、リブレイズは既に四層へ到着しているようです」

「よ、四層!? まだ我々は一層を半分進んだところですよっ!?」

「しかし間違いなく四層です。既に出現する魔物も四層のものに変わっていますし、間違いないかと」

「おい、どうにゃってんだ!?」

「おそらくですが……盗賊のスキル『常時ダッシュ』を使用しているのではないでしょうか。映像の進行速度もかなり早いですし」


 言われて映像に視線を戻すと、景色が流れる速度が異様に速い。早馬に乗っているよりも遥かに速いスピードだ。


「デュランダル、おみゃーも盗賊だりょっ! 早く追えっ!」

「し、しかし私は常時ダッシュを習得しておりませんよ!?」

「だったらいますぐ取得しりょっ! 少しくらいはポイントをプールさせてるだりょ!?」

「ですがこれは、第二才能である剣士スキルを伸ばすための……」

「貴様、誰に口を聞いとるにょかっ! つべこべ言わずに取得しりょっ!」

「く、くううっっっ……承知いたしましたぁっ!」


 デュランダルが苦渋の叫びを漏らしつつ、秘蔵のスキルポイントで『常時ダッシュ【LV:5】』を取得。すぐさま深層へ向けて走り始めた。


「……デュランダル様、お急ぎください。既にリブレイズは五層へ到着し、六層の階段へ向けて歩き始めています」

「くっ、なんたる屈辱っ! こうなれば意地でもリブレイズの皆様に、思いの丈をぶつけて差し上げましょうっ!」


 こうしてルキウスの暗殺計画は、出鼻をくじかれる形で幕を開けたのだった。

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