第97話 準備万端、いざトライアンフ領へ!

(これがヴィクトールさんの作ったアサシンダガーかぁ……)


 私はベッドで仰向けになりながら、青紫に光る短剣をボーっと眺めていた。


 寝室のランタンに照らされて光る短剣は、完全な青紫ではなく刀身に虹色の滲みがある。


 ヴィクトールには失敗したと謝られたが、私はこの滲みが逆にオシャレさが際立っていると感じている。


 そもそもクラジャンの錬金に失敗というシステムはない、レシピ通りに素材を集めれば確実に完成する。だからこそ完成したのに不良品という、現実オリジナルの品に希少価値を感じている。


 しかも私が依頼するか思い悩んでいたところ、ヴィクトールが無理を押して作ってくれた品だ。


 レファーナ製のマジックポーチや防具と同じで、人の手が入った温かみがある。これも私にとって捨てられない”だいじなもの”になった。ヴィクトールにとってはちょっと不名誉なことかもしれないけど。


(ぶっきらぼうなところもあるけど、真摯に謝ってくれたしね)


 彼の前ではなぜか上手く言葉が出て来ず、苦手意識のようなものがあった。だが失敗という弱みを見てしまったせいか、ヴィクトールには親近感のようなものが持て始めた。きっと次に話す時は以前よりは対等に話ができるだろう。


 なんて考えていると、帰り際に服を褒められた時のことを思い出してしまう。


(くうぅぅぅぅっ!? なんか無性に恥ずかしいなぁっ!?)


 私も星影のデザインは好きだけど、男の人に褒められるのは慣れない。


 ムズムズした気持ちと共に、なんだか妙に顔が熱くなってくる。


 えっ、これってもしかして!? なんて思いつつ私は足をバタつかせて、枕をぎゅうっと抱き締める!


 すると――


「いたあーーーっ!?!?」


 突如、左腕に激痛。


 どうやらアサシンダガーを握ったまま枕に抱きついたせいで、自分の腕に短剣がブッ刺さったらしい。


「ちょ、シャレにならんて!?」


 と、騒いでいると傷口から黒い煙のようなものが立ち昇る。


「は!?!?」


 それは私が何千回と見てきた即死演出。


 どうやら私のクラジャン人生はここまでらしい、りおりーの次回転生にご期待ください!








「リスポォーーーーーーンっ!!!」


 と、叫びながら私は目を覚ます。


 心臓バクバク、寝汗ダラダラ。どうやら先ほどの出来事は夢だったらしい。


「は、はは……良かったあ……」


 あまりにしょうもない夢を見てしまい、私は安堵と同時に布団の上にへたり込む。


 窓の外はまだ薄暗く、横のベッドではフィオナとスピカがすやすやと眠っている。二人を起こすことがなくて良かった。


 内容は間抜けすぎるとはいえ、再現性がありそうな夢だった。アサシンダガーが超危険な武器であることを再認識しつつ、私はふたたび眠りにつくのだった……



***



 そして朝。寝汗を流して朝食をいただいた後、私たちは炎竜ハウスの前でルッツたちにお礼を言う。


「この一か月間、なにからなにまでお世話になりましたっ!」

「気にしないでくれ、俺たちはリオさんたちに返しきれない恩がある。本当はレファーナたちの護衛だって、無償で引き受けたいくらいなのに」

「そういうわけにいきませんよ。聖火炎竜団はSランクパーティです、お時間をいただくなら相応の形を取りませんと!」


 今回、私たちは「レファーナ・ガーネットの護衛」を聖火炎竜団にクエスト依頼している。



 なぜなら私たちが不在の間、トライアンフが二人を狙う可能性があるからだ。


 ナガレの話では、戦闘種の私たちをダンジョンで襲撃すると聞いている。


 だがトライアンフは三つのパーティを持っているので、二手以上に分かれて活動する可能性がある。ダンジョンでの襲撃という話自体が、ウソである可能性も捨てきれない。


 そのため二人には炎竜ハウスでの滞在を延長してもらい、聖火炎竜団に護衛をしてもらうことにした。


 襲撃がなかった場合は500万クリル、あった場合には1000万クリルのAランククエストだ。


 二人にはその間、炎竜ハウス内でのをお願いしてある。


 私たちが探索に出ている間、ノボリュも炎竜ハウスに残ってもらう予定だ。


 ノボリュさえいれば念話で大陸各地の飛竜と話ができる。そのため外に出なくとも、飛竜タクシーの手伝いはある程度できてしまえるというワケだ。


 またレファーナには同時並行で、クラン領地にできそうな土地の選定を頼んでいる。


 私たちが無事に帰ってくる頃には、飛竜タクシーの分配収益も入ってくるだろう。まとまったお金が入れば領地経営もいよいよ現実的な話になってくる。その時になって慌てないよう、レファーナには下準備を固めてもらう予定だ。



「では四人とも、気を付けて言ってくるのじゃぞ」

「レファーナさんもお仕事、無理しすぎないでくださいね?」

「リオのほうこそな。フィオナたちもこやつが無茶しそうな時は、しっかり止めてやるのじゃぞ?」

「はい、その時は必ず」

「スピカにもまかせて! ちゃーんとリオの面倒、みておくね?」

「ちょっと!?」


 私がおどけた声でツッコむと、みんなが一斉に笑い出す。


「ガーネットさんも、レファーナさんのことお願いしますね」

「はいっ! リオさんたちもお気をつけて!」


 別れの挨拶をすませた後。私たちはノボリュの背に跨って、エレクシアへと飛び立った。


 トライアンフ領は首都であるミラから見てやや北東、高速で飛べるノボリュであれば四時間ほどで着くはずだ。


「ノボリュ君もレファーナさんたちのこと、よろしくお願いしますね?」

「ああ、任された。もし襲撃してくる者があれば、我の息吹いぶきをヤツらに見舞ってやるとしよう」

「お願いします!」


 ノボリュは体が大きすぎるのでダンジョンには連れていけないが、フィールド上ではその能力をいかんなく発揮できる。


 もし炎竜ハウスに襲撃者が現れれば、その時は炎竜団と一緒に撃退してくれることだろう。



 私たちは移動中、ノボリュの背でくつろぎながら作戦の再確認。


 それでも空き時間が出来たので仮眠や雑談、軽食を挟んでいると――山を背にそびえ立つ、城のような建物が見えてきた。


 あれがルキウスの本拠地としているトライアンフ領だ。上空から見た領地は思ったより小ぢんまりとしていて、私の生まれ育った村ほどの敷地しかない。


 この場所に来るのは今日で二回目。以前、トライアンフと同盟を結ぶ時に訪れたことがある。


 初めて来た時は「こんな小さい土地で、50人の大クラン?」とは思ったが、ナガレの話しと照らし合わせると納得できる。


 ――歯車組は途中で家族と引き離され、別々の場所で働かされる。一緒に脱走することがないようにな。


 つまりクランの拠点は他にも複数あるのだろう。誰がどこで働いているかが決してわからないように。


(やり方がえげつないなぁ……)


 私はムカムカとした思いで、トライアンフ領にある豪奢ごうしゃな城を見下ろす。


 その狭い領地の端っこには小丘程度の岩山があり、近くにノボリュが着陸できそうな空き地がある。あそこが待ち合わせ場所だ。


「ノボリュ君、あの空き地に向かって降りてくれる?」

「承知したっ!」


 返事と共に、急降下。


(ついにこの日がやって来た)


 クラジャンバカの私でも、今回の探索には少しばかりの不安がある。


 なぜなら特注カスタムダンジョンは原作知識に頼り切れないし、いつ仕掛けられるともわからない対人トライアンフ戦も待っている。不安にならないほうがおかしいくらいだ。



 だが今回のクエストを受けないという選択肢は存在しなかった。


 だって”クラン”というシステムは、クラジャンを楽しくする最高のシステムだ。それを悪用するヤツらがいるなんて許せない。


 黒いウワサがどこまで本当かはわからないが、トライアンフに正すべき点があるのは間違いない。


 もし桜都を踏破することができれば、リーダーのルキウスだって私たちの意見を無視できないだろう。


 だから、まずは踏破が最優先。その上で私は同盟という立場を活かし、彼らの形を変えていければと考えている。



(よしっ、絶対に踏破してやるぞっ!)



 私は自分の頬をぱちんと叩き、気合を入れ直すのだった。

 



―――――


 護衛クエスト(依頼):リブレイズのレファーナ・ガーネットの二名の護衛。リーダーが帰還する時まで

 クエストランク:A

 達成報酬:500万クリル ~ 1000万クリル



 探索クエスト(受注):トライアンフ領の特注カスタムダンジョン・桜都おうとの最奥踏破

 クエストランク:S

 達成報酬:3億クリル

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